「エコノミークラス症候群ってどんな病気なのかな?」
長時間同じ姿勢でいるとエコノミークラス症候群になることは知っていても、具体的な症状や深刻さについてはご存知ない方も多いのではないでしょうか。
エコノミークラス症候群とは、脚の深部にある静脈にできた血栓(血の塊)が血流に乗って移動し、肺の動脈に詰まってしまう病気です。
発症すると胸が痛み、呼吸が苦しくなって、最悪の場合は死に至ります。
血栓は健康な人にはできないといわれていますが、血液や体の状態によっては発生リスクが高まるため注意が必要です。
この記事ではエコノミークラス症候群のメカニズムや症状を解説した後、危険因子と予防のためのポイントをご紹介します。
1.エコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)とは
エコノミークラス症候群とは、血の塊(血栓)ができて血管に詰まる「血栓症」の一つです。
長時間狭い場所で座ったままになる飛行機のエコノミークラスで起こることがあるため、「エコノミークラス症候群」と呼ばれています。
正式名称の「急性肺血栓塞栓症(きゅうせいはいけっせんそくせんしょう)」よりも、こちらの呼び方になじみがあるという方も多いかもしれませんね。
この章ではエコノミークラス症候群発生のメカニズムと、その症状について詳しく解説していきます。
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1-1.エコノミークラス症候群発生のメカニズム
長時間同じ姿勢でいると脚の血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。
脚の表面にある静脈に血栓ができても、それほど大きな問題にはなりませんが、体の内側を走る「深部静脈」に血栓ができると重症化することがあります。
静脈にできた血栓は脚を動かさなければ移動することはありません。
しかし、立ち上がったときなどに、脚の動きに合わせて血栓を乗せた大量の血液が心臓に向かうことがあります。
この血栓が肺の動脈に詰まるとエコノミークラス症候群を発症します。
座っている間は無症状だったのに、飛行機を降りた瞬間に突然死するケースがあるのはこのためです。
エコノミークラス症候群というと飛行機の機内だけで起こる病気と思われている方もいるかもしれませんが、実際にはあらゆる状況で発生します。
飛行機以外にも、電車や車の中などで同じ姿勢をとり続けていると発症リスクが増加します。
災害時の避難所生活や車中泊でも発症が報告されています。
また手術後や病気などで寝込んでいるときも血栓ができやすいため注意が必要です。
1-2.エコノミークラス症候群の症状
エコノミー症候群になると突然呼吸が苦しくなる、胸が痛くなるといった症状が現れます。
重症の場合は意識を失い、死亡することもあります。
場合によっては症状が数日かけてゆっくり進むこともあるため、注意が必要です。
エコノミークラス症候群の初期症状としてはふくらはぎや太ももの腫れや痛み、赤みが挙げられます。
またふくらはぎが張った感覚があったり、脚にだるさを覚えたりする場合もあります。
ほとんどの場合は片脚だけ(左脚が多いとされています)に症状が現れますが、両脚にみられるケースもあります。
症状などからエコノミークラス症候群が疑われる場合はすぐに呼吸器科、内科、循環器科を受診してください。
2.エコノミークラス症候群の危険因子
エコノミークラス症候群などの血栓症は、健康な人では起こらないといわれています。
しかし、いくつかの危険因子が重なることで発症リスクが高まります。
この章ではエコノミークラス症候群の危険因子を三つご紹介します。
因子1 血流の悪化
血流の悪化はエコノミークラス症候群の危険因子の一つです。
血流を悪化させる要因としては肥満や妊娠、心疾患、加齢などが挙げられます。
また、危険因子を持たない人でも、長時間同じ姿勢でいると数時間で血栓ができます。
エコノミークラス症候群と呼ばれるようになったのも、飛行機のエコノミークラスで長時間狭い座席に座ったままの際に発症するケースが見られたためです。
オフィスでのデスクワーク時や、劇場、映画館でも同じ姿勢でいると血流が悪化するため、注意が必要です。
因子2 血液が固まりやすい
血液が固まりやすくなると血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群の発症リスクも高まります。
血液を固まりやすくさせる要因としては脱水やがん、経口避妊薬・ホルモン剤の服用、「抗リン脂質抗体症候群」などが挙げられます。
健康な方でも、忙しさで水分補給を忘れてしまう、被災して満足に水分を摂れないといった場合は、水分が足りずに血液が固まりやすくなるため注意が必要です。
因子3 血管が傷つく
血管が傷つくとエコノミークラス症候群のリスクが高まります。
血管を傷つける要因としては手術時の血管損傷、静脈に炎症が起こった状態である「静脈炎」、糖尿病、喫煙、「カテーテル検査」などが挙げられます。
3.エコノミークラス症候群を予防するポイント
「エコノミークラス症候群を予防するにはどうすれば良いんだろう?」
エコノミークラス症候群は発症すると命に関わることもあるため、予防のためのポイントが気になるところですよね。
この章ではそんなポイントを四つご紹介します。
ポイント1 2〜3時間に1回脚を動かす
エコノミークラス症候群を予防するには、脚の血流を滞らせないことが重要です。
そのため同じ姿勢でいることは避け、2〜3時間に1回は脚を動かしましょう[1]。
ふくらはぎの筋肉を意識しながら足首を曲げ伸ばしするだけでも違います。
具体的には以下のような方法があります。
爪先を上げて、足の指を開いたり閉じたりします。
また、ふくらはぎを意識しながら爪先とかかとを交互に上げる動きをしても脚の血流を改善できます。
長時間、座らざるを得ないときは意識的に足首を動かしてみてください。
[1] 一般社団法人 日本血栓止血学会「血栓症ガイドブック」
ポイント2 ふくらはぎをマッサージする
エコノミークラス症候群を予防するにはふくらはぎをマッサージすることも重要です。
体を動かしていないと血流が悪くなり、重力の関係から体の下部にある脚に水分がたまります。
ふくらはぎの筋肉には、たまりがちな脚の血液を心臓に向かって送るポンプの役割があります。
座りっぱなしだとこのポンプのはたらきが弱まるため、マッサージによってサポートすることで血流の改善が期待できるのです。
具体的には以下のようなマッサージがあります。
片方の足の甲を使って、反対のふくらはぎをたたきます。
また、下から上に向けて下腿(かたい)部の骨に沿ってさすったり、ふくらはぎをもんだりすることでも血流は改善します。
また普段からふくらはぎの筋肉を使っておくと血栓ができにくくなるので、散歩や体操を積極的に行うと良いでしょう。
ポイント3 水分を十分に摂取する
エコノミークラス症候群を予防するには、水分を十分に摂取する必要があります。
脱水状態になると血液がドロドロになり、血栓ができやすくなります。
そのためエコノミークラス症候群を発症しそうな状況ではこまめな水分補給を心掛けましょう。
ただしアルコールやお茶など、利尿作用のある飲み物はむしろ脱水を助長するため注意が必要です。
ポイント4 ゆったりとした衣服を選ぶ
ゆったりとした衣服を選ぶことも、エコノミークラス症候群の予防になります。
長時間同じ姿勢をとるときは、脚の動きを妨げないようにゆったりとした衣服を着用しましょう。
またベルトを着用する場合はきつく締め過ぎないように注意してください。
4.エコノミークラス症候群についてのまとめ
エコノミークラス症候群とは、脚の深部にある静脈にできた血栓が血流に乗って移動し、肺の動脈に詰まってしまう病気です。
正式名称は急性肺血栓塞栓症ですが、飛行機のエコノミークラスで起こることがあるため「エコノミークラス症候群」と呼ばれています。
長時間同じ姿勢でいると脚の血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。
発症すると呼吸困難や胸の痛みなどの症状が現れる他、重症の場合は意識を失い、死亡することもあります。
エコノミークラス症候群の疑いがある場合はすぐに呼吸器科、内科、循環器科を受診しましょう。
エコノミークラス症候群のリスクは、血流の悪化や脱水、血管の傷などにより高まります。
エコノミークラス症候群は2〜3時間ごとに脚を動かす、ふくらはぎをマッサージする、水分を十分に摂取する、ゆったりとした服を選ぶといったポイントを押さえることで予防できます[2]。
この記事を参考に、エコノミークラス症候群の予防に取り組んでくださいね。
[2] 一般社団法人 日本血栓止血学会「血栓症ガイドブック」