「ナイアシンはどんな栄養素なんだろう?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ナイアシンは栄養素のなかでは比較的知名度が低いといえるかもしれません。
しかし実はナイアシンは体の機能を正常に保つのに欠かせない重要な栄養素の一つです。
ビタミンの一種で、体内のさまざまな機能に関わっています。
この記事ではナイアシンのはたらきや1日に摂るべき量、摂取源となる食品などをご紹介します。
1.ナイアシンとは
「ナイアシンはビタミンなの?」
「ナイアシンにはどんなはたらきがあるんだろう?」
あまり名前を見聞きする機会のないナイアシンについてこのように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ナイアシンはヒトの体を正常に保つ上で非常に重要な栄養素の一つです。
まずはナイアシンとはどのような物質なのか、体内でどのようにはたらくのかご説明しましょう。
【関連情報】 「ビタミンとは?13種類のビタミンのはたらきと食事摂取基準を紹介」についての記事はこちら
1-1.ナイアシンの基礎知識
ナイアシンは水に溶け、油に溶けにくい水溶性ビタミンの一種です。
またビタミンB群に分類されるビタミンでもあります。
ビタミンB群とは水溶性ビタミンのうち、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチンの八つのビタミンのことです。
ビタミンB群はヒトが生きていくために必要なエネルギーを体内でつくり出すはたらきに不可欠な栄養素です。
さまざまな代謝に補酵素として関わり、互いに助け合ってはたらきます。
詳しくは後述しますが、ビタミンB群の一種であるナイアシンも、体内でエネルギーをつくるはたらきにおいて重要な役割を果たします。
なお体内でナイアシンとしてはたらく物質には主に「ニコチンアミド」「ニコチン酸」「トリプトファン」があります。
ニコチンアミドは動物性食品に、ニコチン酸は植物性食品に含まれます。
またトリプトファンはたんぱく質を構成する必須アミノ酸の一種ですが、食事から摂取したトリプトファンの1/60は体内でナイアシンに変換されます[1]。
このため食品のナイアシン含有量は、ニコチンアミドおよびニコチン酸の含有量にトリプトファンから合成されるナイアシンの量を足した「ナイアシン当量(mgNE)」で表されます。
[1] 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アミノ酸」
1-2.ナイアシンの作用
体内でのナイアシンのはたらきは多岐にわたるため、順にご説明しましょう。
ナイアシンは体のエネルギー源となる「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質をつくり出すはたらきに関わっています。
ATPは全ての動物や植物、微生物の細胞内に存在するエネルギー源です。
ヒトの体内では筋肉を構成する筋線維に蓄えられ、筋肉の収縮などに関わっています。
しかし筋線維に蓄えられるATPはわずかであるため、長時間運動を続けるためにはATPをつくり続ける必要があります。
またナイアシンはビタミンCやビタミンEを介して活性酸素に対抗するはたらきにも関わります。
活性酸素は、呼吸で取り込まれた酸素の一部が体内で通常よりも活性化されたものです。
微量の活性酸素は細胞伝達物質や免疫機能として体内で必要とされますが、増え過ぎると細胞を傷つけ、老化や免疫機能の低下、がん、動脈硬化などの原因となります。
体内には活性酸素の増え過ぎやそれによる悪影響を防ぐ「抗酸化防御機能」と呼ばれる機能が備わっています。
抗酸化防御機能には体内でつくられる酵素を利用するものと、食事などから摂取するビタミンCやビタミンEなどの抗酸化作用(活性酸素に対抗する作用)を持つ物質を利用するものがあります。
またこの他に、ナイアシンは脂肪酸やステロイドホルモンの合成にも関与しています。
脂肪酸は脂肪の構成要素です。
ステロイドホルモンは脂質の一種であるコレステロールを原料として合成される「ステロイド」をベースとしたホルモンで、副腎皮質と生殖腺でつくられます。
ステロイドホルモンには「コルチゾール」などの「副腎皮質ホルモン」と、「テストステロン」のような男性ホルモン、「プロゲステロン」などの女性ホルモンが含まれます。
このようにナイアシンはさまざまな重要なはたらきに関わっているのですね。
なお、ナイアシンを一定量含む食品は「ナイアシンは皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。」と表示し、栄養機能食品として販売することが認められています。
[3] 消費者庁 「知っていますか?栄養機能食品」
2.ナイアシンの過不足による影響
「ナイアシンが不足するとどうなるんだろう?」
「ナイアシンは摂り過ぎても良くないのかな?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ナイアシンは体に必要な栄養素の一種であるため、不足すると体に不調が現れる恐れがあります。
また栄養素は摂り過ぎても体に悪影響を及ぼします。
ここではナイアシンの過不足による体への影響をご紹介しましょう。
2-1.ナイアシンが不足した場合
まずはナイアシンが不足した場合の悪影響をご紹介します。
ナイアシンが深刻に不足すると、「ペラグラ」という病気を発症します。
ペラグラの主な症状には皮膚炎や下痢、精神神経障害などがあり、適切な治療を行わなかった場合には死に至ります。
ただしナイアシンの不足はとうもろこしを主食とする人や、ビタミンB6が欠乏している人、結核の薬「イソアニジド」を服用している人、代謝異常の持病がある人などに起こりやすく、通常の食生活を送っている健康な方には起こりにくいと考えられます。
このため国内ではペラグラの症例はほとんどありません。
まれにアルコール依存症の方でたんぱく質や他のビタミンと共にナイアシンが不足しているケースが見られますが、ペラグラを発症する心配はあまりないといえるでしょう。
2-2.ナイアシンを過剰摂取した場合
多くの水溶性ビタミンは過剰摂取しても尿として排出されるため、過剰摂取による悪影響を心配する必要はあまりありません。
しかしナイアシンを摂り過ぎた場合は体に不調が現れる恐れがあります。
動物性食品に含まれるニコチンアミドを摂取し過ぎると、胃腸や肝臓の機能に異常を来したり、消化性潰瘍を悪化させたりする恐れがあります。
また植物性食品に含まれるニコチン酸を過剰摂取すると一時的に顔が紅潮したりむずがゆくなったりする「フラッシング」と呼ばれる症状が現れる場合があります。
サプリメントなどで過剰に摂取してしまわないよう注意しましょう。
3.ナイアシンの食事摂取基準と平均摂取量
「ナイアシンは1日にどれくらい摂取すれば良いんだろう?」
普段の食事で栄養素の摂取量を意識することはなかなか難しいものですよね。
しかし栄養素の過剰摂取や不足は体調不良を招いてしまうため、健康のためには適切な量を摂取しておきたいところです。
この章では、ナイアシンの食事摂取基準と平均摂取量をご紹介しましょう。
3-1.ナイアシンの食事摂取基準
厚生労働省は1歳以上の男女についてナイアシンの「推定平均必要量」「推奨量」および「耐容上限量」を設定しています。
推定平均必要量とは半数の人が必要量を満たす量のことです。
ナイアシンの推定平均必要量は以下のとおりです。
【ナイアシンの推定平均必要量(mgNE/日)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1〜2歳 | 5 | 4 |
3〜5歳 | 6 | 6 |
6〜7歳 | 7 | 7 |
8〜9歳 | 9 | 8 |
10〜11歳 | 11 | 10 |
12〜14歳 | 12 | 12 |
15〜17歳 | 14 | 11 |
18〜29歳 | 13 | 9 |
30〜49歳 | 13 | 10 |
50〜64歳 | 12 | 9 |
65〜74歳 | 12 | 9 |
75歳以上 | 11 | 9 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
また授乳婦の方は、年代別の推定平均必要量に3mgNEの付加量が設定されています[4]。
推奨量は推定平均必要量を補助するために設定されたもので、ほとんどの人にとって十分だといえる量です。
ナイアシンの推奨量は以下のとおりです。
【ナイアシンの推奨量(mgNE/日)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1〜2歳 | 6 | 5 |
3〜5歳 | 8 | 7 |
6〜7歳 | 9 | 8 |
8〜9歳 | 11 | 10 |
10〜11歳 | 13 | 10 |
12〜14歳 | 15 | 14 |
15〜17歳 | 17 | 13 |
18〜29歳 | 15 | 11 |
30〜49歳 | 15 | 12 |
50〜64歳 | 14 | 11 |
65〜74歳 | 14 | 11 |
75歳以上 | 13 | 10 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
また推奨量においても、授乳婦の方を対象に3mgNEの付加量が設定されています[4]。
授乳中の方は年代別の推奨量に3mgNEを加えた量を摂取するよう心掛けましょう。
ナイアシンは摂り過ぎると健康に害を及ぼすため耐容上限量が設定されています。
耐容上限量は過剰摂取によって健康が害されるのを防ぐために設定されたものです。
なお、動物性食品に含まれるニコチンアミドと、植物性食品に含まれるニコチン酸では異なる耐容上限量が設定されているため注意してください。
ナイアシンの耐容上限量は以下のとおりです。
【ニコチンアミドの耐容上限量(mg/日)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1〜2歳 | 60 | 60 |
3〜5歳 | 80 | 80 |
6〜7歳 | 100 | 100 |
8〜9歳 | 150 | 150 |
10〜11歳 | 200 | 150 |
12〜14歳 | 250 | 250 |
15〜17歳 | 300 | 250 |
18〜29歳 | 300 | 250 |
30〜49歳 | 350 | 250 |
50〜64歳 | 350 | 250 |
65〜74歳 | 300 | 250 |
75歳以上 | 300 | 250 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
【ニコチン酸の耐容上限量(mg/日)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1〜2歳 | 15 | 15 |
3〜5歳 | 20 | 20 |
6〜7歳 | 30 | 30 |
8〜9歳 | 35 | 35 |
10〜11歳 | 45 | 45 |
12〜14歳 | 60 | 60 |
15〜17歳 | 70 | 65 |
18〜29歳 | 80 | 65 |
30〜49歳 | 85 | 65 |
50〜64歳 | 85 | 65 |
65〜74歳 | 80 | 65 |
75歳以上 | 75 | 60 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
推奨量と耐容上限量を参考に、ナイアシンが不足したり過剰になったりしないよう注意しましょう。
[4] 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3-2.ナイアシンの平均摂取量
「普段の食事でナイアシンを十分に摂取できているのかな?」
このように疑問に思っても、ご自身のナイアシンの摂取量を把握するのは難しいものです。
そこで、ここではナイアシンの平均摂取量をご紹介しましょう。
一般的な食生活でどれくらいのナイアシンが摂取できるのか参考になるでしょう。
年代別のナイアシンの平均摂取量は以下のとおりです。
【ナイアシンの平均摂取量(mgNE/日)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1〜6歳 | 18.6 | 16.9 |
7〜14歳 | 29.8 | 27.4 |
15〜19歳 | 36.8 | 30.1 |
20〜29歳 | 33.6 | 25.6 |
30〜39歳 | 33.0 | 26.6 |
40〜49歳 | 35.4 | 28.6 |
50〜59歳 | 33.9 | 27.9 |
60〜69歳 | 35.6 | 30.3 |
70〜79歳 | 35.4 | 30.5 |
80歳以上 | 31.0 | 26.0 |
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」をもとに執筆者作成
ナイアシンの推奨量と比較すると、全年代において平均摂取量が推奨量を上回っていることが分かります。
つまり、通常の食生活を送っていればナイアシンを十分に摂取できていると考えられるでしょう。
4.ナイアシンの摂取源となる食品
「ナイアシンはどんな食べ物に含まれているんだろう?」
このように気になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
ナイアシンは動物性食品にも植物性食品にも含まれています。
この章では、動物性食品と植物性食品に分け、ナイアシンの摂取源となる食品をご紹介しましょう。
4-1.動物性食品
ナイアシンの摂取源となる動物性食品は以下のとおりです。
【ナイアシンの摂取源となる動物性食品と100g当たりのナイアシン当量】
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
たらこ(すけとうだら) | 生 | 54.0mg |
びんなが(びんちょうまぐろ) | 生 | 26.0mg |
かつお(春獲り) | 生 | 24.0mg |
かつお(秋獲り) | 生 | 23.0mg |
豚レバー | 生 | 19.0mg |
くろまぐろ(天然・赤身) | 生 | 19.0mg |
牛レバー | 生 | 18.0mg |
鶏ささみ | 生 | 17.0mg |
鶏むね肉 | 生、皮なし | 17.0mg |
くじら(赤肉) | 生 | 17.0mg |
まさば | 生 | 16.0mg |
みなみまぐろ(赤身) | 生 | 15.0mg |
ぶり | 生 | 14.0mg |
豚ロース(赤肉) | 生 | 13.0mg |
豚ヒレ肉(赤肉) | 生 | 12.0mg |
牛サーロイン(赤肉) | 生 | 11.0mg |
プロセスチーズ | - | 5.0mg |
卵黄(鶏卵) | 生 | 3.8mg |
全卵(鶏卵) | 生 | 3.2mg |
クリームチーズ | - | 2.1mg |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
たらこはとりわけナイアシン含有量が多く、100gで成人の推奨量の4〜5倍近い量を摂取できることが分かります。
またこの他にも100gで1日の摂取推奨量を摂取できる食品がいくつかあるので、ナイアシンの摂取量を増やしたい場合には手に取ってみると良いでしょう。
4-2.植物性食品
ナイアシンの摂取源となる植物性食品は以下のとおりです。
【ナイアシンの摂取源となる植物性食品と100g当たりのナイアシン当量】
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
らっかせい | いり | 28.0mg |
黄大豆(米国産、全粒) | 乾燥 | 10.0mg |
玄米 | 炊飯前 | 8.0mg |
アーモンド | いり、無塩 | 7.5mg |
えのきたけ | 生 | 7.4mg |
カシューナッツ | フライ、味付け | 7.0mg |
エリンギ | 生 | 6.7mg |
ぶなしめじ | 生 | 6.4mg |
油揚げ | 生 | 6.2mg |
そば | 乾麺 | 6.1mg |
マカロニ、スパゲッティ | 乾麺 | 4.9mg |
納豆 | - | 4.6mg |
えだまめ | 生 | 4.2mg |
しいたけ(菌床栽培) | 生 | 4.0mg |
全粒粉パン | - | 3.7mg |
ロールパン | - | 3.1mg |
そらまめ(未熟豆) | 生 | 2.9mg |
とうもろこし(スイートコーン) | 生 | 2.8mg |
アボカド | 生 | 2.3mg |
ブロッコリー | 生 | 2.0mg |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
植物性食品のナイアシン含有量は動物性食品でナイアシンを多く含むものより少ない傾向にあることが分かります。
しかしこれらもナイアシンの摂取源になり得るのでバランス良く摂取することを心掛けましょう。
5.ナイアシンについてのまとめ
ナイアシンは水溶性ビタミンで、ビタミンB群の一種です。
ナイアシンとしてはたらく物質には動物性食品に含まれるニコチンアミド、植物性食品に含まれるニコチン酸、体内で一部がナイアシンに変換される必須アミノ酸のトリプトファンがあります。
ナイアシンは体内で体のエネルギー源となるATPの産生に関わっています。
またビタミンCやビタミンEを利用して活性酸素に対抗するはたらきや、脂肪酸およびステロイドホルモンの合成にも関与します。
あまり見聞きする機会のないビタミンですが、非常に重要な役割を果たしているのですね。
ナイアシンが不足した場合、皮膚炎や下痢、精神神経障害などの症状があるペラグラという病気を発症する恐れがあります。
しかし国内ではペラグラ患者はまれといわれています。
また過剰摂取の影響は、ニコチンアミドとニコチン酸で異なります。
ニコチンアミドを過剰摂取した場合には、胃腸や肝臓の機能に異常を来したり、消化性潰瘍が悪化したりします。
一方でニコチン酸を過剰摂取した場合には、顔の紅潮やむずがゆさなどが生じる「フラッシング」と呼ばれる症状が現れます。
ナイアシンは過不足なく摂取することが重要なのですね。
なお、厚生労働省が定める成人の1日当たりのナイアシン推奨量は男性の場合13〜15mgNE、女性の場合10〜12mgNEです[5]。
「令和元年 国民健康・栄養調査」の結果によればナイアシンの平均摂取量は全年代で推奨量を上回っており、一般的な食事を摂っていれば十分な量のナイアシンが摂取できていると考えられます[6]。
ナイアシンは動物性食品からも植物性食品からも摂取できるので、不足したり摂り過ぎたりしないよう意識してみましょう。
[5] 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
[6] 厚生労働省 「令和元年 国民健康・栄養調査」