「血圧の下が高いって言われたけど、下だけ高いのも体に悪いってこと……?」
と気になっている方も多いのではないでしょうか。
健康診断などで「下が高い」といわれ、不安になった方もいらっしゃいますよね。
実は、下だけ高いのも高血圧の一種で、放っておくと深刻な病気になる可能性がある状態です。
ただし治療だけでなく食事や運動を通じて生活習慣を改善することも重要です。
かかりつけ医の指示に従いながら適切な生活習慣を身につけ、改善を目指しましょう。
この記事では、人間の血圧の仕組みを解説した上で、簡単に始められる「下だけ高い」状態の予防・改善策をお伝えします。
1.下だけ高くてもリスク有り?血圧の「下が高い」仕組み
「血圧は下が高いけど、上が正常なら大丈夫なんじゃないの?」
「そもそも、上とか下とか仕組みがよく分からない……」
血圧の仕組みは複雑なため、このようにさまざまな疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
そこで、まずは仕組みを分かりやすく解説していきますね。
どんな仕組みなのかが分かれば、「下が高い」のがどんな状態なのかも理解しやすくなるはずです。
【関連情報】 「高血圧とは?基準値や健康上のリスク、改善のポイントを徹底解説」についての記事はこちら
1-1.そもそも血圧ってどんなもの?上と下って?
血圧とは、心臓から流れる血液が血管を押す圧力のことです。
心臓が血液を押し出す力(心拍出量)と血液の流れにくさ(血管の抵抗)によって決まります。
心臓が縮んでいるときには心臓から勢いよく血液が流れ出すため血圧は高くなり、これがいわゆる「上の血圧」になります。
「下の血圧」は心臓が広がって血流がゆるやかになっているときの数値です。
下が高い状態について理解する前に、まずは基準となる数値を見てみましょう。
【家庭で測定した場合の高血圧の基準値】
分類 | 上の血圧 | 条件 | 下の血圧 |
---|---|---|---|
正常血圧 | 115mmHg未満 | かつ | 75mmHg未満 |
正常高値血圧 (正常の範囲) |
115~124mmHg | かつ | 75mmHg未満 |
高値血圧 (正常範囲内だが 高めの活圧) |
125~134mmHg | かつ/または | 75~84mmHg |
Ⅰ度高血圧 | 135~144mmHg | かつ/または | 85~89mmHg |
Ⅱ度高血圧 | 145~159mmHg | かつ/または | 90~99mmHg |
Ⅲ度高血圧 | 160mmHg以上 | かつ/または | 100mmHg以上 |
厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧」をもとに執筆者作成
家庭で測定した場合、上の血圧が135mmHg以上、下の血圧が85mmHg以上が高血圧に該当します。
ただしたとえ上の血圧が135mmHg未満でも、下の血圧が85mmHg以上あれば高血圧 に該当します。
つまり、下の血圧だけが高くても高血圧といえるのですね。
1-2.下だけ高い高血圧の仕組み
「下だけが高いってどういう状態なの?」
と、気になる方も多いでしょう。
下の血圧が高くなってしまう原因には、手足などに張り巡らされている血管が硬くなっていることなどが考えられます。
心臓から遠い場所にある手足の細い血管が硬くなると、それだけ血液が詰まりやすくなり、血流が悪くなります 。
心臓に近い太い血管には問題がなくても、末梢血管が硬くなり血流が悪化すれば「高血圧」になってしまうということですね。
また、血管の問題だけでなく、血液自体がドロドロになってしまっている可能性なども考えられます。
1-3.血圧が下だけ高い人の特徴とは?
「高血圧といえば、中年以降の人がなるイメージだったけど……」
というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、下だけ高い状態は比較的若い世代でもなる可能性があるので注意が必要です。
下が高い人によく見られる特徴としては、以下のような共通点が挙げられます。
【血圧の下が高い人に見られる特徴】
- 肥満である
- 日常的に運動が不足している
- 喫煙習慣がある
- アルコールを過剰摂取している
2.血圧が下だけ高いとどんなリスクがあるの?
ご説明したとおり、下だけ高い人も高血圧の一種であり、それにともなうさまざまなリスクにさらされます。
「上の血圧は正常範囲内だし……」
「まだ若いから大丈夫かと思うんだけど……」
といった油断は禁物です。
血圧が高い状態が長く続くと血管は次第に厚く、硬くなっていき動脈硬化になってしまいます。
動脈硬化はさまざまな疾患の原因になります。
【動脈硬化によって引き起こされる可能性のある疾患】
体の部位 | 具体的な病気 |
---|---|
脳 | 脳卒中 (脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性虚血発作 )など |
心血管 | 心筋梗塞、狭心症 など |
足 | 末梢動脈疾患など |
大動脈 | 大動脈瘤、大動脈解離 など |
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患とは?」をもとに執筆者作成
いくら上の血圧が正常値だとしても、下が高いことはさまざまな健康上のリスクがあるのです。
3.血圧を下げるために今すぐ取り入れられる4つの方法
「下が高いだけでもこんなにリスクがあるのか……。じゃあ、どうやったら血圧を下げられるんだろう?」
「生活習慣があまり良くない自覚はあるけど、具体的に何から変えていけばいいのかな?」
下が高いことに危機感を持ったとしても、どのような対策をとればいいのか分からないと不安になってしまいますよね。
まずは自己判断せず病院で医師に相談することが大事ですが、自分でできる対策もあります。
ここからは、下の血圧を下げるために今すぐ取り入れられる四つの方法について分かりやすく説明していきますね。
【血圧を下げる4つの方法】
- 食生活を見直す
- 適度に運動する習慣をつくる
- たばこを吸わない
- 自宅でこまめに血圧を測る
方法1 食生活を見直す
下が高いだけでなく高血圧全般にいえることですが、最大の原因は「塩分の摂り過ぎ」だといわれています。
また、肥満が原因の人も増えています。
食生活を見直すことが重要な改善策だといえるでしょう。
「食事やお酒が毎日の楽しみなのに、我慢するのはつらいよ……」
と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、毎日の食事をほんの少し変えるだけで、健康上のリスクを取り除くことができるのです。
ここからは、無理のない範囲で今すぐ実践できる食事の工夫をご紹介していきますね。
(1)減塩に気をつかう
塩分の過剰摂取は、高血圧になる最大の原因といわれています。
塩分を摂り過ぎると、血液中の水分量が増え、血管の壁にかかる圧力が強くなってしまうからです。
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日の塩分の摂取量を成人男性で7〜8g、成人女性で6.5〜7g、高血圧患者は6g未満に抑えることが推奨されています[1]。
「ラーメンの汁を飲まない」「調味料を別のお皿にして食材に控えめにつける」といった日々のちょっとした努力で、塩分摂取量は簡単に減らすことができますよ。
減塩におすすめのラーメン >
厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧」 をもとに執筆者作成
[1] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
(2)野菜・果物を積極的に食べる
血圧に関わる「カリウム」という成分は、野菜や果物にたくさん含まれています。
また肥満が原因で高血圧になっている方はつい肉や揚げ物などハイカロリーのもの中心の食生活を送ってしまっているかもしれません。
食生活に野菜や果物をたくさん取り入れ、体質の改善を目指しましょう。
特にカリウムを多く含む野菜・果物には以下のようなものがあります。
【カリウムが多く含まれる食品と可食部100g当たりの含有量】
種類 | 食品 | 調理・加工法 | 100g当たりの含有量 |
---|---|---|---|
野菜 | トマト | ドライトマト | 3,200mg |
野菜 | ブロッコリー | 焼き | 820mg |
野菜 | 枝豆 | 冷凍 | 650mg |
野菜 | ほうれんそう | 油いため | 530mg |
野菜 | 水菜 | 生 | 480mg |
果物 | バナナ | ドライバナナ | 1,300mg |
果物 | マンゴー | ドライマンゴー | 1,100mg |
果物 | アボガド | 生 | 590mg |
果物 | バナナ | 生 | 360mg |
果物 | メロン(露地メロン、緑肉種・赤肉種) | 生 | 350mg |
文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」をもとに執筆者作成
一日に小鉢で5、6杯程度の野菜を食べる よう心掛けましょう[2]。
サラダなど生で食べるのも良いですが、加熱することによってかさが減り、たくさん食べられるようになるので調理して食べるのがおすすめです。
またフルーツはドライフルーツであれば水分が減っているため生で食べるよりも多くのカリウムを摂取できます。
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「栄養・食生活と高血圧」
カリウムに関する詳細はこちら
(3)間食を見直す
「小腹が空いたら、ついスナックに手が伸びてしまう……」
という方も多いのではないでしょうか。
しかし、塩分の含まれたおやつの食べ過ぎは禁物です。
塩分が原因になる上、カロリーが高い場合は肥満につながってさらに上げてしまうかもしれません。
そこで、小腹が空いたときには果物を食べるのがおすすめです。
例えば果物では、干しバナナ、ドライマンゴー、干し柿などに血圧を下げるはたらきを持つカリウムが豊富に含まれています。
ドライフルーツであれば仕事中などでも気軽に食べることができておすすめですよ。
(4)アルコール制限をする
アルコールも高血圧の原因になってしまうことがわかっています。
習慣的にたくさんのお酒を飲み続けると高血圧になる危険性が高まるのです。
「でも、仕事終わりの一杯が何よりの楽しみなんだけど……」
という方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
過度に飲みすぎなければ大丈夫です。
節酒におすすめのノンアルコール飲料 >
ビールなら一日大瓶1本程度、日本酒なら1合程度を目安 にして、適度な範囲でお酒を楽しみましょう[3]。
[3] 国立循環器病研究センター「飲酒・喫煙と循環器病」
方法2 適度に運動する習慣をつくる
血圧の下が高い状態は日々の運動によっても予防できます。
高血圧の改善には30分以上の「ややきつい」と感じられる有酸素運動を定期的に行うことが推奨されています[4]。
有酸素運動におすすめの昇降台 >
「普段運動なんてしていないし……自分には難しそうだなあ」
と不安になってしまった方もいらっしゃるのではではないでしょうか。
たしかに、いきなり急激な運動を始めるとかえって体に負担をかけてしまう可能性もあります。
まずは普段の生活のなかで少しずつ運動量を増やすことから始めましょう。
以下のようなちょっとした動作で運動量を増やすことができますよ。
これらの動作を通じて体を動かすことに慣れてきたら、ウォーキングやジョギングなど、自分に合った運動に挑戦してみましょう。
運動は原因の一つである肥満を改善する効果も期待できますよね。
忙しい毎日の中でも無理なく始められる運動から、習慣づけていきましょう。
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧症を改善するための運動」
方法3 たばこを吸わない
喫煙も血圧に悪影響を及ぼすといわれています。
たばこが与える影響は大きく、WHOや日本高血圧学会でも血圧を管理するためには「禁煙するべきだ」という見解 を示しています [5]。
愛煙家の方にとって、喫煙は大変な道のりになるかもしれません。
しかし、つらい思いをするとしても全ては自分自身の健康のためです。
飴を舐めたり、どうしても我慢できないときは禁煙外来に通ったりするなど、禁煙に向けて努力をしてみましょう。
[5] 国立循環器病研究センター「飲酒・喫煙と循環器病」
方法4 自宅でこまめに血圧を測る
予防するためには、家庭用血圧計を利用して日々測定することも重要です。
おすすめの血圧計 >
自分の数値を把握し、深刻な状態になる前に予防できるようにしましょう。
また、自分の状態を確認することで、健康への危機意識や、自分の生活習慣を改善しようという意識の向上にもつながるはずです。
測定は大きな手間がかかる作業ではありませんので、ぜひ日頃の習慣に取り入れてみてください。
4.血圧の下が高いときの原因と予防策についてのまとめ
血圧の下が高い状態も、高血圧の一種です。
高血圧は命にも関わる深刻な病気を引き起こすリスクが高いことで知られています。
高血圧といえば一般的にご高齢の方のイメージがありますが、下が高い状態は比較的若い方でもなるというのが気を付けたいポイントです。
上の血圧は正常値だから、と油断するのではなく、この機会に日々の生活習慣を見直してみましょう。
下が高い状態も、ちょっとした工夫や努力の積み重ねによって予防・改善することができます。
自分の健康のため、この記事で紹介した方法をぜひ実践してみてくださいね。
この記事の監修者
埼友クリニック
外来部長
【経歴】
医学博士、腎臓専門医。1975年生まれ。鳥取大学医学部卒業後、岡山大学病院腎・免疫・内分泌代謝内科などを経て、現在は埼友クリニック外来部長。抗加齢医学(アンチエイジング)の観点から、腎臓病を捉えなおす新たな手法に取り組んでいる。日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医、日本抗加齢医学会専門医。
【出演番組等】
中京テレビ(日本テレビ系)「それって!?実際どうなの課」など出演。NHK「趣味どきっ!」、日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」、日本テレビ「ニノさん」、TBS テレビ「水曜日のダウンタウン」、TBSテレビ「マツコの知らない世界」、フジテレビ「坂上どうぶつ王国」、テレビ朝日「マツコ&有吉 かりそめ天国」などバラエティ番組やテレビドラマの医療監修、番組のロケ時問診や救急対応も行う。
【著書情報】
「人は腎臓から老いていく」(アスコム刊)
【執筆論文情報】
»Icodextrin Increases Technique Survival Rate in Peritoneal Dialysis Patients with Diabetic Nephropathy by Improving Body Fluid Management: A Randomized Controlled Trial, Clin J Am Soc Nephrol. 2011 Jun;6(6):1337-44