「持久力をつけるにはどうしたら良いんだろう?」
「持久力を高めるのに向いているトレーニングや栄養素ってあるのかな?」
持久力をつけたいと思っていても、具体的なトレーニングの仕方や栄養の摂り方をご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
持久力とは体のスタミナや粘り強さのことで、持久力が高いほどエネルギーを効率良く使うことができるようになります。
また、持久力が高い人は、そうでない人と比べて死亡リスクが低いことが分かっています。
さらに持久力をつけることは長距離走や長い距離を泳ぐ水泳はもちろん、サッカーやバスケットボールなど、持久力を要するスポーツのパフォーマンスを上げることにつながります。
この記事ではそんな持久力をつけるためのトレーニングと、必要な栄養素を解説していきます。
1.持久力とは
「持久力って、具体的にはどんな力なんだろう?」
漠然としたイメージは持っていても、持久力が具体的に何を指すのか分からない方もいらっしゃるでしょう。
持久力は「全身持久力」や「心肺持久力」とも呼ばれ、スタミナや粘り強さのことを指します。
持久力には、筋力に関係する「筋持久力」もありますが、この記事では全身持久力について解説していきます。
筋持久力は特定の筋力が持つ力を指すのに対し、全身持久力は体全体の力、いわば全身の総合力を意味します。
筋持久力と全身持久力とではニュアンスが異なるのですね。
次の章では、全身持久力をつけることによるメリットを具体的に紹介していきます。
2.持久力をつけることによるメリット
持久力が高い人は、低い人と比べると死亡リスクが低くなるという研究結果があります。
これは持久力が高い人ほど身体活動量が多く、結果として肥満や糖尿病、「動脈硬化」の予防ができていることが多いと考えられるためです。
また、持久力が高いほどエネルギーを効率良く使うことができるので、疲れにくくなります。
さらに長距離走や長距離の水泳はもちろん、サッカーやバスケットボールなど、持久力を要求されるスポーツのパフォーマンス向上につながります。
3.持久力をつけるのに適した運動
「持久力をつけるにはどんな運動が向いているんだろう?」
結論からいうと、持久力をつけるのに適しているのは「有酸素運動」と呼ばれる運動です。
主な有酸素運動としてはウォーキング、ジョギング、ランニング、サイクリング、水泳などが挙げられます。
では、持久力をつけるにはどの程度の強度の有酸素運動を行う必要があるのでしょうか。
「最大酸素摂取量の50%ほどの強度の有酸素運動」を1日合計30分ほど、約1カ月続けることで持久力は上がるとされています[1]。
とはいえ、これだけでは具体的な運動の強度をイメージしにくいですよね。
最大酸素摂取量と「心拍数」には直接的な関係があるので、心拍数から最大酸素摂取量の50%ほどの強度の運動量を求めることができます。
「最大酸素摂取量の50%ほどの強度の有酸素運動」をしたときの心拍数を出すには、(220−[自分の年齢]−[安静時心拍数(/分)])×0.5(50%)+[安静時心拍数(/分)]という計算式を用います[4]。
例えば20歳で安静時心拍数(/分)が60だった場合、「(220−20−60)×0.5+60=130拍/分」となります。
心拍数と脈拍数はほぼ同じになるので、運動直後に脈拍を測ったとき、1分当たりの脈拍数が求めた値に近ければちょうど良い強度ということになります。
1分当たりの脈拍数は利き手の人さし指、中指、薬指の3本の指で、利き手でない側の手首の内側にある動脈に触れ、10秒間脈拍を数えた後、その値を6倍にすれば分かります[4]。
同じ要領で安静時の脈拍を測れば、安静時心拍数も知ることができます。
最大酸素摂取量の50%ほどの強度の有酸素運動はそれほどきつくはなく、会話をしながらできる程度だとされています。
実施時間についても1日の合計が30分になれば良いので、無理なく続けられる範囲で行うことを心掛けましょう[1]。
3-1.ジョギング
ジョギングは持久力をつけるのに向いている運動の一つです。
持久力をつけるのに向いているのは、最大酸素摂取量の50%ほどの強度の有酸素運動です[5]。
これは話しながらできるレベルのものなので、ジョギングはちょうど良い強度の運動といえます。
運動効果を高めるためにも、まずはジョギングの正しいフォームを確認しましょう。
体の軸が真っすぐになるように意識し、視線は正面に向けます。
このとき軽く前傾姿勢を取ると体重移動がスムーズにできます。
また、首や肩に余計な力が入っているとスムーズに腕が振れません。
疲労の原因にもなるので、上半身はできるだけリラックスさせましょう。
左右の重心のバランスを意識できるとなお良いです。
体の片側だけ疲れたり、痛みが出る場合は左右のバランスが取れていない可能性があります。
走っている最中は背中が丸まっていないか、腰が反り過ぎていないかを確認しましょう。
目線が下がるとフォーム全体が崩れてしまうので、疲れていても前を向くことが重要です。
3-2.サイクリング
サイクリングも持久力を上げるのに適した運動です。
サイクリングは関節に負荷がかかりにくいので、足首や膝、腰などに問題がある方でも気軽に行えます。
場合によっては通勤・通学時にも行えるのがサイクリングの強みです。
また、スポーツジムなどに設置してあるフィットネスバイクを利用すれば、天候を気にせずトレーニングを行えます。
室内で行う場合は交通事故に遭う心配もありませんね。
3-3.水泳
水泳は持久力をつけるだけでなく、全身を鍛えることができる競技です。
水泳は腕の筋肉で水をかき、スピードを高めるために肩や背中の筋肉を使い、脚の筋肉で推進力を生み出すため全身を使います。
また、水中では浮力がはたらくため、体が強い衝撃を受けにくく、けがをしにくいことが分かっています。
同じ理屈で、水中では膝や腰にも負担がかかりにくくなります。
水につかるので、夏の暑い時期などには涼しく運動ができますね。
4.持久力をつけるために必要な栄養素
「持久力をつけるために必要な栄養素って何だろう?」
このような疑問を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
持久力をつけるためには糖質、脂質、ビタミンB1、鉄が必要です。
ここではそれぞれの栄養素の特徴を紹介していきます。
4-1.糖質
糖質は運動をする際のエネルギー源になる栄養素です。
糖質は血液中では「血糖」として、筋肉や肝臓の中では「グリコーゲン」として蓄えられ、運動をしたときに必要な分だけエネルギー源として利用されます。
体内に貯蔵されている糖質は運動をすることで消費されますが、糖質が減少すると運動時のパフォーマンスが低下したり、疲労の原因になったりします。
体内に貯蔵できる糖質はそれほど多くないため、消費した分は補給しなければなりません。
また、糖質はすぐにエネルギーとして利用されるわけではないので、運動する時間から逆算して摂取する必要があります。
運動の開始時間が近づくにつれ、消化吸収が早いものを口にすると良いでしょう。
糖質が多く含まれる食品としては米、パン、麺類、いも類、果物類などがあります。
運動前、運動中は消化吸収が速いスポーツドリンクなどがエネルギー源として有効です。
車の燃料のように、糖分は体を動かすのに必要な栄養素なのですね。
4-2.脂質
持久力を必要とする運動ではいかに脂質からうまくエネルギーを引き出すかが重要です。
多くの方は体重増加にもつながる脂質を、なるべく避けた方が良いと考えているのではないでしょうか。
脂質の摂り過ぎは肥満につながるので注意が必要ですが、不足するとエネルギー不足や体力の低下を招くため、適量を摂取したいところです。
脂質は調理に使う油、牛や豚などの肉、バターやマーガリンなどに多く含まれています。
ヒトの体は糖質や脂質を「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質につくり替え、これを分解することでエネルギーを生み出しています。
このATP(アデノシン三リン酸)をつくっているのが「ミトコンドリア」です。
ミトコンドリアはヒトの細胞の中にあり、トレーニングを行うことで増やすことができます。
ミトコンドリアが増えるということは、脂質をATP(アデノシン三リン酸)に変換する機会が増えるということなので、もう一つのエネルギー源である糖質を節約できます。
そのため、さらなるエネルギー供給が可能になり、疲労耐性がつく、つまり持久力がアップするのです。
脂質をうまく使えば不足しがちな糖質を節約しつつ、エネルギー源にすることができるのですね。
4-3.ビタミンB1
ビタミンB1は運動で多くのエネルギーを消費する方ほど摂取不足に気を付けたい栄養素です。
ビタミンB1には「ブドウ糖」をエネルギーに変換するはたらきがあります。
ビタミンB1が不足すると糖質から十分なエネルギーを生み出せなくなるので、食欲不振、疲労やだるさなどの症状が現れます。
ビタミンB1は摂取し過ぎても多くは尿として排出され、体内にはあまり蓄積しません。
サプリメントなどで意識的に摂取しない限り、過剰摂取の心配はないでしょう。
ビタミンB1は豚肉やうなぎなどに多く含まれています。
糖質をエネルギーに変える役割を担うビタミンB1は、まさに持久力をつけるために必要な栄養素といえますね。
4-4.鉄
鉄は持久力の維持・向上に必要な栄養素です。
鉄は持久力が必要な運動には欠かせない「ヘモグロビン」の材料になります。
持久力を必要とする運動の場合、エネルギーをつくり出すために糖質や脂質が使われます。
このエネルギーを生成する過程には酸素が必要であり、ヘモグロビンが多いほど効率良く酸素を運ぶことができます。
そのため、適量の鉄分を摂取することは持久力をつけることにつながるのですね。
鉄が不足すると貧血になり、体が重い、息が切れる、疲れやすいと感じるようになります。
鉄を摂取し過ぎると、便秘や嘔吐(おうと)などの症状が出ることがありますが、普通の食事で過剰摂取になることはほとんどありません。
ただし、サプリメントなどを服用している場合は注意が必要です。
鉄はレバー、大豆食品、かたくちいわしやあさりなどの魚介類、ひじきや青のりなどの海藻類に多く含まれます。
鉄は糖分や脂肪のように直接エネルギーになるわけではありませんが、持久力をつける上では重要な栄養素といえます。
5.持久力をチェックする方法
「自分の持久力ってどのくらいなんだろう?」
自分の持久力を客観的に判断するのは難しいものですよね。
厚生労働省は「性・年代別の全身持久力の基準」を定めており、この基準を満たすことができると、生活習慣病などの発症リスクが低減する可能性があるとしています。
これは最大酸素摂取量(mL/kg/分)をもとに策定されたものですが、運動との関連性を分かりやすく示すために「メッツ」という単位も使われています。
【性・年代別の全身持久力の基準】
年齢 | 18〜39歳 | 40〜59歳 | 60〜69歳 |
---|---|---|---|
男性 | 11.0メッツ(39mL/kg/分) | 10.0メッツ(35mL/kg/分) | 9.0メッツ(32mL/kg/分) |
女性 | 9.5メッツ(33mL/kg/分) | 8.5メッツ(30mL/kg/分) | 7.5メッツ(26mL/kg/分) |
厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」をもとに執筆者作成
この表に示された強度の運動を3分以上続けることができた場合、基準を満たしていることになります[7]。
以下の表に基準を満たすジョギングとランニングのメッツをまとめました。
【ジョギング・ランニングのメッツ】
有酸素運動 | メッツ |
---|---|
ランニング(分速187.7m) | 11.0 |
ランニング(分速160.9m) | 9.8 |
ランニング(分速139.4m) | 9.0 |
ジョギング | 7.0 |
国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表 」をもとに執筆者作成
例えば20代の男性の場合、11.0メッツ(分速187.7m)のランニングを3分間行えば良いので、3分で560mほどを完走すれば良いことになります。
また、自治体などが実施している体力測定を受けることでも、自分の持久力を知ることができます。
自分の体力を把握することは健康の維持・増進につながります。
ぜひ、定期的に計測の機会を設けてみてください。
6.持久力についてのまとめ
持久力とは「全身持久力」や「心肺持久力」とも呼ばれ、スタミナや粘り強さのことを指します。
持久力が高い人は疲れにくい上、持久力が低い人と比べると死亡リスクが低くなるという研究結果もあります。
「最大酸素摂取量の50%ほどの強度の有酸素運動」を1日合計30分ほど、約1カ月続けることができれば、持久力は上がります[8]。
これは話しながら行える強度の運動であり、1日の合計が30分になれば良いとされています[8]。
そのため、無理のない範囲で続けることが重要です。
持久力をつけるのに適した運動にはジョギング、サイクリング、水泳などがあります。
持久力をつけるのに必要な栄養素は糖質、脂質、ビタミンB1、鉄などです。
自分の持久力を知るには、厚生労働省が定めた「性・年代別の全身持久力の基準」を満たしているかチェックするか、自治体などが実施している体力測定に参加すると良いでしょう。
この記事を参考に持久力をつけ、健康の維持・増進に役立ててください。