「糖尿病を予防するにはどうしたら良いんだろう?」
このように気になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
糖尿病は、血糖値が高くなる病気だと分かっていても詳しい予防法を知らない方もいらっしゃるでしょう。
糖尿病を予防するには、食事や運動などの生活習慣が重要なポイントです。
この記事では糖尿病やその発症要因、食事や運動のポイントについて詳しく解説するので、ぜひ参考にしてくださいね。
1.糖尿病とは
「そもそも糖尿病ってどんな病気なんだろう……」
糖尿病は「血糖値」が高い状態が慢性的に続いてしまう病気のことです。
私たちが食事によって取り込んだ糖質は、消化によってほとんどが腸の中でブドウ糖になり、小腸から吸収されて血液に溶け込みます。
このため健康な人でも食後は血糖値が上昇しますが、通常は約2時間程度で正常値に戻ります[1]。
これは膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモン「インスリン」のはたらきによるものです。
インスリンは血糖値の上昇に反応して分泌され、ブドウ糖を細胞にエネルギー源として使わせます。
またエネルギーとして使い切れなかったブドウ糖を脂肪や「グリコーゲン」という物質に変換し、体内に蓄えさせます。
これにより血中のブドウ糖が使われ、血糖値が低下するのです。
しかし、このインスリンの分泌量が低下したり、効きが悪くなったりすると血糖値が高い状態(高血糖)が続き、放置しているといずれ糖尿病を発症します。
なお、インスリンが分泌されているにもかかわらず効きが悪くなっている状態を「インスリン抵抗性」といいます。
加えて糖尿病はその病気だけではなく、合併症にも注意が必要です。
血液中で増えた糖は血管を傷つけるため、さまざまな合併症を招きます。
糖尿病特有の合併症には網膜症や腎症、神経障害などがあり、毛細血管が傷つけられることで起こります。
網膜症は視力の低下を招き、進行すると失明に至る恐れがあります。
また腎症では腎臓の機能が低下するために体の余分な水分や老廃物を尿として排出することができなくなり、体のむくみや血圧上昇などが生じます。
深刻化すると機器によって血液をろ過する「人工透析」を定期的に受けなければ命をつなぐことができなくなってしまいます。
神経障害では手足にしびれや痛みを感じるようになり、さらに悪化すると感覚さえなくなるといわれています。
また血管が傷つけられると、太い血管では動脈硬化が進行します。
動脈硬化により、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気を発症するリスクが高まります。
このように糖尿病は自覚症状がないまま進行し、さまざまな病気のリスクを高めてしまうため早期の発見・改善が重要です。
糖尿病の合併症については以下で詳しく解説しています。
なお糖尿病は、自己免疫疾患などが原因で起こる1型糖尿病、遺伝や過食などが重なって起こる2型糖尿病、妊娠中に起こる妊娠糖尿病などに分けられますが、多くは2型糖尿病です。
このため、この記事では主に2型糖尿病について説明します。
2型糖尿病は食生活や運動習慣を見直すことで予防・改善できる場合があるためぜひ参考にしてくださいね。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」
2.糖尿病の要因
糖尿病はインスリンの分泌量が低下したり、効きが悪くなったりすることで血糖値が慢性的に高くなる病気です。
2型糖尿病の原因には環境的なものと、遺伝的なものがあり、なかでも環境要因である生活習慣の影響が大きいといわれています。
この章では、糖尿病の要因について詳しく解説します。
2-1.環境的要因
環境的要因のうち、特に食べ過ぎや運動不足、肥満などは糖尿病を引き起こす代表的な要因です。
過食や運動不足により血糖値が高くなり過ぎると、ブドウ糖が脂肪として蓄積されて肥満を招きます。
脂肪はインスリンのはたらきを弱めるため、ブドウ糖がエネルギーとして使われにくくなります。
また過食などにより血糖値が高い状態が続くと、インスリンを分泌する膵臓に大きな負担がかかり、次第にインスリンが分泌されにくくなります。
このようにして血糖値が高い状況が続き、糖尿病を発症するのです。
2-2.遺伝的要因
2型糖尿病は、遺伝的な要因でも発症することがあるといわれています。
遺伝的な影響に加えて、乱れた生活習慣が加わることでインスリンが出にくくなったりインスリンが効きにくくなったりします。
この結果、血糖値が高くなり糖尿病の発症に至ります。
実際、糖尿病を発症した方のなかには両親を含む血縁者が糖尿病を発症しているケースがあります。
なお血縁者に糖尿病を発症した方がいない場合でも、環境的要因の影響により糖尿病を発症することがあるため注意が必要です。
3.糖尿病を予防するための食事のポイント
「糖尿病を予防するにはどんなことに気をつければ良いんだろう?」
糖尿病を予防するためには食事や運動の生活習慣を改善することが大切です。
この章では食事のポイントをご紹介します。
ポイント1 エネルギー摂取量を適切に抑える
食べ過ぎで必要以上にエネルギー(カロリー)を摂取すると膵臓に負担がかかる他、肥満を招き糖尿病の原因になります。
肥満はエネルギー摂取量(摂取カロリー)がエネルギー消費量(消費カロリー)を上回ることで起こります。
ただし食べる量は少ないほど良いというわけではないため、適切な食事量にとどめることが大切です。
1日に摂るべき総エネルギー量は年齢や性別、「身体活動レベル」によって異なります。
1日の推定エネルギー必要量は以下のとおりです。
ご自身の年齢、性別、身体活動レベルと照らし合わせてみてくださいね。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
例えば身体活動レベルが「普通」に該当する30〜49歳の女性の場合、1日の推定エネルギー必要量は2,050kcalです[2]。
なお、エネルギー源となる栄養素には炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質があります。
炭水化物(糖質)とたんぱく質は1g当たり4kcal、脂質は1g当たり9kcalです[3]。
エネルギーとなる栄養素について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
エネルギー産生栄養素とは?それぞれのはたらきや理想のバランス
糖尿病を予防するために、適切なカロリー摂取を心掛けてくださいね。
1日に摂取すべきカロリーについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
1日に必要なカロリーって?計算方法と健康を保つポイントを解説!
[2] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
[3] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント2 糖質の摂り過ぎを避ける
糖尿病を予防するには、糖質を摂り過ぎないようにしましょう。
糖質を摂り過ぎると肥満や糖尿病を引き起こす原因になります。
特におにぎりやパンなどの主食、甘いお菓子や飲み物は血糖値を上げやすいため、食べ過ぎたり夜遅くに食べたりしないようにしましょう。
甘い飲み物を控え、無糖のお茶やコーヒー、ミネラルウォーターなどに置き換えることがおすすめです。
厚生労働省は炭水化物(糖質)から摂取するエネルギー量を総摂取エネルギー量の50~65%にするという目標量を設定しています[4]。
なお糖尿病を予防するには糖質摂取量が多いなど偏った食事内容ではなく、栄養バランスの取れた食事を摂ることも大切です。
基本の栄養素である「五大栄養素」には炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルがあります。
これらの栄養素はそれぞれ異なるはたらきを持つため、これらの栄養素をバランス良く摂るよう心掛けてくださいね。
五大栄養素については以下の記事で解説しています。
五大栄養素とは?それぞれのはたらきや摂取の際のポイントを解説!
[4] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント3 食物繊維を十分に摂取する
糖尿病を予防するには、食物繊維を十分に摂取するようにしましょう。
食物繊維は便通を良くすると聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
実は食物繊維は便秘の予防だけでなく、血糖値の上昇を抑えるはたらきを持つことも分かっています。
また食物繊維を含む食品を先に食べると満腹感を得やすいため、食べ過ぎを抑えて食事量を減らすことができます。
理想的な食物繊維摂取量は1日当たり24g以上だといわれていますが[5] 、日本人の摂取量は理想にほど遠いため、厚生労働省は実現可能性を考慮して成人について以下のような目標量を設定しています。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
18〜29歳 | 21以上 | 18以上 |
30〜49歳 | 21以上 | 18以上 |
50〜64歳 | 21以上 | 18以上 |
65〜74歳 | 20以上 | 17以上 |
75歳以上 | 20以上 | 17以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
いも類、豆類、野菜類、きのこ類、藻類などから摂取することができるため、毎日の食事メニューに加えるようにしましょう。
食物繊維については以下の記事で詳しく解説しています。
食物繊維を手軽に摂れる食べ物は?効果や食事摂取基準も徹底解説
[5] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント4 アルコールの飲み過ぎを避ける
糖尿病を予防するには、アルコールの過剰摂取を避けましょう。
飲酒量が多過ぎると、膵臓からのインスリンの分泌が抑えられたりカロリー過多になったりすることで、血糖値が上昇する恐れがあります。
またアルコールの過剰摂取が続き、膵臓の機能に異常が生じると血糖値がコントロールされず不安定になります。
飲酒する習慣がある方は1日の「純アルコール量」を20〜25g程度にとどめるようにしましょう[6]。
純アルコール量20g相当のお酒は以下のとおりです。
公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」をもとに執筆者作成
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと糖尿病」
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「飲酒量の単位」
ポイント5 間食をしない
糖尿病を予防するには、間食をしないようにしましょう。
食事と食事の間に間食をすると、食事によって高くなった血糖値が下がりきらず高い状態が続いてしまいます。
特に甘いお菓子や果物、ジュースなどの間食では、血糖値が大きく上昇し下がりにくくなります。
間食で血糖値が高い状態が続くと血管が傷つく原因になる他、インスリンを分泌する膵臓に大きな負担がかかります。
血糖値を安定させて糖尿病を予防するためには間食を避けるようにしてくださいね。
ポイント6 よく噛んでゆっくり食べる
食事の際は、よく噛んでゆっくり食べるようにしましょう。
早食いは血糖値の急激な上昇を招き、膵臓に負担をかけます。
また早食いをすると、脳がおなかいっぱいであることに気づかず食欲が抑えられないため、食べ過ぎてしまい肥満の原因となります。
実際、早食いの習慣がある人には肥満の方が多いと分かっています[8]。
糖尿病の危険因子である血糖値の急上昇や肥満を防ぐには、よく噛んでゆっくり食べることがポイントです。
これにより食事時間が長くなり満腹を感じやすくなります。
噛む回数は1口30回が推奨されています[8]。
この他、口に食事を運んだら一度箸を置くといった習慣を付けることで、ゆっくり食事をすることができますよ。
またテレビを見ながら、何かをしながらの食事である「ながら食べ」をせず、ゆっくり味わいながら集中して食べることでも、満腹感を得やすくなるとされています。
[8] 厚生労働省 e-ヘルスネット「速食いと肥満の関係 -食べ物をよく「噛むこと」「噛めること」」
4.糖尿病を予防するための運動のポイント
「糖尿病を予防するにはどんな運動が良いのかな?」
「種目や運動時間の目安が知りたい」
このように気になっている方もいらっしゃるでしょう。
この章では糖尿病を予防するための運動のポイントをご紹介します。
ポイント1 有酸素運動を行う
糖尿病予防に効果的な運動の一つは「有酸素運動」です。
有酸素運動をすると筋肉を動かすためのエネルギーとして糖や脂肪が消費され、インスリンの効きが良くなる他、高血糖の原因となる肥満の予防・解消が見込めます。
このため糖尿病の治療では運動療法として有酸素運動が組み込まれています。
糖尿病の運動療法においては、「ややきつい」と感じられる程度の全身を使った有酸素運動を1回当たり20分以上、週に3回以上、週合計150分以上行うことが勧められています[9]。
まとまった運動時間が取れない場合は、日常生活のなかで通勤時に歩行する、階段を使うといった運動を取り入れると良いでしょう。
[9] 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」
ポイント2 併せて筋トレを行う
糖尿病予防には筋トレも効果的です。
筋トレで筋肉量が増加すると糖が消費されやすくなるため、血糖値が安定します。
このため糖尿病の運動療法では、有酸素運動と併せて筋トレを行うことが推奨されています。
腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなどの筋トレを、連続しない日程で週に2〜3回行いましょう[10]。
なお同日に有酸素運動と筋トレを行う場合、筋トレを先に行った方が脂肪燃焼効果は高いとされています。
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」
5.糖尿病を予防するポイントについてのまとめ
糖尿病は、血糖値が高い状態が慢性的に続いてしまう病気のことです。
血糖値が高い状態を放置しているとさまざまな合併症を引き起こし、場合によっては命を脅かしてしまう恐れもあります。
糖尿病は自覚症状がないままに進行するため早期の発見・改善が重要です。
糖尿病のうち、遺伝や過食などが重なって起こる2型糖尿病を予防するためには食事や運動の生活習慣を改善することが大切です。
糖尿病を予防する食事のポイントとしては、エネルギー摂取量を適切に抑える、糖質の摂り過ぎを避ける、食物繊維を十分に摂取する、アルコールの飲み過ぎを避ける、間食をしない、よく噛んでゆっくり食べるといったことが挙げられます。
糖尿病を予防する運動には、有酸素運動と筋トレを併せて行うことがポイントです。
日頃から食生活や運動習慣を整えて、健康を保つよう心掛けてくださいね。