「ビタミンDってどんな効果があるんだろう?」
「骨が丈夫になるって聞いたけど本当?」
このように気になっているという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
名前を見聞きすることも多いビタミンDですが、具体的なはたらきについて知る機会はあまりありませんよね。
ビタミンDは身体に必要な栄養素の一つですが、実は摂り過ぎると悪影響が生じる可能性もあります。
この記事ではビタミンDとはどのような栄養素なのか、はたらきから適切な摂取量、過不足の影響などについて詳しくご説明します。
1.ビタミンDとは
「そもそもビタミンDってどんな栄養素なんだろう?」
と気になっている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ビタミンDは油に溶けやすい「脂溶性ビタミン」の一つです。
化学的には植物性の「ビタミンD2」と動物性の「ビタミンD3」に分けられます。
ビタミンDは食品から摂取するほか、身体の中で合成することでも供給されます。
動物の皮膚では紫外線を浴びることでビタミンD3が合成されるのです。
そのため日光に当たる機会が少ない方は特に不足しやすい傾向にあるといわれています。
ビタミンDは主に、小腸や腎臓でカルシウムとリンの吸収を促進するはたらきをしています。
カルシウムが骨や歯を作るミネラルであることは皆さんご存じですよね。
そのほかに血液凝固や筋肉の収縮にも関わっています。
またリンはカルシウムとともに骨格を形成したり、エネルギーや脂質の代謝において重要な役割を担ったりするミネラルです。
骨を作る2つのミネラルの吸収に関わっているビタミンDは、「骨を強くする」などといわれています。
2.ビタミンDの過不足で生じる影響
「ビタミンDが不足してしまったらどうなるんだろう?」
と不安に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に日光に当たる機会が少ない方は皮膚でのビタミンD合成量が減り、ビタミンDが不足してしまっているかもしれません。
また摂り過ぎた場合に身体に影響がないのかという点も気になりますよね。
実はビタミンDは摂り過ぎた場合にも身体に悪影響が生じる可能性のある栄養素です。
ここではビタミンDの過不足によって生じる身体への影響についてご説明しましょう。
2-1.ビタミンDの不足で生じる影響
ビタミンDの不足は食事から十分に摂れなかった場合のほか、日光に当たる時間が短かった場合にも起こります。
ビタミンDが不足するとカルシウムの吸収率が低下してしまうためうまく骨を作ることができなくなってしまいます。
子どもでは「くる病」、大人では「骨軟化症」という病気になってしまう可能性があるのです。
また高齢の方はビタミンD不足が長く続くと骨粗しょう症のリスクが高まるといわれています。
ビタミンDは骨の健康を保つために重要な栄養素だといえるでしょう。
2-2.ビタミンDの過剰摂取による影響
「不足したらいけないのなら、たくさん摂っておけば良いのかな?」
と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし脂溶性ビタミンであるビタミンDは排泄されにくく、過剰に摂取すると体に良くない影響が起こる可能性があるので注意が必要です。
過剰になるとそれに伴って血液中のカルシウムやリンの濃度が上がり、腎臓や筋肉にカルシウムが沈着したり、軟組織の石灰化が起こったりしてしまいます。
食事やサプリメントによる摂り過ぎに注意するようにしましょう。
紫外線を浴びて生み出されるビタミンDの量は必要に応じて調節されるため、日光の当たり過ぎによって過剰になることはないのでご安心くださいね。
【関連情報】 「骨粗しょう症のリスク」についてもっと知りたい方はこちら
3.ビタミンDの食事摂取基準と平均摂取量
「ビタミンDが体に必要なのは分かったけれど、1日にどれくらい摂れば良いんだろう?」
というのが気になる点ですよね。
また、
「今の食生活で十分な量のビタミンDが摂取できているのかな?」
という疑問を抱いている方もいらっしゃるかもしれません。
ビタミンDは不足しても過剰になっても身体に悪影響が生じてしまう可能性があります。
ここではビタミンDをどれだけ摂るべきなのか、日本人は平均的にどれくらいの量を摂取しているのかをご紹介しましょう。
3-1.ビタミンDの食事摂取基準
厚生労働省は健康の保持・増進のため、摂取することが望ましい栄養素の量の基準を「食事摂取基準」として発表しています。
ビタミンDの食事摂取基準を確認してみましょう。
【ビタミンDの食事摂取基準(μg/日)】
男性 | 目安量 | 耐容上限量 |
---|---|---|
18歳以上 | 8.5μg | 100μg |
女性 | 目安量 | 耐容上限量 |
---|---|---|
18歳以上 | 8.5μg | 100μg |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに作成
ビタミンDの場合、過剰摂取をしても体に害がおよぶ可能性があるため、摂取の目安量の他に耐容上限量も定められています。
サプリメントなどで過剰摂取しないよう注意してくださいね。
3-2.ビタミンDの平均摂取量
食事摂取基準を見ても、普段の食生活で実際どれくらい摂取できているのかあまりピンときませんよね。
そこで日本人の平均摂取量と食事摂取基準を比較してみましょう。
厚生労働省の「平成30年国民健康・栄養調査」によれば、20歳以上の日本人の1日当たりのビタミンD平均摂取量は7.0μgです*5。
平均摂取量は1日当たり8.5μgという摂取目安量を満たしていないことが分かりますね。
またビタミンDが欠乏・不足している方は男性で72.5%、女性で88.0%にもおよぶという調査結果も出ています*6。
つまり、多くの方は不足している状況にあるのです。
ビタミンDは食事から摂取するだけでなく日光に当たることで皮膚でも生成されるため、適度な日光浴を心掛け、日照時間も踏まえて摂取することが重要だといわれています。
「ビタミンDを摂る代わりに日光を浴びても良いってこと?」
と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、紫外線とそれにより産生されるビタミンDの量は住んでいる土地や季節、天候や時間帯などによって大きく異なるため、「これだけの時間外に出れば十分な産生量が期待できる」というものではありません。
また紫外線の浴び過ぎは皮膚や目に悪影響を及ぼすこともあります。
平均的な食事を摂取している場合、日光浴は日差しの強さに合わせて15〜30分程度行えば十分な量のビタミンDを供給できるものと考えられています*7。
紫外線照射による産生に頼るのではなく、食事から適切な量摂取することを心掛けた方が良いといえるでしょう。
*5 厚生労働省「平成30年国民健康・栄養調査」
*6 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
*7 環境省「紫外線環境保健マニュアル2008」
4.ビタミンDを豊富に含む食べ物
ビタミンDは魚類やきのこ類に多く含まれています。
以下に、ビタミンDが多く含まれる食品の中で、普段の食事に取り入れやすいものをまとめました。
【ビタミンDが含まれる食品と可食部100g当たりの含有量】
食品名 | 可食部100g当たりのビタミンD含有量 |
---|---|
酒盗 | 120.0μg |
あん肝(生) | 110.0μg |
紅鮭(生) | 33.0μg |
さんま(生) | 16.0μg |
ひらめ(生) | 3.0μg |
うなぎ(生) | 18.0μg |
まがれい(生) | 13.0μg |
まさば(生) | 5.1μg |
しらす干し(半乾燥) | 61.0μg |
干ししいたけ(乾燥) | 0.2μg |
まいたけ(生) | 4.9μg |
エリンギ(生) | 1.2μg |
卵黄(生) | 12.0μg |
全卵(生) | 3.8μg |
普通牛乳 | 0.3μg |
文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」をもとに執筆者作成
ビタミンDは野菜や穀物などにはほとんど含まれていないので、普段の食事のなかにこれらの食品を意識して取り入れていきましょう。
また、脂溶性ビタミンであるビタミンDは、脂質と一緒に摂取すると吸収が良くなります。
脂質を含んだ動物性食品である魚類などを意識して摂取するか、きのこ類を揚げたり炒めたりして食べるのがおすすめです。
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5.ビタミンDについて気になる疑問
「ビタミンDを摂ると筋力がアップするって聞いたけど本当?」
「免疫力が高まるって聞いたんだけど、風邪予防に効果があるのかな?」
ビタミンDについてこれまで見聞きした情報が気になっているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここではビタミンDについて気になる疑問の答えをお教えします。
【ビタミンDに関するよくある疑問】
- Q1 骨が丈夫になる?
- Q2 筋力アップになる?
- Q3 免疫力が上がって風邪を引きにくくなる?
- Q4 生活習慣病の予防に効く?
Q1 骨が丈夫になる?
「ビタミンDを摂ると骨が丈夫になる」と聞いたことがある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ビタミンDはカルシウムやリンといった骨を作るミネラルの吸収を促進するはたらきを持っています。
不足の状態が続くと、健康で丈夫な骨を作ることができなくなってしまうのです。
そのためビタミンDは「骨の形成を助ける栄養素」として、一定量以上を含む食品に栄養機能表示を行うことが認められています。
骨の健康を保つためには材料となるカルシウムやリンとともに、その吸収に欠かせないビタミンDをしっかり摂っておくことが重要なのですね。
Q2 筋力アップになる?
「ビタミンDを摂ると筋力がアップする」などと聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
ビタミンDを摂ることで筋力が増すとはいいきれませんが、ビタミンDが筋力維持に関わっていることは近年注目を集めています。
特に高齢の方は、筋力が低下すると急にバランスが崩れた際などに踏ん張ることができず、転んでしまう可能性が高くなります。
ビタミンD不足は転倒のリスクを高めると考えられているのです。
75歳以上の日本人女性1,393人を対象とした研究では、血液中のビタミンD濃度が低かった群の方が転倒のリスクが高かった*1という結果が出ています。
またイギリスで4,157人の高齢者を対象として行われた調査では、ビタミンDの不足と筋力・パフォーマンスの低下に関連があった*2ことが報告されています。
ビタミンDを十分に摂取しておくことで筋力を維持し、転倒のリスクやパフォーマンスの低下を防ぐことができると考えられるのですね。
*1 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
*2 Niamh Aspell, Eamon Laird, Martin Healy, Brain Lawlor, and Maria O'Sullivan「Vitamin D Deficiency Is Associated With Impaired Muscle Strength And Physical Performance In Community-Dwelling Older Adults: Findings From The English Longitudinal Study Of Ageing」(『Clin Interv Aging』2019, 14, 1751-1761)
Q3 免疫力が上がって風邪を引きにくくなる?
「ビタミンDには免疫力を上げる効果があるから、風邪予防のために摂った方が良い」と聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は複数の研究においてビタミンDの摂取は気道感染症の感染リスクを下げなかったという結果が出ており、現時点ではビタミンDの摂取が風邪の予防に直結するとはいえないようです。
ただし免疫力を維持するためにはバランス良く栄養を摂ることが重要です。
ビタミンDは不足しがちな栄養素の一つなので、意識して摂取するよう心掛けると良いでしょう。
Q4 生活習慣病の予防に効く?
「ビタミンDを摂ると生活習慣病の予防になるのかな?」
と気になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
生活習慣病は特定の病気の名前ではなく、食生活や運動の頻度、喫煙や飲酒の程度などの生活習慣がその発症や進行に関わる病気の総称です。
厚生労働省は日本人の三大死因であるがん・脳血管疾患・心疾患や、脳血管疾患や心疾患のリスクを高める動脈硬化症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などをいずれも生活習慣病としています*3。
非常に幅広い疾患が含まれるため、一概に「ビタミンDは生活習慣病の予防に役立つ」とはいいきれませんが、実はビタミンDは心血管系や免疫系に対してさまざまな作用があることが報告されています*4。
また、ビタミンDの不足が発がんリスクを高めるという研究結果も発表されています*4。
このように、ビタミンDは健康を維持するために重要な栄養素なのですね。
また偏った食事はさまざまな生活習慣病の要因です。
健康のためにはビタミンDだけでなく身体に必要な栄養素を過不足なく摂取しておくことが重要だといえるでしょう。
*3 厚生労働省 e-ヘルスネット「生活習慣病」
*4 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
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6.ビタミンDの効果と摂取の注意点についてまとめ
ビタミンDはカルシウムとリンという骨を作るミネラルの吸収に関わる栄養素です。
不足すると骨軟化症や高齢者の方では骨粗しょう症になるリスクがあり、「骨を丈夫にする」といわれています。
食品から摂取するほか、紫外線によって皮膚で産生するという供給方法もありますが、日本人の平均摂取量は摂取目安量を満たせていません。
ビタミンDは骨の形成をサポートするほかにも筋力維持や新血管系・免疫系などへの作用が報告されているため、不足しないようきのこ類や魚類などのビタミンDを多く含む食品を積極的に摂取するのが良いでしょう。
ただし摂り過ぎると余分なカルシウムが組織に沈着してしまうため、サプリメントなどでの過剰摂取には注意が必要です。