「摂り過ぎた塩分を排出するにはどうしたら良いんだろう?」
と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論からいうと、摂り過ぎた塩分を体外に排出するにはカリウムや食物繊維を含む食品を摂取すると良いとされています。
カリウムはさといもや納豆などの植物性食品や、さわらやまだいなどの動物性食品に多く含まれています。
食物繊維はさつまいも、ごぼう、ブロッコリーなどの植物性食品に多く含まれます。
塩分を過剰摂取すると体がむくんだり、血圧が上昇したりする他、心臓や腎臓に負担がかかることが分かっています。
日本人は塩分を摂り過ぎている傾向にあるので、過剰摂取には特に注意したいですよね。
この記事では塩分を体外に排出する方法はもちろん、過剰摂取による悪影響、適切な摂取量と日本人の摂取状況などをご紹介します。
1.摂り過ぎた塩分を排出するためのポイント
塩分を排出するためのポイントに移る前に、まず塩分とは何かをご説明しましょう。
実は塩分や食塩、塩という言葉には明確な定義がありません。
一般的に塩や食塩は塩化ナトリウムを主成分とする調味料のことを指し、塩分は食品中に含まれる塩や食塩を塩化ナトリウムに換算した推定量を指します。
食塩の主成分である塩化ナトリウムはヒトの体に必要なミネラルですが、過剰摂取するとさまざまな悪影響を及ぼします。
日本人は世界的に見ても塩分を摂り過ぎていることが分かっています。
過剰に摂取してしまった場合のために塩分を排出するポイントを知っておきましょう。
ポイント1 カリウムを摂取する
一つ目のポイントはカリウムを摂取することです。
カリウムは食品中に含まれる栄養素で、ナトリウムを尿中に送るはたらきを持っています。
そのため、カリウムを含む食品を摂取することで、摂り過ぎた塩分を尿と一緒に体外へ排出することができます。
では1日にどのくらいカリウムを摂取するのが適切なのでしょうか。
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において、カリウムの摂取目安量と摂取目標量を設定しています。
摂取目安量とは一定の栄養状態を維持するのに十分と考えられる量のことです。
摂取目標量とは生活習慣病の予防を目的として設定された量のことを指します。
カリウムの1日当たりの摂取目安量は成人男性で2,500mg、成人女性で2,000mgです[1]。
カリウムの1日当たりの摂取目標量は成人男性で3,000mg以上、成人女性で2,600mg以上です[1]。
これらの値を日本人の平均摂取量と比べてみましょう。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、カリウムの1日当たりの平均摂取量は以下のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢 | ||
20代 | ||
30代 | ||
40代 | ||
50代 | ||
60代 | ||
70代 | ||
80歳以上 |
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」をもとに執筆者作成
調査結果によると20〜50代の男性は摂取目安量を摂取できておらず、女性では20代、30代が摂取目安量を摂取できていません。
また摂取目標量を摂取できているのは70代の女性だけです。
腎臓が正常に機能していれば余分なカリウムは尿として排出されるため、過剰摂取の心配はほとんどありません。
ではカリウムはどのような食品に含まれているのでしょうか。
以下にカリウムを多く含む食品と可食部100g当たりの含有量を、野菜や穀類などの「植物性食品」と肉や魚などの「動物性食品」に分けてまとめました。
まずはカリウムを多く含む植物性食品をみてみましょう。
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
ひきわり納豆 | ||
ほうれん草 | ||
さといも | ||
乾燥わかめ(水戻し) | ||
さつまいも(皮なし) | ||
かぼちゃ | ||
じゃがいも(皮なし) | ||
バナナ | ||
にんじん(皮なし) |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
次はカリウムを多く含む動物性食品をご紹介します。
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
さわら | ||
まだい(皮なし) | ||
豚ヒレ肉 | ||
かつお(春獲り) | ||
牛ヒレ肉 | ||
牛サーロイン | ||
豚ロース |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
肉や魚は一食でまとまった量を摂ることも多く、効率的な摂取が期待できそうですね。
塩分を排出するためにはカリウムを積極的に摂取すると良いでしょう。
カリウムについてさらに詳しいことを知りたい方は以下の記事をご覧ください。
カリウムとは?はたらきや摂取すべき量、摂取源となる食品を紹介
[1] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント2 食物繊維を摂取する
二つ目のポイントは食物繊維を摂取することです。
食物繊維は食品中に含まれる栄養素の一つです。
食物繊維にはナトリウムを吸着して体外に排出するはたらきがあります。
小腸で消化されずに大腸まで達するため、便通を良くする作用があることも分かっています。
食物繊維は動物性食品にはほとんど含まれず、植物性食品に多く含まれます。
では1日にどのくらい食物繊維を摂るのが良いのでしょうか。
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において、食物繊維の1日当たりの摂取目標量を設定しています。
食物繊維の1日当たりの摂取目標量は男性の場合、18〜64歳で21g以上、65歳以上で20g以上となっています[2]。
女性の場合では18〜64歳で18g以上、65歳以上で17g以上です[2]。
次は日本人の食物繊維の平均摂取量を確認してみましょう。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、食物繊維の1日当たりの平均摂取量は以下のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢 | ||
20代 | ||
30代 | ||
40代 | ||
50代 | ||
60代 | ||
70代 | ||
80歳以上 |
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」をもとに執筆者作成
この結果からすると男女とも20〜50代は目標量を摂取できていないことが分かります。
それでは食物繊維が多く含まれている植物性食品をご紹介しましょう。
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
干しひじき | ||
大豆おから | ||
いんげん豆 | ||
納豆 | ||
ごぼう | ||
ブロッコリー | ||
さつまいも(皮なし) | ||
そば |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
これらの食品は食物繊維が多く含まれているだけでなく、1食で2〜3gほどの量を摂取することができます[2]。
余分な塩分を排出するためにも積極的な摂取を心掛けたいですね。
食物繊維についてさらに詳しいことを知りたい方は以下の記事をご覧ください。
食物繊維は1日にどれくらい摂るべき?摂取目標量と摂取源となる食品
[2] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2.塩分の過剰摂取による悪影響
「塩分を摂り過ぎると具体的にどんな悪影響があるのかな?」
塩分の過剰摂取が体に良くないことは知っていても、具体的な影響まではご存じない方もいらっしゃるかもしれませんね。
この章では塩分の過剰摂取による悪影響を六つご紹介します。
2-1.むくみ
塩分を摂り過ぎると体がむくむことがあります。
むくみとはなんらかの理由で皮膚、もしくは皮膚の下に水分がたまった状態のことで、医学的には「浮腫」と呼ばれます。
では、塩分の過剰摂取とむくみとの間にはどのような関係があるのでしょうか。
ヒトの体には体内の塩分濃度を一定に保とうとするはたらきがあります。
そのため塩分を過剰に摂取すると、体は塩分濃度を薄めるために水分をため込みます。
その結果、血管内の水分量が増えて体がむくんでしまうのです。
2-2.血圧の上昇
塩分を過剰に摂取すると血圧が上昇することがあります。
血圧とは血液が血管の壁に与える圧力のことを指します。
塩分摂取が血圧の上昇を引き起こすメカニズムはむくみが起こるメカニズムと同じです。
ヒトの体は体内の塩分濃度を一定に保とうとします。
そのため塩分を過剰摂取すると塩分濃度を下げるために水分をため込みます。
結果として血管内の水分量、および心臓に送り込まれる血液量が増え、血圧が上昇するのです。
血圧が慢性的に高い状態のことを高血圧といいます。
病院で測定した場合、心臓が収縮したときの血圧(上の血圧)が140mmHg以上または拡張したときの血圧(下の血圧)が90mmHg以上になると高血圧と診断されます[3]。
脳卒中や心臓病のリスクが高まるので、高血圧には注意したいですね。
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧」
2-3.胃がんのリスク増加
塩分の摂り過ぎは胃がんの発生リスクを高めることが分かっています。
胃がんは胃の内側の粘膜が何らかの理由でがん細胞になることで発生する病気です。
胃がんになると胃の痛みや胸焼け、吐き気、食欲不振などの症状が現れます。
しかし、初期の状態では自覚症状がほとんどなく、進行しても症状が現れないことがあるので厄介ですね。
塩分と胃がんとの関連性についてご説明しましょう。
塩分を摂り過ぎると胃の粘膜が傷つけられて炎症が起こることがあります。
炎症で胃壁が荒れると、胃がんの原因とされているピロリ菌が生息しやすくなってしまいます。
胃がんはその一部ががん化することで発生するのです。
実際、食塩摂取量が多い方は胃がんになる確率が高いことが分かっています。
40〜59歳の男女約4万人を対象とした10年間の追跡調査では、男性の場合、食塩の摂取量が最も多いグループとそうでないグループとを比べると、多いグループの胃がん発生率が2倍以上になるという結果も出ています[4]。
[4] 国立研究開発法人 国立がん研究センター「食塩・塩蔵食品摂取と胃がんとの関連について」
2-4.心臓・腎臓にかかる負担の増加
塩分の過剰摂取は心臓と腎臓にも負担をかけます。
塩分を過剰に摂取すると血液中の塩分濃度が上がり、その濃度を一定に保つために血液量が増えます。
血液量が増えると血液を送り出す役割を担っている心臓にも負担がかかってしまいます。
また腎臓には摂取した塩分を尿として排出するはたらきがあります。
そのため塩分を摂り過ぎると過剰な排出が必要になり、腎臓に大きな負担がかかるのです。
さらに過度な負担がかかって腎機能が低下すると塩分を排出するはたらき自体が低下してしまいます。
その結果、体内に塩分がたまってしまい、むくみや高血圧、心不全、「肺水腫」などの発生リスクが上昇します。
2-5.骨粗しょう症
塩分を摂り過ぎると骨粗しょう症になることもあります。
骨粗しょう症とは骨の量が減ってもろくなる病気です。
骨粗しょう症で骨が弱っているところに転倒などの事故が重なると骨折してしまうことがあります。
特に高齢者の場合は介護が必要になったり、寝たきりになったりするケースもあるので注意が必要です。
過剰な塩分は尿を通じて排せつされますが、このとき同時にカルシウムも放出されます。
そのため塩分を摂り過ぎていると排出されるカルシウムの量も増えてしまいます。
カルシウムは骨の材料になるため、このような状況が続けば骨そのものにも影響が出て骨粗しょう症を引き起こすこともあり得るのです。
2-6.尿路結石
塩分の過剰摂取は尿路結石の原因にもなります。
尿路結石とは尿の通り道(尿路)に、飽和したカルシウムなどが結晶化したもの(結石)ができる病気です。
結石ができると血尿が出る他、腰の後ろからおなかの横にかけて激痛が走ったり、下腹部に痛みが生じたりします。
では塩分を過剰摂取すると結石ができるのはなぜなのでしょうか。
過剰な塩分は尿として体外に排出されますが、その際にカルシウムも一緒に排出されてしまいます。
尿中の塩分が増えるとカルシウムも増えるので、結石ができやすくなるのです。
3.適切な塩分摂取量と日本人の摂取状況
「塩分ってどのくらい摂るのが適切なんだろう?」
塩分の主成分であるナトリウムは人体にとって必要なミネラルの一つであり、適度な摂取が推奨されます。
塩分をまったく摂らないのも体に良くないのですね。
かといって過剰摂取の弊害がある以上、気になるのは適切な摂取量です。
この章では適切な塩分摂取量と日本人の摂取状況を併せてご紹介します。
3-1.適切な塩分摂取量
厚生労働省は1日当たりのナトリウムの摂取目標量を定めています。
1日に摂取するナトリウムは食塩相当量として、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満に抑えることが望ましいとされています[5]。
また高血圧や腎臓の病気の予防を目的とした場合の食塩相当量は男女共に1日当たり6g未満です[5]。
またWHO(世界保健機関)のガイドラインでは1日当たりに摂取する食塩相当量を5g未満に抑えることが推奨されています[5]。
しかし、日本人は世界的に見ても塩分を摂り過ぎている傾向にあり、WHOの基準に合わせて目標を定めるのは現実的ではありません。
そのため食事摂取基準は「平成 28 年国民健康・栄養調査」の結果とWHOの提唱する目標量の中間値を参考に設定されています。
これらの値はあくまで日本人向けの目安なのですね。
[5] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3-2.日本人の塩分摂取状況
では日本人の塩分摂取量の実態をみてみましょう。
厚生労働省が実施した「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、1日当たりの食塩相当量の摂取量は以下のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢 | ||
20代 | ||
30代 | ||
40代 | ||
50代 | ||
60代 | ||
70代 | ||
80歳以上 |
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」をもとに執筆者作成
男女とも全ての年代で目標量を上回っていることが分かりますね。
WHOの定めた基準とはかけ離れた値であり、このことからも日本人がいかに多量に塩分を摂取しているかがうかがえます。
4.塩分とその排出についてのまとめ
塩分とは食品中に含まれる塩や食塩を塩化ナトリウムに換算した推定量のことです。
摂り過ぎた塩分を排出するにはカリウムや食物繊維を含む食品を摂取すると良いといわれています。
カリウムはほうれん草や納豆などの植物性食品や、さわらやまだいなどの動物性食品に多く含まれています。
食物繊維はさつまいも、ごぼう、ブロッコリーなどの植物性食品に多く含まれます。
塩分を過剰摂取すると体がむくんだり、血圧が上昇したりする他、心臓や腎臓にも負担がかかることがあるので注意が必要です。
厚生労働省は1日に摂取する食塩相当量を、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とする目標量を定めています[6]。
しかし、摂取量は男女とも全ての年代でこの値を大きく上回っているのが実情です。
日本人は世界的に見ても塩分を摂り過ぎている傾向にあり、摂取量には十分気を配る必要があります。
この記事を参考に摂り過ぎた塩分を排出して健康的な生活を送りましょう。
[6] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」