「睡眠にはサイクルがあるって聞いたけどどんなものなんだろう?」
「気持ち良く目覚めるためにはどうすれば良いんだろう?」
睡眠の質や量についてお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
気持ち良く目覚めるためには十分な睡眠時間を確保することだけでなく、睡眠の質を高めることも重要です。
眠りには一定のサイクルやリズムがあり、それらを整えることで良質な睡眠をとることができます。
この記事では睡眠のサイクルに焦点を当てて眠りのメカニズムを解説するとともに、気持ち良く眠るためのコツをご紹介しています。
睡眠のサイクルが乱れると起こる悪影響やその原因についても触れているので、ぜひ参考にしてくださいね。
1.睡眠のサイクルとは
「睡眠にはどんなサイクルがあるんだろう?」
睡眠のサイクルには就寝中の脳のはたらきによるものと、1日のリズムを調整する体内時計によるものがあります。
まずはそれぞれがどのようなものなのか解説しましょう。
【関連情報】 「睡眠は時間だけでなく質も重要!ぐっすり眠るための7つの秘訣とは?」についての記事はこちら
1-1.レム睡眠とノンレム睡眠
ヒトは眠っている間、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を繰り返しています。
眠りにつくとまずノンレム睡眠が始まり、その後は90〜120分周期でレム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返されます[1]。
また朝方になるにつれてレム睡眠の持続時間が長くなり、覚醒に向けて準備を整えます。
一夜の睡眠全体ではノンレム睡眠が約80%、レム睡眠が約20%を占めるのが普通です[1]。
では、それぞれの睡眠にはどのような違いがあるのでしょうか。
レム睡眠中は比較的脳のはたらきが活発なため、夢を見ることが多く、脳内で情報整理が行われているとされています。
脳が活発である一方、体の筋肉が弛緩(しかん)することから「体の睡眠」と呼ばれることもあります[2]。
ノンレム睡眠中は脳のはたらきが低下するため、大脳が休養を取っていると考えられています。
このことからノンレム睡眠は「大脳の睡眠」と呼ばれます。
ヒトは役割の違う二つの睡眠を交互にスイッチすることで、疲労やストレスから回復し、体の機能を維持しているのですね。
2021年に発表された研究では、ノンレム睡眠だけではなくレム睡眠も、学習や記憶に重要であることが分かってきています[3]。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「レム睡眠」
[2] 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団「睡眠」
[3] 玉置應子『生理心理学と精神生理学』39(1)36‒51, 2021
1-2.概日リズムと体内時計
朝起きて夜寝るといった一見当たり前のことにも、睡眠のサイクルが関わっていることをご存じでしょうか。
ヒトの体には規則正しい睡眠と覚醒のリズムを保つための体内時計が備わっており、これによって制御された約1日のサイクルを「概日リズム」と呼びます[4]。
地球の1日の周期は24時間ですが、概日リズムの周期は約25時間です[4]。
そのためヒトは隔離された環境で時刻と関係なく過ごすと、1日ごとに就寝時間と起床時間がそれぞれ約1時間ずつ遅れていくことが分かっています[4]。
しかし、普通に暮らしていて就寝時間が少しずつずれていくことはほぼありませんよね。
それは私たち人間が外界からさまざまな刺激を受けて、ずれを修正しているからです。
こういった刺激のことを同調因子といい、なかでも光は強力な同調因子として知られています。
たとえば朝に光を浴びると体内時計がリセットされ、地球の24時間周期と同調することが分かっています。
他にも食事や運動のような身体的要因、仕事や学校などの社会的要因も同調因子としてはたらいていると考えられます。
私たちの睡眠のサイクルは外界から適切な刺激を受けることで成り立っているのですね。
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠・覚醒リズム障害」
2.睡眠のサイクルが乱れる原因
「よく眠れない」
「しっかり寝ているのに疲れが取れない」
眠りの質が下がってしまっているのは、睡眠のサイクルが乱れているからかもしれません。
例えばノンレム睡眠への移行がうまくできず、レム睡眠の状態が長く続くと眠りは浅くなります。
また概日リズムのずれによって睡眠と覚醒のリズムに乱れが生じている可能性もあります。
その結果、睡眠時間をしっかり確保しているにもかかわらず寝た気がしなかったり、疲れが取れなかったりといった症状が現れるのです。
こういった不調が現れる原因は多種多様ですが、特に強力な同調因子である光の影響は無視できません。
夜に明るい照明の下で過ごすことも多い現代社会は、睡眠のサイクルのずれを修正しにくい環境であるといえます。
特にシフト制で夜間の勤務がある方などは、光の浴び方を十分に意識する必要があります。
次の章では睡眠のサイクルを適切に保ち、快眠につなげるためのコツをご紹介します。
3.睡眠のサイクルを適切に保つ快眠のコツ
「睡眠のサイクルを維持するには何をすれば良いんだろう?」
睡眠のサイクルを保つことは、睡眠の質を保つことでもあります。
この章では睡眠のサイクルを適切に保つ快眠のコツを五つご紹介します。
コツ1 自分に合った睡眠時間を見つける
睡眠が進むほどノンレム睡眠に対するレム睡眠の割合が高くなり、脳が覚醒する準備が整います。
この準備段階で目覚めることができると、すっきりと快適に起きることができます。
しかし、レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルは90〜120分と個人差がある上、同じ人でも季節や年齢によって必要な睡眠時間は変わっていきます[5]。
そのため一概に「何時間寝るのが良い」とはいえません。
自分に合った睡眠時間を見つけるには、眠たくなったら寝床に入り、起きる時間は変えないことが重要です。
眠たくないのに無理に寝床についても、「眠ろう」というプレッシャーのせいでかえって目がさえてしまうことがあります。
眠気を感じたタイミングで寝床に入ることでこのようなプレッシャーを避け、自然に眠りにつくことができます。
また毎日同じ時刻に起きて光を浴びることで、眠気が生じる時間を安定させることができます。
睡眠時間が足りているか判断するには、日中に感じる眠気をチェックすると良いでしょう。
日中に強い眠気を感じなければ、十分な睡眠がとれているといえます。
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「レム睡眠」
コツ2 体内時計を整えるために光を浴びる
概日リズムの周期は約25時間であり、地球の1日の周期である24時間とは1時間のずれがあります[6]。
このずれを修正することができない状態が続くと、睡眠のサイクルが乱れ、規則正しい睡眠と覚醒のリズムが保てなくなります。
概日リズムを24時間に調整するためには、起床時に光を浴びることが効果的です。
朝起きたらまずカーテンを開けて、自然の光を部屋に入れるようにしましょう。
明るい光の下では入眠を促す「メラトニン」というホルモンの分泌が止まります。
逆に夜に照明などの光を浴び過ぎるとメラトニンの分泌を妨げ体内時計の乱れを招いてしまうので注意しましょう。
昼夜のめりはりをつけるためにも、就寝時には部屋を暗くしておくことをおすすめします。
光は朝寝坊しがちなお子さんや、日中の眠気が強くなる月経前の女性などが睡眠と起床のリズムを整えるときにも役立ちます。
寝坊しがちなお子さんの場合は早く寝かせるよりも早く起こすことを心掛けましょう。
毎日朝の光を浴びさせれば、少しずつお子さんの生活を朝型にできる可能性があります。
月経前の女性も日中眠くなるなど睡眠のリズムが乱れがちですが、日中にしっかり光を浴びると昼夜のめりはりがつけやすくなります。
睡眠のサイクルを保つには、生活リズムに合わせて意識的に光を浴びることが重要なのですね。
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「概日リズム睡眠障害」
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「交代勤務睡眠障害」
コツ3 適度な運動を心掛ける
習慣的に運動をしている人ほど、寝付きが良くなるとともに深い眠りにつけることが分かっています。
ただし激し過ぎる運動はかえって睡眠を妨げるため、軽めの「有酸素運動」などが推奨されます。
睡眠のサイクルを整えることを目的とするなら、夕方から夜にかけての時間帯、就寝の3時間前をめどに運動をすると良いでしょう[9]。
眠気は脳の温度が低下するときに生じやすいといわれています。
運動をすると一時的に脳の温度が上がり、その後下がるため、眠気が生じやすくなるのです。
ただし、就寝直前に運動をすると体が興奮してしまい、うまく寝付けなくなってしまうので注意してくださいね。
[8] 厚生労働省 e-ヘルスネット「エアロビクス/有酸素性運動」
[9] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
コツ4 入浴する時間を調整する
入浴のタイミングに気を配ることも、良質な睡眠のサイクルを保つことにつながります。
寝付きを良くしたいなら、入浴は就寝の2〜3時間前に済ませておきましょう[10]。
これは寝る3時間前に運動をすると寝付きが良くなるのと同じ原理で、一時的に脳の温度を上げ、ちょうど就寝時に下がるようにすると眠気を感じやすくなるためです[10]。
体温の上昇幅は0.5度ほどで良いとされており、38度のぬるめのお湯なら25〜30分、42度の熱めのお湯なら5分ほどの入浴が目安になります[10]。
また、おなかまでお湯につかる半身浴の場合は、40度のお湯で30分ほど入浴すれば良いとされています[10]。
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
コツ5 就寝前はカフェイン、ニコチンを摂取しない
カフェイン、ニコチンには覚醒作用があるため、就寝前の摂取は控えましょう。
カフェインはコーヒーや緑茶、紅茶、エナジードリンクなどに含まれる成分で、その覚醒作用は約3時間持続します[11]。
そのため最低でも就寝の3〜4時間前[11]、カフェインの作用に敏感な方は5〜6時間前から摂取を控えた方が良いでしょう[12]。
また喫煙する方は就寝前のたばこを避けるようにしましょう。
たばこに含まれるニコチンには覚醒作用があり、約1時間続くとされています[11]。
こちらも睡眠のサイクルを乱す可能性があるので、寝る前の摂取は避けた方が無難ですね。
喫煙による健康上のリスクや禁煙のポイントは以下の記事でご紹介しています。
禁煙の効果とは?健康への影響や禁煙するための方法を詳しく解説
睡眠薬代わりにアルコールを摂取する、いわゆる「寝酒」もおすすめできません。
確かにアルコールは寝付きを良くしてくれますが、睡眠自体は浅くなり、熟睡感が得られなくなります。
睡眠のサイクルを乱さないためにも、就寝前に摂取するものには十分に注意を払いましょう。
[11] 厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014」
[12] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
4.睡眠のサイクルの乱れによる悪影響
体内時計と地球の自転周期とのずれを修正できないと「概日リズム睡眠障害」と呼ばれる睡眠障害になってしまう恐れがあります。
概日リズム睡眠障害は大きく二つに分けられます。
一つ目は短時間のうちに体内時計をずらさないといけない場合に起こるもので、4〜5時間以上時差のある地域に高速で移動した際に現れる「時差症候群(時差ぼけ)」、昼勤と夜勤がある勤務形態の方に多い「交代勤務睡眠障害」などがあります[13]。
もう一つは体内時計の機能に問題がある場合に起こるものです。
これには深夜まで寝付くことができず、昼ごろまで起きられない「睡眠相後退症候群」、夕方になると眠ってしまい早朝に目が覚める「睡眠相前進症候群」、就寝時刻と起床時刻が共に毎日30〜60分ずつ遅れていく「非24時間睡眠覚醒症候群」、睡眠と覚醒のリズムが不規則になってしまう「不規則型睡眠覚醒パターン」などがあります[14]。
【概日リズム睡眠障害の分類】
- 短時間で体内時計をずらさないといけない場合に起こるもの ・時差症候群(時差ぼけ) ・交代勤務睡眠障害
- 体内時計の機能に問題がある場合に起こるもの ・睡眠相後退症候群 ・睡眠相前進症候群 ・非24時間睡眠覚醒症候 ・不規則型睡眠覚醒パターン
時差症候群や交代勤務睡眠障害などは工夫次第で改善が見込めますが、同調機能に問題がある場合は自力での修正が困難な上、社会生活に支障を来すケースも多々あります。
自覚症状がある場合は医療機関を受診して医師に相談した方が良いでしょう。
また小児には眠ったまま歩き回る「睡眠時遊行症(夢遊病)」や、眠っている最中に突然起き上がったり、悲鳴を上げたりする「夜驚症」が見られることがあります。
睡眠時遊行症は青年期にも多い病気です。
どちらも一過性のものなので、よほど症状がひどかったり、けがをしたりしない限り治療は必要ありません。
[13] 厚生労働省 e-ヘルスネット「時差症候群」
[14] 厚生労働省 e-ヘルスネット「非24時間睡眠覚醒症候群」
5.睡眠のサイクルについてのまとめ
睡眠のサイクルには就寝中の脳のはたらきによるレム睡眠・ノンレム睡眠と、1日のリズムを調整する体内時計による概日リズムの二つがあります。
深い眠りであるノンレム睡眠にうまく入れなかったり、概日リズムがずれたりすると睡眠の質は低下します。
こういった事態を避けて快眠を得るには自分に合った睡眠時間を見つけ、意識的に光を浴びて体内時計を調整することが重要です。
また運動や入浴をしたりカフェインなどを摂取したりするタイミングに気を配るだけでも寝付きは良くなります。
睡眠のサイクルが乱れる睡眠障害には「睡眠相後退(前進)症候群」、「非24時間睡眠覚醒症候群」、「不規則型睡眠覚醒パターン」などがあり、いずれも日常生活に支障を来す恐れがあるので注意しましょう。
睡眠のサイクルを整え快眠を得るために、この記事をぜひ役立ててくださいね。