「有酸素運動ってどんな運動?」
「ダイエットには有酸素運動がいいっていうけど、本当なのかな……。」
有酸素運動という言葉は聞いたことがあっても、実際にはどんな運動が有酸素運動に当たるのか、どのような効果があるのかということについてはあまり詳しく知らないという方もいらっしゃるかもしれません。
有酸素運動とはその名の通り筋肉を動かすのに酸素を必要とする運動のことで、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどが該当します。
そのため酸素とともに体内の糖質や脂質をエネルギー源として使うため、脂肪燃焼や生活習慣病の予防・改善などの効果が期待できるといわれています。
この記事では、有酸素運動に期待できる効果などについて解説する他、おすすめの有酸素運動をご紹介します。
1.有酸素運動の定義と無酸素運動との違い
「そもそも有酸素運動ってどういう運動のことなのかな?」
有酸素運動は、ダイエットや健康な体づくりに役立つ運動というイメージがありますよね。
しかし、なぜ有酸素運動と呼ばれているのか、どんな運動が有酸素運動に該当するのかということを疑問に思ったことのある方は多くいらっしゃるかもしれません。
ここでは、有酸素運動の定義などについて詳しく解説します。
1-1.有酸素運動の定義について
有酸素運動とは、筋肉への負荷が比較的軽く、長時間継続して行える運動のことを指します。
負荷の比較的軽い運動は筋肉を動かす際、エネルギーとして体内の血糖や脂肪と共に酸素が使われるため、有酸素運動と呼ばれるのです。
有酸素運動が行われているとき、体内で何が起こっているのか簡単にご説明しましょう。
体を動かす際には筋肉の収縮させるためのエネルギーとして「アデノシン三リン酸(ATP)」という物質が必要になります。
有酸素運動を行う際、ATPの材料となるのは体内に蓄えられている「糖質(グリコーゲン)」と体脂肪です。
食事で摂取したエネルギー源のうち、糖質は肝臓や骨格筋に貯蔵され、余った分は中性脂肪として体内に蓄えられています。
運動を始めるとまず肝臓や骨格筋に貯蔵された糖質が二酸化炭素と水に分解され、その過程で産生されたATPが筋肉を動かすエネルギー源として使われます。
しかし体内に蓄えられるグリコーゲンの量には限界があり、長く運動を続けるには他のエネルギー源が必要になります。
そこで体脂肪が新たなエネルギー源として使われることになりますが、体脂肪を分解する際には多量の酸素が使われます。
有酸素運動に該当する運動としては、ウォーキングやジョギング、サイクリング、エアロビクスダンス、水泳などが挙げられます。
1-2.無酸素運動との違いとは
有酸素運動とは異なり、筋肉を動かすエネルギーを作り出す際に酸素を使わないのが無酸素運動です。
無酸素運動は瞬発的に筋力を発揮する強度の大きい運動、例えば短距離走やバーベルなどを用いた筋トレなどが該当します。
有酸素運動では主に脂肪を分解してエネルギー(ATP)をつくり出しているのに対して、無酸素運動のエネルギー源は糖質です。
しかし、糖質は枯渇するのが早いため、強度の大きい無酸素運動を継続できるのは非常に短い時間であるといわれています。
つまり、有酸素運動と無酸素運動では、使われるエネルギー源の違いや行える運動の強度、運動し続けられる時間などの違いがあるということになるのですね。
2.有酸素運動に期待できる4つの効果
「有酸素運動にはどんな効果があるの?」
このように気になっている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、有酸素運動の効果について解説します。
2-1.脂肪を燃焼する効果
有酸素運動は、筋肉を動かすエネルギー源の一つとして体に蓄えられた脂肪、つまり体脂肪を使います。
このことから有酸素運動は体脂肪を減少させ、その分体重を減らす効果もあるといえるでしょう。
つまり、有酸素運動にはダイエット効果も期待できるのです。
また、有酸素運動によって内臓脂肪を減少させることは「メタボリックシンドローム」の改善にも役立つとされています。
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積と高血圧、高血糖、脂質代謝異常が組み合わさることで、心臓病や脳卒中を起こしやすい状態です。
内臓脂肪を減少させメタボリックシンドロームの状態から脱することで、動脈硬化を抑制し心臓病や脳卒中の発症リスクを低減させることができると考えられています。
そのため有酸素運動を行うことで、ダイエットだけではなく病気の予防につなげることもできるのですね。
目的をもって有酸素運動を行うためにも、毎日行いやすいウォーキングはおすすめですよ。
[1] 国立保健医療科学院「効果的な保健指導のポイント」
2-2.心肺機能を向上させる効果
有酸素運動には心肺機能を高める効果があります。
心肺機能が高まると運動を長く続ける能力、つまり全身持久力が向上します。
有酸素運動により肺や心臓のはたらきが強化されると、心臓から送り出される血液の量が増加し、「毛細血管」が発達します。
血液には全身に酸素を運ぶ役割があるため、毛細血管が発達することで体の隅々まで酸素を送れるようになります。
その結果、体が酸素を有効活用できるようになり、長時間運動するためのエネルギーを供給することが可能となるのです。
有酸素運動で心肺機能を高めることは、身体活動量の増加を促し生活習慣病の予防にも役立つと考えられています。
2-3.生活習慣病の予防・改善
生活習慣と深い関わりのある生活習慣病の予防や改善のためにも有酸素運動が有効です。
特に糖尿病や高血圧、脂質異常症の治療においては食事療法に加え、運動療法も重要です。
これらの病気の治療の一環として運動を行う場合、有酸素運動を定期的に行うことが推奨されています。
糖尿病の方が有酸素運動を行うことで体脂肪が減少すると、血糖値を下げる作用を持つ「インスリン」というホルモンの効きが良くなり血糖値が改善します。
また、有酸素運動には血管の弾力性などを改善し血圧を低下させたり、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させることで脂質代謝異常を改善したりする作用が期待されています。
有酸素運動は脂肪の燃焼に役立つ他、生活習慣病の予防や改善にも役立つのですね。
生活習慣病はこちらの記事で解説しています
2-4.骨粗しょう症の予防効果
ウォーキングやジョギングのような有酸素運動は、骨粗しょう症の予防に効果的であるといわれています。
骨粗しょう症の予防には、骨を形成するカルシウムやマグネシウム、カルシウムの吸収に関わるビタミンDなどの栄養素をバランスよく摂取することの他、骨に負荷の加わる運動が必要です。
ウォーキングやジョギング、エアロビクスなどの有酸素運動や筋トレなどは、適度に骨に刺激を与えるため、骨粗しょう症の予防につながります。
3.おすすめの有酸素運動を6つご紹介
「有酸素運動ってウォーキング以外に何があるんだろう……」
有酸素運動の代表格といえばウォーキングやジョギング、水泳ですが、他にも有酸素運動に該当するものがあります。
ここでは、おすすめの有酸素運動をご紹介しますので、有酸素運動に取り組む際の参考にしてみてくださいね。
3-1.手軽に始められるウォーキング
手軽に始められる有酸素運動としておすすめなのが、ウォーキングです。
ウォーキングはジョギングと比べても体への負荷が少なく、多くの方が実践しやすい有酸素運動であるといえるでしょう。
また、特別な器具や場所を必要としない点もメリットの一つですよね。
一人で歩くのはつまらないという方は、家族や友人と一緒に歩いたりウォーキングイベントなどに参加したりするのも良いでしょう。
3-2.緩やかなペースで走るジョギング
ウォーキングでは物足りないという場合は、ジョギングにチャレンジしてみましょう。
「走る」運動といえばジョギングやランニングがありますが、より緩やかなペースで走るのがジョギングです。
しかしゆっくり走るとはいえ、ジョギングでは両足が地面から離れることがある分、膝や腰、足への負担がウォーキングより大きくなります。
そのため、専用のシューズを履くのがおすすめです。
そのため自分の足のサイズや足型にフィットしたクッション性の高いシューズを選ぶことで、足腰への負担を軽減できますよ。
健康的に走るためポイントについて
3-3.屋内でもできる踏み台昇降運動
屋内でも取り組める運動が、踏み台昇降運動です。
踏み台昇降運動は、高さのある台を1歩ずつ昇ったり降りたりするという動作を繰り返す運動で、台になるものさえあれば場所を選ばずに体を動かすことができます。
とてもシンプルな運動ですがウォーキングよりもやや強度が高く、下半身の筋力をアップする効果も期待できます。
踏み台昇降運動は、台の高さを調整したり昇り降りの速さを変えたりすることで運動強度の調整が可能です。
初めは低い台で、ゆっくりしたテンポからはじめるようにしてみましょう。
3-4.音に合わせてエアロビクスダンス
音楽に合わせて楽しく有酸素運動をしたいという方には、エアロビクスダンスが効果的でしょう。
そもそも「エアロビクス」とは有酸素運動のことで、有酸素運動にダンスの要素を取り入れたものが「エアロビクスダンス」です。
エアロビクスダンスは比較的運動強度の高い有酸素運動ですが、自宅でもDVDや動画を参考にしながら気軽に行えます。
また、専門家にきちんと教わりたいという方は、スポーツジムのレッスンや自治体主催の教室などに参加するのがおすすめです。
3-5.サイクリング・フィットネスバイク
ある程度の時間自転車をこぎ続ける、サイクリングも有酸素運動に該当します。
フィットネスバイクはスポーツジムなどに設置されている自転車をこぐような運動を行う器具で、サイクリングと同様の効果をもたらすと考えられます。
アウトドアスポーツとして楽しむならサイクリングがおすすめですが、天候を気にせず屋内でも行いたいならフィットネスバイクが適しているでしょう。
フィットネスバイクはスポーツジムを利用することで使えますが、自宅用の物も販売されています。
自宅の室内でなら隙間時間やテレビを見ながら気軽に運動できますよ。
3-6.水泳・水中ウォーキング
運動による膝や腰への負担が気になるという方は、水中での運動がおすすめです。
水中運動は水の浮力や抵抗により、関節への負担がかかりにくかったり転倒しにくくなったりするため、幅広い年代で安心して行える有酸素運動です[2]。
また、水中での動きを通常と変えることで運動の強度を調節することもできます。
有酸素運動の効果を高めるには、全身を使ってゆっくり歩いたり泳いだりすることがポイントです。
[2] 厚生労働省e-ヘルスネット「アクアエクササイズ」
4.有酸素運動を行う時間や強度の目安
「どのくらい有酸素運動をやったら脂肪が燃焼できるのかな?」
ある程度の時間やらなければ効果は出ないと予想はできますが、具体的にはどのくらい行えば良いのか知りたいところですよね。
体脂肪、特に内臓脂肪を減少させるための有酸素運動の目安は「週に10エクササイズ」以上が推奨されています[3]。
主な有酸素運動のメッツは以下の通りです。
【主な有酸素運動のメッツ】
有酸素運動 | メッツ |
---|---|
水中歩行(ゆっくり) | 2.5 |
散歩・犬の散歩 | 3.0 |
歩行(通勤・通学) | 4.0 |
水中歩行(ほどほどの速さ) | 4.5 |
エアロビクスダンス(弱い強度) | 5.0 |
ジョギングと歩行の組み合わせ(ジョギングは10分未満) | 6.0 |
自転車でゆっくり走る(時速16.1~19.2km ) | 6.8 |
ジョギング | 7.0 |
エアロビクスダンス(一般~強い強度) | 7.3 |
独立行政法人 国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表」をもとに執筆者作成
例えば、通勤・通学での歩行(4.0メッツ)を片道15分(往復30分:0.5時間)、週5日行う場合の身体活動量(エクササイズ)は以下のような計算式で求められます。
4.0(メッツ)×0.5(時間)×5(日)=10エクササイズ
通勤・通学を利用して15分ほど定期的に歩くことでも、内臓脂肪減少につながるのですね。
また、糖尿病や高血圧、脂質異常症の改善のためにも有酸素運動が推奨されています。
糖尿病の場合、少なくとも週3~5回、「ややきつい」と感じる中等度の強さの運動を各20~60分、計150分以上行うことが病状の改善に有効です[4]。
高血圧や脂質異常症では、中等度の強さの有酸素運動を概ね1日あたり30分以上行うことが勧められています[5][6]。
しかし、いきなり「ややきつい」と感じる運動を行うのは体への負担が大きいばかりか、中断してしまう可能性もあるでしょう。
そのため、日常生活の中で少しずつ体を動かす機会を増やしていくなど、無理のない運動から始めるようにしてみてくださいね。
[3] 厚生労働省e-ヘルスネット「内臓脂肪減少のための運動」
[4] 厚生労働省e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」
[5] 厚生労働省e-ヘルスネット「高血圧を改善するための運動」
[6] 厚生労働省e-ヘルスネット「脂質異常症を改善するための運動」
5.有酸素運動について まとめ
有酸素運動は、筋肉を動かすエネルギー源として糖質や脂質および酸素を使う運動のことです。
筋肉への負荷は比較的軽く、長時間継続できるウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳などが有酸素運動に該当します。
長時間運動を続けるためにはエネルギー源として体内の脂肪が必要であることから、有酸素運動には脂肪燃焼の効果が期待できます。
また、有酸素運動は生活習慣病の予防や改善、心肺機能の向上など、私たちにとって良い影響をもたらしてくれます。
毎日行うことができなくても、まずは始めてみることが大切です。
この記事を参考に、ライフスタイルに合った取り組みやすい有酸素運動を見つけて、健康に役立ててみてくださいね。
この記事の監修者
あおき内科さいたま糖尿病クリニック
院長
【経歴】
自治医科大学付属さいたま医療センター内分泌代謝科を経て 2015 年に開設。糖尿病、高血圧、高脂血症、生活習慣病が専門。糖尿病患者の治療に食事術を取り入れインスリン脱悦や薬を使わない治療に成功するなど成果を挙げている。自身も 40 歳のときに舌がんを患うも完治。食事療法を実践して再発を防いでいる。著書「空腹こそ最強のクスリ」(アスコム刊)は40万部超えのベストセラー。近年では、「ファーストファスティングー青木式 16 時間断食ー」の監修に携わり、宿泊しながら気軽にファスティングを体験できるホテル・ファーストキャビン HD の専属顧問に 2021 年から就任。また、エステプロ・ラボでも医学顧問を務めている。
【出演番組等】
日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」、中京テレビ「それって!?実際どうなの課」、テレビ朝日「林修のレッスン!今でしょ」、フジテレビ「めざましテレビ」、「ポップUP!」、テレビ東京「なないろ日和!」など出演多数。ほかにも番組の医療監修なども日々行っている。
【クリニックのHP・SNS情報】
»あおき内科さいたま糖尿病クリニック
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【執筆論文情報】
»Association of serum osteoprotegerin with vascular calcification in patients with type 2 diabetes, Cardiovascular Diabetology
2013 Jan 9;12:11.
»Prompt increases in retinol-binding protein 4 and endothelial progenitor cells during acute exercise load in diabetic subjects, Endocrine Journal 2012, 59 (12), 1085-1091