「おなかが痛いんだけど、これって食あたりかな?」
「食あたりにはどんな原因があるんだろう?」
食あたりは細菌やウイルス、寄生虫などにより吐き気や嘔吐(おうと)、腹痛、下痢といった症状が現れる状態のことです。
原因によって症状が出現するまでの時間や、現れる症状が異なります。
同じ食事をしていても体調に問題がない方は食あたりにならないこともありますが、抵抗力が低い子どもや高齢者、体調がすぐれない方などは食あたりになりやすいため注意が必要です。
この記事では、食あたりの症状や原因、予防の3原則について解説します。
医療機関受診の目安についても解説しているので、ぜひ参考にしてくださいね。
1.食あたりとは
食あたりとは細菌やウイルス、寄生虫などがついた食べ物を食べたことにより、吐き気や嘔吐、下痢や腹痛といった症状が現れる状態のことです。
医学用語では食中毒とも呼ばれ、どちらも同じ意味で使われます。
食あたりは、原因によって現れる症状や発生しやすい時期が異なります。
食あたりと聞くと、夏に起こりやすいというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。
食あたりのうち細菌が原因で起こるものは、気温や湿度が高くなる梅雨の時期や夏場に発生しやすい傾向があります。
一方ウイルスによる食あたりは冬場に発生しやすく、寄生虫によるものは年間を通して発生するとされています。
また「潜伏期間」も食中毒の原因となる細菌やウイルス、寄生虫によってさまざまです。
原因となる細菌やウイルスが食事を通して体内に入った後、すぐに症状が現れる場合もあれば、数日後に症状が出現する場合もあるのです。
ただし原因となる細菌などが付いた食品を摂取しても、全ての人に食あたりの症状が現れるわけではありません。
通常、健康な方の場合は胃酸や腸内にいる乳酸菌などにより細菌が殺菌されたり、繁殖しにくい環境がつくられたりして、体が守られています。
しかし、成人に比べて「免疫機能」が弱い子どもや高齢者、成人でも免疫機能が低下している方では、食あたりが起こりやすくなるのです。
なお、食あたりを起こす細菌などが体内に入った量や、体調によって潜伏期間の長さや症状の強さなどが異なることがあります。
次の章では食あたりの原因と症状について解説します。
2.食あたりの原因と症状
食あたりの原因には細菌やウイルス、寄生虫などがあります。
潜伏期間や出現する症状も原因によってさまざまです。
次に、食あたりの原因となる代表的な細菌やウイルス、寄生虫について解説します。
2-1.食あたりの原因となる主な細菌と症状
食あたりの原因となる主な細菌は次のようなものがあります。
【食あたりの原因となる主な細菌の種類】
- カンピロバクター
- サルモネラ菌
- ウェルシュ菌
- 腸管出血性大腸菌
- ブドウ球菌
それぞれの細菌による食あたりの症状や潜伏期間などを解説しましょう。
2-1-1.カンピロバクター
カンピロバクターは鶏や牛といった家畜、ペット、野鳥、野生生物など多くの動物が保菌している細菌です。
カンピロバクターの食あたりにおける調査では、原因食品として鶏のレバーやささみなどの刺身、鶏肉のたたきといった生や加熱不足の鶏肉が認められています[1]。
症状は吐き気や嘔吐、腹痛や下痢、発熱や頭痛などです。
潜伏期間は1~7日で、多くの患者は約1週間で治癒します[1]。
まれに感染後数週間が経過してから「ギラン・バレー症候群」を発症する場合があります。
カンピロバクターによる食あたりでの死亡例や重篤例は少ないですが、子どもや高齢者、免疫機能が落ちている方などは重症化する恐れがあるため、注意を要します。
[1] 厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について」
2-1-2.サルモネラ菌
サルモネラ菌は自然界に広く分布し、牛や豚、鶏などの家畜、ペットも保有している細菌です。
主に牛肉や豚肉、鶏肉などの食肉や卵などが原因となる食品です。
食品からの感染のみでなく、ペットと触れ合った手や指を通しても感染する可能性があります。
感染後、12~48時間以内に吐き気や腹痛などの症状が出現し、その後水のような便や38度前後の発熱を繰り返します[2]。
これらの症状が1~4日ほど続き多くの場合は自然に治癒しますが、子どもや高齢者の場合は脱水により命の関わる危険な状態となる恐れがあります[2]。
[2] 三重県「食中毒について」
2-1-3.ウェルシュ菌
ウェルシュ菌は人や動物の腸管、土壌、水中など多くの場所に存在しており、人や牛や豚、鶏などの家畜の便、魚などからも検出されます。
食品では特に牛肉や豚肉、鶏肉などが汚染されていること多いとされています。
ウェルシュ菌の潜伏期間は6~18時間で、24時間以降に症状が出現することはほとんどありません[3]。
主な症状は腹痛と下痢で、多くの場合は1~2日で回復します[3]。
また、ウェルシュ菌は熱に強い「芽胞」をつくるため、100度以上の高温でも死滅しません[4]。
酸素を嫌う「嫌気性」の細菌でもあるため、酸素に触れない状態になりやすい食品の中心部はウェルシュ菌が増殖しやすくなります。
発育に適している温度は43~47度で増殖する速度も速いため、カレーやシチュー、スープなどのように大量に調理され、放置された料理で発生しやすいとされています[3]。
[3] 国立感染症研究所「ウエルシュ菌感染症とは」
[4] 農林水産省「ウェルシュ菌」
2-1-4.腸管出血性大腸菌
腸管出血性大腸菌は「ベロ毒素」という強力な毒素を産生する細菌です。
この菌は成分によっていくつかに分類されており、代表例が腸管出血性大腸菌O157です。
腸管出血性大腸菌O157の感染事例から原因食品と特定されたのは、井戸水や牛肉、牛レバー、キャベツ、レタス、カイワレ大根などさまざまです。
約2~9日の潜伏期間のあと、激しい腹痛を伴う下痢や血便などの症状を引き起こします[5]。
発症後、約5%の人が溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症といった重篤な合併症を引き起こす点が特徴で、場合によっては死に至ることもあります[5]。
飲食店や食肉販売業者が提供した食肉を、生や加熱が不十分な状態で食べたことによる感染例が多い他、動物との接触により感染したケースもあります。
[5] 東京都感染症情報センター「腸管出血性大腸菌(O157など)」
2-1-5.ブドウ球菌
ブドウ球菌は人や哺乳動物の皮膚や粘膜にいる細菌です。
数十種類あり、なかでも病原性が強いのが黄色ブドウ球菌で、健康な人の鼻腔や咽頭、腸管、傷口などに生息しています。
黄色ブドウ球菌は食品の中で増殖する際に、100度で20分加熱しても分解されないエンテロトキシンという毒素を産生し、食あたりを引き起こします[6]。
黄色ブドウ球菌による食あたりは、食後1~6時間で吐き気や嘔吐、腹痛や下痢といった症状が出現します[7]。
通常は24時間以内に改善するため特別な治療は不要とされていますが、腹痛や下痢などの症状の強さによっては重症化する可能性があります。
[6] 東京都保健衛生医療局 食品衛生の窓「黄色ブドウ球菌」
[7] 農林水産省「黄色ブドウ球菌」
2-2.食あたりの原因となる主なウイルスと症状
食あたりの原因となるウイルスも数多くあります。
この章では、代表例であるノロウイルスについて解説します。
2-2-1.ノロウイルス
ノロウイルスによる食あたりは通年発生しており、特に冬季に流行します。
原因食品として多く報告されているのは牡蠣(かき)を含む二枚貝ですが、約7割は特定されていません[8]。
ノロウイルスに感染後、24~48時間で吐き気や嘔吐、下痢や腹痛といった症状が出現し、これらの症状が1~2日続いたあと治癒します[8]。
ノロウイルスに対して効果のあるウイルス薬はなく、症状を軽減させるための対症療法によって治療が行われます。
脱水が激しい場合は、医療機関で点滴によって水分などを補う治療が行われることもあります。
下痢止めはウイルスの排出を妨げて回復を遅らせる可能性もあるため、使用は推奨されません。
[8] 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
2-3.食あたりの原因となる主な寄生虫と症状
食あたりは寄生虫が原因となっているものもあります。
この章では、アニサキスとクドアについて解説します。
2-3-1.アニサキス
寄生虫による食あたりのうち、最も発生件数が多いのがアニサキスによるものです。
さば、あじ、さんま、かつお、いわし、さけ、いかなどに寄生しており、長さは2~3cm、幅は0.5~1mmほどで白い糸のように見えることもあります[9]。
生鮮魚介類を生や加熱または冷凍が不十分の状態で食べることで、食あたりが引き起こされます。
アニサキスによる食あたりには「急性胃アニサキス症」と「急性腸アニサキス症」があり、多くを急性胃アニサキス症が占めます。
急性胃アニサキス症では、食後数時間から十数時間後にみぞおちの激痛や吐き気、嘔吐などを生じます。
現在アニサキスに対して効果的な駆除薬は開発されていないため、発症時は主に内視鏡により胃粘膜に食いついているアニサキスを摘出します。
[9] 厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
2-3-2.クドア
クドアはひらめに寄生する寄生虫です。
クドアが寄生しているひらめを生の状態や加熱が不十分な状態で食べると、約2~20時間で嘔吐や下痢などの症状が引き起こされます[10]。
これらの症状は軽度で、多くの場合は発症後24時間以内に回復します[10]。
クドアが寄生しているひらめを食べても、人の体内で成育するといった心配はありません。
[10] 農林水産省「ヒラメを介したクドアの一種による食中毒Q&A」
3.食あたりを予防するための3原則
「食あたりにならないためには、どうすれば良いのだろう」
食あたりを予防するためには、どのような対策をとれば良いのか分からない方もいるかもしれませんね。
食あたりを予防するためには、ウイルスや細菌、寄生虫を「つけない」「増やさない」「やっつける」の3原則を守ることが重要です。
この章では3原則についてそれぞれ詳しく解説します。
3-1.ウイルスや細菌を「つけない」
食あたりを防ぐには、ウイルスや細菌、寄生虫を付けないことが重要です。
手洗いではハンドソープを使用し、手のひらや手の甲、指の間や指先、手首までしっかりと洗うことがポイントです。
調理の前後だけでなく、扱う食材が変わるタイミングでもこまめに洗いましょう。
より清潔に調理するためには、調理用手袋やラップを用いて食材に直接触れないようにすることも対策の一つです。
また、肉や魚から出る「ドリップ」が他の食材に付着しないように防止することも大切です。
ドリップとは肉から分離して出る液体をいい、これを通じてウイルスや細菌が付くこともあります。
買い物や食材を保存する際には、ドリップが漏れ出ないようにビニール袋に入れるといった対策を取りましょう。
そして、お弁当や保存容器を洗うときは、パッキンを外して洗うことも忘れてはいけません。
パッキンをセットする溝もしっかりと洗いましょう。
3-2.ウイルスや細菌を「増やさない」
食あたりを予防するためには、ウイルスや細菌などを増やさないことも重要です。
買い物のとき、特に冬場の店内は暖房が効いているので、生ものは最後に購入しましょう。
購入後は保冷バッグや氷を使い、移動中に食材の温度が上がらないようにすることが大切です。
そして、食品に記載されている保存方法を守り、必ず消費期限内に食べましょう。
カレーやシチューといった一度で大量に作る料理は温度が下がるのに時間がかかり、その間に菌が増殖してしまいます。
このような料理を保存するときは、短時間で温度が下がるよう底が浅い容器に小分けし、再加熱する際は全体を十分に温めることが重要です。
また、テイクアウト料理や出前料理は常温で放置せず、早めに食べるようにしましょう。
特にすしのような生ものを食べる際には、お皿の下に保冷剤を敷くなどして温度が上がらないようにする工夫が大切です。
3-3.ウイルスや細菌を「やっつける」
食あたりを防ぐためには、ウイルスや細菌を「やっつける」ことが重要です。
ウイルスや細菌の多くは高温に弱いため、食材の中心部まで十分に加熱しましょう。
また、包丁やまな板といった調理器具は肉と魚介類用、野菜と果物用などで使い分けると安全です。
使用後は熱湯にさらしたり塩素系漂白剤を使用したりして、清潔を保ちましょう。
シンク内や三角コーナーなど含め、キッチン全体を清潔に保つように心掛けてくださいね。
4.食あたりが疑われるときの医療機関受診の目安
「おなかが痛いんだけど、これって食あたりかな?病院へ行くべきなのかな」
食あたりが疑われる際に、どのような症状が出たら受診するべきなのか分からない方もいらっしゃいますよね。
以下のような症状が出ている場合は、速やかに医療機関を受診してください。
【食あたりが疑われるときの医療機関受診の目安】
- 意識が朦朧(もうろう)とし呼吸困難になっている
- 激しい腹痛がある
- 下痢や嘔吐がひどくて水分摂取ができない
- 嘔吐物に血液が混じっている
- 血便が出ている
嘔吐する際は吐物による窒息を防ぐため、横向きで寝ることが大切です。
特に子どもや高齢者で吐いた物が口の中に残っている場合は、ビニール手袋を使用してかきだしてください。
また、下痢が続くと下痢止めを飲みたくなるかもしれませんが、細菌やウイルスの排出を妨げてしまう恐れがあるため、自己判断で薬を飲むのはおすすめできません。
5.食あたりについてのまとめ
食あたりとは、細菌やウイルス、寄生虫などが付着した食べ物を食べることで嘔吐や下痢、腹痛などの症状が出る病気のことです。
症状が出現するまでの期間は、原因となる細菌やウイルス、寄生虫によって異なります。
細菌ではカンピロバクターやサルモネラ菌、ウェルシュ菌や腸管出血性大腸菌、ブドウ球菌など、ウイルスではノロウイルス、寄生虫ではアニサキスやクドアなどがよく知られています。
食あたりを予防するためには、細菌やウイルス、寄生虫を「つけない」「増やさない」「やっつける」という3原則を守ることが重要です。
また、下痢や嘔吐が激しく水分摂取が困難、意識朦朧としている、嘔吐物に血液が混じっているなど、症状が激しく緊急性が高い場合は、早急に医療機関を受診してください。
この記事を参考にして、食あたりを予防しましょう。