「最近、よく眠れなくて悩んでいる......」
「レム睡眠とノンレム睡眠の違いって何だろう?」
このような睡眠に関する困りごとや疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
厚生労働省は「令和3年度 健康実態調査結果の報告」にて、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った。」「睡眠全体の質に満足できなかった。」などの睡眠に関する6項目の質問の回答結果を公表しています。
資料によると、睡眠に関する6項目の質問に対し、「上記のようなことはなかった。」と回答した方は2割に満たしませんでした[1]。
睡眠は、二つの周期を交互に繰り返すことで、疲労やストレスを回復させる役割を担っています。
この記事では、レム睡眠とノンレム睡眠の違いや、理想的な割合などを分かりやすく説明します。
睡眠を改善するポイントも紹介していますので、良い眠りを通して生活の質を高めたい方は、ぜひ参考にしてください。
[1]厚生労働省「令和3年度 健康実態調査結果の報告」
1.レム睡眠とノンレム睡眠の違い
睡眠は「レム睡眠」「ノンレム睡眠」の二つのサイクルによって構成されていることをご存じでしょうか。
レム睡眠とノンレム睡眠は、それぞれ異なる脳波活動によってもたらされます。眠っているときでも、脳は完全に動きを止めているわけではないのです。
ここでは、レム睡眠とノンレム睡眠のしくみと違いについて説明します。
【関連情報】 「睡眠は時間だけでなく質も重要!ぐっすり眠るための7つの秘訣とは?」についての記事はこちら
1-1.レム睡眠とは
「レム睡眠」とは、夢を見る睡眠段階と考えられています。
急速眼球運動(Rapid Eye Movements)がみられるため、頭文字をとってレム(REMs)睡眠と名付けられました。
レム睡眠の際には、自律神経が不安定になり、脈拍・呼吸や血圧などが乱れやすいです。
レム睡眠時は筋肉の緊張がほとんどなくなり、感覚刺激を与えても目覚めにくいという特徴があります。
また、日中に多く活動・学習した日の夜は、レム睡眠の時間が多くなることから、レム睡眠は記憶の情報処理において重要なはたらきを持つといわれています。
1-2.ノンレム睡眠とは
「ノンレム睡眠」とは、夢を見ることはなく、途中で起こされると目覚めが悪い場合が多い睡眠段階とされています。
ノンレム睡眠は、眠りの深さにより、浅い順からステージ1~ステージ4の4段階に分かれています。
レム睡眠と同様、ノンレム睡眠の浅い段階では眼球運動がみられるのが特徴です。
しかし、ノンレム睡眠の眼球運動は緩やかであり、睡眠が深まるにつれ動かなくなります。
また、ノンレム睡眠時は、副交感神経が優位にはたらいており、脈拍や呼吸数は減少、血圧は低下したまま安定しています。
ノンレム睡眠は、起きている最中にはたらいた大脳皮質を冷却し、頭を休めるための時間です。
そのため、深いステージのノンレム睡眠は、大脳皮質が発達した生物のみにみられる現象だといわれています。
[2]日本学術会議「3.脳はこうして記憶する2」
2.レム睡眠とノンレム睡眠の周期
レム睡眠・ノンレム睡眠は、約90分で1セットになっており、7時間~8時間程度で睡眠から起きやすいしくみとなっています。
眠りについた後、初めにステージ3〜4のノンレム睡眠が現れます。
一定時間が経過するとレム睡眠に切り替わり、また深い眠りに入るというサイクルを繰り返しつつ、覚醒が近づくにつれノンレム睡眠の周期は少しずつ短くなるのです。
睡眠の周期は、疲労の度合いによって左右される睡眠欲求と、体内時計によって定まる覚醒力によって形成されます。
また、睡眠サイクルの調整に作用するのが体内時計ホルモンである「メラトニン」と覚醒作用を持つ「副腎皮質ホルモン」です。
メラトニンは明るい光によって分泌が抑制され、日が沈むのに伴い分泌量が増加します。
覚醒時間に近づくごとに「副腎皮質ホルモン」が分泌され始めます。同じタイミングで脳の温度が上昇し、覚醒する準備が整うというメカニズムです。
3.レム睡眠・ノンレム睡眠の割合
一般的に、二つの睡眠サイクルの割合は、レム睡眠が20%、ノンレム睡眠は80%といわれています。
1日当たりの睡眠時間が7時間〜8時間ほどと仮定して計算した場合、約1時間半がレム睡眠、5時間〜6時間程度がノンレム睡眠に当たります。
なお、新生児期では、睡眠全体の約半分をレム睡眠が占めており、入眠時はレム睡眠から睡眠サイクルが始まるのが特徴です。
生後3カ月頃までにはノンレム睡眠から眠りが始まるようになり、周期も徐々に青年期と同様の長さに近づきます。
また、深いノンレム睡眠は加齢とともに減少していくしくみになっています。
高齢者になると早起きしやすくなったり寝ている途中で起きやすくなったりするのは、深いノンレム睡眠の割合が減少し、浅いノンレム睡眠の割合が増加しているのが原因の一つです。
4.睡眠不足の問題点
睡眠時間が十分にとれていない場合、心身にさまざまなトラブルを生じさせる恐れがあります。ここでは、睡眠不足によって生じるリスクについてみていきましょう。
4-1.生活習慣病リスクが増大する
睡眠不足の方は、生活習慣病になりやすいことが分かっています[3]。
また、睡眠不足の状態では、「インスリン」のはたらきが悪くなり、糖尿病のリスクが増大することも分かりました。
睡眠不足が慢性的に続いている方は、糖尿病以外にも高血圧や肥満にもなりやすいとされています。
睡眠不足が高血圧につながるのは、交感神経が優位となり、血圧が高い状態が続くためです。
また、睡眠不足が食欲の調整ホルモンに影響を与え、食欲が増えて肥満に繋がる可能性があります。
糖尿病や高血圧、肥満は動脈硬化の危険因子です。心筋梗塞などの心疾患、脳出血などの脳血管疾患にかかるリスクが高まります。
[3]厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
[4]厚生労働省 e-ヘルスネット「インスリン」
4-2.うつ病になる可能性がある
睡眠不足が慢性化すると、抑うつ状態になりやすいことが明らかになっています[5]。
不眠症などの睡眠障害とうつ病は相互に影響を及ぼす存在です。
不眠はこころの病気につながる場合があります。また、うつ病などのこころの病気が不眠の原因にもなりえます。
不眠が続くと眠ること自体にストレスや恐怖感を抱くようになり、余計に眠れなくなる悪循環に陥るケースも考えられるでしょう。
[5]厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」
[6]厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠障害」
4-3.ダイエットを妨げる
海外の研究では、短時間しか寝ていない場合、血中のレプチンが減り、グレリンが増えることが報告されています[7]。
また、最近の研究では、レム睡眠が不足すると、太りやすい食べ物を食べたくなることも判明しました[10]。
バランス良く食事を摂取し、ダイエットを続けるには十分な睡眠をとることが大切です。
[8]大学共同利用機関法人自然科学研究機構基礎生物学研究所「肥満をつかさどる脳内メカニズムを発見」
[9]公益社団法人日本生化学会「グレリンの発見から臨床応用まで:古き良き発見の時代に」
[10]筑波大学「寝不足はダイエットの敵 睡眠時間が足りないと甘いものがほしくなる理由」
5.睡眠を妨げる原因とは
そもそも、どうして人は睡眠不足になってしまうのでしょうか。眠れない理由はさまざまであり、忙しくて眠る時間がない方も多いでしょう。
しかし、時間の有無とは無関係な理由から睡眠不足になっている方もめずらしくありません。
ここでは、睡眠を妨げる原因をいくつか紹介します。
5-1.過度なストレス
過度なストレスは、なかなか寝つけない原因の一つです。ストレスに対する体の反応の一つに睡眠障害があります。
ストレスが多いと、自律神経とホルモンのバランスが乱れてしまい、体の緊張がとれないとされています。
自然な眠りを得るためには、適切なタイミングで交感神経と副交感神経が切り替わる必要があります。
しかしストレス過多の傾向がある方は、自律神経の切り替えがうまくいきません。
また、神経質な方や生真面目な性格の方は、ストレスを強く感じやすい傾向があります。
5-2.加齢
加齢とともに睡眠は変化し、中途覚醒や早朝覚醒が増加します。体内時計は年齢とともに前倒しになる傾向があり、早寝早起きになる方が多いためです。
また、年をとると深いノンレム睡眠が減少します。
眠りにつきにくくなるため質の良い睡眠がとれず、眠りの浅い状態が長時間続くことで、ささいなきっかけで起きやすくなるのです。
高齢者の中途覚醒・早朝覚醒は仕方がない部分もあり、必ずしも悪いわけではありません。
しかし、認知症やレストレスレッグス症候群など高齢者に多い病気が影響している可能性も否めないため、苦痛に感じている場合は医師への相談をおすすめします。
5-3.体の病気
体の病気が原因で不眠症状が出るケースも考えられるでしょう。不眠症状が出やすい病気は「高血圧」「糖尿病」「アレルギー疾患」「呼吸器疾患」などさまざまです。
上記のような病気は、それぞれ対処法が異なり、睡眠不足よりも先に治療に専念しなければなりません。
何らかの疾患が原因で眠れない場合、不眠の他にも付随症状が出ているケースが多い傾向があります。気になる症状がある方は、早めの受診をおすすめします。
6.睡眠を改善する方法
「睡眠不足を解消したいけれど、具体的にどのようにすれば良いのかな?」とお悩みの方も多いでしょう。
眠る時間を十分に確保することも重要ですが、適切な睡眠時間は人や季節によっても異なり、単純に長く眠れば良いわけではありません。
睡眠を改善するためには、時間だけではなく質も高めることが重要です。ここからは、睡眠の質を高めるための対策を説明します。
6-1.生活リズムを整える
睡眠を改善するためには、規則正しい生活を意識しましょう。より良い眠りには、体内時計を正常に整えることが重要です。
休日はつい夜更かしして翌朝起きるのが遅くなりがちですが、就寝・起床時刻はできる限り平日と一定させた方が良いといえます。
睡眠と覚醒のリズムにメリハリがつけば、ぐっすり眠れて十分な休養感が得られ、活動的に動けるようになるでしょう。
また、十分な睡眠が確保できなかったときは、適度に昼寝することが推奨されています。
ただし、日中に寝過ぎると睡眠に悪影響を及ぼすため、30分以内程度の昼寝を午後3時までに行うことをおすすめします。
6-2.起きたらすぐ太陽の光を浴びる
良質な睡眠を得るには、起床後、初めに太陽の光を浴びる習慣をつけましょう。
人の体内時計は24時間より長めの周期になっており、概日リズムを整えるためには起床後に日光を浴びるのが効果的です[11]。
また、体内時計がリセットされてから次の眠気が訪れるまでには15時間〜16時間程度はかかるといわれています。
室内の光では、体内時計のリセットに十分な明るさが得られないことから、朝一番に日光を浴びるのが最も理にかなっているのです。
一方で、夜中に強い光を浴びていると覚醒状態が続き、体内時計にも遅れが生じる可能性があります。そのため、夜になったら、明る過ぎる照明やスマホの使用を控えることをおすすめします。
[11] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
6-3.適度に運動する
ほど良く体を疲れさせるために、定期的な運動を習慣づけましょう。ただし、入眠前の激し過ぎる運動は、睡眠の質を下げてしまいかねません。
必要な運動量は年齢や状態などによって異なりますが、汗ばむ程度の運動が良いでしょう。
運動習慣は、睡眠だけではなく、健康的な体づくりのためにも大切です。気分のリフレッシュにもつながるため、積極的な運動を心掛けましょう。
6-4.飲酒や喫煙は控える
睡眠の質を向上させるなら、飲酒や喫煙はできる限り控えることをおすすめします。
アルコールを摂取すると短期的に強い眠気が襲ってくるため、眠るためには有効だと考える方もいるでしょう。
しかし、アルコールによって寝つきは良くなりますが、明け方目が覚めやすくもなります。
また、タバコに含まれる成分である「ニコチン」には、脳を覚醒させる作用があります。寝る前や途中で目覚めた際にタバコを吸うと不眠の原因になりかねません。
そもそも、過度な飲酒や喫煙は健康を害する要因の一つです。あくまでたしなむ程度にとどめ、習慣的な寝酒や喫煙は控えることをおすすめします。
6-5.寝る前にカフェインを摂らない
寝る前にカフェインが含まれる飲食物をたくさん飲んだり食べたりすると、寝つきが悪くなります。
眠気覚ましにコーヒーを飲む方も多いでしょう。コーヒーを飲むことで眠気が覚めるのは、含有成分であるカフェインの効果によるものです。
また、カフェインには利尿作用もあるため、夜間の中途覚醒を増加させる原因の一つです。
なお、カフェインは、コーヒー以外にも次のような飲料に多く含まれています。
【カフェインを多く含む飲料】
- ココア
- 緑茶
- 紅茶
- 抹茶
- 栄養ドリンク剤
カフェインが多く含まれる飲料を摂取する場合は、朝食時や昼食時、遅くとも夕食前までにするのが良いでしょう。
6-6.自分に合うリラックス方法を見つける
睡眠の質を上げるには、リラックスすることが大切です。
室内の空調・照明や寝具、着る物などに気を配り、落ち着きやすい環境を整えるとともに、自分なりのリラックス法を探してみてください。
例えば、入浴はリラックスできる方法の一つです。入浴の加温効果によって良い睡眠がもたらされます。
0.5度程度の体温上昇で、寝付きへの効果が期待できます。就寝の約2時間前の入浴で深い眠りが得られるでしょう。
また、スムーズな入眠を促すには、無理に寝ようとしないことも大切です。眠ろうと意気込み過ぎると、逆に眠れなくなる場合もあるでしょう。
どうしても眠れないときは、いったん布団から離れるのも一つの手です。しばらく静かに過ごし、眠気が訪れてから布団に入る方が質の良い睡眠がとれるでしょう。
7.睡眠にまつわる症状・病気
「眠っている様子がいつもと違う気がする......」
「寝ているはずなのに疲れがとれない......」
上記のような悩みがある方は、専門の医療機関への受診を検討した方が良いかもしれません。
不眠や休養感の欠如の裏には、睡眠関連の病気が潜んでいる恐れがあります。ここでは、睡眠にまつわるいくつかの症状や病気を確認していきましょう。
7-1.睡眠時無呼吸症候群
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」とは、眠り始めると呼吸が止まる病気の症状です。
特徴として、激しいいびきをかき、息ができない苦しさから夜間に何度も目が覚めることが挙げられます。
原因はさまざまであり、頭蓋骨や扁桃腺などの形状といった先天的な性質の場合がある一方、肥満が睡眠時無呼吸症候群を引き起こしているケースもめずらしくありません。
また、複数の研究結果において、飲酒が睡眠時無呼吸症候群を重症化させることが報告されています。
睡眠時無呼吸症候群になると、血中の酸素濃度が低下することで動脈硬化や心筋梗塞・脳梗塞などの病気にもなりやすい点も深刻な問題です。
高血圧・高血糖・高脂血症など生活習慣病になりやすくなるだけでなく、日中の強い眠気から重大な事故を引き起こす可能性もあります。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、専門の医療機関への早めの受診が大切です[12][13]。
[13]厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠時無呼吸症候群 / SAS」
7-2.レム睡眠行動障害
「レム睡眠行動障害」とは、眠っている最中に見た夢と同じ行動をとってしまう病気です。
通常はレム睡眠時には筋肉が弛緩するため、体が勝手に動くことはありません。
しかし、中枢神経の疾患など何らかの理由でレム睡眠行動障害になると、睡眠中に大声を上げたり激しく動いたりするようになります。
症状がひどい患者は、本人や家族がけがをするような危険な行動をとる可能性があるため、早急な受診と治療が必要です[14]。
7-3.歯ぎしり
「歯ぎしり」とは、上下の歯をすり合わせる「ブラキシズム」の一つです。
起きているときだけではなく、睡眠時や無意識の際にブラキシズムが起こることも少なくありません。
歯ぎしりはストレスや歯並びによって起こるといわれていますが、明確な原因は不明です。
また、自覚症状がなく、診断が難しい場合が多いとされています。
歯に気になる症状があるときは、早めに受診して適切な治療を受けましょう。
8.レム睡眠とノンレム睡眠についてのまとめ
睡眠は夢を見る浅い眠りで体の休養を促すレム睡眠と、4段階に分かれた深い睡眠で大脳を休めるノンレム睡眠の、二つのサイクルで形成されています。
十分な睡眠がとれない場合は、生活習慣病やうつ病のリスクが高まる上、肥満の原因にもなりかねません。
不眠は加齢や病気により引き起こされることもありますが、過度な精神的負荷が原因となる場合も多い傾向があります。
睡眠の質を高めるには、健康的で規則正しい生活を心掛け、寝る直前に眠気を妨げる物質を摂らないよう気をつけましょう。
また、良質な睡眠をとるために自分なりのリラックス方法を見つけることもおすすめです。
ただし、慢性的な不眠症は心身に潜む病気の恐れがあるため、気になる症状があるときは早めに医療機関へ相談してみてください。