「適応障害になるとどんな症状が出るのかな?」
適応障害という言葉は見聞きしたことはあっても、症状や原因など詳しいことをご存じない方もいらっしゃるかもしれませんね。
適応障害とは日常生活のなかで起こった出来事や環境にうまく対処できず、心身にさまざまな症状が現れて社会生活に支障を来している状態のことをいいます。
仕事や学業、人間関係などの何かのストレスで心身にさまざまな症状が現れることは誰しもあることですが、適応障害の場合は度を越えた過敏な状態といえます。
適応障害の症状はさまざまで特徴的な症状はあまりないものの、精神や身体症状、行動面での変化が挙げられます。
適応障害は、周りから「甘えているだけ」と思われてしまうことがあり、治療につながらない場合も多いといわれています。
しかし、生活に支障が出るほどストレスがある場合は、医療機関で適切に治療を受けることが重要です。
この記事では適応障害の具体的な症状をはじめ原因、対処法を解説します。
適応障害の症状を知り、適切な対処に役立ててくださいね。
1.適応障害とは
「適応障害ってどんな病気なんだろう?」
適応障害とはストレスが原因となり、心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じている状態のことをいいます。
ストレスの原因が明らかで、それに対して過剰に反応している状態ともいえます。
ただ人それぞれに価値観や人生観は異なるため、本人にとって重大なストレスになっているかどうかが重要です。
適応障害の診断においては、環境の変化が自分の価値観や人生観などからかけ離れ重大なストレス源になっているか、現れている症状が生活に支障を来しているかが診断の上でポイントになるのです。
例えば、職場が異動になった直後に精神的に多少、不安定になることは適応障害ではなく、一般的なストレス反応だと考えられます。
しかし、そのことで仕事の能率が低下したり、出勤できなくなってしまったりするなど、生活に大きな支障を来している場合は、適応障害が疑われます。
適応障害に似た症状としてうつ病が挙げられ、混同してしまっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
適応障害はストレスの原因が明確で、ストレス原因を除去できれば症状が回復するのに対して、うつ病はストレス原因が解消されてもすぐに回復しないことが多いといわれています。
適応障害は患者自身が新たな環境に自分が合わないと感じているため、原因を特定することが容易です。
またその問題となっている環境から離れることで、比較的早く症状が回復します。
しかしうつ病は落ち込む、やる気が出ないといったうつ症状がメインで、問題となっている環境から離れたからといってすぐに回復するものではないのです。
適応障害になり、その結果うつ状態になってしまうことはあるものの、適応障害とうつ病は概念が異なる病気なのです。
ストレスについては以下の記事で詳しく解説しています。
ストレスとは?つらくなる仕組みと気持ちが楽になる日々の習慣を紹介
2.適応障害の症状
「この症状は適応障害なのかな?」
ストレスを受けたときに落ち込む方もいればイライラする方もいるため、適応障害で現れる症状も多岐にわたります。
適応障害になった際に必ず現れる症状というものはなく、本人が苦しい思いをしていて生活に支障を来しているということが重要なのです。
ここでは適応障害で高い頻度で見られる症状を精神面、身体面、行動面に分けて解説します。
2-1.精神的な症状
精神的な症状として気分の落ち込み、抑うつや不安といったものが挙げられます。
長期的にストレスを抱えていると気分の落ち込みや絶望感といった症状が出てくることがあり、適応障害においても気分の落ち込みはよく見られる症状の一つです。
また強いストレスを抱えていると不安が強くなります。
不安感が増大していつもより神経質になったり、些細なことで心配になったり、小さな出来事にも敏感に反応してしまったりするのです。
通常時に比べてネガティブな気分になりやすいといえます。
その他、無気力のように明らかな症状ではなく、思考力や集中力の低下を感じる場合もあります。
2-2.身体的な症状
適応障害で見られる身体的な症状は多岐にわたります。
例えば睡眠に関しては、眠れない不眠の症状が出ることもあれば、反対に寝過ぎてしまう過眠の症状が現れるケースもあります。
また食事に関しても食欲が低下する方もいれば、食べ過ぎる方もいます。
この他に腹痛や吐き気、動悸(どうき)、目まい、震えなどの症状が現れることもあります。
涙が止まらないというのも適応障害の症状の一つです。
症状がひどい場合は活動が制限されてしまうことがあり、日常生活に支障を来します。
しかし身体的な症状が目立つ場合には、適応障害とは気づかずに内科の受診を繰り返してしまうこともあるのです。
学校や仕事を休む必要があるほど症状がひどい場合には注意が必要です。
2-3.行動面での変化
適応障害の症状として行動面での変化が現れることがあります。
例えば、遅刻や無断欠勤をする、飲酒の量が増える、暴飲暴食をするといったいつもとは異なる行動をとるようになります。
イライラが強いことで怒りっぽくなったり攻撃的な言動をしたりすることもあります。
その他、無謀な運転や過度なギャンブルなども、症状として挙げられます。
行動面での変化が激しくなると周囲の人間関係を悪化させ、さらにストレスを招きやすい環境をつくりだしてしまう恐れもあるのです。
3.適応障害の原因
「適応障害の原因って何だろう?」
適応障害は、原因であるストレス源が明確であることが特徴です。
自分の価値観とのズレが大きい環境であれば、どんなことでも適応障害の原因になり得ます。
例えば、仕事の部署異動や転職、学校の入学や進学、引っ越しなどのライフスタイルの変化が挙げられます。
転校や進学によって学校が変わると、学校によって特色も異なるために今までの常識が通用しないことがあります。
このような場合、なかなか適応できずに適応障害を発症してしまうことがあるのです。
また結婚や出産などの変化も適応障害の原因になり得ます。
例えば結婚によって、今までの自分の常識や価値観と相手側の常識や価値観があまりにかけ離れているときに発症することがあります。
適応障害は必ずしも一般的に悪いといわれているような原因ではなく、結婚や出産、昇進など良いといわれている出来事でも発症し得るのです。
その他、人間関係の悩みが適応障害の原因になることもあります。
例えば職場の上司や同僚と気が合わない、同居している家族とトラブルになっている、交際相手と別れたといったことが挙げられます。
これまでの環境と大きな変化がない場合でも、人との関わりのなかで強いストレスを感じる場合は、心身に影響が出ることも珍しくないのです。
4.適応障害の治療法
「適応障害は治るのかな……」
「適応障害はどんな治療をするんだろう?」
このように不安に思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
世の中にはさまざまな価値観を持った方がおり、自分と合わない環境に遭遇することは誰にでもあります。
適応障害になったことを「適応能力がなく弱い人間」などと思わずに、適切に対処することが重要です。
ここでは一般的な適応障害の治療法について、ご説明します。
4-1.環境調整
適応障害の治療法として「環境調整」が挙げられます。
環境調整とはストレスの源となる環境から離れることです。
ストレスの原因が分かっているなら、それを減らすように環境調整を行いましょう。
例えば残業がストレスの原因になっている場合、残業時間の短縮などでできる限り健康的な精神状態を取り戻します。
場合によっては、休職や退職、休学などでストレスの源から完全に離れることも視野に入れる必要があるかもしれません。
適応障害の治療では環境に適応できない自分と向き合うことが重要だといわれていますが、まずはストレス源から離れて本来の自分らしさを取り戻し、精神的に健康な状態まで回復することが先決です。
ストレスの少ない環境に身を置き、次に適応できない環境にどのように対処していくのかを検討します。
なお、自分一人だけで環境を変えようとするのではなく、周囲にも頼ることでより適応力を高められるといわれています。
仕事がストレスになっている場合は職場の産業医と相談する、話しやすい上司や同僚に相談するといったことが考えられるでしょう。
4-2.精神療法
適応障害の治療には、精神療法が用いられる場合があります。
精神療法とは人間同士の交流を通じて症状や苦痛を和らげる治療法です。
精神療法は対象となる方のパーソナリティーや考え方を変えることを目的とする治療と、その方が持つ資質を活かして適応力を上げる治療に大きく分けられます。
前者の代表的なものに「認知行動療法」があり適応障害でも取り入れられることがあります。
認知行動療法とは、ストレスなどで凝り固まった考え方や行動を自分の力で解きほぐし、自由に考えたり行動したりできるように促す心理療法です。
認知行動療法では、「認知」「感情」「体」「行動」の四つの側面に注目します。
認知とはストレスを感じた出来事に対してどのように考えたのか、感情とはどのように感じたかということを意味します。
また体や行動がどのような反応を見せたかということも重視されています。
一般的に「認知」と「行動」は自分の意思でコントロールしやすいといわれ、この認知や行動の幅を広げたり変化させたりすることで、ストレスとうまく付き合っていけるようにアプローチするのです。
例えば、すれ違った友人に目をそらされたという出来事を想定してみましょう。
「目をそらされるなんて、嫌われているのかな……」という悲観的な考えが浮かぶ(認知)、悲しくて不安な気持ちになる(感情)、おなかが痛くなるなど体にも反応が出てしまう(体)、急いで家に帰り部屋に閉じこもってしまう(行動)のように、四つの側面を整理します。
このようにストレスフルな出来事によって生じる反応を「ストレス反応」と呼び、これらの側面は、互いに影響を及ぼし合い悪循環になってしまうことも多いといわれています。
それぞれの側面を整理して、自分のストレス反応のパターンに気付くことで、さらに悪循環に陥らないように調整していくことが目標です。
例として、「今はこのように考えているけど、他の考え方もあるかもしれない!」、「気分は乗らないけど、起き上がって顔を洗ってみようかな?」など、意識して認知や行動パターンを変えることは可能ですよね。
精神的に影響を及ぼす捉え方のパターンを認知し、そこを修正していくのが認知行動療法であり、物事の捉え方や視野を広げることでストレスに対処する力を高めるのです。
4-3.薬物療法
適応障害の治療には、薬物療法が用いられる場合があります。
抑うつ気分や不安感、不眠などの症状で日常生活に影響を及ぼしている場合は、薬物療法が効果的です。
抗うつ薬や睡眠薬が処方される場合があります。
しかし薬物治療は症状に対しての対症療法であるため、根本的な解決にはなりません。
このため、薬物療法と併せて環境調整や精神療法などを行うことが大切です。
5.適応障害が疑われる場合は医療機関を受診しよう
適応障害が疑われる場合には、医療機関を受診しましょう。
適応障害は、周りの方から「甘えているだけ」や「本人の性格の問題だろう」と思われてしまうことも多く、治療につながらないケースが多いといわれています。
しかし生活に支障が出る程のストレスを抱えている場合は、医療機関を受診し適切に治療を受ける必要があります。
また強いストレスを長期間抱えていると、うつ病などの他の精神疾患を発症する危険もあります。
適応障害の疑いがある場合は、早めに受診しましょう。
6.適応障害の症状についてのまとめ
適応障害とは日常生活のなかで起こった出来事や環境にうまく対処できず、心身にさまざまな症状が現れて社会生活に支障を来している状態のことをいいます。
仕事や学業、人間関係などの何かのストレスで心身にさまざまな症状が現れることは誰にでもあるものの、適応障害の場合は度を越えた過敏な状態といえます。
適応障害に似た症状としてうつ病が挙げられます。
適応障害はストレスの原因が明確で、ストレス原因を除去できれば症状が回復するのに対して、うつ病はストレス原因が解消されてもすぐには回復しないことが多いといわれています。
適応障害の症状はさまざまで特徴的な症状はあまりないものの、精神面や身体面の症状、行動面での変化が多く見られるといわれています。
精神的な症状としては気分の落ち込み、抑うつや不安が挙げられます。
身体的な症状としては、全身の倦怠(けんたい感)、不眠、腹痛、動悸や吐き気、目まい、震えなどがあります。
その他、遅刻や無断欠勤、飲酒量の増加、暴飲暴食、無謀な運転、過度なギャンブルなどいつもとは異なる行動をとることがあります。
怒りっぽくなることや攻撃的な言動や行動を起こすことなども、行動面の症状として挙げられます。
適応障害は自分の価値観とのズレが大きい環境であれば、どんなことでも原因になり得ます。
治療法としては環境調整、認知行動療法などの精神療法、薬物療法がありますが、周りから「甘えているだけ」と思われてしまうこともあり、治療につながらないケースが多いといわれています。
しかし生活に支障が出る程のストレスを抱えている場合は医療機関を受診し、適切に治療を受けましょう。
適応障害の症状や原因、対処法を知り、健康な日々を送ってくださいね。