「最近イライラするけど、寝不足のせいかな……?」
多忙やストレスなどからうまく寝付けず、このように感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
寝不足だと記憶や感情の整理ができず、イライラしやすくなることが分かっています。
それだけでなく寝不足は心と体の双方にさまざまな悪影響を及ぼします。
この記事では睡眠不足だとイライラする理由を解説するとともに、睡眠不足のリスクをご紹介します。
適切な睡眠時間や睡眠不足を解消するためのコツも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
1.寝不足だとイライラする理由
「寝不足だとどうしてイライラするのかな?」
このような疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。
寝不足でのイライラは、本来寝ている間に調整されるはずの記憶や感情が整理できないことによって起こります。
寝ているときには夢という形で記憶や感情の整理が行われます。
その結果として怒りや悲しみなどの感情が沈静化するのです。
睡眠は90〜120分の周期があり、そのうちで「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を繰り返しています。
夢は主にレム睡眠中に現れるとされています[1]。
しかし寝不足だと睡眠時間の減少とともにレム睡眠も短縮されてしまい、記憶や感情の整理が追いつかず、ネガティブな感情が後に残りやすくなるのです。
また寝不足の方はネガティブなものから刺激を受けやすいことも分かっています。
寝不足だと何となくイライラすることが多いのには、きちんとした理由があるのですね。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「レム睡眠」
【関連情報】 「睡眠不足の悪影響とは?質の高い睡眠をとるためのポイントも解説」についての記事はこちら
2.睡眠不足のリスク
「睡眠不足にはどんなリスクがあるのかな?」
睡眠不足はさまざまなリスクの原因になります。
この章では睡眠不足によって生じるリスクを五つご紹介します。
リスク1 集中力・記憶力の低下
寝不足は集中力・記憶力の低下を招きます。
睡眠不足だと脳の「前頭葉」がダメージを受け、脳の活動自体が鈍くなります。
集中力が低下すると勉強や仕事の効率が悪化し、ミスも増加します。
この影響は当人にとどまらず、所属する組織の損失や重大な事故につながる恐れもあります。
集中力・記憶力の低下がもたらす悪影響は自分だけでなく周囲の人にも及ぶということを再認識し、予防に努めたいですね。
リスク2 抑うつ
寝不足だと抑うつ状態になりやすいことが分かっています。
眠れない状態が続くと昼間に眠気を感じたり、集中力が低下したりする他、心の病気を発症しやすくなります。
寝不足が長く続くと、ネガティブな物事から影響を受けやすくなります。
怒りや恐怖といった情動がコントロールされにくくなると、最終的にはうつ病などを発症する恐れがあります。
一方、うつ病になると眠りが浅くなり、疲労が蓄積したり、起床後に倦怠(けんたい)感を覚えたりするようになります。
眠りの質が悪化するとうつ病になりやすく、うつ病になると眠りの質が低下するというわけですね。
このように睡眠の質と心の状態には深いつながりがあります。
リスク3 肥満
寝不足は肥満の原因にもなります。
寝不足状態が続くと「自律神経」に異常が現れます。
自律神経には活動時にはたらく「交感神経」と休息時にはたらく「副交感神経」があります。
主に活動的な日中は交感神経がはたらき、夜間は体を休めるために副交感神経がはたらきますが、寝不足が続くとのその切り替えがうまくいかなくなります。
日中に交感神経が十分にはたらかないと「代謝」が悪くなるため、消費エネルギーも低下してしまうのです。
また睡眠時間が短くなると、食欲を抑制するホルモンの分泌が抑えられる一方、食欲を高めるホルモンの分泌が増えます。
消費エネルギーが低下している状態で食欲が増せば、太りやすくなるのも無理はないですね。
リスク4 脳卒中・心筋梗塞
寝不足が続くと血圧が上昇したり、血糖値を正常に保つためのはたらきに異常が生じたりします。
その結果「動脈硬化」が進み、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
また寝不足のリスクの一つである肥満も、動脈硬化の原因になることが分かっています。
寝不足が続くと動脈硬化の危険因子が重なるため、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクも上がってしまうのですね。
リスク5 免疫機能の低下
寝不足が続くと免疫機能が低下することがあります。
寝ている最中には免疫機能を高める物質である「サイトカイン」の分泌が促進されます。
サイトカインは風邪や病気の際に分泌され、ウイルスや細菌の増殖を抑えるはたらきをします。
またサイトカインには眠気を引き起こす作用もあり、睡眠により病気の回復を早めるはたらきをサポートします。
しかし寝不足になるとサイトカインが十分に分泌されなくなり、免疫機能が低下してしまいます。
十分な睡眠は体の回復を促進し、免疫機能を維持するのに重要なのですね。
3.適切な睡眠時間とは
適切な睡眠時間は人によって異なります。
厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」によれば、20歳以上の日本人の平均睡眠時間は6時間以上8時間未満が半数以上を占めます[2]。
しかし、睡眠時間は夏などの日の長い季節では短くなり、冬などの日の短い季節では長くなる傾向にあります。
また成人後は加齢に伴い徐々に短くなっていくため、一概に何時間眠れば良いということはありません。
そのため日中に眠気を感じて困らない程度であれば問題ないといえるでしょう。
睡眠時間にこだわり過ぎるあまり、必要以上に寝床で過ごすとかえって途中で目が覚めたり、熟睡感が損なわれたりすることがあるため注意が必要です。
[2] 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」
4.睡眠不足を解消するための快眠のコツ
「睡眠不足を解消してぐっすり眠るためのコツってあるのかな?」
睡眠不足を解消するには睡眠時間を確保するとともに、睡眠の質を上げることが重要です。
この章では睡眠不足を解消し、快眠を得るためのコツを七つご紹介します。
コツ1 規則正しい生活を送る
快眠を得るには規則正しい生活を送ることが重要です。
眠りに就く時間が毎日違っていては、他にどのような工夫をしたとしても快眠は得られません。
ヒトの体には「体内時計」が備わっています。
こうしたはたらきは自分の意志でコントロールすることができません。
そのため規則正しい生活を送り、体内時計にプログラムされたとおりに眠りに就くことが快眠を得る秘訣なのです。
コツ2 適度な運動を心掛ける
快眠を得るためには、適度な運動を心掛けましょう。
習慣的に運動をしている人には不眠が少ないことが分かっています。
ただし激しい運動はかえって睡眠を妨げることがあります。
このため睡眠の質を上げるには、ウォーキングやゆっくりとしたペースのジョギングといった軽めの「有酸素運動」を行うと良いでしょう。
また就寝の3時間くらい前に運動をすると、寝付きが良くなることが分かっています[3]。
運動をすると一時的に脳の温度が上がります。
そして就寝3時間前に運動をすると、ちょうど寝床に入ったタイミングに脳の温度が大きく下がります[3]。
眠気は脳の温度が下がったときに生じやすいので、結果として睡眠の質向上が見込めるのです。
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
コツ3 入浴するタイミングを工夫する
快眠を得るには入浴するタイミングを工夫することも重要です。
就寝の2〜3時間前に入浴すると寝付きが良くなります[4]。
運動の場合と同じで一時的に体温を上げることがポイントです。
しかし湯温が高過ぎると、体への負担が大きくなってしまいます。
寝付きは体温を0.5度ほど上げるだけでも良くなるといわれています[4]。
このためには38度のお湯で25〜30分ほど、42度のお湯で5分ほどつかれば良いため、無理なく自分に合った入浴法を選びましょう[4]。
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
コツ4 自分に合った寝具を選ぶ
快眠を得るには自分に合った寝具を選ぶ必要があります。
寝具は就寝中の保温と、良い寝相を保つという二つの役割を担います。
ヒトの体は深い眠りを保つために放熱するので、寝具は保温性に加えて吸湿性・放湿性が高いものを選ぶと良いでしょう。
またマットレスや敷き布団は、楽な姿勢を維持できる適度な硬さのものを選びましょう。
柔らか過ぎると眠りに就きにくくなる上に、腰痛の原因にもなります。
反対に硬過ぎると骨に痛みが生じたり、血流が妨げられたりするため、なかなか熟睡できません。
コツ5 目覚めたら光を浴びる
快眠を得るためには、起床後に光を浴びましょう。
ヒトの体内時計は約25時間の周期があり、地球の自転周期とは1時間のずれがあります[5]。
このずれを修正できないと睡眠と起床のリズムが徐々にずれてしまい、睡眠の質の低下や不眠に陥いる場合があります。
朝の光には体内時計をリセットする力があるため、起きたらできるだけすぐに光を浴びると良いでしょう。
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠・覚醒リズム障害」
コツ6 就寝前のスマホやパソコンの使用を控える
就寝前にはスマートフォンやパソコンの使用を控えましょう。
スマホやパソコンの光には「ブルーライト」が多く含まれています。
網膜がブルーライトの刺激を受けると、脳は睡眠をつかさどるホルモンの分泌を抑制します。
このため寝る前にスマホやパソコンを使用すると寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったりするのです。
コツ7 就寝前の飲酒・喫煙は控える
快眠を得るには就寝前の飲酒・喫煙は控えましょう。
アルコールは寝付きを良くしてくれますが、代謝や排泄が速いため明け方の睡眠が妨げられます。
睡眠薬代わりに寝酒をしている人はやめましょう。
また就寝前にたばこを吸うと、ニコチンが刺激剤としてはたらくため寝付きが悪くなります。
コーヒーや紅茶に含まれるカフェインにも覚醒作用があります。
午後からはカフェインを含む飲み物を控えると良いでしょう。
敏感な方は就寝前5〜6時間前からカフェインの摂取を控えた方が無難です[6]。
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
5.寝不足だとイライラする理由のまとめ
寝不足だと記憶や感情の整理ができず、ネガティブな感情が残りやすいため、イライラします。
また起きている間もネガティブな感情に敏感になりやすいことが分かっています。
寝不足はそれだけでなく集中力・記憶力の低下にもつながり、抑うつ、肥満、脳卒中・心筋梗塞、免疫機能の低下といったリスクを高めます。
適切な睡眠時間には個人差があり、年齢や季節によっても変化します。
そのため、日中に眠気を感じて困らない程度の睡眠が確保できていれば問題ないといえるでしょう。
快眠を得るには、規則正しく決まった時間に就寝することが重要です。
朝起きたら光を浴びると、毎日同じ時間に眠りやすくなりますよ。
また適度な運動を心掛けること、入浴するタイミングを工夫すること、自分に合った寝具を選ぶことなども同様に大切です。
睡眠の質が下がることがあるため、就寝前はスマホやパソコンの使用を控え、お酒やたばこはできるだけ摂取しないようにしましょう。
ぜひこの記事を寝不足によるイライラを解消するのに役立ててくださいね。