「骨粗しょう症って予防できるのかな?」
「骨粗しょう症にならないためにはどうすれば良いのだろう……」
骨粗しょう症は女性ホルモンの減少や加齢などのさまざまな原因によって骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。
特に中高年の女性に多く、大腿骨などの骨折によって寝たきりや要介護になってしまう危険もあります。
クオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)さえ下げてしまいかねない病気なので、どうにか予防したいものですよね。
骨粗しょう症を予防するには若い頃から骨を強くする生活を続けることが重要です。
この記事では骨粗しょう症を引き起こす原因と、予防するための食事や運動、生活習慣などのポイントを詳しく解説します。
記事の内容を参考に、骨粗しょう症を予防する生活を始めてくださいね。
1.骨粗しょう症とは?
「骨粗しょう症ってどんな病気なんだろう?」
骨粗しょう症という病名は知っていても、実際にどのような症状がある病気なのは分からないという方も多いでしょう。
骨粗しょう症は骨の密度や質が低下し骨折しやすくなる病気です。
骨は一度つくられたらそのままだとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、体内では常に「骨芽細胞」が新しく骨をつくる「骨形成」と、「破骨細胞」が古い骨を溶かして壊す「骨吸収」が同時に行われており、これにより骨は常につくり直され続けているのです。
通常は骨形成と骨吸収のバランスが保たれていますが、このバランスが崩れて骨吸収が上回り続けると骨の密度や質が低下してしまい、骨粗しょう症になります。
骨粗しょう症になっただけでは特に痛みは生じませんが、転ぶ、手をつく、重い物を持つといった日常のちょっとしたことで骨折しやすくなります。
骨折するとその部位が痛んで動かせなくなり、連鎖的に次の骨折が起こりやすくなります。
背骨が一つまた一つと折れてつぶれていくと背中が丸くなったり、腰が曲がったりして歩きにくくなります。
高齢の方で背中が丸くなっている方を見かけますよね。
実はあれも骨粗しょう症の症状だと考えられます。
骨粗しょう症でもろくなった背骨が順に折れ、つぶれることで、背中や腰が曲がり、歩きにくくなってしまうのです。
これによって内臓が圧迫され、胃食道逆流現象などの消化器疾患、呼吸器機能障害、心臓の機能低下などが引き起こされる危険もあります。
また脚の付け根の大腿骨を骨折すると寝たきりや要介護になりやすく、認知症の進行や死亡のリスクも高まってしまいます。
骨粗しょう症は骨折を招くだけでなく、それによって全身の健康を害したり、活動の幅を狭めたりと、QOLを大きく低下させてしまう病気であるといえるでしょう。
この怖い骨粗しょう症になる原因は一つだけではありません。
次の章では骨粗しょう症の原因を詳しく解説します。
2.骨粗しょう症の原因
「なぜ骨粗しょう症になってしまうんだろう?」
「若くても骨粗しょう症になるのかな……」
骨をもろくし生活に大きな悪影響を及ぼす骨粗しょう症の原因が気になりますよね。
日本の骨粗しょう症の患者には高齢女性が多く、80代女性では二人に一人が骨粗しょう症を患うとされています[1]。
ただし男性でも、高齢でなくとも骨粗しょう症のリスクは存在しています。
この章では骨粗しょう症の原因を詳しく解説します。
[1] 公益財団法人骨粗鬆症財団「数字で見る骨粗しょう症」
2-1.女性の更年期による女性ホルモン減少
女性に骨粗しょう症が多い原因は、更年期の女性ホルモン低下によって骨粗しょう症が起こりやすくなるためです。
更年期に入ると、女性の体内では「エストロゲン」の分泌量が低下します。
このエストロゲンには骨芽細胞を活発にして骨形成を促すと共に、破骨細胞による骨吸収を抑制するはたらきがあります。
このためエストロゲンが低下すると骨粗しょう症の発症リスクが高まってしまうのですね。
実際、日本の骨粗しょう症患者推計1,280万人のうち女性が980万人と約4分の3を占め、60代女性の5人に1人、70代女性の3人に1人、80代女性の2人に1人が骨粗しょう症を患っています[3]。
閉経に伴うエストロゲンの減少が骨粗しょう症の大きなリスクであることが分かりますね。
[2] 公益社団法人日本産科婦人科学会「更年期障害」
[3] 公益財団法人骨粗鬆症財団「数字で見る骨粗しょう症」
2-2.加齢
加齢も骨粗しょう症の原因となります。
年を取ると骨形成と骨吸収は共にスピードが低下します。
特に骨形成のスピードの方が低下しやすいため、骨吸収が骨形成を上回り、骨密度が減りやすくなってしまうのです。
また骨の材料となるカルシウムを腸管から吸収したり、骨の形成を助けるビタミンDをつくったりするはたらきも低下してしまいます。
これに加えて若い頃よりも食事量や運動量が減ることで、骨に必要な栄養素が十分に摂取できなくなったり、骨に刺激が加わらなくなったりすることも骨を弱くする原因となります。
加齢自体による体の変化と、年を取ったことによる生活習慣の変化のいずれもが骨に悪影響を与えるのですね。
2-3.病気・薬の副作用
他の病気や、服用している薬の副作用が骨粗しょう症の原因となる場合もあります。
以下のような病気にかかっている場合は骨粗しょう症になりやすいとされています。
【骨粗しょう症の原因となりやすい病気】
- 関節リウマチ
- 甲状腺機能亢進症
- 副甲状腺機能亢進症
- 肝臓病
- 糖尿病
- 動脈硬化
- 慢性腎臓病(CKD)
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
糖尿病や慢性腎臓病、動脈硬化といった生活習慣病も骨粗しょう症の原因となりかねないことに注意が必要です。
これに加え、胃や卵巣の摘出手術を受けている場合も骨粗しょう症の発症リスクが高まります。
副作用として骨粗しょう症の発症を招く薬剤には、代表的なものにステロイド剤があります。
長期間にわたってステロイド剤を服用している方は骨粗しょう症になりやすいといわれています。
また血液の凝固を妨げる「ワルファリン」や抗リウマチ薬の「メトトレキサート」、抗うつ薬などでも骨粗しょう症のリスクが高まるといわれています。
2-4.遺伝的体質
遺伝的な体質により骨粗しょう症になりやすい方もいます。
一般的に日本人を含むモンゴロイドには骨量(骨に含まれるカルシウムなどのミネラルの量)が少ない方が多いといわれています。
また家族に骨粗しょう症になった方がいる場合も骨粗しょう症のリスクが高いといえます。
他にも、先天性の難病である骨形成不全症やマルファン症候群を患っている方も骨粗しょう症になりやすいといわれます。
骨粗しょう症のリスクが高いと思われる方は特に注意が必要だといえるでしょう。
2-5.偏食・極端なダイエット
偏食や極端なダイエットによる栄養の不足も骨粗しょう症の原因となります。
骨の主成分であるカルシウムだけでなく、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨にカルシウムを取り込むはたらきのあるビタミンKなど、骨の形成には多くの栄養素が関わっています。
特に成長期は丈夫な骨を形成し、カルシウムを貯蔵するための重要な時期です。
この時期に食事量を大幅に減らす極端なダイエットを行ったり、同じものばかり食べるような偏った食生活を続けたりすると、将来的に骨粗しょう症になるリスクを高めることになります。
若い頃の極端な食生活が老後の健やかな生活を脅かしてしまう恐れがあるのですね。
2-6.運動不足
運動不足も骨粗しょう症のリスクを高めます。
骨は縦方向に物理的な負荷が加わると、微量の電流が伝わって強度が増すといわれています。
逆に運動によって骨にある程度の負荷がかかっていないと、骨形成の際のカルシウムの利用効率が下がってしまい、将来的には骨粗しょう症につながるのです。
2-7.飲酒
飲酒も骨粗しょう症の原因となります。
骨形成を促すビタミンDが作用するには肝臓や腎臓で活性化される必要があります。
しかしアルコールを摂取し過ぎると肝機能が低下し、ビタミンDの活性化が妨げられてしまいます。
その結果腸管でのカルシウムの吸収が悪くなり、骨形成に使われる血中のカルシウムが不足してしまうのです。
またカルシウムには尿と共に体外に排出されてしまう性質があります。
このためアルコールなどの利尿作用がある物質を多く摂ると、体内のカルシウムの排せつ量が増えてしまうのです。
2-8.喫煙
喫煙は骨形成を促す骨芽細胞を減らし、骨吸収を促す破骨細胞を増やします。
このため骨代謝の異常など、骨に甚大な悪影響を及ぼします。
また喫煙はビタミンDやカルシウムの吸収を阻害するといわれており、喫煙に伴う低酸素状態も骨の形成や修復を妨げる危険があります。
また喫煙はエストロゲンの分泌を抑制するため、女性の骨粗しょう症のリスクを高めてしまいます。
3.骨粗しょう症を予防するためのポイント
「骨粗しょう症はどうすれば予防できるんだろう?」
「閉経で骨が弱くなるのは避けられないのかな……」
骨折のリスクを高め生活にも大きな悪影響をもたらす恐れのある骨粗しょう症の予防法を知りたいという方も多くいらっしゃるでしょう。
閉経や加齢、人種や先天性の病気といった避けようのない要素もありますが、骨粗しょう症のリスクは食事や運動などの生活習慣を変えることで低下させることが可能です。
この章では骨粗しょう症にならないための対策を詳しく解説します。
ポイント1 必要な栄養素・成分を十分に摂る
骨粗しょう症を予防するには、必要な栄養素や成分を十分に摂る必要があります。
骨といえばカルシウムが真っ先に思い浮かぶ方も多いでしょう。
確かにカルシウムの摂取は骨粗しょう症を防ぐために重要ですが、それだけでは十分ではありません。
ここからは骨粗しょう症予防に有効な栄養素や成分を解説します。
ポイント1-1 カルシウムを摂る
骨粗しょう症を予防するには骨の主成分であるカルシウムを十分に摂ることが極めて重要です。
日本整形外科学会は骨粗しょう症予防を目的としたカルシウム摂取の目標量を1日800mgとしています[4]。
しかし厚生労働省が行った「令和元年国民健康・栄養調査」によると、日本人の平均的なカルシウムの摂取量は以下のとおりです。
【カルシウムの1日当たりの平均摂取量】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20歳~29歳 | 462mg | 408mg |
30歳~39歳 | 395mg | 406mg |
40歳~49歳 | 442mg | 441mg |
50歳~59歳 | 471mg | 472mg |
60歳~69歳 | 533mg | 539mg |
70歳~79歳 | 585mg | 574mg |
80歳以上 | 537mg | 490mg |
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」をもとに執筆者作成
いずれの世代も目標量に達しておらず、若い世代では目標量の半分程度、高齢者でも7割前後となっています。
これは日本の水が一般的にカルシウムなどのミネラルをあまり含まない「軟水」であるためです。
カルシウムを多く含む「硬水」が飲まれている地域では、飲料水からカルシウムを補給することができるためカルシウム不足はあまり問題にはなりません。
しかしあまりカルシウムを含まない水を飲んでいる日本人はカルシウム不足に陥りやすいのです。
また軟水で育った日本の農作物もカルシウムの含有量が少なくなるため、意識的にカルシウムを摂らないと不足してしまうのです。
そんなカルシウムを摂取するのに最適な食品が、牛乳をはじめとした乳製品です。
乳製品はカルシウムを多く含むだけでなく、カルシウムの吸収率が極めて高いという特徴があります。
牛乳を飲むとおなかを壊してしまうという方は、チーズやヨーグルトを食事に取り入れてみましょう。
また煮干しやしらす干し、ししゃものように、丸ごと食べられる魚介類からも多くのカルシウムを摂取できます。
若干吸収率は落ちますが、モロヘイヤやかぶの葉、小松菜などの緑黄色野菜もカルシウムを多く含んでいます。
カルシウムについては以下の記事で詳しく解説しています。
カルシウムとは?はたらきや摂取すべき量、摂取源となる食品を解説
[4] 公益社団法人日本整形外科学会「骨粗鬆症」
[5] 一般社団法人日本乳業協会「カルシウムの吸収を高めるためにはどうしたらよいでしょうか?」
ポイント1-2 ビタミンDを摂る
骨粗しょう症の予防にはビタミンDの摂取も重要です。
ビタミンDは腸管からのカルシウムの吸収を助けるはたらきがあるため、カルシウムと同時に摂取すると効果的です。
ビタミンDは魚介類やきのこ類、卵などに多く含まれています。
しらす干しやかたくちいわしの煮干しはカルシウムとビタミンDがいずれも豊富に含まれているため、骨粗しょう症対策として優秀だといえるでしょう。
また日光浴をすると、肌でビタミンDを作ることができます。
夏は木陰で30分程度、冬は手や顔に1時間ほど日光浴をしてみましょう[6]。
ウォーキングやジョギングなどの運動を兼ねて日光を浴びる習慣をつけるのも良いですね。
紫外線が気になる方は日焼け止めや帽子・日傘などを用いても問題ありませんよ。
ビタミンDについては以下の記事で詳しく解説しています。
ビタミンDはどんな食べ物に含まれる?1日の摂取基準やはたらきは?
[6] 特定非営利活動法人日本介護予防協会「骨粗しょう症(骨粗鬆症)を予防するには」
ポイント1-3 ビタミンKを摂る
骨粗しょう症の予防にはビタミンKの摂取も重要です。
ビタミンKにはカルシウムを骨に吸着させて骨の形成を促すはたらきがあります。
また骨の質を高めるコラーゲンの生成を促進するはたらきもあります。
ビタミンKは納豆や緑黄色野菜、海藻類などに多く含まれています。
なかでもモロヘイヤやかぶの葉、わかめなどはカルシウムも多く含むため、骨粗しょう症の予防に適しているといえるでしょう。
ビタミンKについては以下の記事で詳しく解説しています。
ビタミンKにはどんな効果がある?摂取目安量とおすすめの食材を紹介
ポイント1-4 マグネシウムを摂る
骨粗しょう症の予防にはマグネシウムも効果的です。
マグネシウムはカルシウムなどと共に骨を形成しています。
また骨を作る骨芽細胞にはたらきかけ、骨の中に入るカルシウム量を調節する役割も担っています。
マグネシウムは魚介類や海藻類、穀類や豆類、野菜などに多く含まれています。
さくらえびやかたくちいわしの煮干し、しらす干し、ひじき、刻み昆布、わかめなどはカルシウムとマグネシウムを共に多く含んでおり、こちらもカルシウム源として優秀です。
マグネシウムについては以下の記事で詳しく解説しています。
マグネシウムを多く含む食べ物は?1日の摂取推奨量やはたらきを解説
ポイント1-5 たんぱく質を摂る
骨粗しょう症の予防にはたんぱく質の摂取も欠かせません。
たんぱく質は炭水化物や脂質と並ぶ体のエネルギー産生栄養素の一つで、筋肉や臓器、肌や髪などの細胞を構成しています。
骨の質を高め、強くするために重要なコラーゲンの材料ともなります。
またたんぱく質には成長期に骨を伸ばして育て、骨量(骨に含まれるカルシウムなどのミネラルの量)を増やす重要なはたらきがあります。
このはたらきは成長期が終わった後の骨量の維持にも深く関わっています。
子どもの頃からたんぱく質をしっかり摂っていると、将来的な骨粗しょう症のリスクが下がるのですね。
たんぱく質については以下の記事で詳しく解説しています。
たんぱく質とは?体内でのはたらきや食事摂取基準、豊富な食品を紹介
ポイント1-6 ビタミンB群を摂る
ビタミンB群の摂取も骨粗しょう症の予防に役立ちます。
ビタミンB群のうちビタミンB6、葉酸、ビタミンB12には、骨のコラーゲンを劣化させて骨粗しょう症のリスクを高める「ホモシステイン」という物質を無害化するはたらきがあります。
ビタミンB群はレバーやハツなどの内臓や肉類、魚類、魚卵、貝類、海苔などに多く含まれています。
バランス良くいろいろな食材を食べることでビタミンB群を十分に摂取できるのですね。
ビタミンB群については以下の記事で詳しく解説しています。
ビタミンB群を豊富に含む食べ物は?それぞれの食事基準や作用も解説
ポイント1-7 大豆イソフラボンを摂る
大豆イソフラボンにも骨粗しょう症の予防効果が期待できます。
大豆イソフラボンは大豆の胚芽部分に多く含まれる、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種です。
分子構造がエストロゲンに似ていることから植物性エストロゲンと呼ばれることもあります。
大豆イソフラボンはヒトの体内でエストロゲンの受容体と結合し、エストロゲンと似たはたらきをすることが知られています。
このため大豆イソフラボンには、更年期のエストロゲン減少に伴う骨量の減少を抑制する効果が期待できるといわれています。
中高年女性に骨粗しょう症患者が多いのは更年期のエストロゲン減少が骨密度の低下を招くためです。
この年代の女性は特に積極的に大豆や大豆製品を摂取すると良いでしょう。
大豆イソフラボンについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
大豆イソフラボンとは?はたらきや過剰摂取の影響、摂取目安量を解説
ポイント2 有酸素運動を行う
骨粗しょう症の予防には有酸素運動も有効です。
運動によって骨に物理的な負荷がかかると、微量の電流が伝わって強さが増すといわれています。
また運動で骨に負荷がかかると骨芽細胞が活発にはたらくようになり、摂取したカルシウムが骨にとどまりやすくなります。
一方、骨に負荷がかからない状態が続くと骨のカルシウムが溶け出し、骨がもろくなっていきます。
そのため、有酸素運動のなかでもウォーキングやジョギング、エアロビクス・ダンスといった重力がかかる運動が骨粗しょう症に有効といえるでしょう。
また、運動は三日坊主にならず長く続けることが重要です。
無理な運動するのではなく、散歩やゲートボールなどを楽しみながら行うこと、歩いて買い物に行ったり意識的に階段を使ったりといった日常生活を通じて体を動かす機会を増やすことを意識しましょう。
また高齢で足腰が弱っていたり、体を動かすことが困難だったりする方は、少しでも体を動かすために水泳や水中歩行といった浮力がかかり体重が負荷にならない運動も選択肢に入れてみてください。
ポイント3 筋トレを行う
筋トレも骨粗しょう症予防に効果的です。
これは骨が腱を通じて筋肉とつながっていることから、筋トレによって骨に刺激を与えられるためです。
自重での筋トレだけでも効果はありますが、ウェイトマシンなどの器具を用いると筋肉が強く収縮して骨に刺激が伝わるため、より効果的といえるでしょう。
また筋トレにはウォーキングやジョギングでは強化できない上半身の骨も鍛えられるというメリットもあります。
加えて、自分の骨の弱い部位を選んで集中的にトレーニングを行うことも可能です。
ポイント4 ダイナミック・フラミンゴ療法を行う
骨粗しょう症の予防にはダイナミック・フラミンゴ療法(開眼片足起立運動)が推奨されています。
この療法では片足立ちを行うことで、両足で立った場合の約2.75倍の負荷を立っている側の脚の大腿骨にかけることができます[7]。
これにより大腿骨などの骨密度の改善に加えて骨盤周りの筋力増強、バランスの改善などが期待でき、転倒予防にも寄与するとされています。
ダイナミック・フラミンゴ療法のやり方は、目を開けて片脚で立つだけです。
この際、足は5cmほど上げるだけで構いません。
左右の足で1分間ずつを1セットとし、3セットを1日1回行うことを目安に無理のないように行いましょう。
体を動かしにくい方や転倒が不安な方はテーブルや椅子、壁などに軽く手をついて行いましょう。
[7] 一般社団法人日本運動器科学会「ダイナミックフラミンゴ療法」
ポイント5 お酒を控える
骨粗しょう症を予防するにはお酒は控えめにしましょう。
お酒の飲み過ぎは肝機能の低下をもたらし、ビタミンDの活性化を妨げてしまいます。
これにより、腸管からのカルシウムの吸収が低下して骨形成に利用される血液中のカルシウムが不足する危険があります。
またお酒には利尿作用があるため、せっかく吸収したカルシウムが必要な分まで尿として排出されてしまいかねません。
しかしお酒は適量であればむしろメリットもあるため、無理に禁酒する必要はありません。
お酒で食欲が増進すると、摂取する栄養が増えてカルシウムの摂取量を増やすことができます。
飲み過ぎには注意し、お酒を飲む場合も適量にとどめることを心掛けましょう。
ポイント6 禁煙する
骨粗しょう症が気になる方は今すぐに禁煙しましょう。
喫煙は骨形成を促す骨芽細胞を減らし、骨吸収を促す破骨細胞を増やすことで骨密度の低下を招く、骨粗しょう症の危険因子です。
またビタミンDやカルシウムの吸収を阻害する他、喫煙に伴う低酸素状態も骨の形成や修復を妨げるといわれています。
さらに女性においては喫煙によってエストロゲンの分泌が抑制され、骨粗しょう症のリスクを高めてしまいます。
お酒と違って喫煙が骨粗しょう症のメリットになることはないため、一刻も早い禁煙が必要です。
4.骨粗しょう症の診断・治療・対策
「自分が骨粗しょう症かどうすれば分かるのかな?」
「骨粗しょう症になったらどうすれば良いんだろう……」
自分や大切な家族に骨粗しょう症の疑いが生じたらどうすれば良いか、気になりますよね。
この章では骨粗しょう症の診断方法や治療法、また自分でできる対策などを解説します。
4-1.骨粗しょう症の診断
骨粗しょう症は発症していても自覚症状のないことが多く、検査が非常に重要です。
骨粗しょう症ではないかと不安になったら、まずは整形外科を受診しましょう。
内科や婦人科で診てもらえる場合もあります。
骨粗しょう症の診断では骨量の測定とレントゲン撮影、血液と尿の検査などを行います。
骨量の測定では、骨の中にカルシウムなどのミネラルがどの程度存在しているのかを検査します。
骨量測定にはデキサ法(DXA)、エムディー法(MD)、キューユーエス法(QUS)などの方法があります。
デキサ法は背骨や足のつけ根、前腕などの骨粗しょう症を原因とする骨折が起こりやすい部位を2種類のX線で測定する方法です。
大型の装置を用いる最も正確な測定方法で、骨粗しょう症の治療効果の測定にも用いられます。
エムディー法は手のひらと厚さの異なるアルミニウム板とを同時にX線撮影するもので、人さし指の骨とアルミニウムの濃度を比べます。
大型の装置が不要で診療所などでも簡単に測定できるため普及しています。
キューユーエス法はかかとの骨に超音波を当てて骨の強さを測定する方法です。
骨粗しょう症の診断には使われないものの、X線による被ばくがないため妊婦でも測定でき、検診などでも広く用いられます。
レントゲン撮影では主に背骨をX線撮影し、骨折や骨の変形、骨粗しょう症による変化の有無などを確認します。
骨粗しょう症に関する血液と尿の検査では「骨代謝マーカー」が測定されます。
骨代謝マーカーとは骨代謝の結果作られる物質のことで、骨代謝がどの程度行われているのかの指標となります。
この数値が高い人は骨吸収が盛んで骨密度の低下速度が速く、骨粗しょう症や骨折の危険が大きいため注意が必要です。
またこの検査は骨粗しょう症と他の病気を判別する際にも用いられます。
骨粗しょう症のリスクが特に高い中高年女性は「骨粗しょう症健診」を受けることができます。
これは健康増進法に基づいて40~70歳の女性を対象に5歳刻みで実施されているものです[8]。
骨粗しょう症健診では月経や病歴などの体調、食事や運動などの生活習慣についての問診と、骨量の測定が行われます。
主に自治体などが実施している他、健康保険組合などが行っているケースもあり、健康診断時にオプションの検査として受けられる場合もあります。
しかし骨粗しょう症健診の受診率は全国平均4~5%程度と極めて低いのが現状です[8]。
早期の発見や治療のため、該当する世代の女性は積極的に受診してみましょう。
公益財団法人骨粗鬆症財団が「40歳からはじめる骨粗鬆症検診」というリーフレットで情報を公開しているので、参考にしてみてくださいね。
[8] 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨粗鬆症検診」
4-2.骨粗しょう症の治療
粗しょう症と診断された場合は内服薬や注射による投薬治療が行われます。
骨粗しょう症の治療薬には骨吸収を抑制する薬、骨形成を促進する薬、骨吸収と骨形成のバランスを整える薬があります。
骨粗しょう症の治療では、骨折や痛みの有無、骨折に伴う合併症の有無などに加え、年齢やどの程度通院が可能かなどによって治療薬の選択が異なります。
そのためしっかり主治医と相談した上で治療方針を決定する必要があります。
また治療薬の効果を安全かつ確実に得るため、必ず用法と用量を守りましょう。
骨粗しょう症の発症には長年の食生活や運動、飲酒や喫煙などの生活習慣が深く関わっています。
このため投薬治療だけでなく、食事療法や運動療法によって骨を強くしていくことも重要です。
この記事で解説した骨粗しょう症を予防するためのポイントはそのまま治療時の食事や運動にも応用できますので、ぜひ参考にしてくださいね。
4-3.骨粗しょう症の対策
骨粗しょう症と診断された場合、治療だけでなく自宅や生活習慣の上での対策も重要です。
骨粗しょう症の方は転倒などの小さな衝撃でも骨折するリスクがあり、特に大腿骨を骨折した場合はそのまま寝たきりや要介護となる危険があります。
そのため、転倒しないための環境づくりを行う必要があります。
新聞や雑誌が積まれていたり、コード類が散らかっていたりと、部屋や廊下につまずいたり引っかかったりしやすい箇所がある場合は整理整頓を行いましょう。
薄暗い場所には照明を設置して明るくするようにしてください。
またちょっとした段差がある場合はスロープを導入しましょう。
階段や玄関などに手すりを設置するのも良いですね。
外出時には脱げにくく、滑りにくい靴を履くようにしてください。
飾りなどの多い服も引っかかりやすいため注意しましょう。
歩行に不安がある場合は杖やシルバーカーを使うと安全ですよ。
生活の場から転倒するリスクを可能な限り減らすようにしてみてください。
5.骨粗しょう症の予防法についてのまとめ
骨粗しょう症は骨が弱くなり、日常生活での転倒や衝撃で骨折のリスクが高まる病気です。
骨粗しょう症の最大の原因は女性ホルモンのエストロゲンの減少で、更年期以降の女性に特に多いことが知られています。
また加齢や運動不足、骨の健康に関わる栄養素の不足、お酒の飲み過ぎや喫煙、遺伝的な体質や病気、薬剤の副作用なども骨粗しょう症の原因となります。
骨粗しょう症の予防にはカルシウムやビタミンD、ビタミンKなどの栄養の摂取が重要です。
また骨に刺激を加えると骨が強くなるため、ウォーキングやジョギングなどの重力のかかる有酸素運動や筋トレなどの運動も予防に有効です。
お酒は控えめにし、禁煙することも骨粗しょう症予防につながりますよ。
骨粗しょう症が心配な方は定期的に骨の状態をチェックしましょう。
骨粗しょう症になると投薬治療が必要ですが、加えて食事や運動などの生活習慣も改善する必要があります。
また転倒による骨折を防ぐためには家の段差や暗がりを解消し、外出時は杖をつくようにすることも有効ですよ。