エストロゲンとは?作用や分泌量の変動によって起こる体の変化を解説

2024年11月29日

2024年12月01日

「エストロゲンって何だろう?」

エストロゲンという言葉を見聞きしたことはあっても、具体的なはたらきや体への影響をご存じない方も多いのではないでしょうか。

女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがあり、年齢によって分泌量が変化します

特にエストロゲンの変動は心身に大きな影響を及ぼします。

この記事では、エストロゲンの作用や分泌量の変動を年代別にご紹介します。

エストロゲンの影響による体の変化と上手に付き合うために、お役立てください。

1.エストロゲンとは

「エストロゲンにはどんなはたらきがあるのかな?」

エストロゲンは女性ホルモンの一種で、卵胞ホルモンとも呼ばれています。

生殖器や乳房を発達させ丸みを帯びた体に変化させるはたらきを持ち、月経周期の調整や妊娠の準備などにも深く関わります。

その他、髪や肌の潤いを保つ、骨を丈夫に維持する、コレステロール値を調整する、動脈硬化を防ぐといった作用にも関わります

動脈硬化とは
血液を心臓から全身の器官に運ぶ「動脈」の壁が本来の弾力性を失った状態のことです。動脈硬化を放置していると、血管が狭まったり詰まったりしやすくなるため、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの重篤な病気の原因となります。

女性ホルモンにはエストロゲンの他にもプロゲステロンというホルモンが存在し、黄体ホルモンとも呼ばれています。

エストロゲンとプロゲステロンはお互いに影響し合いながら、月経周期など女性の体をコントロールしているのです。

月経周期は、排卵前の卵胞期、排卵期、月経前の黄体期に分けられ、卵胞期のうち月経がある期間を月経期と呼びます。

卵胞期は女性にとってうれしいはたらきをするエストロゲンが増加し、心身共に好調でいられる時期といえます。

一方で、エストロゲンが減少しプロゲステロンが増加する黄体期は、排卵が起こることで妊娠を維持しやすい体をつくるため、体に栄養や水分を蓄えようとします。

このため太ったりむくんだり、心身共に不調になりやすい時期です。

女性ホルモンと月経周期

エストロゲンなどの女性ホルモンは、脳の視床下部から分泌されるホルモンによって調節されています

まず視床下部から「性線刺激ホルモン放出ホルモン」というホルモンが放出されます。

それを受けて脳の下垂体からは性線刺激ホルモンの「卵胞刺激ホルモン」と「黄体形成ホルモン」が分泌されます。

卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが卵巣を刺激して、エストロゲンやプロゲステロンが分泌されるという仕組みになっています。

また血中の女性ホルモン濃度が上昇すると、視床下部や下垂体のはたらきが抑制され、女性ホルモンの分泌量が低下します。

反対に血中の女性ホルモン濃度が低下すると卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌が促され、それに伴って女性ホルモンの分泌量が増加します。

このように、女性ホルモンの分泌量は調節されているのです。

女性ホルモンの分泌量の調節

またこれらの女性ホルモンは年齢によっても分泌量が変動します。

特にエストロゲンは生殖に関わるはたらきの他にも、体への健康維持に重要な役割を果たしているため、エストロゲンの変動は体に大きな影響を及ぼすといわれています。

【関連情報】 「PMSとは?月経前症候群の主な症状や受診の目安、治療法を解説」についての記事はこちら

2.年代別のエストロゲンの分泌量の変動と体の変化

「エストロゲンは年齢によって分泌量が変わるの?」

「分泌量が変わると体にどんな影響があるんだろう……」

このように疑問に感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。

ここでは年代別のエストロゲンの分泌量の変動と、それに伴う体の変化について詳しく解説します。

年代による女性ホルモンの変化

2-1.思春期

思春期はエストロゲンの分泌量が徐々に増加する時期です。

メモ
思春期は子どもが成長して大人の体へと変化していく時期のことで、8歳頃から18歳頃までの期間を指します[1]。

エストロゲンの増加に伴い乳房が発達する、身長や体重が増加する、丸みを帯びた体になるといった変化が見られます。

またエストロゲンの分泌が十分に増加すると、初潮を迎えます。

思春期は妊娠や出産に向けて準備を整える時期ともいえます。

その他、思春期はエストロゲンの分泌が活発なためホルモンバランスが崩れやすく、急に怒ったりイライラしたりといった気持ちが不安定になりやすい時期でもあります。

[1] 公益社団法人 日本産婦人科医会「思春期とはいつからですか?

2-2.性成熟期

性成熟期を迎えるとエストロゲンの分泌が増加し、最も安定します

月経周期が整ったり、妊娠・出産を経験したりする方が多い時期です。

メモ
性成熟期は18歳頃から45歳頃までを指します[2]。

この時期には月経痛が軽くなることも多く、心身ともに安定した状態でいられる時期といえます。

月経周期が整い自分のリズムを把握することで過ごしやすいと感じる方もいらっしゃるでしょう。

一方で、女性ホルモンの影響による不調や病気によって、体調の悩みを持つ女性も多いといわれています。

[2] 厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ「現代女性の健康問題

2-3.更年期

更年期を迎えるとエストロゲンの分泌が急激に低下します

更年期に近づくにつれ卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量は減少します。

メモ
更年期は閉経する前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間のことです[3]。一般的に45歳頃から55歳頃までの期間を指します[4]。

生理周期が不規則になり閉経を迎えたり、ホルモンバランスが崩れることで心と体に不快な症状が現れたりします。

[3] 公益社団法人 日本産科婦人科学会「更年期障害

[4] 厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ「現代女性の健康問題

2-4.老年期

老年期はエストロゲンの分泌がほとんどなくなり、不快な症状が治まってくる時期です。

メモ
老年期は一般的に55歳頃以降を指します[5]。

エストロゲンのはたらきによって守られてきた血管や骨などの病気のリスクが高まります

例えば、骨からカルシウムが流出し骨粗しょう症になりやすくなったり、悪玉コレステロールが増え脂質異常症を起こしやすくなったりします。

悪玉コレステロールとは
LDLコレステロールとも呼ばれる脂質の一種で、肝臓でつくられたコレステロールを全身へ運びます。

あらゆる体調の変化にうまく付き合うためにも、日頃から体調管理には気を配るようにしましょう。

[5] 厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ「現代女性の健康問題

3.エストロゲンの変動が影響する病気

体温計と錠剤

「エストロゲンって何かの病気と関係あるのかな?」

年齢に伴うエストロゲンの変動は、体にさまざまな影響を及ぼします。

例えば、性成熟期には月経に伴う症状である「月経前症候群(PMS)」や「月経困難症」、更年期には「更年期障害」、老年期には血管や骨に関わる深刻な疾患を引き起こす危険もあります。

ここでは具体的な疾患についてご説明します。

3-1.月経前症候群(PMS)

エストロゲンの分泌が大きく変動することで、月経前症候群(PMS)が引き起こされるといわれています。

PMSとは、身体的あるいは精神的な症状が月経前の3~10日間続き、月経の開始とともに症状が軽減または消失するもののことです[6]。

身体症状には、腹痛や頭痛、むくみ、おなかの張り、乳房の張りなどがあります。

また精神症状には、情緒不安定やイライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下などが挙げられます。

PMSの症状のなかでも精神症状が特に強く現れる場合には、月経前不快気分障害(PMDD)の可能性があります

月経前不快気分障害(PMDD)とは
PMSの症状のなかでも精神症状が強く現れる状態のことです。抑うつ、不安、緊張、情緒不安定、怒り、イライラなどが主な症状で、月経前に食生活の変化や睡眠障害などが現れ、社会生活にも支障を来すことがあります。

また、自律神経症状としてのぼせや食欲不振、過食、目まい、倦怠(けんたい)感などがあります。

自律神経とは
意思ではコントロールできない神経で、あらゆる臓器のはたらきをコントロールし呼吸や体温、血圧、消化などの生命活動を維持します。体を活発に動かす際にはたらく「交感神経」と休める際にはたらく「副交感神経」があり、これらがバランスを取りながらはたらくことで体の状態が正常に保たれています。

PMSの治療には、低用量ピルなどの薬で排卵を止めて女性ホルモンの変動を避けることで症状を改善する「排卵抑制療法」方法があります。

また痛みに対しては鎮痛剤、むくみなどに対しては排尿を促したり尿量を増やしたりする薬剤、精神症状や自律神経症状に対しては精神安定剤など、症状に応じた薬が使用される場合もあります。

PMSについては以下の記事で詳しく解説しています。

PMSとは?月経前症候群の主な症状や受診の目安、治療法を解説

[6] 公益社団法人 日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)

3-2.月経困難症

月経困難症とは、月経に伴う症状が日常生活に支障を来している状態のことをいいます。

月経困難症は特に原因となる疾患がない「機能性月経困難症」と、何かしらの疾患が原因となって起こる「器質性月経困難症」に分けられます。

機能性月経困難症は、月経の血液を排出するために子宮を収縮させる物質の分泌が多過ぎることや、子宮の出口である頸管が狭いことが主な原因です。

いずれの月経困難症でも月経時に痛みが生じます。

症状としては、腹痛や腰痛、腹部膨満感、頭痛、吐き気、食欲不振、下痢などが挙げられます。

イライラしたり憂鬱(ゆううつ)になったりすることもあります。

つらい場合は我慢をせずに医療機関を受診し、症状を緩和するための相談を行うと良いでしょう。

また子宮や卵巣の病気が隠れていることもあるため、早めに受診することがおすすめです。

3-3.子宮筋腫

子宮筋腫とは子宮にできる良性の腫瘍で、筋肉が異常に増殖する病気です。

エストロゲンの作用により筋腫が大きくなります。

主な症状としては、月経痛や経血量の増加、貧血などがあります。

子宮筋腫が大きくなると周囲の臓器を圧迫して頻尿や排尿困難、便秘、腰痛などの症状がみられる場合もあります。

症状がなく筋腫がこぶし大以下の大きさであれば、定期的な検診のみで治療はしない場合が多いとされています。

しかし大きいものや著しく増大する傾向があるもの、つらい症状によって日常生活に支障が出ている場合は治療を行うこともあります。

薬によりエストロゲンの産生を抑えて子宮筋腫を小さくさせる治療法や、手術により筋腫部分または子宮全体を取り除く治療法などもあります。

3-4.子宮内膜症

子宮内膜症とは、本来子宮の内側にある子宮内膜が子宮の外側で増えてしまう病気のことです。

20~30代で発症することが多く、30~34歳が発症のピークといわれています[7]。

エストロゲンの影響で子宮内膜が月経周期に合わせて増殖し、子宮周囲の組織と癒着を起こしたり月経時の血液が適切に排出されなかったりします。

子宮内膜症は不妊症の原因となる他、腰痛や腹痛などのさまざまな痛みを招きます。

特に月経痛は多くの方にみられ器質性月経困難症の原因にもなっています。

[7] 公益社団法人 日本産科婦人科学会「子宮内膜症

3-5.子宮腺筋症

子宮腺筋症は、本来子宮の内側に存在する子宮内膜組織が子宮筋の中にできてしまう病気のことです。

子宮筋内に子宮内膜組織ができることで子宮内の壁が厚くなり、子宮全体が大きくなってしまいます。

子宮筋腫や子宮内膜症と同様、エストロゲンの影響により悪化し、エストロゲンの分泌が低下する閉経後には症状が改善します

子宮腺筋症があると、強い月経痛や月経量の増加、不正出血、貧血などの症状が現れます。

また月経時以外にも腹痛や腰痛が起こったり、月経期間が長くなったりします。

治療法としては、痛みを和らげる対症療法や月経量を減らすホルモン療法、手術により子宮腺筋症部分または子宮全体を摘出する方法などがあります。

3-6.更年期障害

更年期障害とは更年期に見られるさまざまな不調が日常生活に支障を来している状態のことです。

更年期になると卵巣の機能が低下するため、エストロゲンの分泌量が減少します。

エストロゲンの分泌が減少すると、脳は卵巣にエストロゲンを出すように指令を出します。

しかし衰えた卵巣は十分な量を分泌することができません。

指令を出してもエストロゲンが分泌されない状態が続くと、脳は混乱状態に陥ります。

脳はホルモン分泌の調整の他にも自律神経のコントロールも担っており、この影響で自律神経が乱れてしまいます。

この結果、目まいや火照り、のぼせ、動悸(どうき)などの更年期障害の症状が現れるのです。

治療法としては少量のエストロゲンを補うホルモン補充療法がある他、症状に合わせて漢方薬や向精神薬が処方される場合もあります。

更年期障害については以下の記事で詳しく解説しています。

更年期障害とは?さまざまな症状や発症の要因、治療法を徹底解説

3-7.骨粗しょう症

閉経によってエストロゲンが減少することで、閉経後骨粗しょう症のリスクが高まります

骨粗しょう症とは
骨がもろくなり骨折しやすい状態のことです。閉経が大きなリスクとなりますが、他にも骨を形成するカルシウムやマグネシウムの不足、カルシウムの吸収に必要なビタミンD不足、運動不足などによってもリスクが高まります。

骨はカルシウムなどの重要な成分によって構成されています。

カルシウムが骨に取り込まれることで新しい骨がつくられ、一方、古くなった骨は破壊されてカルシウムが骨から溶け出します。

骨はこの流れを繰り返すことで新しくつくり代えられ、骨の強度が維持されているのです。

エストロゲンは一連の流れである古い骨を破壊し、新しい骨につくり変えるはたらきに携わっています。

しかしエストロゲンの分泌量が減少すると、骨密度が低下し骨粗しょう症を発症するリスクが高まります

骨粗しょう症については以下の記事で詳しく解説しています。

骨粗しょう症を予防するには?積極的に摂るべき栄養素や運動法を紹介

3-8.動脈硬化

閉経に伴うエストロゲンの減少により動脈硬化のリスクが高まります

動脈硬化は悪玉コレステロールの増加により進行します。

エストロゲンは悪玉コレステロールを減らして動脈硬化を予防するはたらきに関わっています。

このためエストロゲンの分泌が低下すると、悪玉コレステロールが増加し動脈硬化を進めてしまうのです。

動脈硬化については以下の記事で詳しく解説しています。

動脈硬化とは?原因や病気のリスク、進行を防ぐポイントを徹底解説

4.不調は我慢せず受診する

女性医師にカウンセリングを受ける女性

月経や更年期障害に伴う不調が続いている場合は、我慢せずに早めに受診することが重要です。

女性特有の不調には、さまざまな病気が隠れている可能性があります。

また不調を我慢していると生活の質が低下してしまう恐れもあります。

適切な治療を受けることで症状の緩和が期待できるため、我慢しなければならないと思わずに医療機関に相談してくださいね。

5.エストロゲンについてのまとめ

エストロゲンは女性ホルモンの一種で、卵胞ホルモンとも呼ばれています。

生殖器や乳房を発達させ丸みを帯びた体に変化させるはたらきを持ち、月経周期の調整や妊娠の準備などにも深く関わります。

その他、髪や肌の潤いを保つ、骨を丈夫に維持する、コレステロール値を調整する、動脈硬化を防ぐといった作用もあります。

エストロゲンの分泌は月経周期や年齢などによって変動し、体への影響が大きいといわれています。

女性は思春期になるとエストロゲンの分泌が徐々に増加し乳房が発達したり丸みを帯びた体型になったりします。

その後の性成熟期ではエストロゲンの分泌はピークを迎え、安定します。

しかしエストロゲンの影響によりPMSや月経困難症、子宮内膜症などが起こる場合があります。

更年期に入ると徐々に分泌量は低下し、それに伴い更年期障害が起こることがあります。

老年期にはほとんど分泌されなくなり、骨粗しょう症や動脈硬化のリスクが高まります。

エストロゲンのはたらきや変動による体への影響を知り、日々の健康に役立ててくださいね。

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