「頭痛が酷いんだけど、これってもしかして脳梗塞の症状とか……?」
「脳梗塞の前兆や初期症状があるなら、知っておきたいなぁ」
今までに感じたことのない強い頭痛を経験すると、脳梗塞など重篤な病気なのではないかと不安になってしまいますよね。
脳梗塞は脳の血管が詰まる病気で、日本人の死因で第3位を占める脳卒中のなかの一つに分類されています。
脳梗塞には、脳卒中のほかにも、「脳出血」、「くも膜下出血」、「一過性脳虚血発作」があります。
脳出血は、脳梗塞と比べて後遺症が残りやすく死亡率も高くなっています。
また、くも膜下出血は、脳卒中のなかで最も死亡率が高く、重症の脳卒中です。
これらのなかでも、脳梗塞は脳卒中の過半を占める病気です。
脳の血管が詰まり、血流が悪いまま数時間程度がたつと、脳細胞は死んでしまい、生き返ることはありません。
血管の詰まり方によって、「ラクナ梗塞」、「アテローム血栓性脳梗塞」、「心原性脳塞栓」と、「その他の脳梗塞」の4種類に分類されます。
この記事では、脳梗塞を発症したときによくみられる症状と、脳梗塞の前兆としてどんな症状が現われるのかご紹介します。
1.脳梗塞でみられる症状
脳梗塞が起こることでみられる症状はさまざまです。
これは、脳の血管が詰まった場所によって症状の現れ方が異なることによります。
脳梗塞を発症すると具体的にどんな症状がみられるのか、下記で詳しくみていきましょう。
1-1.運動障害(半身の麻痺)
脳梗塞で最も多い症状といわれるのが運動障害です。
顔を含む半身の手足がしびれたり、力が入らなくなったりする半身不随が症状として現れます。
一般的に、脳梗塞が生じた側と反対側の半身に症状が現われるのが特徴です。
例えば、右脳に梗塞が生じると、左半身に麻痺などの症状が現われます。
これは、脳の神経線維が脳幹の延髄(えんずい)という場所で交差し、反対側の体を動かしているからです。
脳梗塞が生じた際は、半身の手足を思うように動かせないため、お箸やお茶碗などを落としてしまったり、足がもつれて思うように歩けなかったりします。
また、顔にも症状が現われ、顔の片側にゆがみなどの症状がみられることも珍しくありません。
1-2.感覚障害(しびれ)
脳梗塞では、半身の感覚が鈍くなったり、しびれを感じたりする症状が現れることもあります。
このような感覚障害は顔や手足に起こることが多くあります。
顔や手足の感覚情報は、手足の末端神経から、脊髄、脳の視床、大脳の感覚中枢へ伝達されます。
そのため、これらの経路のうち、どの部分の血管が詰まっても、感覚障害が起こる恐れがあるのです。
1-3.言語障害(うまく話せない)
脳梗塞によって言語障害が起こると、構音障害や失語症などの症状がみられます。
構音障害としてよくみられるのが、ろれつが回らないといった症状です。
きちんと話したいことがあるのに、舌や唇に運動障害が生じることで発音に問題が生じ、うまくしゃべれなくなってしまいます。
この場合、言葉の内容は普通ですが、タ行やラ行などの舌音がうまく発音できない症状が目立ちます。
失語症としてよくみられるのは、話そうとしても言葉が出ない、話されている言葉が理解できないといった症状です。
こちらは言語中枢の障害によって起こる症状で、人の言うことは理解できるのに、言葉を話せないことが特徴です。
構音障害のように話はできるがうまく発音できない症状とは異なります。
1-4.嚥下障害(飲み込めない)
脳梗塞を発症すると、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない嚥下(えんげ)障害が起こることもあります。
脳卒中の発作直後では、全体の3~4割の患者さんで起こるとされており、珍しい症状ではありません。
嚥下障害が起こると、飲食物をうまく飲み込めないためにむせてしまい、食べ物や飲み物が気道に入ってしまうこともあります。
それによって誤嚥性(ごえんせい)肺炎を発症することもあるため注意が必要です。
1-5.失行(日常動作ができない)
運動麻痺や感覚障害が起こっているわけではないものの、日常的に行っていた動作が、急にできなくなる失行(しっこう)といった症状がみられるケースも珍しくありません。
簡単に説明すると、自分が行おうと考えていた行動と、違う行動をとってしまう状態といえます。
失行にはさまざまな症状があり、代表的なものには観念運動失行、着衣失行、構成失行といったものがあります。
それぞれに起こる症状を、下記で詳しくご紹介します。
・観念運動失行
観念運動失行は、言葉で指示された動作ができない状態のことです。
例えば、じゃんけんのグー・チョキ・パーや、別れるときのバイバイといった習慣的な動作があげられます。
これらの動作を自発的には行えるのですが、人から言葉で指示されると途端にできなくなり、マネすることも難しくなる状態です。
・着衣失行
着衣失行とは、衣服を正しく着用できない状態のことです。
自分の体と衣服の関係に混乱し、シャツを裏返しに着たり、衣服の上下左右を逆に着用したりすることがあります。
・構成失行
形を構成する能力がうまく機能しない状態です。
立体的な物をうまく描けない、マッチ棒などを使って図形を作ることができない、指を使って上手に形を作れないといった症状がみられます。
1-6.失認(認知できなくなる)
失認とは、感覚障害や知能低下が起こっているわけではないのに、対象物を認知できなくなる症状です。
代表的なものには、半側(はんそく)空間無視、相貌(そうぼう)失認、物体失認があります。
・半側空間無視
半側空間無視は、実際は見えているはずなのに片側の空間にあるものを認識しにくくなる症状です。
そのため、壁に半身をぶつけてしまったり、特定の物の絵を描く場合も、片側だけしか描かなかったり、直線も2等分できません。
また、食事も片側半分だけを食べて、反対側の半分を残してしまいます。
・相貌失認
自分の家族など、よく知っている方の顔を認識できなくなる症状です。
ただし、声を聞くとその方が誰か分かるなど、視覚以外の感覚からだと認識することはできます。
・物体失認
物体失認は、物を見ただけではそれが何なのか判断できないものの、音を聞いたり、触れたりすることで理解できる症状です。
これらに加えて、左右がわからなくなる左右失認、指を理解できなくなる手指失認などがみられることもあります。
1-7.同名半盲(視野が狭くなる)
同名半盲とは、視野が半分欠けてしまい、右半分または左半分の視野にあるものが見えなくなる状態です。
脳梗塞などによって大脳が障害を受けることによって引き起こされます。
1-8.意識障害(意識が正常でない)
意識障害とは、意識が正常ではない状態のことです。
脳自体の障害によって生じるものと、脳以外の原因によって脳血流や代謝異常が発生し、脳の機能が低下するものがあります。
意識障害には、傾眠、昏迷、半昏睡、昏睡といったものがあります。
・傾眠
外部からの軽い刺激や情報で意識を取り戻すものの、放っておくと眠ってしまう状態です。
・昏迷
軽度の刺激や声かけでは反応がなく、体を揺らしたり、大声で呼びかけたりすることで反応します。
・半昏睡
強い刺激に反応し、顔をしかめる、刺激を避けようとするといった動作がみられます。
・昏睡
眼を閉じたままで、外部からの刺激にまったく反応しない状態です。
2.脳梗塞の前兆・初期症状
脳梗塞の前兆となる症状を把握しておくと、早期対応が可能となります。
しかし、一般的に脳梗塞に自覚症状はなく、ゆっくりと進行します。
血管の内壁に徐々にプラークが塊として生成され、あるとき突然破裂するのです。
すると、一瞬で血栓が形成され、血管をふさいでしまいます。
しかし、場合によっては血流の悪化を示す症状が、発作の前に現れるケースも少なくありません。
発作の前に現れる症状は下記のとおりです。
- 手足がしびれる
- 力が入らない
- 舌がもつれる
- 会話中に言葉が出てこない
- 目の前が暗くなる
- めまい など
これらの症状がみられるなら、脳梗塞の発作が起こる前兆の可能性があります。
すぐに病院で詳しい検査を受けましょう。
3.脳梗塞のリスクが高い方の特徴
現時点で脳梗塞を起こしたことはない方でも、「自分が脳梗塞になりやすいかどうか確認したい」と感じる方もいるのではないでしょうか。
脳梗塞の危険因子として、以下の三つが挙げられています。
3-1.高血圧
高血圧は、脳梗塞の最大の危険因子といわれています。
しかも、血圧が高いほど脳卒中の発症率は高いとされているのです。
高血圧とは、診療室での血圧が収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHgといった血圧の高い状態が続く症状を指します。
高血圧と診断されると、降圧薬などを使用して血圧をコントロールする治療が行われますが、高血圧治療は脳卒中の予防にもつながるといわれています。
実際、降圧治療を行うことで脳卒中の発症率が抑えられたという研究報告もあるほどです[1]。
高血圧症は珍しい病気ではなく、厚生労働省の2010年の報告によると、日本国内における高血圧症有病者の割合(30歳以上)は、男性60.0%、女性44.6%と報告されています[2]。
身近な病気である分、誰でも発症するリスクはあり、そしてそれにともなう脳梗塞の発症も珍しくないということです。
できれば高血圧を発症しないようにするのが一番ですが、発症した場合は降圧薬などをしっかりと服用することが、脳梗塞の予防につながります。
[1]日本脳卒中学会 「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕 3-1危険因子の管理(1)高血圧」」
[2]厚生労働省 「平成22年国民健康・栄養調査結果の概要 2.高血圧の状況」
3-2.糖尿病
糖尿病も脳梗塞の危険因子の一つです。
糖尿病は虚血性脳卒中の発症リスクを2.27倍、出血性脳卒中のリスクを1.56倍高めるといわれています。
また、糖尿病患者については、脳卒中の危険度は男性と比べて女性の方が27%高いという結果が報告されているのが特徴です[3]。
高血圧については降圧薬の服用によって脳卒中の発症率を抑えられるとされていますが、糖尿病については血糖のコントロールと脳卒中の発症率減少の関係は分かっていません。
3-3.脂質異常症
脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準値から外れていることです。
具体的には、一般的に悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールや中性脂肪であるトリグリセライドが以上に増えているケースを呼びます。
逆に、善玉コレステロールであるHDLコレステロールが減っている場合も脂質異常症と診断されます。
脂質異常症も脳梗塞のリスクを高めるといわれているため注意が必要です。
特にLDLコレステロール値が高い、高コレステロール血症は脳梗塞の危険因子であることが知られています。
では、HDLコレステロールが低い場合はどうかというと、低HDLコレステロール血症も脳梗塞の危険因子になることが確認されており注意が必要です。
加えて、総コレステロールと脳卒中の関連については、総コレステロールが1mmol/L(38.7mg/dL)増えると、脳梗塞の発症も25%増加したとの研究結果も出ています[4]。
総コレステロールの増加は、特にアテローム血栓性脳梗塞の発祥リスクが高くなるといわれています。
4.脳梗塞の予防は生活の改善が重要!
脳梗塞のリスクを高める高血圧、糖尿病、脂質異常症などは生活習慣が大きな原因となっています。
動脈硬化の進行を防ぐためにも、普段の生活から見直していきましょう。
脳梗塞の予防のためにできることについての具体的な情報は、以下の記事でご紹介しています。
5.脳梗塞の症状についてまとめ
この記事では、脳梗塞でみられる症状と脳梗塞のリスクが高い方の特徴についてご紹介しました。
脳梗塞は多くの場合、急に引き起こされるものなので、異変に気付いたときは発作が始まっていることがほとんどです。
特に高血圧、糖尿病、脂質異常症の方は脳梗塞発症のリスクが高く、いつ発症してもおかしくない状態にあります。
今のうちに普段の生活を見直して、動脈硬化の進行を抑えましょう。
この記事の監修者
おだかクリニック
副院長
【経歴】
総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、医療コンサルト・アドバイザー業務や、ライティング業務などにもあたっている。
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