「平均的な睡眠時間ってどのくらいなのかな?」
「睡眠ってどのくらいとったら良いのかな?」
と疑問に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は睡眠時間に明確な基準はありません。
しかし睡眠時間は長過ぎても短過ぎても健康に悪い影響を及ぼす可能性があります。
性別や年齢、体質などを考慮して個々に合った適切な睡眠をとることが大切です。
またぐっすり眠りしっかり休めたと実感できるような良質な睡眠をとることも重要です。
この記事では理想的な睡眠時間と良質な睡眠をとるためのポイントを解説します。
1.日本と諸外国の平均睡眠時間
「日本人の睡眠時間はどのくらいかな?」
「外国の人はどれくらい睡眠をとっているの?」
このように気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は日本人の睡眠時間は諸外国と比べて短いといわれています。
睡眠時間はその国の文化や社会的背景の影響を受けやすく、日本では睡眠時間が短くなってしまっていると考えられるのです。
この章では、日本と諸外国の平均睡眠時間と睡眠事情について解説します。
【関連情報】 「睡眠は時間だけでなく質も重要!ぐっすり眠るための7つの秘訣とは?」についての記事はこちら
1-1.日本の平均睡眠時間
ほとんどの日本人は睡眠時間が不足しているといわれています。
OECD(経済協力開発機構)の調査によると日本人の平均睡眠時間は442分(7時間22分)で、調査対象となった33カ国で最も短いと分かっています[1] 。
全体の平均より1時間以上短く[1] 、日本人の睡眠時間の短さが顕著に表れています。
日本人の睡眠時間が短い理由の一つは、長時間労働です。
労働時間が長いほど睡眠時間が短くなりやすい傾向があります。
また通勤時間が長いことや、女性では家事や育児の負担が大きいことなども睡眠時間が短くなる要因といえるでしょう。
さらに睡眠の重要性について学ぶ機会がないため、「寝ずに頑張る」ことを美徳とする風潮があることも否めません。
[1] 厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」
1-2.諸外国の平均睡眠時間
日本はOECDの調査対象のなかで最も睡眠時間が短い国ですが、各国の平均睡眠時間はどのくらいなのでしょうか。
国別の1日の睡眠時間とランキングは以下のとおりです。
睡眠時間の長い国 | |
---|---|
国名 | 1日の平均睡眠時間 |
南アフリカ | |
中国 | |
アメリカ |
睡眠時間の短い国 | |
---|---|
国名 | 1日の平均睡眠時間 |
日本 | |
韓国 | |
スウェーデン |
OECD「Time use across the world(2018年版)」をもとに執筆者作成
睡眠時間にはその国の文化やライフスタイルが影響していると考えられます。
例えば中国では、農村部における生活スタイルの影響により、平均睡眠時間が長くなっていると考えられています。
農村部の人たちは比較的時間に余裕があり、睡眠時間を確保しやすい生活を送っていると想定されます。
人口の多くを農村部が占めていることから、平均睡眠時間が長くなっていると考えられるのです。
またアメリカは、睡眠についての教育が行われていることや「パワーナップ文化」の影響で、平均睡眠時間が長い傾向にあると考えられます。
さらにアメリカでは、睡眠が十分にとれないとカウンセリングを受けることが一般的です。
このように睡眠を重要視する文化が、睡眠時間に影響を及ぼしていると考えられます。
反対に日本に次いで睡眠時間の短い韓国は学歴社会であることから勉強時間が大きく影響しているという説があります。
また、OECDによると世界の平均年間労働時間が1,752時間であるのに対し、韓国は1,901時間と約1.1倍の労働時間となっています[2]。
韓国も日本と同様に頑張ることが美徳とされる文化があるのかもしれませんね。
[2] OECD「Date Hours Worked: Average annual hours actually worked(2022年版)」
2.理想的な睡眠時間
「理想的な睡眠時間ってどのくらいなんだろう?」と、気になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
厚生労働省は1日の睡眠時間の目標を20~59歳で6~9時間、60歳以上で6~8 時間に設定しています[3] 。
ただし適切な睡眠時間には個人差があり、個々に合った睡眠時間がとれないと健康へ悪影響が生じます。
睡眠時間が短過ぎる場合には、日中に眠気が生じ学業や仕事へ支障を来すことがあります。
一方、睡眠時間が長過ぎる場合には死亡リスクが高まると分かっています。
なかでも睡眠時間が8時間を超える人は死亡リスクが上昇するとの報告があります[4]。
これまで理想的な睡眠時間は8時間といわれていましたが科学的な根拠は示されていません。
睡眠時間の目標を目安に、自分に合った睡眠時間をとることが重要なのですね。
睡眠時間が十分にとれているかは、ぐっすりと眠ることができ、しっかりと休まった感覚(休養感)を得られているか、という点が目安になります。
休養感を高めるためしっかりと睡眠時間を確保しましょう。
また、睡眠においては量(時間)だけでなく質も重要です。
睡眠の質は以下のような点から評価できます。
【睡眠の質の評価指標】
- 規則正しく睡眠と覚醒のリズムが保たれていて、昼夜のメリハリがはっきりとしていること
- 睡眠中は途中で目覚めることが少なく、朝まで安定した睡眠が得られること
- 必要な睡眠時間がとれていて、日中に眠気や居眠りすることがなく、良好な心身の状態で過ごせること
- 朝は気持ち良くすっきりと目覚めること
- 寝床に就いてから時間をかけ過ぎずに入眠できること
- 目覚めてからスムーズに行動できること
- 睡眠で熟眠感が得られること
- 日中、過度の疲労感がなく満足が得られること
厚生労働省「第1回 健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会資料」をもとに執筆者作成
質の高い睡眠をとることで、すっきりと目覚めることができます。
睡眠の時間だけでなく、質も意識してみましょう。
[3] 厚生労働省「睡眠に関するこれまでの取組について」
[4] U.S. National Library of Medicine「Mortality associated with sleep duration and insomnia」
3.睡眠不足の悪影響
寝不足が続くことで体の不調を感じたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
慢性的に睡眠不足が続いている状態を「睡眠負債」と呼びます。
適切な睡眠時間を確保できず睡眠負債をため続けると、思わぬ心身の不調につながります。
この章では睡眠が不足すると体にどのような影響を与えるのかについて解説します。
3-1.日中の眠気
睡眠不足が日中の眠気の原因になることは皆さんご存じでしょう。
私たちは睡眠をとることで心身のメンテナンスを行っています。
このため十分な睡眠をとらないでいると、体や脳が十分に休息できず脳からのSOS信号として眠気を発します。
健康な人でも午後になると「体内時計」のはたらきによって眠気が強まりますが、「眠ってはいけない」という意思の力で覚醒状態を保つことができます。
しかし夜更かしなどによって体内時計が乱れた状態が続くと、睡眠・覚醒リズムに影響を及ぼします。
望ましい時間の入眠や覚醒ができなくなることで、日中の眠気が強くなり居眠りに繋がります。
日中の強い眠気や居眠りによるヒューマンエラーが起こることもあり、結果として命に関わる事故につながる危険もあるのです。
脳や体をしっかり休ませるためにも適切な睡眠時間を確保することが必要ですね。
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「体内時計」
3-2.記憶力・集中力の低下
睡眠不足の状態では記憶力や集中力の低下が見られるといわれています。
記憶は脳の「海馬(かいば)」と呼ばれるところに一時的に保存されます。
海馬は新しい記憶を保存し、不要な記憶を消去するといった短期記憶に関わる器官です。
しかし睡眠不足の状態が続くと海馬に老廃物が蓄積し、記憶力が低下してしまうと考えられているのです。
また睡眠不足では脳の活動自体が低下してしまい、これにより集中力の低下も起こります。
集中力の低下は仕事のミスや事故を招いてしまう恐れもあります。
睡眠不足は脳のはたらきに大きな影響を与えてしまうのですね。
3-3.抑うつ
睡眠不足は抑うつ状態や不安、混乱などを引き起こす場合もあります。
睡眠不足による抑うつは、ネガティブな情動刺激に反応する脳の「左扁桃体」のはたらきが過剰になることが原因だと考えられています。
実験の結果、わずか5日間の睡眠不足で、他人の恐怖の表情に対する左扁桃体の活動の高まりが見られたことが報告されています[6]。
なお、幸せな表情というポジティブな情動刺激への反応が大きくなることはないという実験結果も出ており、睡眠不足ではネガティブな刺激に対してのみ反応しやすくなってしまうといえます。
この実験から左扁桃体の過剰反応は、左扁桃体とそのはたらきを支える「腹側前帯状皮質」の結び付きが弱くなることで起こるものであると解明されました。
睡眠不足が深刻であるほど左扁桃体と腹側前帯状皮質の結び付きは弱まり、その程度に応じて抑うつ傾向や不安などが強まることが分かったのです。
睡眠は心の健康にも重大な悪影響を及ぼす恐れがあるのですね。
[6] PLOS ONE「Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity」
3-4.肥満リスクの増大
睡眠が不足すると肥満になるリスクが高くなります。
睡眠不足の状態では、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌量が減り、食欲を高めるホルモン「グレリン」の分泌量が増えることが分かっています。
睡眠不足の状態ではつい食べ過ぎてしまうといえるでしょう。
また、睡眠不足のときにはストレスを感じると分泌が増えるホルモン「コルチゾール」の分泌量が増加します。
コルチゾールが過剰に分泌されると、その作用により血糖値が上昇します。
血糖値が上昇するとそれに反応して「インスリン」というホルモンが分泌されます。
インスリンにはエネルギーとして使い切れなかった血糖を脂肪などに変え体内に蓄えるはたらきを促進する作用もあります。
このためコルチゾールが過剰に分泌され血糖値が上がり過ぎると、脂肪がつきやすくなってしまうと考えられるのです。
さらに睡眠が不足していると、基礎代謝が低下するともいわれています。
基礎代謝が低下するとエネルギー消費量が減り、肥満になりやすくなるため注意が必要です。
睡眠不足は体形にも悪影響を及ぼすことがあるのですね。
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「身体活動とエネルギー代謝」
3-5.免疫機能の低下
睡眠不足は免疫機能が低下するリスクを高めます。
私たちの体には、ウイルスや細菌などの病原体が侵入してきたとき、それらに対抗し、除去するための免疫機能が備わっています。
免疫機能は生まれながらに備わっている「自然免疫」と、一度体内に侵入してきた病原体などの異物を記憶し、再度侵入してきた際に対応する「獲得免疫」に分けられます。
自然免疫は体内に入ってきた病原体を即座に攻撃し、体を守る役割を果たしています。
睡眠はこの自然免疫を正常に保つために重要だと考えられています。
ウイルスや細菌などに感染すると体内では「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質(免疫物質)が分泌されます。
サイトカインは睡眠を促し、睡眠はサイトカインの分泌を促す関係にあるといわれています。
風邪をひいたときによく眠ることが重要だといわれるのは、このサイトカインと睡眠の相互関係により、よく眠ることが回復をもたらすからなのですね。
一方で、睡眠不足では感染症にかかりやすくなるという研究結果も複数報告されています。
例えば、164名を対象に睡眠時間の長さによって複数のグループに分け、睡眠と免疫の相関性を調べる実験では、睡眠時間の短い群は風邪にかかりやすいという結果が出ています[8]。
この実験では7日間睡眠時間をモニタリングした上で、風邪の原因となるライノウイルスを含む点鼻薬を対象者に投与し、その後5日間、風邪の発症がなかったか確認しています[8]。
その結果、睡眠時間が5時間未満、5〜6時間の人たちは睡眠時間が7時間を超える人たちに比べ、風邪を発症するリスクが高かったことが分かったのです[8]。
風邪などの感染症を予防したり、早く治したりするためにも睡眠は重要だと考えられるのですね。
[8] U.S. National Library of Medicine「Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold」
3-6.生活習慣病発症リスクの増大
慢性的な睡眠不足は「生活習慣病」の発症リスクを高めます。
7時間前後の睡眠時間を確保している人では、肥満、高血圧、「脂質異常症」のリスクが低くなり、睡眠が短くなるほどこれらの病気のリスクが高まるという報告がされています[9]。
短い睡眠はさまざまな病気の発症率を高め生活習慣病にかかりやすくなるので注意が必要です。
また生活習慣病を患っている方は睡眠障害である「睡眠時無呼吸症候群」や不眠症になる確率が高いことが分かっています。
睡眠障害があると睡眠の質が悪くなり、熟睡感を得られないため日中の活動に影響します。
日中の疲労や集中力の低下、気分変調が起こりやすくなり、さらに睡眠のリズムが崩れるなどの生活習慣の悪化へとつながる悪循環になってしまうのです。
[9] 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
4.睡眠の質を高めるためのポイント
睡眠の質を高めることは心と体の健康の維持につながります。
質の良い睡眠をとるためには、適切な睡眠時間を確保するだけでなく、ぐっすりと眠れたという満足感も重要です。
生活習慣を見直し改善することで睡眠の質が高まることが分かっています。
ここでは眠りの質を高めるためのポイントをいくつか紹介します。
ポイント1 朝日を浴びる
朝起きたらすぐにカーテンを開けて日光を浴びる習慣をつけましょう。
起床後すぐに朝日を浴びることで体内時計がリセットされます。
人間の体内時計の周期は24時間より長めにできています[10]。
そのため体内時計をリセットし1日24時間のリズムになるよう整える必要があります[10]。
体内時計のリセットがうまく行えないと床に就いてもなかなか寝付けなかったり、朝寝坊してしまったりと睡眠―覚醒のリズムの乱れにつながってしまいます。
また、このリズムを崩さないためには日光を浴びるだけでなく、毎朝同じ時間に起床することも大切です。
窓のない部屋で生活している場合は、起きたら照明をつけ、できるだけ室内を明るくするようにしましょう。
反対に夜は自宅の照明が明る過ぎると体内時計が乱れるため、夜になったら照明を暗くすることがポイントです。
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
ポイント2 夕食は早めに摂る
規則正しい食生活は良い睡眠につながります。
就寝に近い時間に食事を摂ると、消化活動が入眠を妨げてしまうので睡眠の質が悪くなります。
仕事の都合などで早めの夕食が難しい場合でも、遅くとも就寝の2時間前までには夕食を済ませるようにしましょう[11]。
また夕食の時間が遅いと眠る時間も遅くなってしまいます。
十分な睡眠時間を確保するためにも規則正しい食生活を心掛けることが大切ですね。
なお朝食を食べることも朝の目覚めを促します。
朝食は簡単なものでも良いので脳のエネルギー源となる糖分を補給することが望ましいでしょう。
体内時計のリズムを崩さないためにも食生活にメリハリをつけることを意識しましょう。
[11] 厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」
ポイント3 運動習慣をつくる
習慣的な運動はスムーズな入眠を促し、中途覚醒を防ぎます。
運動の内容も睡眠に影響することが分かっています。
推奨される運動は世代別で異なるため以下の表を参考にしてください。
働く世代 | 高強度 | ジョギング、サイクリング、水泳、登山、重い荷物の運搬など |
---|---|---|
中強度 | 野球、ハイキング、子どもと活発に遊ぶ、適度な重さの荷物の運搬など | |
リタイア世代 | 低強度 | 散歩、体操、ヨガ、ストレッチ、草むしり、軽い荷物の運搬など |
厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」をもとに執筆者作成
激しい運動はかえって睡眠を妨げるため、負担が少なく自分の体力と強度に合った運動を心掛けましょう。
また就寝直前の運動は体を興奮させてしまいます。
睡眠の質をより高めるためには夕方から夜、就寝の3時間くらい前までの運動がおすすめです[12]。
深い睡眠を得るためには1回の運動では効果が弱いため習慣的に続けるようにしましょう[12]。
[12] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
ポイント4 湯船につかる
入浴には寝つきを良くし、深い睡眠をもたらす効果があります。
疲れているとシャワーだけで済ませるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
疲労をため込まないためにも疲れているときこそ湯船につかることをおすすめします。
湯船につかることで、全身の温熱効果はもちろん、リラックス効果や血流促進による深い睡眠をもたらす効果なども期待できます。
寝付きを良くするなら床に就く前の2~3時間前の入浴が理想です[13]。
またお湯の温度とつかる時間は38度のぬるめのお湯なら25~30分、42度の熱めのお湯なら5分程度をおすすめします[13]。
もしくは腹部までを湯船につける半身浴を約40度のお湯で30分ほど、汗をかく程度に行うことも寝付きを良くする効果があるので自分の体調や好みに合った入浴を選びましょう[13]。
ただし熱過ぎる温度や長風呂は体への負担につながりかえって寝付きを悪くする可能性があるので気を付けましょう。
[13] 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
ポイント5 就寝前の酒、たばこ、カフェイン飲料を控える
お酒やたばこ、カフェイン飲料は睡眠の質を悪くするため就寝前には控えましょう。
ストレスを感じると無意識にお酒やたばこなどを手に取ることが増えるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
睡眠薬の代わりに寝酒をしている方も多いかもしれません。
お酒に含まれるアルコールは入眠を一時的に促す効果がありますが、夜中に目が覚めたり寝つきが浅くなったりして熟睡感が得られなくなる恐れがあります。
またたばこに含まれるニコチンにも覚醒作用があり、入眠を妨げます。
さらにコーヒーなどに含まれるカフェインにも覚醒作用があるといわれています。
特にカフェインは摂取してから3時間程度作用が持続するため、就寝の3〜4時間前から摂取を控えるようにしましょう[14]。
カフェインには利尿作用もあるため、夜中に尿意で目を覚ます原因にもなります。
お酒やたばこ、カフェイン飲料などの嗜好(しこう)品は使用するタイミングを誤ると睡眠の質を悪くする可能性があるので摂取の仕方を見直し改善しましょう。
[14] 厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014」
ポイント6 就寝前にリラックスする
就寝前にはリラックスできる時間をとるようにしましょう。
ストレスなどで起こる「自律神経」の乱れは入眠を妨げる原因になります。
通常、朝には交感神経が優位になって活動的になり、夜になると副交感神経が優位になって眠気を感じます。
しかし日々のストレスから慢性的に緊張状態だと夜でも交感神経が優位にはたらき、なかなか寝付くことができなくなってしまいます。
寝つきを良くしてぐっすり眠るためには、就寝前に心身をリラックスさせて副交感神経を優位にする必要があります。
リラックスのためにはストレッチやハーブティー、ツボ押しなどがおすすめです。
睡眠前に軽いストレッチを行うことで筋肉がほぐれ血流が良くなり、副交感神経が活性化します。
深呼吸をしながらゆっくりと行うことがコツです。
また、ホットハーブティーを飲むことで、リラックスすることができるかもしれません。
温かい飲み物は副交感神経を優位にし、寝付きを良くするといわれています。
ハーブティーにはさまざまなものがあり、好みの香りを楽しめます。
ノンカフェインのものを選ぶことができるのも就寝前に適しているといえます。
同じくツボマッサージにも自律神経を整えストレスを軽減する効果が期待できます。
快眠をもたらすといわれているのが、「労宮(ろうきゅう)」と「失眠(しつみん)」です。
ツボ押しは強く押し過ぎると脳がかえって覚醒してしまうのでゆっくり呼吸しながら気持ち良さを感じる程度の優しい押し方を心掛けましょう。
寝る前に体がリラックスすると不安な感情やネガティブな思考が軽減し、スムーズな入眠につながります。
しかし、こうした工夫をしてみてもうまく寝付けない場合もあるでしょう。
20分以上眠りにつけない場合は無理に寝ようとはせず、一度布団から出て暗い場所でリラックスして過ごし、眠気を感じたら布団に戻りましょう[15]。
なお、このようなリラックス法が合うかどうかには個人差があるため、自分に合った方法を見つけ工夫することが大切です。
[15] 厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」
ポイント7 寝室の環境を整える
夏の暑さで寝苦しさを感じたり冬は寒くてなかなか寝付けなかったりといった経験はありませんか。
良い睡眠のためには寝室の温度・湿度、光、音の条件を整えることが重要です。
寝室や寝床の温度・湿度は体温調節に関わり寝つきや睡眠の深さに影響します。
ぐっすり眠るためにも、室温や湿度は心地良いと感じられる程度に調整しましょう。
また強い光には目を覚ます作用があるため、明る過ぎる照明の使用は入眠を妨げてしまいます。
寝床に就く1時間前には部屋の明かりを少し落としておくと良いでしょう[16]。
ただし真っ暗で無音の感覚刺激の少ない環境では、かえって不安感や緊張感が増大し、寝つきにくくなるともいわれています。
眠るときは不安を感じない程度の暗さにしておくと良いでしょう。
できるだけ静かな環境を確保することも重要です。
加えて適切な寝具を選ぶことも、睡眠の環境を整え睡眠の質を向上させることにつながります。
寝具には寝ているときの保温と、良い寝相(立ち姿勢に近く体への負担が少ない姿勢)を保つという二つの大きな役割があります。
自分に合った寝具を選ぶことで、寝つきが良くなり、睡眠中の寝返りを少なくして快眠を得ることができます。
直接肌に触れる枕や布団、パジャマは肌触りが良く柔らかで、眠っている間の汗をよく吸ってくれるものを選びましょう。
スムーズな入眠を促し、朝までぐっすりと眠れるような質の高い睡眠のために寝室の環境を改善しましょう。
[16] 厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」
5.平均睡眠時間についてのまとめ
日本の平均睡眠時間は諸外国と比べ短いといわれています。
OECDの調査では、日本人の平均睡眠時間は442分(7時間22分)と調査対象となった33カ国のなかで最も短いという結果が出ています[17]。
この背景には長時間労働や通勤時間の長さ、女性の家事負担率の高さなどがあると考えられています。
このように睡眠時間にはその国の文化やライフスタイルが影響していると考えられます。
例えば睡眠について学ぶ機会が多く、パワーナップ文化もあるアメリカは平均睡眠時間が長めです。
睡眠は長過ぎても短過ぎても健康に悪影響を及ぼすため、適切な睡眠時間を確保することが重要です。
厚生労働省は、20~59歳で6~9時間、60歳以上で6~8時間の睡眠をとることを目標としています[18]。
また睡眠においてはその長さだけでなく、質も重要だといわれています。
睡眠の質を高めるためには、朝日を浴びる、運動習慣をつくる、寝室の環境を整えるなどといった取り組みが効果的です。
生活習慣を見直し、十分で質の高い睡眠を心掛けましょう。
[17] 厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」
[18] 厚生労働省「睡眠に関するこれまでの取組について」