「なぜ食後に眠気を感じるんだろう?」
「血糖値の変化で眠気が生じるって本当なのかな……」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
食後の眠気は、食事によって血糖値が大きく変動した場合や、高血糖の場合に生じることがあります。
食生活の工夫や運動習慣などによって食後に眠くなりにくくなるようにすることが期待できます。
血糖値を適正に保つことは、眠気を軽減できるだけでなく健康を維持する上でも重要です。
この記事では血糖値が変動するメカニズムや、食後の眠気対策ポイントを詳しく解説します。
ぜひ参考にしてくださいね。
1.血糖値とは
血糖値は血中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。
私たちが食事から摂取した炭水化物などの糖質は消化・吸収されてブドウ糖になります。
体内に吸収されて血液中にあるブドウ糖のことを血糖と呼びます。
血糖値は食事によって上昇し、時間が経過し空腹になると低下します。
食事前後での血糖値の変化は健康な人にも起こる自然なことです。
血糖値は低過ぎても高過ぎてもさまざまな病気を招く恐れがあるため、体内ではホルモンのはたらきによって一定の範囲に保たれています。
血糖値は「インスリン」や「グルカゴン」などのホルモンによって調整されています。
血糖値が上昇すると、膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌されます。
インスリンのはたらきによってブドウ糖が細胞に取り込まれ、生きていく上で必要なエネルギーとして利用されます。
また余分なブドウ糖はグリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられます。
これらのはたらきによって血糖値が下がります。
一方、空腹で血糖値が低下すると膵臓からグルカゴンが分泌されます。
グルカゴンのはたらきによって、蓄えられたグリコーゲンがブドウ糖に分解されます。
このはたらきによって血糖値が上がります。
このように血糖値はこれらのホルモンのはたらきによって、正常に保たれているのです。
2.血糖値と眠気の関係
「血糖値と眠気ってどういう関係があるの?」
と気になっている方もいらっしゃるでしょう。
食後の眠気は、血糖値の変動が大きかったり高血糖状態になったりすると引き起こされることがあります。
この章では血糖値によって眠気が生じる原因について詳しく解説します。
2-1.血糖値スパイクによる眠気
「血糖値スパイク」が起こると眠気が生じることがあります。
食事をたくさん食べて血糖値が急激に上昇すると、インスリンが過剰に分泌され血糖値の急低下を招きます。
このように血糖値が急上昇、急低下する状態を血糖値スパイクといいます。
血糖値が急激に低下し低血糖に近づくと、脳に供給されるブドウ糖が不足し眠気やだるさが現れるといわれています。
ご飯をおなかいっぱいに食べた後に眠気を感じる場合には、血糖値スパイクが起こっている可能性があるのですね。
血糖値スパイクは眠気を生じさせるだけでなく、インスリンを分泌する膵臓にも大きな負担をかけます。
血糖値スパイクが長期間にわたって繰り返されると膵臓が疲弊し、インスリンが分泌されにくくなり「糖尿病」を発症する恐れがあります。
また血糖値スパイクを繰り返すと血管が傷ついて動脈硬化が起こり、心臓病や脳卒中などの深刻な病気のリスクも高まります。
しかし血糖値スパイクは食後数時間で解消されるため、通常の健康診断で発見することは難しいといわれています。
血糖値スパイクを起こさないためには、食後の血糖値を急激に上げ過ぎないよう取り組むことが重要です。
2-2.高血糖による眠気
高血糖の状態では、眠気を生じることがあります。
高血糖状態では覚醒を促す「オレキシン」という神経伝達物質の分泌が止まるといわれています。
このため食後に血糖値が上がり、オレキシンの分泌が抑制されると眠気が生じやすくなります。
糖尿病や糖尿病予備軍の方はインスリンのはたらきが悪く、高血糖状態が長く続きます。
健康な人に比べてオレキシンが分泌されない時間が長いため、眠気が生じやすいといわれています。
3.食後に生じる眠気の対策ポイント
食後の眠気を防ぐには、血糖値の変動を緩やかにし安定させることが重要です。
規則正しい食生活や、食べる順番を工夫するなどによって血糖値を安定させることができます。
この章では食後に生じる眠気の対策ポイントを詳しく解説します。
ポイント1 食事を規則正しく摂る
食後の血糖値の急上昇を抑えるためには、規則正しい食生活を送ることが重要です。
仕事や学校で忙しく、食事を抜いているという方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし欠食などによって空腹の時間が長くなると血糖値スパイクを起こしやすいといわれています。
欠食によって空腹状態が続くと、体は不足した糖質をより効率的に吸収しようとするため、食後の血糖値が急上昇します。
また食事回数が減少して一度に食べる量が多くなることでも、血糖値が高まりやすくなります。
特に朝食の欠食は、昼食後や夕食後の血糖値を急激に上昇させます。
血糖値を安定させるためには、規則正しく1日3食しっかり食べるようにしましょう[1]。
また欠食をすると太りやすい体になることも分かっています。
欠食によって空腹状態が続くと、食事からのエネルギーを体脂肪として蓄えやすい体質になります。
血糖値スパイクを予防し、健康的な体型を維持するためには、規則正しい食事を心掛けてくださいね。
[1] 国立成育医療研究センター「 スマイルガイド食事編」
ポイント2 食物繊維の多い食品から食べる
血糖値の上昇を抑えるためには食物繊維を多く含む食品から食べることも重要です。
食物繊維は食後の糖質の吸収を緩やかにし、血糖値の急激な上昇を抑えるはたらきがあります。
そのため食物繊維を含む食品を、糖質よりも先に食べると食後の血糖値が上昇しにくくなります。
時間がないときに、おにぎりやパンなどの糖質のみで食事を済ませているという方もいらっしゃるでしょう。
しかし糖質のみの食事では血糖値が上がりやすくなります。
食後の血糖値を上げないためには食物繊維が豊富な食品を最初に食べ、次に肉や魚などのおかず、最後に糖質を食べるようにしてくださいね。
食物繊維を豊富に含む食品にはいも類、きのこ類、海藻類、野菜類などがあります。
効率良く食物繊維を摂取するためには、主食を玄米ごはんや麦ごはんなどに置き換えることもおすすめです。
ポイント3 早食いや食べ過ぎを避ける
食後の血糖値の急上昇を防ぐためには、早食いや食べ過ぎを避けましょう。
食べるスピードが速かったり食べ過ぎたりすると血糖値が上昇しやすくなります。
血糖値が急上昇するとインスリンが大量に必要になり、膵臓には大きな負担がかかります。
その結果インスリンの分泌量が減ったりはたらきが悪くなったりして、血糖値がコントロールされにくくなってしまいます。
早食いを防ぐためには、よく噛んで食べることがポイントです。
厚生労働省では1口30回噛むことが推奨されています[2]。
ゆっくりとよく噛んで食べることは肥満予防にも効果があるといわれていますよ。
また、食事を摂る際には腹八分を目安に食べることを心掛けましょう。
砂糖の入った飲み物の摂り過ぎも避けるようにしてくださいね。
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「 速食いと肥満の関係 -食べ物をよく「噛むこと」「噛めること」」
ポイント4 適度に間食を取り入れる
食後の血糖値の上昇を防ぐには、適度に間食を取り入れましょう。
日々の生活では、昼食と夕食の間が開き過ぎてしまう場合もあるのではないでしょうか。
食事と食事の間隔が開き過ぎて空腹になると、食後の血糖値を急激に上げることにつながります。
食事と食事の間隔は4〜5時間が理想的です[3]。
食事の間隔が開く場合には上手に間食を取り入れるようにしましょう。
間食として摂る食べ物は糖質が多いお菓子よりも、たんぱく質や脂質を含む食品がおすすめです。
ゆで卵や無塩のナッツ類、ヨーグルト、フルーツなどを選ぶようにしてくださいね。
ただし間食を頻繁に摂ってしまうと肥満につながる恐れがあるため、1日200kcal程度を目安に摂るようにしましょう[4]。
[3] 農林水産省「 子どもの食育」
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「 間食のエネルギー(カロリー)」
ポイント5 食後に運動を行う
食後の運動も血糖値の上昇を抑えるのに有効です。
運動によって筋肉への血流が増加すると、筋肉を動かすエネルギーとして血糖が消費され、血糖値が下がります。
また継続的な運動によって筋肉量が増えると、インスリンがはたらきやすくなり筋肉への糖の取り込みが増えるため血糖値が下がります。
特に食後の高血糖状態を改善するためには、食後1時間後に運動を行うと良いといわれています[5]。
血糖値の上昇を抑えるためには「有酸素運動」や「レジスタンス運動」がおすすめです。
有酸素運動にはジョギングやウォーキング、水泳などがあり、レジスタンス運動にはスクワットや腕立て伏せなどがあります。
運動時間を確保することが難しい方は、日常生活のなかで運動量を増やすよう心掛けると良いでしょう。
普段エスカレーターやエレベーターを使用している方は、階段を使うなどの工夫することで運動量を増やすことができますよ。
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「 糖尿病を改善するための運動」
ポイント6 睡眠を十分にとる
血糖値の上昇を抑えるには、十分な睡眠をとることが重要です。
睡眠不足や「体内時計」の乱れは、血糖値の上昇を招きます。
ヒトの体では体内時計によって、体温や「代謝」などのさまざまな機能が約1日の周期で調整されています[6]。
短時間睡眠や夜更かしなどで体内時計が乱れると、糖の代謝に異常が生じ空腹時血糖値や食後血糖値が上昇すると分かっています。
また寝不足が続くと、食欲に関係するホルモンである「グレリン」や「レプチン」などの分泌にも影響を及ぼします。
寝不足ではレプチンの分泌が減少し、グレリンの分泌が高進するため食欲が増大します。
慢性的な寝不足状態にある人は、糖の代謝異常や食欲増大などが起こり、糖尿病などを発症しやすいため十分な睡眠をとることが重要です。
血糖値を安定させるためには、規則正しい生活で睡眠不足を解消できるようにしてくださいね。
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「 睡眠・覚醒リズム障害」
4.血糖値と眠気についてのまとめ
血糖値は血中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。
血糖値は健康な方でも食事によって高まり、時間が経過し空腹になると低下します。
血糖値は低過ぎても高過ぎても健康に悪い影響を与えるため、体内ではインスリンやグルカゴンなどのホルモンのはたらきによって正常範囲に保たれています。
食後の眠気は、血糖値が大きく変動した状態である血糖値スパイクが生じた場合や、高血糖の状態で起こりやすいといわれています。
血糖値スパイクを繰り返すと、膵臓に負担がかかり糖尿病を発症する恐れがある他、動脈硬化を引き起こし心臓病や脳卒中のリスクが高まります。
血糖値の変動を緩やかにすることや高血糖を防ぐことは、食後の眠気対策になるだけでなく健康を維持する上でも重要なのですね。
食事による血糖値の上昇を抑えるためには、欠食しない、食物繊維を先に食べる、ゆっくりよく噛んで食べる、腹八分にとどめることが有効です。
また食事と食事の間隔が開き過ぎる場合には、適度に間食を取り入れると良いでしょう。
食後に有酸素運動や筋トレなどを行うことで、糖の消費を促すことができます。
継続的な運動で筋肉量が増えると、インスリンがはたらきやすくなり筋肉への糖の取り込みが増えるため、血糖値を下げるのに効果的です。
その他にも、睡眠不足は空腹時血糖や食後高血糖を招く恐れがあるため、日頃から睡眠を十分にとることが重要です。
この記事を参考に、食事や運動などの生活習慣を見直し、血糖値を原因とする眠気を防いでくださいね。