「ぐっすり眠れないけれど、どうしたら良いんだろう?」
このようなお悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
厚生労働省が行った調査に答えた方のうち、約20%は「睡眠の質に満足できていない」と感じています[1]。
ぐっすり眠るには規則正しい生活を心掛けたり、自分に合った寝具を選んだりすることが重要です。
また運動や入浴のタイミングを調整するだけでも、寝付きが良くなるとされています。
逆に就寝前の飲酒や喫煙、スマートフォンの操作などは睡眠の質を下げてしまうので注意が必要です。
この記事では普段の生活に取り入れられる快眠のためのポイントをご紹介します。
適切な睡眠時間の目安や日本人の睡眠時間の実態についても解説しているので、ぜひ参考にしてくださいね。
[1] 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」
1.快眠とは
気持ち良くぐっすり眠ることを「快眠」といいますが、そもそも快眠とはどのようなものを指すのでしょうか。
実は睡眠の研究が進んだ現代においても、睡眠の質を客観的に評価するのは難しいとされています。
その上で厚生労働省は健康的な生活という観点から質の良い睡眠(快眠)を評価する指標を示しています。
具体的には以下のような条件が満たされていれば質の良い睡眠をとれているといえるでしょう。
【質の良い睡眠とは】
- 規則的な睡眠と覚醒のサイクルが確保されていること
- 必要な睡眠時間が確保され、日中に眠気や居眠りが生じないこと
- 睡眠の安定性が確保されていること
- 睡眠と覚醒のサイクルと生活サイクルとが合っていること
- 寝付きが良好であること
- 寝起きが良好であること
- 日中に過度の疲労感がなく、自分の睡眠に満足が得られていること
「ぐっすり眠れている」という満足感があれば、それで良いということですね。
では、ぐっすり眠れるとどのような良いことがあるのでしょうか。
まず質の良い睡眠は疲労回復につながります。
睡眠の質が良ければ、眠気による注意力や生産効率の低下を防ぐこともできるでしょう。
睡眠不足は重大な事故やヒューマンエラーを招く恐れもあるため、良質な睡眠をとることは極めて重要です。
しっかり眠ることは心の健康を維持するのにも役立ちます。
「睡眠障害」は多くの精神疾患において最もよく生じる症状といわれています。
実際、うつ病患者のうち、9割近い方が何らかの睡眠障害を患っているとされています[2]。
また長期にわたり不眠が続いている方はうつ病にかかりやすくなることも知られています。
明確な精神疾患でなくとも、しっかり眠れていない場合は集中力や意欲が低下してしまいます。
さらに睡眠不足や不眠を解消することは、生活習慣病を予防することにもつながります。
特に寝ている間に息が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」は高血圧や糖尿病のリスクを高めるため注意が必要です。
質の良い睡眠は体のさまざまな不調を解決してくれるのですね。
[2] 厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014」
【関連情報】 「睡眠は時間だけでなく質も重要!ぐっすり眠るための7つの秘訣とは?」についての記事はこちら
2.快眠のための生活のポイント
「快眠のためにはどんなことに気を付ければ良いのかな?」
ちょっとした工夫をするだけでも、眠りの質を向上させることができます。
この章では生活に取り入れられる快眠のためのポイントを七つご紹介します。
ポイント1 規則正しい生活を心掛ける
快眠のためには規則正しい生活を心掛けることが重要です。
いくら他のポイントを押さえても、寝床に入る時間が毎日違っていると快眠は望めません。
規則正しい生活が重要な理由は「体内時計」にあります。
前もって体内の活動を調整し、眠りに備えることも体内時計が持つ重要な役割の一つです。
しかしこういったはたらきは自分の意思でコントロールすることができません。
食事や運動、仕事などの日常生活のさまざまな刺激が体内時計の周期と地球の自転周期の約1時間のずれを修正しています。
このため規則正しい生活を送ることが、体内時計の周期の調整と快眠につながるといえるでしょう。
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠・覚醒リズム障害」
ポイント2 起床後に光を浴びる
快眠のための二つめのポイントは起床後に光を浴びることです。
ヒトの体内時計の周期は約25時間とされています[4]。
そのため、この誤差を修正できないと少しずつ生活リズムがずれてしまいます。
実際、隔離された環境下で時刻と関係なく生活すると、就寝時刻と起床時刻が1日ごとに約1時間ずつずれていくことが分かっています[4]。
体内時計をリセットするには、朝に光を浴びることが最も効果的です。
起床したらできるだけ光を浴びるようにしましょう。
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠・覚醒リズム障害」
ポイント3 就寝前はスマホやパソコンの使用を控える
快眠には就寝前のスマホやパソコンの使用を控えましょう。
スマホやパソコンの光には「ブルーライト」が多く含まれています。
ブルーライトとは波長が380〜500m(ナノメートル)の青色の光のことで、ヒトが見ることができるなかでも特に強いエネルギーを持っています[5]。
網膜がブルーライトの刺激を受けると脳が朝だと誤認して覚醒してしまいます。
このため体内時計が乱れ、寝付きが悪くなったり眠りが浅くなったりします。
暇つぶしのつもりでも、眠れないときにスマホやパソコンを眺めるのは控えた方が良いでしょう。
[5] ブルーライト研究会「ブルーライトとは」
ポイント4 自分に合った寝具を選ぶ
自分に合った寝具を選ぶことも快眠のためのポイントの一つです。
寝具には寝ている間の保温と、体への負担が少ない姿勢の維持という二つの役割があります。
就寝中、ヒトは深い眠りを保つために体温を下げます。
そのため、寝具には保温性に優れたものを選ぶと良いでしょう。
また眠りが深くなると放熱が盛んになり発汗を伴う場合もあるため、吸湿性や放湿性が良いことも寝具を選ぶ際のポイントです。
冬場の寒い時期にはあらかじめ寝具を温めておくと寝付きが良くなりますよ。
マットレスや敷布団は適度な硬さのあるものがおすすめです。
自然に立ったとき、ヒトの背骨は後頭部から腰にかけて二つのS字カーブを描くようにできています。
マットレスや敷布団が柔らか過ぎると後頭部から下が深く沈み込んでしまい、眠りにくくなるだけでなく腰痛の原因にもなります。
逆に硬過ぎると痛みを感じたり、血流が妨げられたりして熟睡できなくなるため注意が必要です。
ポイント5 適度な運動を心掛ける
睡眠の質を高めるには運動習慣を持つことも重要です。
習慣的に運動をしている方ほど寝付きが良く、深い眠りにつけることが分かっています。
ただし、激しい運動はかえって睡眠を妨げることがあるので注意してください。
睡眠の質を上げるには、負担が少なく長続きしやすい「有酸素運動」を行うと良いでしょう。
より睡眠の質を高めたいという方は、寝床に就く3時間ほど前に運動するようにしましょう[5]。
運動をすると体温と共に脳の温度も一時的に上がります。
就寝3時間前のタイミングで体を動かすと、運動をしなかった場合よりも就寝時の脳の温度の低下量が大きくなります。
眠気は脳の温度が下がったときに現れやすいため、より質の高い睡眠が期待できるのです。
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
ポイント6 入浴するタイミングを工夫する
入浴するタイミングを工夫することで快眠をとりやすくなります。
入浴には運動と同様に体温を上げる効果があり、体温と共に脳の温度も上がります。
このため就寝する2〜3時間前に入浴すると、就寝時の脳の温度の低下量が大きくなり、入眠しやすくなるのです[6]。
眠りを深くする場合は就寝直前に入浴するのが良いとされますが、そうすると寝付きが悪くなる可能性があります。
寝付きを優先する場合は少し時間を空けた方が良いでしょう。
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
ポイント7 就寝前の喫煙、飲酒は控える
就寝前の喫煙、飲酒は睡眠の質を下げることがあるため、なるべく控えましょう。
アルコールには寝付きを良くする作用があるものの、明け方の眠りを妨げるため、結果として睡眠の質は下がります。
またタバコに含まれるニコチンは刺激剤として作用し、寝付きを悪くします。
コーヒーや緑茶、チョコレートなどに含まれるカフェインにも注意が必要です。
カフェインには覚醒作用があるため、敏感な方は就寝する5〜6時間前から摂取を避けた方が良いでしょう[7]。
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
3.適切な睡眠時間
適切な睡眠時間は人によって異なります。
厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の日本人の1日の平均睡眠時間は6時間以上8時間未満が半数以上を占めており、これが標準的な睡眠時間だと考えられます[8]。
しかし、睡眠時間は日の長い季節では短く、日の短い季節では長くなるなど、季節によって変わることが分かっています。
さらに20歳以上になると年をとるにつれて睡眠時間が徐々に短くなっていくため、一概に何時間眠れば良いとはいえません。
そのため日中に眠気を感じて活動に支障を来すようでなければそれで良いといえます。
また、長く眠ることにこだわるあまり、必要以上に寝床で過ごすと途中で目が覚めたり、熟睡感が損なわれたりすることがあるため注意してください。
[8] 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」
4.日本人の睡眠時間の実態
日本人の睡眠時間の実態はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」によると20歳以上の日本人の1日の平均睡眠時間は男女とも6時間以上7時間未満という答えが最多です[9]。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」をもとに執筆者作成
一般的に女性は家事や育児の負担が大きいことから男性と比べて睡眠時間が短い傾向にあり、慢性的な睡眠不足状態にあるといえます。
また同じ調査では約20%の方が睡眠の質に「満足できていない」と答えています[9]。
さらに、日本人の就労者の睡眠時間は世界的に見ても短いとされています。
日本人と各国の就労者の睡眠時間を比較すると以下のとおりです。
厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」をもとに執筆者作成
睡眠時間が短い日本人にとって、質の高い睡眠を目指すことは重要といえるでしょう。
[9] 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」
5.快眠についてのまとめ
質の良い睡眠(快眠)とは「ぐっすり眠れている」という満足感が得られる睡眠のことを指します。
質の良い睡眠をとるには規則正しい生活を送り、体内時計の周期を維持することが重要です。
そのためには毎日決まった時間に寝床に就くよう心掛けてください。
また光には体内時計を正す作用があるため、朝起きたら光を浴びるようにしましょう。
一方、就寝前にスマホやパソコンなどのブルーライトを浴びると体内時計が乱れてしまうため、極力控えてくださいね。
その他にも自分に合った寝具を選ぶこと、適度な運動の習慣を持つこと、入浴タイミングを工夫することで睡眠の質を上げることができます。
適切な睡眠時間は人によって異なるため、日中に眠気を感じることなく、活動に支障を来さなければ快眠できているといえるでしょう。
日本人の睡眠時間は世界的に見ても短いとされています。
短い睡眠時間であっても、質の高い睡眠を得るよう心掛けることが重要です。
ぜひ、気持ち良く眠るためにこの記事を役立ててくださいね。