「サルコペニアって最近よく聞くけど何のことだろう?」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
サルコペニアとは、主に加齢に伴う筋肉量の減少により筋力や身体機能が減少する疾患です。
サルコペニアに罹患すると日常の基本的な動作に支障を来すことに加え、疾患の重症化や死亡率の増加にもつながるといわれています。
この記事ではサルコペニアについて詳しくご説明する他、予防や改善のポイントもご紹介します。
毎日の健康のために、ぜひ参考にしてくださいね。
1.サルコペニアとは
サルコペニアの語源は、ギリシャ語の「sarx(筋肉)」と「penia(喪失)」を合わせた「Sarcopenia」で「加齢性筋肉減弱現象」とも呼ばれます。
サルコペニア診療ガイドラインにおいて、サルコペニアの定義は「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」とされています。
サルコペニアにより筋力や身体能力が低下すると、転倒のリスクの増加をはじめ活動性の低下や運動障害、自立性の喪失などにより、QOL(Quality Of Life:生活の質)が低下し寿命にも影響するといわれます。
骨格筋は加齢に伴って自然に減少します。
また活動量の減少などで筋肉が使われなくなると、エネルギー源として分解されます。
中年以降ではサルコペニアの影響が大きい下肢の筋肉の減少に見られ、年齢とともにその傾向が顕著になります。
筋肉の維持のためには、たんぱく質の摂取などが重要です。
筋肉を構成するたんぱく質は180日でその半分が入れ替わるとされており[1]、たんぱく質を体内で合成するためには必須アミノ酸の定期的な供給が必要です。
[1] 公益社団法人 熊本県畜産協会「私たちはなぜたんぱく質を食べなければならないのか」
[2] 厚生労働省e-ヘルスネット「アミノ酸」
2.サルコペニアと似た概念
サルコペニアに関心がある方は「ロコモティブシンドローム」や「フレイル」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんね。
ロコモティブシンドロームが身体的な機能の低下を指すのに対し、フレイルは精神や社会生活も含めたより広い範囲での衰えを指します。
この章ではフレイルとロコモティブシンドロームについて詳しく見ていきましょう。
2-1.ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドロームは「ロコモ」ともいわれ、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されています。
具体的には、加齢による筋肉量や筋力の低下、骨粗しょう症、変形性膝関節症などにより、筋肉や骨などの運動器に支障を来し「立つ」「歩く」動作が不自由な状態のことです。
つまり、サルコペニアはロコモの原因の一つといえるのですね。
ロコモは移動機能の低下の程度によりロコモ度1~3に分類されます[3]。
ロコモ度1は移動機能の低下が始まった状態、ロコモ度2は移動機能の低下が進行した状態、ロコモ度3は移動機能の低下の進行により社会参加に支障を来している状態です[3]。
進行すると介護が必要になる可能性が高くなります。
[3] 公立大学法人福島県立医科大学 県民健康調査「フレイル・サルコペニア・ロコモってなんだろう?」
2-2.フレイル
フレイルとは「虚弱状態」を意味し、加齢により筋力や活力に低下が見られる状態のことをいいます。
サルコペニアが身体的な機能の低下を指すのに対し、フレイルは精神や社会生活も含めたより広い範囲での衰えを指します。
フレイルは健常と要介護の中間に位置づけられ、要介護への移行が懸念される状態です。
しかし、栄養状態や運動習慣の改善など早期の適切な介入により健康な状態へ戻ることが可能とされています。
フレイルの主な原因としては「身体的な活動量の低下」「認知機能や気力の低下」「社会のつながりの低下」が挙げられます。
つまり、ロコモティブシンドロームはフレイルの身体的な側面の一つということができます。
また、持病により動作が鈍くなったり気力が衰えたりすることもフレイルの要因といわれています。
3.サルコペニアの診断基準
サルコペニアの診断基準は複数ありますが、現在日本サルコペニア・フレイル学会の推奨する基準では「筋肉の力」「筋肉の機能」「量」を指標として判定を行います。
筋肉の力は握力により判定されます。
筋肉の機能は、歩行速度や椅子立ち上がりテストなどにより診断されます。
筋肉の量は、BIA法やDXA法という方法で両腕両脚の筋肉量を測定し、それを基に算出された骨格筋指数により判定します。
サルコペニアの判定には筋肉の量の低下が必須の条件で、これに加えて筋肉の力と機能のいずれかの低下が見られる場合にサルコペニアと判定されます。
さらに、筋肉の力、機能、量のすべてが低下している場合は重度サルコペニアと判定されます。
なお、BIA法やDXA法による筋肉量の計測は設備のある機関でのみ実施が可能です。
設備のない環境下では、筋肉の力もしくは機能のいずれかに低下が見られる場合にサルコペニアの可能性ありと判断し、専門機関での受診が推奨されます。
4.サルコペニアの予防・改善のポイント
「サルコペニアを予防するにはどうしたら良いんだろう……」
「サルコペニアになったら良くなることはないのかな?」
このように心配している方もいらっしゃるでしょう。
サルコペニアは予防することも改善させることも可能です。
この章ではサルコペニアの予防や改善に有効とされるポイントについてご紹介します。
ポイント1 たんぱく質を十分に摂取する
サルコペニアは、たんぱく質不足の影響を最も受けやすい疾患の一つといわれています。
サルコペニアを予防するために、高齢者は筋肉の材料であるたんぱく質をより多く摂取する必要があります。
厚生労働省は、高齢者がサルコペニアを予防するために、毎日体重1kg当たり1.0g以上のたんぱく質を摂取することを推奨しています[4]。
たんぱく質を摂取する際には含有量だけでなく質にも注目しましょう。
食品中のたんぱく質は、含まれる必須アミノ酸の量や割合により体内での利用率が決まります。
必須アミノ酸が理想的なバランスで含まれている場合、そのたんぱく質は体内で有効に利用されます。
たんぱく質の体内での利用率は「アミノ酸スコア」で示されます。
アミノ酸スコアが高い食品は「良質なたんぱく質」と呼ばれます。
一般的に、動物性食品の方が植物性食品よりもアミノ酸スコアが高いのですが、大豆などは植物性でもアミノ酸スコアが高い食品です。
良質なたんぱく質を含む主な食品には以下のようなものがあります。
食品名 | 加工状態など | 含有量 | アミノ酸スコア |
---|---|---|---|
大豆 | |||
かつお(春獲り) | |||
めばちまぐろ(赤身) | |||
ささみ | |||
鶏胸肉(皮なし) | |||
豚ロース肉(赤身) | |||
牛サーロイン(赤身) | |||
まいわし | |||
鶏卵(全卵) |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」およびWHO「Protein and amino acid requirements in human nutrition : report of a joint FAO/WHO/UNU expert consultation」をもとに執筆者作成
[4] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
[5] 厚生労働省e-ヘルスネット「アミノ酸」
[6] 一般財団法人日本食品分析センター「食品たんぱく質の栄養価としての『アミノ酸スコア』」
ポイント2 適度な運動を行う
サルコペニアの予防や改善のためには、筋肉量を増やし筋力や身体能力を高めることが重要です。
年齢や体力に合わせてトレーニングや運動を行いましょう。
特に、レジスタンス運動と強度が低めの有酸素運動を一緒に行うと効果的といわれます。
サルコペニアの症状で見られるふらつきや転倒の予防に有効なのが、大腿四頭筋(太ももの表側の筋肉群)、大殿筋(お尻の大きな筋肉)、ハムストリング(太ももの裏側の筋肉群)、背筋群(背中の筋肉群)などの強化です。
おすすめのレジスタンス運動をご紹介しますので試してみてくださいね。
さらに軽く息が弾む程度の有酸素運動はサルコペニアの予防や改善に役立ちます。
全身の筋肉を使って有酸素運動を行うことは、サルコペニアの危険因子といわれる生活習慣病の予防や改善にもつながります。
特に心肺持久力を高めるトレーニングは肺や心臓のはたらきを強化し、より長い時間の運動を可能にします。
体力や体調に合わせて、ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどを継続的に行いましょう。
レジスタンス運動と有酸素運動を併せて実施することで、さらに大きな効果が期待できますよ。
5.サルコペニアが疑われる場合は受診しよう
「最近、手足が細くなったみたい……」
「椅子から立ち上がるのがきつくなったな」
このように感じる場合、サルコペニアの疑いがあります。
また、「つまずきやすい」「歩幅が狭くなった」「ペットボトルが開けにくい」「立っているのがつらい」などはサルコペニアの症状としてよく見られるものです。
このような場合は、一度受診してみましょう。
サルコペニアの診断は、サルコペニア外来といった専門外来や整形外科などで受けることができます。
サルコペニアは、予防や改善が可能な病気です。
放置すると進行し、介護が必要になる可能性もあるため早めに受診しましょう。
6.サルコペニアについてのまとめ
サルコペニアは高齢期に筋肉が減少することで、筋力や歩行などの身体機能が低下する病気です。
筋力や身体能力が低下しサルコペニアになると、転倒のリスクの増加や活動性の低下などにより、QOL(Quality Of Life:生活の質)が低下し、寿命にも影響するといわれます。
サルコペニアへの影響が大きい下肢の筋肉の減少は中年以降から見られ、加齢に伴ってその傾向が顕著になっていきます。
サルコペニアと似た状態にはロコモティブシンドロームやフレイルがあります。
ロコモティブシンドロームは筋肉や骨、関節などの衰えにより立ったり歩いたりといった運動機能が低下した状態で、サルコペニアはこの原因の一つです。
フレイルは加齢によって身体的、精神的、社会的に衰弱し、要介護となるリスクの高い状態で、ロコモティブシンドロームはフレイルの身体的な側面の一つです。
サルコペニアは食事や運動によって予防や改善が期待できるといわれます。
日ごろからたんぱく質の十分な摂取を心掛け、適度な筋力トレーニングや有酸素運動を取り入れましょう。
なおサルコペニアを放置すると介護が必要となる危険もあります。
気になる症状がある場合は早めに受診しましょう。
診断では「筋肉の力」「筋肉の機能」「量」が指標とされ、専門機関での検査が必要です。
健康な生活を送るためにこの記事の内容を参考にしてくださいね。