現代社会のなかで、多くの働く人々が直面している「燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)」。
仕事のストレスや負担が原因となって精神的、身体的な疲労が蓄積し、仕事への情熱を失ってしまうこの状態は、誰にでも起こり得ます。
本記事では、燃え尽き症候群の原因、症状、回復方法、そして予防策について詳しく解説していきます。
1.燃え尽き症候群とは
仕事熱心で活動的だったのに、ある日突然やる気を失って引きこもってしまう……。
家族や身近な人が、あるいは自分自身がそういう状態に陥った経験がある、という人は少なくないでしょう。
このようなケースで考えられるのが「燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)」です。
燃え尽き症候群とは「それまで一つの物事に没頭していた人が、心身の極度の疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなること」です[1]。
1-1.代表的な症状
燃え尽き症候群の代表的な症状としてよく挙げられるのは、無力感や疲労感、無気力、集中力の低下などです。
具体的には以下のような症状が観察されます。
- 強い疲労感や無力感を感じる
- 仕事に意欲が湧かずやる気が出ない
- 仕事に集中できずミスが増える
- 周りの人との関わりが辛くなる
- 何をするにもおっくうになる
- 自己肯定感が低下する
- 理由もなくイライラする
- 理由もなく落ち込む
- 眠れなくなる
- 感情がなくなる
また上記の症状に加えて、頭痛や胃腸の調子が悪くなるといった身体的な症状が表れることもあります。
このように燃え尽き症候群の症状は、仕事だけでなく日常生活に支障をきたすほど深刻なものです。
1-2.燃え尽き症候群になりやすいのはどんな人?
燃え尽き症候群になりやすい人は、一般に仕事熱心で責任感が強く、何ごとにもひたむきに努力する傾向のある人といわれています。
いわゆる真面目な人、完璧主義な人ほどリスクが高いと言えるでしょう。
こうした傾向をもつ人たちは仕事上のストレスを抱え込みやすく、ストレスの蓄積が一定量を超えることで燃え尽き症候群を発症してしまうのです。
1-3.燃え尽き症候群になりやすい職業
燃え尽き症候群は「仕事」と深い関係があります。とくに人と関わることが多い仕事、つまり対人サービス業といわれる仕事です。
例えば医者や看護師といった「医療関係者」、介護士などの「福祉関係者」、教師をはじめとする「教育関係者」に、燃え尽き症候群になる人が多いといわれています。
2.燃え尽き症候群の原因
燃え尽き症候群の主な原因は、本人の性格的な特徴・行動パターンと、長期に渡る仕事上のストレスにあります。
ここでは典型的な原因として、以下の三つについて説明します。
- 責任感が強く人任せにできない性格
- 自分の限界を超えて頑張り過ぎる
- 過剰な仕事量・仕事時間
これらの原因は単独で作用するというより、それぞれが組み合わさることで燃え尽き症候群の発症につながると考えられています。
2-1.責任感が強く人任せにできない性格
責任感が強く人任せにできない性格の人は完璧主義で、自分の仕事は他者に委ねることなく自分でやり遂げたいという意欲が強い傾向があります。
そのため、自分の限界を超えてのめり込みやすく心身ともに消耗してしまうのです。
例えば営業の仕事をしている人の場合、自分の担当するエリアの売上を伸ばさなくてはならないと考え休日も仕事を忘れられず、結果として慢性的な倦怠感や睡眠障害などを発症してしまうことがあります。
2-2.自分の限界を超えて頑張り過ぎる
自分の限界を超えて頑張り過ぎる人は一般に仕事に熱心で、常に高い目標を掲げて行動します。
しかし無理をしてでも目標を達成しようとするあまり、心身の限界がきていることに気付きません。
例えば患者の命を守るという使命感から、自分の体を顧みずに働き続ける看護師はその典型と言えるでしょう。
しかし精神的・肉体的な疲労が限界を超え、自分の期待と異なる結果を目にしたりすることで燃え尽きてしまいます。
2-3.過剰な仕事量・仕事時間
長時間労働や過重労働が常態化している職場では、仕事に対するストレスが蓄積されやすくなります。
また、仕事の量が多過ぎると休息やリフレッシュの時間が取れなくなり、心身の疲れを発散できません。
例えば学校の先生のなかには、授業の準備や課題の採点、部活の指導、保護者対応などで長時間働いている人が少なくありません。
休憩時間もプライベートな時間も犠牲にして働き続けることで、燃え尽き症候群になってしまう人が大勢います。
3.燃え尽き症候群かも?と思ったら
自分や家族が「燃え尽き症候群かも?」と思える状態になった場合、どう行動すれば良いでしょうか?
ここでは燃え尽き症候群のチェックテストと、うつ病との違い、そして燃え尽き症候群の可能性が高いと判断したときのとるべき行動について説明します。
3-1.チェックテストでいまの状態を診断
正式な診断は専門医のもとで行うことをおすすめしますが、以下の簡易なチェックテストでも自己診断が可能です。
まずは以下の10問に「はい・いいえ」で答えてください。
【10のチェックテスト】
- 夜眠れない/朝起きられない
- 仕事や勉強に集中できない
- 仕事や勉強ができなくなった
- 目標に向かって努力するのをやめたい
- 仕事や勉強がつまらないと感じる
- 仕事や勉強の成果に興味がない
- 仕事や勉強以外に生き甲斐を感じない
- 体や心が疲れきっていると思う
- 人間関係を苦痛に感じる
- 会社や学校に行きたくない
久保 真人「バーンアウト (燃え尽き症候群)」日本労働研究雑誌No. 558/January 2007を参考に執筆者作成
「はい」が六つ以上あった場合は、燃え尽き症候群の可能性が考えられます。
3-2.燃え尽き症候群とうつ病はどこが違う?
燃え尽き症候群とうつ病は共に、仕事や環境からの強いストレスによって気持ちが落ち込んだり、意欲を失っていくといった点が共通しています。
燃え尽き症候群は、責任感が強い、物事にのめり込みやすいなどの本人の性格に深く関係しています。
これに対し、うつ病ではホルモンバランスなどの生理的な要因や、遺伝的な要素が影響しているとも考えられます。
またうつ病では、自殺念慮が表れるケースも少なくありません。
とはいえ燃え尽き症候群の場合も、原因となるストレスを放置することでうつ状態が重篤となる可能性があるため注意が必要です。
4.燃え尽き症候群から回復するには?
燃え尽き症候群から速やかに回復するには、自己ケアと専門的なサポートの両方が重要です。
ここではとくに、以下の3点について説明します。
- ストレスをためない生活を心掛ける
- NOと言える勇気をもつ
- 早めに専門家を受診する
4-1.ストレスをためない生活を心掛ける
燃え尽き症候群からの回復には、ストレスの軽減が不可欠です。
まずは仕事とプライベートの切り替えをしてリラックスできる方法を身に付け、ストレスをためない生活を心掛けましょう。
具体的なリラックス法としては、以下のようなものが挙げられます。
- 睡眠時間をしっかりとる
- 食事の時間を楽しむ
- 趣味や好きなことをする時間を作る
- 家族や友人とコミュニケーションをとる
- 運動やヨガなどの体のリラクゼーション法を取り入れる
自分に合った、無理のない方法を見つけるようにしてください。
4-2.NOと言える勇気をもつ
一人で頑張り過ぎず、周りの人に助けを求めても良いという考え方の転換が必要です。
仕事の量が多過ぎる、責任が重過ぎると感じるなら、それを引き受けることに「NO」と言える勇気をもつことも大切です。
4-3.早めに専門家を受診する
燃え尽き症候群の可能性に気付き、心身の不調が長く続くようであれば病院(精神科や診療内科)を受診しましょう。
心理カウンセラーに相談するのも効果的です。ストレスを解消する方法や、仕事との向き合い方などをアドバイスしてもらえるでしょう。
ちなみに日本臨床心理士会のホームページからは、最寄りのカウンセラーを検索できます。
また、地元の自治体にある相談窓口を利用するのも有効です。
5.燃え尽き症候群を予防する方法
職場や日常生活の中での自分自身の状態に注意を向け、小さな変化に気付くことが必要です。
そして普段から信頼できる人々と相談のできる関係を築いておくことが、健康な心身を維持するための鍵となります。
5-1.ちょっとした「いつもと違う」に敏感に
日常生活のささいな変化、例えば「朝起きるのがおっくうになった」「集中力が途切れがちになった」「仕事のペースが落ちている」などは、燃え尽き症候群のサインかもしれません。
「イライラして子どもに当たる」「妻の小言が気になる」など、自分と家族のちょっとした変化に気付けるように注意を払ってください。
5-2.相談できる仲間をもつ
身近な人とのコミュニケーションが「変化を発見する」きっかけになることもあります。
職場では、目標や役割の確認、情報の共有などのコミュニケーションを通して、セルフチェックの機会としましょう。
家庭では、家族との普段の会話から、あなたの変化を指摘してくれることもあるでしょう。
燃え尽き症候群についてのまとめ
燃え尽き症候群は、単に「やる気が出ない」といった気分の問題でも、単純な「疲労」でもありません。
むしろ精神的・肉体的な症状を通して、日常生活に深刻な悪影響を与えるものです。
ストレスを感じたら休息を心掛け、睡眠や食事からのエネルギー補給も必要です。また、仲間との繋がりで自分自身を振り返ることが有効です。
目標への選択肢はさまざまです。自分らしく、豊かな心持ちで心身ともに健康な生活を送ってください。
この記事の監修者
神戸こども心理相談室
公認心理師
【経歴】
市教育委員会指導主事、市立中学校長を経て、2014年神戸こども心理相談室を設立。現在も教育現場で、児童生徒、保護者、教職員のカウンセリングを実施。
また、ストレスマネージメントやコミュニケーション等の研修講師、執筆活動にも携わっている。公認心理師。臨床心理士。
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