「イカにはどんな栄養素が含まれているんだろう?」
イカは身近な食材ですが、どのような栄養素が含まれているのかよく知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
イカはたんぱく質をはじめ、いくつかのビタミンやミネラルを含んでいます。
またタウリンやDHA、EPAといった体に有用な栄養成分も含んでいます。
この記事ではイカに含まれる栄養素や栄養成分とその作用を解説します。
イカをおいしく、安全に食べるためのポイントもご紹介しているので参考にしてくださいね。
1.イカの基礎知識
イカは身近な食材の一つですが、独特な見た目をしていますよね。
足が多いという共通点を持つたことどう違うのかと疑問に思っている方もいらっしゃるかもしれません。
まずはイカという生き物について簡単にご紹介しておきましょう。
イカは背骨を持たない無脊椎動物のうち、軟体動物というグループに分類される生物です。
軟体動物の代表例としては、他に巻貝や二枚貝があります。
なお、イカの頭は足の根本に当たる部分にあります。
外套膜とも呼ばれる胴体が頭の後ろ側にあり、この胴体の後方にある「みみ」や「えんぺら」と呼ばれる三角形の部分がひれです。
なお、たこも上の丸い部分は内臓のある胴体に当たり、足の付け根に頭があります。
イカやたこは頭から直接足が生えているため、「頭足(とうそく)類」とも呼ばれています。
一般的にはイカの足は10本、たこの足は8本といわれています[1]。
[1] 全国いか加工業協同組合「イカ学Q&A60」
1-1.イカの種類
「イカにはどんな種類があるんだろう?」
「普段食べているイカはなんという種類なのかな?」
このように疑問に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
イカは世界で約500種類が確認されています[2]。
日本近海で見られるのはそのうち140種類ほどです[2]。
しかし、新種のイカが発見されたり、これまで同じ種類だと思われていたものが別の種類であったり、反対に別の種類だと思われていたものが雌雄などの同じ種類だったりすることがあり、未だ種類数は確定されていません。
このようにまだ謎の多いイカですが、食用とされているのは数十種類だといわれています。
日本でよく食べられるイカは生物学的に「コウイカ目」と「ツツイカ目」に大別されます。
コウイカ目は「甲」と呼ばれる硬い組織を持つのが特徴です。
コウイカ目の代表例には「こうイカ」があります。
ツツイカ目の代表例には「するめイカ」「やりイカ」「けんさきイカ」「あかイカ」「ほたるイカ」などがあります。
なお、日本で水揚げされるイカの多くを占めているのはするめイカです。
最も身近なイカであるともいえるため、この記事では主にするめイカに含まれる栄養素や栄養成分をご紹介します。
[2] 全国いか加工業協同組合「イカ学Q&A60」
1-2.イカのカロリー
「イカのカロリーはどれくらいなんだろう?」
このように疑問に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
代表的なイカのカロリー(エネルギー量)は以下のとおりです。
種類 | 加工状態など | カロリー |
---|---|---|
するめイカ | ||
やりイカ | ||
けんさきイカ | ||
あかイカ | ||
ほたるイカ | ||
こうイカ |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
いずれも低カロリーであるといえますね。
イカは一般的にたんぱく質を多く含み、脂質をあまり含まない傾向にあります。
ダイエットにもうれしい食材だといえるでしょう。
[3] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2.イカに豊富に含まれる栄養素
「イカにはどんな栄養素が豊富に含まれているんだろう?」
この記事をお読みの方が最も気になっていらっしゃるのはこの部分かもしれません。
日本で多く水揚げされるするめイカには、たんぱく質、ビタミンE、ナイアシン、ビタミンB6、ビオチン、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅が豊富に含まれています。
この章ではするめイカに豊富に含まれる栄養素とそのはたらきをご紹介しましょう。
栄養素 | 含有量 |
---|---|
たんぱく質 | |
ビタミンE | |
ナイアシン | |
ビタミンB6 | |
ビタミンB12 | |
ビオチン | |
カリウム | |
マグネシウム | |
亜鉛 | |
銅 |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
また成人の食事摂取基準もご紹介するので、どれくらい摂取すべきであるかの参考にしてくださいね。
[4] 東京都保険医療局「栄養成分表示ハンドブック」
[5] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
2-1.たんぱく質
するめイカには100g当たり17.9gとたんぱく質が豊富に含まれています[6]。
たんぱく質は「エネルギー産生栄養素」の一つです。
またたんぱく質は筋肉や臓器、皮膚、髪の毛などの体の組織を構成する材料になるという重要なはたらきをしています。
さらにホルモンや酵素、抗体などの体の機能を調節する成分の構成要素としても作用します。
生命の維持に欠かせない、栄養素のなかでも重要なものの一つです。
厚生労働省は18〜64歳の男性について65g、65歳以上の男性について60g、18歳以上の女性について50gという推奨量を設定しています[7]。
イカなどの食材を通じてたんぱく質を十分に摂取するよう心掛けましょう。
たんぱく質について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
たんぱく質とは?体内でのはたらきや食事摂取基準、豊富な食品を紹介
[6] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[7] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-2.ビタミンE
するめイカは100g当たり2.1mgのビタミンEを豊富に含んでいます[8]。
ビタミンEは脂溶性ビタミンの一種です。
ビタミンEには抗酸化作用があることが知られています。
ビタミンEは細胞膜や体内の脂質に多く存在し、それ自体が酸化されることで活性酸素による悪影響を防いでくれます。
厚生労働省は18〜29歳の男性に対し6.0mg、50〜74歳の男性に対し7.0mg、75歳以上に対し6.5mgの目安量を設定しています[9]。
また女性の目安量は18〜29歳で5.0mg、30〜49歳で5.5mg、50〜64歳で6.0mg、65歳以上で6.5mgです[9]。
健康や美容に重要なビタミンなのでしっかりと摂取しておきましょう。
ビタミンEについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ビタミンEとは?はたらきや摂取目安量、摂取源となる食べ物を紹介
[8] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[9] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-3.ナイアシン
するめイカには100g当たり6.5mgとナイアシンが豊富に含まれています[10]。
ナイアシンは水溶性ビタミンでビタミンB群の一種です。
ナイアシンは体内でエネルギー源となる物質をつくり出すはたらきに関わっています。
またビタミンCやビタミンEを通じて活性酸素に対抗するはたらきや、脂肪酸やステロイドホルモンの合成にも関与します。
脂肪酸は脂肪の構成要素です。
ステロイドホルモンは脂質の一種「コレステロール」を原料に合成される「ステロイド」という物質をベースにしたホルモンで、副腎皮質と生殖腺(睾丸、精巣、卵巣、胎盤)でつくられます。
男性のナイアシン摂取推奨量は18〜49歳で15mgNE、50〜74歳で14mgNE、75歳以上で13mgNEです[11]。
また女性の推奨量は18〜29歳で11mgNE、30〜49歳で12mgNE、50〜74歳で11mgNE、75歳以上で10mgNEです[11]。
あまり見聞きしないビタミンだと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、ナイアシンは実は重要な栄養素の一つなのですね。
イカなどの食材からしっかりと摂取しておくよう心掛けましょう。
ナイアシンについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ナイアシンはどんなビタミン?はたらきや食事摂取基準、摂取源を紹介
[10] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[11] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-4.ビタミンB6
するめイカには100g当たり0.21mgのビタミンB6が豊富に含まれています[12]。
ビタミンB6はナイアシンと同じくビタミンB群の一種で、体内では炭水化物、脂質、たんぱく質の代謝に補酵素として関わります。
特にたんぱく質からのエネルギー産生において重要なはたらきをしており、たんぱく質の摂取量が増えるとそれに伴ってビタミンB6の必要量が増加します。
またビタミンB6は「生理活性アミン」という神経伝達物質の代謝の補酵素や、ホルモンの調節因子としてもはたらいています。
不足すると皮膚炎などを引き起こすため要注意です。
18歳以上のビタミンB6の推奨量は男性で1.4mg、女性で1.1mgです[13]。
不足しないよう、イカなどからしっかり摂取しておきたい栄養素だといえるでしょう。
ビタミンB6について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
[12] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[13] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-5.ビタミンB12
するめイカにはビタミンB12が100g当たり4.9μgと豊富に含まれています[14]。
ビタミンB12もビタミンB群の一種です。
植物性食品にはほとんど含まれないため、イカなどの動物性食品から摂取しておきたい栄養素だと言えるでしょう。
ビタミンB12は体内ではアミノ酸や脂質の代謝の補酵素として作用しています。
またビタミンB12は不足すると貧血や神経障害の原因となることが知られています。
18歳以上のビタミンB12の推奨量は男女共に2.4μgです[16]。
するめイカ100gで1日の推奨量の2倍以上のビタミンB12を摂取できることが分かりますね。
なお、ビタミンB12は多く摂取しても必要以上に吸収されることがないため食品からの過剰摂取による悪影響を心配する必要はほぼないので安心してくださいね。
ビタミンB12について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ビタミンB12とは?はたらきや食事摂取基準、摂取源の食品を紹介
[14] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[15] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アミノ酸」
[16] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-6.ビオチン
するめイカにはビオチンが100g当たり4.9μgと豊富に含まれています[17]。
ビオチンはビタミンB群の一種です。
体内で腸内細菌によって合成されますが、その量だけでは必要量を維持できないため他のビタミンと同様に食事から摂取することが欠かせません。
ビオチンは体内でエネルギー代謝や、糖質以外の物質からブドウ糖(グルコース)をつくる「糖新生」と呼ばれるはたらきに補酵素として関わっています。
またこの他に分岐鎖アミノ酸や脂肪の構成要素である脂肪酸の合成にも補酵素として関わります。
このように重要なはたらきをするビオチンですが、さまざまな食品に含まれるため通常の食生活を送っていれば不足による不調が起こる心配はありません。
イカなど、幅広い食品から摂取しておきましょう。
ビオチンの目安量は18歳以上の男女共に50μgです[18]。
ビオチンについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ビオチンとは?はたらきや摂取の目安量、摂取源となる食品を解説
[17] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[18] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-7.カリウム
するめイカにはカリウムが100g当たり300mgと豊富に含まれています[19]。
カリウムは必須ミネラルの一種です。
カリウムは体内で細胞内液の浸透圧を調節し、維持するはたらきをしています。
また神経の興奮や筋肉の収縮といったはたらきに関わったり、体内のpHバランスを保ったりもしています。
この他に、カリウムにはナトリウムの排せつを促すはたらきがあることでも知られています。
日本人は塩分を摂り過ぎている傾向にあり、これによる高血圧患者が非常に多いといわれています。
カリウムはナトリウムの排せつを促し血圧を下げる作用があるため、積極的な摂取が勧められています。
理想的なカリウム摂取量は1日当たり3,510mg以上であるといわれていますが、日本人の摂取量はこれに遠く及ばないため、厚生労働省は成人男性に対し3,000mg以上、成人女性に対し2,600mg以上の目標量を設定しています[20]。
まずはこの量を目標にイカなどからカリウムを摂取することを心掛けましょう。
カリウムについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
カリウムとは?はたらきや摂取すべき量、摂取源となる食品を紹介
[19] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[20] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-8.マグネシウム
するめイカにはマグネシウムが100g当たり46mgと豊富に含まれています[21]。
マグネシウムは必須ミネラルの一種で、体内で起こる代謝などのほとんど全ての反応に関わっています。
またカルシウムと密接に関わり、骨の健康を維持するはたらきもしています。
非常に重要なマグネシウムですが、全ての細胞や骨に広く分布しているため、さまざまな食品に含まれています。
このため通常の食生活を送っていれば不足する心配はほとんどありません。
マグネシウムの摂取推奨量は男性の場合、18〜29歳で340mg、30〜64歳で370mg、65〜74歳で350mg、75歳以上で320mgです[22]。
また女性の場合、18〜29歳で270mg、30〜64歳で290mg、65〜74歳で280mg、75歳以上で260mgです[22]。
マグネシウムについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
マグネシウムとは?はたらきや食事摂取基準、摂取源となる食品を解説
[21] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[22] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-9.亜鉛
するめイカには100g当たり1.5mgと亜鉛が豊富に含まれています[23]。
亜鉛は必須ミネラルの一種です。
体内では筋肉や骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに幅広く分布しています。
亜鉛は主にたんぱく質と結合しており、多くの酵素の構成要素として細胞の成長と分化において重要な役割を果たしています。
また不足すると味覚障害や皮膚炎、食欲不振などの原因となることが知られています。
亜鉛の推奨量は18〜74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mgとされています[24]。
味覚を正常に保つためにもしっかり摂取しておきたい栄養素だといえるでしょう。
亜鉛について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
亜鉛のはたらきと1日の適切な摂取量とは?亜鉛を多く含む食品も紹介
[23] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[24] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-10.銅
するめイカには100g当たり0.29mgと銅が豊富に含まれています[25]。
銅は必須ミネラルの一種で、体内では主に骨や筋肉、血液に存在しています。
たんぱく質と結合し、酵素を構成しているミネラルです。
また鉄と共に血をつくるはたらきにも関わっています。
銅の推奨量は18〜74歳の男性で0.9mg、75歳以上の男性で0.8mgです[26]。
女性の推奨量は18歳以上の全年代で0.7mgとされています[26]。
[25] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[26] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3.イカに含まれる栄養素
ここまで、イカに豊富に含まれる栄養素をご紹介してきました。
しかし他にもイカから摂取できる栄養素は存在します。
ここでは、イカに含まれる栄養素をご紹介しましょう。
栄養素 | 含有量 |
---|---|
ビタミンD | |
ビタミンB1 | |
ビタミンB2 | |
パントテン酸 |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
[27] 東京都保険医療局「栄養成分表示ハンドブック」
[28] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
3-1.ビタミンD
するめイカには100g当たり0.3μgのビタミンDが含まれています[29]。
ビタミンDは脂溶性ビタミンの一種です。
ビタミンDはカルシウムやリンといった骨をつくるミネラルの代謝に関わっています。
このため、ビタミンDは骨の代謝にも関与しているといえます。
不足するとカルシウムの吸収率が低下し、骨が十分に硬くならない「骨軟化症」などの原因となります。
また高齢者において長期的にビタミンDが不足していた場合、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まってしまいます。
ビタミンDの目安量は18歳以上の男女共に8.5μgです[30]。
イカから十分な量を摂取するのは難しいので、不足しないよう、イカ以外の食材からもしっかりと摂取しておきましょう。
ビタミンDについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ビタミンDってどんな栄養素?効果と摂取方法について徹底解説!
[29] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[30] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3-2.ビタミンB1
するめイカには100g当たり0.07mgのビタミンB1が含まれています[31]。
ビタミンB1はその名のとおりビタミンB群の一種で、糖質や分岐鎖アミノ酸の代謝における補酵素してはたらきます。
特に糖質からエネルギーを生み出す過程において重要なはたらきをしており、糖質の多い食品やアルコールを多く摂取すると必要量が増えるといわれています。
不足すると糖質をエネルギー源としている脳や神経に影響が現れるためしっかり摂取しておきたい栄養素です。
ビタミンB1の推奨量は男性の場合、18〜49歳で1.4mg、50〜74歳で1.3mg、75歳以上で1.2mgです[32]。
また女性の場合、18〜74歳で1.1mg、75歳以上で0.9mgです[32]。
イカだけでは十分に摂取できないので、他の食品からも十分に摂取するよう心掛けましょう。
ビタミンB1について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ビタミンB1とは?作用や食事摂取基準、摂取源となる食品を紹介
[31] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[32] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3-3.ビタミンB2
するめイカには100g当たり0.05mgのビタミンB2が含まれています[33]。
ビタミンB2はビタミンB群の一種で、体内ではエネルギー代謝の補酵素としてはたらきます。
また成長を促進したり、皮膚や粘膜を保護したりする作用もあるため、不足すると成長障害や脂漏性皮膚炎、口内炎などを引き起こすといわれています。
ビタミンB2の推奨量は男性の場合、18〜49歳で1.6mg、50〜74歳で1.5mg、75歳以上で1.3mgです[34]。
また女性の場合、18〜74歳で1.2mg、75歳以上で1.0mgです[34]。
イカを食べるだけでは1日の推奨量を摂取するのは難しいので、他の食品からもしっかり摂取しておきましょう。
ビタミンB2について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ビタミンB2とは?はたらきや食事摂取基準、摂取源となる食品を紹介
[33] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[34] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3-4.パントテン酸
するめイカには100g当たり0.34mgのパントテン酸が含まれています[35]。
パントテン酸はビタミンB群の一種で、体内ではエネルギーを生み出すはたらきや脂質の代謝において重要なはたらきをしています。
このためパントテン酸が欠乏するとエネルギー代謝に異常を来しますが、さまざまな食品に含まれているため通常の食生活を送っている場合、不足を心配する必要はありません。
パントテン酸の目安量は18〜49歳の男性では5mg、50歳以上の男性では6mg、18歳以上の女性では5mgです[36]。
パントテン酸について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
[35] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[36] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
4.イカに含まれる栄養成分
イカには、栄養素の他にも、ヒトの健康にとって有用だと考えられる成分が含まれています。
この章では、イカに含まれる栄養成分をご紹介しましょう。
4-1.DHA・EPA
イカにはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった体に有用な脂肪酸が含まれています。
するめイカの脂質は100g当たり0.8gとかなり少ないのですが、このうち0.18gがn-3系脂肪酸であり、DHAは130mg、EPAは43.0mg含まれています[37]。
脂肪酸は脂質の構成要素で、その構造によって不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸に分けられます。
不飽和脂肪酸はさらに一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられ、多価不飽和脂肪酸はn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸に分けられます。
n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸は体内で合成できず、不足すると皮膚炎などを引き起こすために食事からの摂取が必要な脂肪酸です。
DHAとEPAはいずれもn-3脂肪酸に当たります。
DHAとEPAは循環器疾患の予防に有効であることを示す研究結果が多数存在しています[38]。
またDHAとEPAの摂取が認知機能の低下や認知症の予防につながるとする説もあります[38]。
効果についてはまだ研究が進められているところですが、体に必要であることは確かなのでしっかりと摂取しておくことが重要だといえるでしょう。
[37] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
[38] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
4-2.タウリン
イカにはタウリンが豊富に含まれているといわれています。
タウリンはたんぱく質が分解される過程でできる、アミノ酸に似た物質です。
栄養ドリンクの成分として見聞きしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
タウリンには心臓や肝臓の機能を高めたり、視力を回復したりする効果があることが知られています。
またこの他に、血中のコレステロールや中性脂肪を減らす作用や、血圧を正常に保つ作用があるとされています。
さらにタウリンはインスリンの分泌を促し、糖尿病の予防・治療に有効だともいわれています。
タウリンにはさまざまな効果があるのですね。
なお、タウリンはイカの他にも、たこや貝類、甲殻類、魚類の内臓類などに多く含まれています。
タウリンについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
タウリンの効果とは?摂取源となる食品や摂取の際のポイントも紹介
5.イカをおいしく安全に食べるためのポイント
「イカには寄生虫がいるって聞いたことがあるんだけど、食べても大丈夫なのかな?」
「おいしいイカの見分け方が知りたい……」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、イカをおいしく安全に食べるためのポイントをご紹介しましょう。
ポイント1 アニサキスに注意する
イカには、寄生虫「アニサキス」の幼虫が寄生している場合があるため注意が必要です。
アニサキスの幼虫は長さ2〜3cm、幅0.5〜1mmほどの大きさで、白っぽく、少し太い糸のような外見をしています[39]。
イカの他に、さばやあじ、さんま、かつお、いわし、さけなどの魚でよく見られます。
アニサキス幼虫に寄生されている魚介類を生や冷凍・加熱が不十分な状態で食べると、アニサキス幼虫が胃壁や腸壁に食い付き、「アニサキス症」と呼ばれる食中毒を引き起こす場合があります。
アニサキス症には「急性胃アニサキス症」と「急性腸アニサキス症」があります。
急性胃アニサキス症は胃で起こるアニサキス症で、食後数時間後〜十数時間後にみぞおちの激しい痛みや吐き気、嘔吐(おうと)などを引き起こします[39]。
なお、アニサキス症の多くは急性胃アニサキス症です。
また急性腸アニサキス症では食後十数時間後〜数日後に[39]、激しい下腹部の痛みや吐き気、嘔吐、発熱などが現れます。
日本では生で魚介類を食べる文化があるためアニサキス症を引き起こしやすいといえます。
アニサキス症の唯一の治療方法は、内視鏡でアニサキスを見つけ、胃壁や腸壁に食い付いたアニサキスを除去することです。
アニサキスを除去できれば症状はすぐに改善しますが、できることなら激しい痛みを感じたり内視鏡検査を受けたりする事態には陥りたくないものですよね。
アニサキス症を予防するには、まずは新鮮な魚介類を選ぶことが重要です。
また丸ごと購入した場合は速やかに内臓を取り除き、内臓は生では食べないようにしましょう。
アニサキス幼虫は寄生の対象となる魚介類が死亡して時間が経つと内臓から筋肉に移動してくるため、新鮮なうちに内臓を取り除いておくことが重要なのです。
また目視で確認し、アニサキス幼虫が確認できた場合は必ず取り除きましょう。
食酢で締めたり、塩漬けにしたり、醤油やわさびをつけたりしてもアニサキス幼虫は死にません。
アニサキスを殺すためには-20℃で24時間以上、または-18℃で48時間以上の冷凍を行うか、中心温度60℃以上で1分以上の加熱を行う必要があります[40]。
新鮮なうちに下ごしらえをして食べるよう心掛け、不安な場合はこれらの処理を行うようにしましょう。
[39] 厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
[40] 農林水産省「海の幸を安全に楽しむために ~アニサキス症の予防~」
[41] 一般社団法人 大日本水産会 魚食普及推進センター「アニサキス対策にもなる便利な冷凍 解凍5分で刺身が食べられる時短料理に!」
ポイント2 新鮮なものを選ぶ
アニサキスを予防するためにも、イカのおいしさを楽しむためにも、新鮮なイカを選びたいものですよね。
では、新鮮なイカを選ぶにはどのような点に注意すれば良いのでしょうか。
新鮮なイカを選ぶコツをご紹介しましょう。
丸ごとのイカを買う際は、まずは目をチェックしましょう。
目が黒々としていて、つやのあるものほど新鮮です。
また、胴体に立体感があるかもポイントです。
鮮度が落ちると中の内臓ごと平べったくなってしまうので、胴体が膨れているものを選びましょう。
また身に透明感があり、皮は赤黒い色をしているものを選ぶこともポイントです。
イカは生きている間や死んだ直後には、透明感が強く薄い色味をしています。
しかし死後硬直が進むと筋肉が収縮することで「色素胞」と呼ばれる器官が大きくなり、体の全体が赤黒く見えるようになります。
一般に流通しているイカであれば、このタイミングの赤黒くなっているものが新鮮であるといえるでしょう。
なお、刺身の場合、透き通っていて、身にハリがあるものが新鮮だといわれています。
新鮮なイカを選び、そのおいしさを楽しんでくださいね。
ポイント3 調理法や食べ合わせを工夫する
イカは生で刺身にする他、煮ても焼いても揚げてもおいしく楽しめる食材です。
そのときの気分や自分の好みに合わせ、さまざまな調理法を試してみると良いでしょう。
ただし、イカに含まれる栄養素や成分を効率的に摂取する、体に必要な栄養素を十分摂取するという観点からはおすすめの調理法があるといえます。
イカに含まれるEPAやDHAは熱に弱いといわれています。
このため加熱し過ぎないよう注意が必要です。
新鮮なイカであれば、お刺身で楽しむのが良いといえますね。
またタウリンは水溶性であるため、煮汁も一緒に食べられるような料理にすると効率的に摂取できるといわれています。
さらに、イカに含まれていない栄養素を含む他の食材と組み合わせるのもおすすめです。
イカにはカルシウムがあまり含まれていないため、カルシウムが豊富なチーズなどと合わせるのも良いでしょう。
さまざまな料理を通じてイカのおいしさを味わってみてくださいね。
6.イカの栄養についてのまとめ
イカは軟体動物の一種で、たこと共に頭足類に分類されています。
世界では約500種類が確認されていますが[42]、食用とされているのは数十種類です。
日本でよく食べられるイカにはこうイカ、するめイカ、やりイカ、けんさきイカ、あかイカ、ほたるイカなどがあります。
日本で水揚げされるイカの多くはするめイカであるため、この記事ではするめイカの栄養素や成分をご紹介しました。
するめイカは高たんぱく低脂質の食材で、そのカロリーは100g当たり76kcalです[43]。
するめイカにはたんぱく質の他、ビタミンEやナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、ビオチンといったビタミン、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅といったミネラルが豊富に含まれています。
またするめイカはビタミンDやビタミンB1、ビタミンB2、パントテン酸も含んでいます。
この他にDHAやEPAといった必須脂肪酸、栄養ドリンクの成分として知られるタウリンも含んでいます。
イカは体に重要なさまざまな栄養素・成分の摂取源になる食材だといえるでしょう。
イカにはアニサキス幼虫が寄生している場合があるため、新鮮なものを選ぶこと、十分に冷凍・加熱することが重要です。
調理法や食べ合わせを工夫し、イカをさまざまな料理に活用してくださいね。
[42] 全国いか加工業協同組合「イカ学Q&A60」
[43] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」