「いつもネガティブなことばかり考えてしまい、心のなかがモヤモヤする……」
「家事や仕事が忙しくて気持ちに余裕がない。ストレスを解消して穏やかに過ごせる方法はないかな?」
マインドフルネス瞑想でじっくりと自分と向き合う時間を作ると、心の安定を保ちやすくなります。場所や時間を選ばず一人で取り組めて、気軽に始められるのもメリットの一つです。
そこで、本記事ではマインドフルネス瞑想の効果とやり方、注意点についてご紹介します。
1.マインドフルネス瞑想とは?
人間関係や仕事の悩みなど、さまざまな不安やストレスを抱えながら過ごしている方は多いのではないでしょうか。マインドフルネス瞑想を実践すると、心が軽くなりストレス解消できるのではないかといわれています。
まずは、世界中から注目を集めている「マインドフルネス瞑想」について、詳しく見ていきます。
1-1.マインドフルネスに到達するための方法の一つ
マインドフルネス瞑想は、ヨーガや禅などで行われている仏教の瞑想法を取り入れて生まれたものです。マインドフルネスの状態に到達するための方法の一つとして考えられています。
マインドフルネスは、英語で「注意する」「気をつける」という意味で、漢字では「念」、日本語では「気づき」と訳されます。つまり、「今この瞬間」に意識を傾け、価値判断をせずにありのままの自分の心を受け入れている状態です。
1-2.医療現場のトレーニングプログラムとしても活用されている
マインドフルネスの概念は、臨床医学においても注目を集めています。例えば、1979年にはマインドフルネス瞑想を用いたマインドフルネス・ストレス低減法(mindfulness-based stress reduction:MBSR)が開発されました。
この方法は、慢性的な痛みやストレスを抱える方を対象としたトレーニングプログラムであり、ストレス軽減や痛みの緩和、生活の質の改善に好影響を与えています。
また、1990年代初期には、うつ病の再発を防ぐ目的でマインドフルネス認知療法 (mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)が生まれました。実際にうつ病の再発予防効果が実証されたことで、イギリスでは費用対効果の見込める予防プログラムとして活用されています。
2.マインドフルネス瞑想で期待できる効果
マインドフルネス瞑想を実践すると、さまざまな健康への好影響が期待できます。心の問題や健康面に不安を抱えている方だけでなく、健康な方のセルフケアとしても有効です。
2-1.ストレス・不安・抑うつの軽減
マインドフルネス瞑想により苦しみや不安などに振り回されることなく、「今この瞬間」を充実させることができます。
2018年の解析において、不安症やうつ病の方にマインドフルネス瞑想によるアプローチをしたところ、治療を行っていない人よりも優れた結果が得られました[1]。
2021年の解析では、不安症と診断された方に向けてマインドフルネス瞑想を用いてアプローチしたところ、一部の方法では認知行動療法と同様の有用性があると示されました[2]。
一方で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を軽減したり、がん患者のメンタルヘルスを改善したりする可能性も示されています。
また、米国の医療制度に準じた内容となっているため、日本人に当てはまらない場合があります。
[1] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
[2] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-2.血圧の低下が期待できる
2020年の研究で、マインドフルネス・ストレス低減法の実践が血圧の有意な低下と関連することが示されました[3]。
マインドフルネス・ストレス低減法は、マインドフルな瞑想を教えるプログラムです。得た知識を活かして、ストレスフルな状況を回避できるような取り組みも行います。
特に、高血圧症や糖尿病、がんなどを患っている方に対して、マインドフルネス瞑想により血圧の低下が期待できるとされています。
ただし、血圧に及ぼす影響を調べた質の高い研究はほとんどないため、具体的な効果は確定していません。
[3] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-3.急性・慢性疼痛の軽減
2020年の研究では、急性または慢性疼痛でオピオイド(鎮痛薬)を使用している方に対して、瞑想の実践が疼痛の軽減に関連していることが分かりました[4]。また、マインドフルネス・ストレス低減法が腰痛の短期間の改善と関連するとの報告もあります。
しかし、これまでの研究では線維筋痛症や頭痛の改善はみられませんでした。
認知行動療法とマインドフルネス・ストレス低減法の研究結果に明確な違いは得られませんでしたが、痛みの強さを軽減するのに有用であることが示されました。
[4] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-4.不眠症の軽減・睡眠の質向上
「入眠までに時間がかかる」「夜中に目が覚めることが多く熟睡できない」など、睡眠の悩みがある方に対して、マインドフルネス瞑想は効果が期待できます。
2019年の研究で、マインドフルネス瞑想により、睡眠の質の向上がみられたことでも実証されています[5]。
[5] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-5.食事行動の管理に役立つ
マインドフルネス瞑想を行うと、正しい食習慣が身につき、体重をコントロールしやすくなるといわれています。
2018年の研究で、マインドフルネス・プログラム(瞑想やマインドフルネスに、非公式なマインドフルネスのエクササイズを組み合わせた治療プログラム)が、暴飲暴食や感情にまかせた食事、食事制限などの食に関する行動を管理するのに役立つことが明らかになっています[6]。
マインドフルネス瞑想だけの場合、減量に大きな効果は見られていません。しかし、正しい食習慣のきっかけ作りには有効な手段と考えられます。
[6] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
3.マインドフルネス瞑想のやり方
マインドフルネス瞑想を実践すると、「今この瞬間」に意識を向けられるようになるため、痛みや苦しみ、不安、悩みなどに振り回されなくなります。ここからは、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)で用いられる瞑想法を取り上げ、ご紹介します[7]。
[7] 春木 豊, 石川 利江, 河野 梨香, 松田 与理子「「マインドフルネスに基づくストレス低減プログラム」の健康心理学への応用」(健康心理学研究 Vol. 21, No. 2, 57-67,2008)
3-1.呼吸瞑想
呼吸瞑想は、呼吸に意識を集中する瞑想法です。ゆっくりと呼吸を繰り返し、体の隅々まで感覚を研ぎ澄まします。呼吸瞑想は、心のざわつきを落ち着かせるはたらきがあります。
■やり方
- 椅子に座った状態、もしくは立った状態で背筋を伸ばし肩の力を抜く。
- おなかに意識を向ける。
- そのまま呼吸を繰り返し、動作に全集中する。
- 注意がそれた場合、その都度原因を探し、呼吸に意識を向け直す。
目は閉じていても開けていても構いません。無理のない範囲で15分間ほど行いましょう。
3-2.静座瞑想
静座瞑想は、呼吸から全身、音、感覚、思いや感情に注意を集中する瞑想法です。慌ただしい日常から意図的に静寂の時間を作り、心を整えるために行います。
■やり方
- 椅子に座った状態もしくは、あぐらの状態で姿勢を正し、呼吸に注意を向ける。
- 途中で起こる感情などにとらわれずに、呼吸に注意を戻す。
- 呼吸、耳に入ってくる音、心のなかをあるがままにとらえ、観察していく。
何かを求めたり、執着したりせず、意識を解放してすべてを受け入れ、じっと観察するのがポイントです。
3-3.ボディースキャン
ボディースキャンは手や足など、体の部位を順番に意識を向けながら集中していく瞑想法です。各部位の状態をじっくり観察しながら行うため、感性を高めることができます。成果を期待し過ぎず、ありのままを受け入れましょう。
■やり方
- あおむけに寝て目を閉じる。寝そうな場合は、目を開けておく。
- 足先から頭上まで一直線のイメージで、床に背中が触れているか感触を確かめる。
- 最初に左足のつま先に注意を向けて、つま先から呼吸しているイメージをもつ。
- 右足も3と同様に行い、左右の感覚の差を感じる。
- 息を吐き、つま先から意識をそらす。2~3回呼吸してから部位を移動する。
- 足の裏、かかと、足の甲、足首の順に移動し、左足から右足に注意を移動する。
上記の流れを体全体で行い、毎日1回を目安に行います。
3-4.ヨーガ瞑想
ストレッチ瞑想は、ストレッチ動作のなかで体に注意を集中する瞑想法です。体の声に耳を傾けることで、自分自身を大切に思えるようになります。
■やり方
- ストレッチをしながら、体の感覚に意識を集中する。
- 今この瞬間に注意を向けて、意識がそれたら元に戻す。
- ストレッチは呼吸と合わせて行い、終わったらゆっくりと元の姿勢に戻りリラックスする。
ストレッチを行うときは、決して無理をしてはいけません。自分の限界を知り、できる範囲で行いましょう。
3-5.歩行瞑想
歩行瞑想では、目的地や歩く時間を設定せずに歩くことに意識を集中します。
■やり方
- 目的を決めずに歩きはじめ、歩くこと自体に意識を集中する。
- 足裏に着地する感覚やかかとからつま先へ体重移動する様子など、全身の感覚を覚える。
- 意識がそれたら戻し、この動作を繰り返しながら歩く。
歩幅や速度について、特に決まりはありません。自由に歩いて構いませんが、ゆっくり歩く方がより効果が期待できます。
4.マインドフルネス瞑想を続けるために大切な考え方
マインドフルネス瞑想について、「集中できない」「難しい」「どういう状態が正しいのか分からない」と感じる方もいるのではないでしょうか。マインドフルネス瞑想を実施するには、以下のような考え方をもっておくことが大切です。自分に合う瞑想を見つけて実践してみましょう。
4-1.マインドフルネス瞑想について自分で評価しないこと
マインドフルネス瞑想の訓練には正解がありません。自分で「良い・悪い」を評価しないようにしましょう。
うまく瞑想できないと、自信を失いそうになってしまうこともあるかもしれませんが、今の自分を受け入れて信じる気持ちをもつことが大切です。効果にとらわれず、今行っている動作に集中しながら続けていきましょう。
4-2.初心を忘れない
マインドフルネス瞑想は同じことの繰り返しです。そのため、訓練に慣れてくると慢心が起こりやすくなることがあります。このような状態に気づいたときは、マインドフルネス瞑想を始めた動機を思い出すことが大切です。
4-3.毎日続ける
どの訓練にも、忍耐強さは必要です。ただし、「必ず毎日続けなければならない」と自分に負荷をかけ過ぎるのは良くありません。「忙しくて時間が取れない」「体調が優れない」ときは、無理に実施しなくても大丈夫です。
「実施する日はする」「実施できない日はしない」と割り切り、都合に合わせて柔軟に対応すると継続しやすくなります。
5.マインドフルネス瞑想を実施するときの注意点・ポイント
マインドフルネス瞑想を実施する際は、以下の点に注意してみてください。
5-1.従来のケア・治療の代わりとしない
マインドフルネス瞑想の効果には個人差があります。疾病によっては、病院での治療が必要なケースもあります。マインドフルネス瞑想を従来のケアや治療の代わりとしたり、医療機関への受診を遅らせたりしないようにしましょう。
5-2.指導者の訓練や経験について尋ねる
MBSRを開発したJon Kabat-Zinnによると、MBSRの指導者は、自ら体験と訓練をしなければならないとされています[8]。
指導者自身が体験すると、瞑想の魅力や効果的なやり方などを伝えやすくなります。また、訓練を重ねることで、自身のスキルアップにもつながるでしょう。
そのため、取り組みたい瞑想がある際は、指導者の訓練や経験について質問し、参考にすることをおすすめします。
[8] 春木 豊, 石川 利江, 河野 梨香, 松田 与理子「「マインドフルネスに基づくストレス低減プログラム」の健康心理学への応用」(健康心理学研究 Vol. 21, No. 2, 57-67,2008))
6.マインドフルネス瞑想のまとめ
マインドフルネス瞑想は、「今この瞬間」を大切に過ごし、ありのままの自分と向き合う瞑想法です。マインドフルネス瞑想を実践することで、ストレスや不安の軽減、血圧低下、睡眠の質の向上などの効果が期待できます。
呼吸瞑想や静座瞑想、ボディースキャンなど、さまざまな瞑想法があるので、自分に合う瞑想を取り入れてみてください。無理のない範囲で瞑想を毎日続けていきましょう。
この記事の監修者
精神保健指定医/日本精神神経学会専門医・指導医
【経歴】
2005年滋賀医科大学卒業後、小児科や産業医として勤務した後に精神科へと転身。身体的、精神的症状を訴える患者を受け持つ。思春期特有の心の病気に取り組む「思春期外来」も担当しているほか、精神科系の記事執筆や監修なども行っている。
【監修書籍情報】
「誰も教えてくれない性病対策ハンドブック」(三和出版)