「睡眠時無呼吸症候群ってどんな病気なんだろう?」
「いびきをかいてしまう以外に良くないことはあるのかな?」
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に無呼吸状態が何度も繰り返される病気です。
呼吸が止まったり浅くなったりするために熟睡できず、日中に異常な眠気を催したり、頭痛やだるさといった症状を感じたりします。
この記事ではそんな睡眠時無呼吸症候群の原因や健康上のリスク、治療法について詳しく解説していきます。
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に呼吸が何度も止まる病気のことです。
睡眠中に10秒以上呼吸が停止する状態を睡眠時無呼吸といい、1時間に5回以上無呼吸や低呼吸が起こる場合には睡眠時無呼吸症候群と診断されます[1]。
日中に異常な眠気を感じる、周囲からいびきがうるさいといわれる、起床時にだるさやむくみ、頭痛がある場合には睡眠時無呼吸症候群が疑われるでしょう。
また夜間に呼吸が苦しくなる夢を何度も見るのも睡眠時無呼吸症候群が原因とされています。
その他にも不眠やうつ状態、性格の変化、幻覚、性機能障害といったさまざまな症状が現れる恐れがあります。
なお睡眠時無呼吸症候群は大きく三つのタイプに分けられます。
呼吸を調節する脳の機能が低下することで発生する「中枢型」、喉が閉じて空気の通り道が細くなることで発生する「閉塞(へいそく)型」、これらが混合して起こる「混合型」があります。
なかでも閉塞型が大部分を占めています。
日本国内の閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者のなかで、適切な治療を受けている人は50万人に満たないといわれています[2]。
それでは睡眠時無呼吸症候群の原因についても詳しくみていきましょう。
[1] 兵庫医科大学病院 もっとよく知る!病気ガイド「睡眠時無呼吸症候群」
[2] 佐藤誠「II.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学」(『日本内科学会雑誌』2020年109巻6号,p1063,2020)」
【関連情報】 「睡眠不足の悪影響とは?質の高い睡眠をとるためのポイントも解説」についての記事はこちら
2.睡眠時無呼吸症候群の原因
「睡眠時無呼吸症候群の原因は何だろう」
睡眠時無呼吸症候群の発症には肥満や顎・喉の形、アルコールの摂取、睡眠薬の服用などさまざまな要因が挙げられます。
ここからは睡眠時無呼吸症候群の原因について詳しく解説します。
原因1 肥満
睡眠時無呼吸症候群に最も多いとされる閉塞型の原因には肥満が挙げられます。
肥満の状態ではそうでない場合よりも喉に多くの脂肪がつきます。
このため、睡眠時に喉の緊張が緩むと空気が通りにくくなります。
このときに狭い喉を空気が通過しようとすることでいびきが生じます。
またさらに喉が狭まり、閉塞してしまうと無呼吸に至ります。
肥満でない人でも睡眠中は喉の緊張が緩みますが、呼吸が止まるほどまで空気の通り道が細くなることはありません。
原因2 顎や喉の形
顎や喉の奥の形も睡眠時無呼吸症候群の原因になります。
日本人の場合、下顎の骨が小さいことで空気の通りが悪くなり、睡眠時無呼吸症候群になることも少なくありません。
また扁桃(へんとう)腺や口蓋垂(こうがいすい)が大きい場合にも空気の通り道が狭まり無呼吸を引き起こします。
このように睡眠時無呼吸症候群は肥満だけが原因となるわけではありません。
原因3 アルコールの摂取、睡眠薬の服用
アルコールの摂取や睡眠薬の服用も睡眠時無呼吸症候群を引き起こす原因の一つです。
アルコールには筋肉を弛緩(しかん)させ、神経の活動を抑える作用があります。
このため寝る前に飲酒をすると気道の筋肉が緩み、舌が気道に落ち込みやすくなります。
通常は無呼吸になっても血中の酸素濃度の低下によって覚醒が促されますが、アルコールを摂取すると感度が鈍くなるため、無呼吸状態も長くなるといわれています。
また「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼ばれる睡眠薬には副作用として、筋弛緩作用があることが明らかになっています。
この作用により首周りの筋肉が弛緩するため、睡眠中に気道が狭くなって呼吸がしにくくなります。
このように睡眠薬のなかには睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させるものもあるため、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある方は、医師に相談しましょう。
3.睡眠時無呼吸症候群の健康上のリスク
「睡眠時無呼吸症候群だと健康にどんな悪影響があるんだろう?」
睡眠時無呼吸症候群が大きないびきを引き起こすことは知っていても、その他に健康に与える悪影響については知らないという方も多いのではないでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群は心筋梗塞や脳卒中、高血圧、不整脈、糖尿病の原因となることが分かってきました。
ここからは睡眠時症候群が引き起こす健康上のリスクについて詳しくみていきましょう。
リスク1 心筋梗塞・脳卒中
睡眠時無呼吸症候群の方は、心筋梗塞・脳卒中を発症するリスクが高いといわれています。
心筋梗塞とは「動脈硬化」によって血栓ができ、心臓へ十分に血液が送られなくなり心筋の細胞が壊れる病気です。
激しい胸の痛みが生じ、呼吸困難や吐き気、冷や汗、顔面蒼白(そうはく)、激しい脈の乱れといった症状が見られます。
激痛は胃や腕、肩などにも起こり、心臓の血管が一瞬で詰まると突然死する恐れもあります。
一方、脳卒中とは脳の動脈硬化が進行し、脳の血管が詰まったり破れたりする病気の総称です。
脳卒中は脳の血管が破れる「脳出血」、血管が詰まる「脳梗塞」、脳動脈瘤(りゅう)が破裂する「くも膜下出血」の三つに分けられます。
心臓や血管に生じる病気である「心血管疾患」は日本人の死因の第2位、脳卒中は第3位を占める病気です[3]。
睡眠時無呼吸症候群によって生じる「間欠的低酸素血症」がさまざまな生活習慣病の原因の一つではないかと考えられています。
間欠的低酸素血症とは、睡眠時無呼吸症候群により、酸素が足りない「低酸素状態」と正常な酸素状態を繰り返すことです。
血管の内皮細胞が傷つけられるため、体内の炎症につながるとされています。
また睡眠が細切れになることにより、交感神経のはたらきが激しくなることも、睡眠時無呼吸症候群が心筋梗塞や脳卒中を引き起こす原因として考えられています。
通常、睡眠中は副交感神経が優位の状態が保たれます。
しかし睡眠中の無呼吸から呼吸を再開するときには、体は寝たままであるにもかかわらず、脳が起きた状態になり、交感神経が活発になります。
交感神経と副交感神経からなる自律神経はホルモンの分泌などをつかさどっているため、このバランスが崩れることで、ホルモンの分泌異常や体内の炎症が起こると考えられているのです。
睡眠時無呼吸症候群を放置していると、恐ろしい病気を引き起こしてしまうかもしれないのですね。
[3] 厚生労働省「人口動態統計年報 主要統計表」
リスク2 高血圧
睡眠時無呼吸症候群は高血圧の原因になることも分かっています。
高血圧とは血液を送り出すときに血管壁にかかる圧力が正常よりも高く、それが慢性的に続いている状態のことです。
高血圧が進行すると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気のリスクを高めるとされています。
無呼吸と呼吸再開を繰り返すと体が寝ていても脳が覚醒状態になり、本来優位である副交感神経の代わりに交感神経がはたらきます。
このように交感神経が優位な状態では、血圧は上昇してしまいます。
睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされる高血圧には特に「治療抵抗性高血圧」が多いとされています。
「治療抵抗性高血圧」は薬物療法によって血圧をコントロールするのが難しいため、食事や適切な運動などの生活習慣を改善することが重要です。
リスク3 不整脈
睡眠時無呼吸症候群は不整脈を引き起こすこともあります。
不整脈には脈が少ない「徐脈」、脈が多い「頻脈」、または不規則になる状態の3種類があります。
徐脈は1分間に50回以下、頻脈は1分間に脈が100回以上の状態です[4]。
睡眠時無呼吸症候群の患者の半数近くに何らかの不整脈が見られたと報告されています[5]。
睡眠時無呼吸症候群によって不整脈が起こる原因には、呼吸停止時と再開時の心臓の動きに加え、自律神経の乱れも関係していると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群によって睡眠中に酸欠状態と呼吸の再開を繰り返すと交感神経が刺激を受けます。
本来休まるべき睡眠中に交感神経が刺激を受けると体はストレスを感じ、心臓に異常な動きを生じさせます。
このようにして睡眠時無呼吸症候群は不整脈を引き起こすのです。
[4] 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター「不整脈」
[5] 一般財団法人 運輸・交通SAS 対策支援センター「睡眠時無呼吸症候群と心臓病」
リスク4 糖尿病
睡眠時無呼吸症候群は糖尿病を発症するリスクを高めたり、糖尿病を悪化させたりする恐れもあります。
糖尿病には免疫機能が正常にはたらかずインスリン分泌細胞を破壊することで発症する「1型糖尿病」と遺伝や食べ過ぎ、運動不足など生活習慣が原因で発症する「2型糖尿病」があります。
日本では特に2型糖尿病が多く見られます。
実は睡眠時無呼吸症候群が2型糖尿病を引き起こすメカニズムについてはまだ解明されていません。
しかし、睡眠時無呼吸症候群で見られる間欠的低酸素血症や、無呼吸状態から呼吸が再開する際の覚醒反応が糖代謝の異常と関連すると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群によって睡眠の質が大幅に低下することで、交感神経のはたらきが活発になり、「コルチゾール」などのホルモンが過剰に分泌されます。
コルチゾールには血糖値を上昇させるはたらきがあります。
さらに成長ホルモンの分泌が停止するとインスリンが正常にはたらかなくなることで脂肪がつきやすくもなります。
また、成長ホルモンの分泌が停止するために、脂肪が増加しやすくなってしまいます。
肥満はインスリンの効きが悪くなる原因の一つです。
このため、糖尿病の発症や悪化が引き起こされてしまうと考えられています。
4.睡眠時無呼吸症候群の治療法
「睡眠時無呼吸症候群を治すにはどうすれば良いんだろう?」
睡眠時無呼吸症候群の治療法として最も有効とされている治療法は、経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)CPAP療法(経鼻的気道持続陽圧療法)です。
寝る際に鼻にマスクをつけ、特殊な機械を使い圧力をかけて空気を送り喉がふさがらないようにする治療法です。
睡眠時無呼吸症候群の治療法のなかでも最も有効な方法で、日中の眠気を軽減する効果もあるとされています。
使用する機械は持ち運びできるほど小型化されており、自宅に設置して治療を行えます。
ただし病院によってはCPAP療法の導入時の短期間の入院や定期的な機械の調整、体調の確認が必要な場合もあるため、主治医と相談するようにしましょう。
また、狭くなってしまう喉の粘膜を切り取ったり、扁桃(へんとう)腺肥大の場合は扁桃(へんとう)腺を摘出したりするなどの外科的療法や、マウスピースなどの口腔(こうくう)内装置の装着による治療が考えられます
さらに肥満が原因で睡眠時無呼吸症候群の症状が見られる場合には、減量も有効な治療方法の一つといえます。
減量することで睡眠時無呼吸症候群の合併症として見られる高血圧や脳卒中、心筋梗塞などの予防にもつながるでしょう。
その他にも睡眠前の飲酒や睡眠薬の服用は無呼吸を増加させる恐れがあるため、できるだけ控えてくださいね。
5.睡眠時無呼吸症候群のまとめ
睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。
中枢型、閉塞型、混合型の三つのタイプに分けられ、なかでも閉塞型が一番多いタイプといわれています。
睡眠時無呼吸症候群では、寝ている間にいびきをかいたり、何度も目が覚めたりします。
また起床時の頭痛、だるさ、日中の眠気といった症状も現れます。
さらに睡眠時無呼吸症候群は心筋梗塞や脳卒中、高血圧、不整脈を引き起こしたり、糖尿病の発症や悪化を招いたりと健康上のリスクを増大させることが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群を治すためにはCPAP療法が最も有効とされています。
また外科的な手術や口腔内装置による治療も有効です。
この他に睡眠時無呼吸症候群の原因の一つでもある肥満を解消すること、睡眠前の飲酒や睡眠薬の服用を控えることも改善につながります。
睡眠時に呼吸停止やいびきを指摘されることがある場合には、専門の医療機関で検査・治療を受けましょう。