「耳鳴りはなぜ聞こえるんだろう?」
「突然耳鳴りが聞こえるようになったけど、病院に行った方が良いのかな?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
耳鳴りの多くは音の処理を行う脳の一部が異常を来していることによって引き起こされており、耳の中で物理的な音が発生しているわけではありません。
原因にはさまざまなものがありますが、治療が必要な病気によって起こっているケースもあるため場合によっては即座に受診することが勧められます。
この記事では耳鳴りの原因や症状、受診すべきタイミング、治療法についてご説明します。
1.耳鳴りとは
耳鳴りとは医学的には「耳鳴(じめい)」と呼ばれ、耳の中で発生している雑音のことです。
特定の病気ではなく症状のことを指し、その原因はさまざまにあります。
耳鳴り自体は珍しいものではなく、誰もが経験し得るものだといえます。
耳鳴り(耳鳴)は「自覚的耳鳴」と「他覚的耳鳴」に分けられ、耳鳴りの多くは自覚的耳鳴に当たります。
自覚的耳鳴は音の処理を行う脳の一部「聴覚皮質」の異常によって引き起こされるものです。
実際に音が鳴っているわけではなく、本人にしか聞こえません。
自覚的耳鳴は多くの場合、耳に関連する病気の症状として現れます。
一方、他覚的耳鳴は血流の音など実際に耳の近くの体内で雑音が生じている場合に起こり、その名のとおり他者にも聞くことができます。
他覚的耳鳴は自覚的耳鳴に比べ非常にまれだといわれています。
2.耳鳴りの主な原因と症状
耳鳴りで聞こえる音は場合によって異なります。
ジーという音、キーンという音、ザーという音、ヒューという音、シューという音……さまざまです。
日によって異なる音が聞こえる人もいます。
またどのような音が聞こえるかは原因によって異なる場合もあります。
この章では、耳鳴りの原因と、聞こえる音の違いや症状についてご説明しましょう。
なお、耳鳴りの多くは難聴と同時に起こるといわれています。
難聴によって耳鳴りが起こるのには、音を聞く仕組みと関係していると考えられています。
耳には音を聞くためのさまざまな構造が備わっています。
外から確認できるいわゆる「耳」に当たる部分は「耳介」、耳の穴は「外耳道」と呼ばれます。
この外耳道の奥に位置するのが「鼓膜」です。
音を聞く際にはまず耳の穴を通った音が鼓膜を震わせます。
鼓膜の振動は「つち骨」「きぬた骨」「あぶみ骨」と呼ばれる三つの小さな骨「耳小骨」によって増幅されさらに耳の奥へ伝えられます。
その先には「蝸牛」と呼ばれるカタツムリのような形をした器官があります。
蝸牛は音を電気信号に変えるはたらきをしており、この電気信号を「聴神経」を通じて脳に送ります。
しかし、蝸牛などに異常を来すと脳に伝わる電気信号が弱まり、音を認識しづらくなります。
このような難聴のある状態では脳は聴こえない状態を改善しようと過敏になり、電気信号を必要以上に増幅させてしまいます。
これにより、音が鳴っていないときにも音が聞こえるように感じられ、耳鳴りが起こるのだと考えられています。
なお、難聴の原因にかかわらず、音が聞こえにくい状態では耳鳴りが起こりやすいことが分かっています。
ここからは、耳鳴りや難聴を引き起こす具体的な病気についてお伝えしていきます。
2-1.音響外傷
「音響外傷(音響性難聴)」は耳鳴りの原因となる難聴の一種です。
音響外傷とは大きな音にさらされて生じる、内耳の障害による難聴で、ライブなどで大きな音を聞いた直後から症状が現れます。
耳鳴りや聞こえにくさの他、耳がふさがったような感覚があります。
また音響外傷はヘッドホンやイヤホンで大きな音を聞き続けることによっても起こり得ます。
これは「ヘッドホン難聴」または「イヤホン難聴」とも呼ばれ、世界保健機関(WHO)は世界中で11億人もの若者がこのリスクにさらされているとしています[1]。
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)は進行が緩やかで自覚しにくい特徴がありますが、こちらも音響外傷の一種であるため、耳が詰まるような感じや耳鳴りの症状が見られることがあります。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)について」
2-2.騒音性難聴
騒音性難聴も耳鳴りを伴うといわれています。
騒音性難聴も音響外傷と同様に大きな音によって起こる難聴ですが、こちらは長期間にわたって大きな騒音を聞き続けることで起こるものを指します。
原因としては工事音や工場の機械音などが挙げられ、大きな音のなかで働いている人の職業病としても見られます。
高い音から徐々に難聴が進行していくため気付きにくいのが特徴です。
騒音性難聴による耳鳴りは、両耳から聞こえるといわれています。
2-3.突発性難聴
突発性難聴でも耳鳴りが起こります。
突発性難聴は突然耳が聞こえにくくなる難聴のうち原因がはっきりしないものの総称です。
感音難聴の一種で、特に働き盛りの40〜60代に多く見られるといわれています[2]。
突発性難聴は多くの場合片耳だけに起こり、全く聞こえない場合もあれば、高音だけが聞こえなくなるといった限定的な難聴が見られる場合もあります。
また難聴と共に耳鳴りや耳が詰まったような感じ、目まい、吐き気などを伴うケースが多くあります。
突発性難聴による耳鳴りは片耳からキーンという金属音のような音が聞こえるのが特徴です。
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「突発性難聴について」
2-4.老人性難聴
老人性難聴も耳鳴りを引き起こす難聴の一種です。
老人性難聴は加齢によって内耳や脳に障害が起こり聞こえにくくなった状態です。
原則として左右の耳で同時に進行し、高い音から聞こえにくくなっていきます。
老人性難聴による耳鳴りは両耳から聞こえるのが特徴です。
2-5.耳垢栓塞
「耳垢栓塞(じこうせんそく)」はいわゆる耳あかが詰まっている状態のことで、耳鳴りの原因の一つです。
耳あかは外耳道に位置する分泌腺から分泌された分泌物や古くなって剥がれ落ちた外耳道の表面組織、ほこりなどが混ざってできたものです。
本来は自然に排出されますが、耳掃除でかえって奥まで押し込んでしまうことなどで外耳道をふさいでしまい、耳垢栓塞に至ります。
耳垢栓塞では耳鳴りの他、耳の詰まった感じや軽度の伝音難聴が起こる場合もあります。
なお、耳垢栓塞で起こる耳鳴りではザーという低い音が聞こえるといわれています。
2-6.耳管狭窄症
「耳管狭窄(きょうさく)症」も耳鳴りの原因になり得ます。
耳管狭窄症で起こる耳鳴りもザーという低音が聞こえるものだといわれています。
耳管狭窄症は何らかの理由で鼻と耳をつなぐ「耳管」が狭まってしまった状態のことです。
耳管は耳の中の圧力を調節するはたらきをしており、耳管狭窄症ではこの圧力が低下することにより、耳が詰まったような感覚や、耳鳴り、自分の声や呼吸音が響くような感覚などの症状が現れます。
原因には風邪や副鼻腔(びくう)炎などによる耳管の炎症があります。
2-7.耳硬化症
また「耳硬化症」も耳鳴りの原因になり得ます。
耳硬化症で起こる耳鳴りではザーという低い音がするといわれています。
耳硬化症は耳小骨のうち一番奥に位置するあぶみ骨がだんだんと動きにくくなり、進行性の難聴を引き起こす病気です。
作曲家のベートーベンが聴力を失った原因であるともいわれています。
耳硬化症の原因は不明とされており、女性に多く見られます。
症状には難聴の他、耳鳴りや目まいなどがあります。
2-8.内耳炎
「内耳炎」も耳鳴りや難聴、目まいといった症状を引き起こす耳の病気です。
内耳炎は細菌やウイルスの感染で内耳に炎症が起こった状態のことです。
内耳には音を感知する蝸牛や、回転を感知する「半規管」、重力などを感知する「耳石器」が存在します。
炎症が起こるとこれらの器官が正常にはたらかなくなり、音やバランスに対する正常な感覚が失われてしまうのです。
内耳炎の症状は炎症がどこに起こっているかによって異なりますが、耳鳴りや難聴などは蝸牛の炎症によるものだと考えられます。
2-9.中耳炎
同様に鼓膜の奥にある空間「中耳腔」に感染による炎症が起こっている状態を「中耳炎」といいます。
「急性中耳炎」「慢性中耳炎」「滲出(しんしゅつ)性中耳炎」「真珠腫性中耳炎」などがあり、このうち成人や高齢者の滲出性中耳炎では耳鳴りや耳の詰まった感じ、難聴が見られる場合があります。
滲出性中耳炎は何らかの原因により耳管のはたらきが妨げられて内耳の圧力が低下した状態が続き、内耳粘膜から液が染み出してしまう病気です。
この液は内耳腔にたまり、炎症を引き起こします。
乳幼児や耳管の機能が衰えた高齢者に多い病気ですが、アレルギー性鼻炎や急性鼻炎、副鼻腔炎などのある成人でも見られます。
2-10.メニエール病
「メニエール病」も症状として耳鳴りが現れる病気の一つです。
メニエール病では自分や周りが回ったり動いたりしているような感じを覚える「回転性目まい」が数時間にわたって続くのが特徴で、他に耳の詰まったような感じや吐き気、難聴が現れるケースもあります。
内耳の「内リンパ液」が増え過ぎ、内耳がむくむことによって起こるといわれていますが、なぜそのようなことが起こるのかは不明です。
なおメニエール病の患者にはストレスに適応しにくい方が多いともいわれています。
メニエール病によって聞こえる耳鳴りは人によってさまざまなようです。
2-11.顎関節症
「顎(がく)関節症」の症状としても耳鳴りが見られる場合があります。
顎関節症は口を開こうとすると顎関節や顎を動かす筋肉が痛んだり、口を大きく開けられなかったりする状態です。
また口を開けたり閉めたりする際に顎関節で音がする場合もあります。
二人に一人は経験するといわれるほどメジャーな病気です[3]。
顎関節は耳の穴の前に位置しています。
この顎関節がスムーズに動かないために振動や圧迫、炎症などが起こり、それが耳小骨や蝸牛の骨や神経などに伝わって耳の機能に異常を来し、耳鳴りを引き起こしてしまうケースがあるのです。
またこれに伴って、内耳や中耳が正常にはたらかなくなり難聴や目まいが生じる場合もあります。
[3] 日本歯科医師会 歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020「顎関節症」
2-12.高血圧・動脈硬化
高血圧や動脈硬化によって耳鳴りが起こるケースもあります。
耳の周りの血管が動脈硬化で硬く狭くなっているところに高血圧で勢い良く血液が流れると、この音が聞こえるようになる場合があります。
ドクドク、ザッザッというような脈拍と同期したリズムの音が聞こえるのが特徴です。
なお、高血圧や動脈硬化で起こる耳鳴りは他覚的耳鳴に分類されるものです。
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧」
2-13.聴神経腫瘍
聴神経腫瘍によって耳鳴りが生じる場合もあります。
聴神経腫瘍とは、聴神経の周りをさやのように覆う「シュワン細胞」にできる腫瘍のことです。
発生頻度は年間で10万人に一人程度といわれています[5]。
その名前から耳にできる腫瘍のように思えますが、実際は内耳から脳に情報を送る神経にできるため、脳腫瘍の一種に当たります。
聴神経腫瘍ができると、腫瘍が神経のはたらきを妨げることで目まいや難聴、耳鳴りなどが起こります。
さらに腫瘍が大きくなると腫瘍ができている側の顔の感覚が鈍い、味を感じ取れない、顔に力が入りにくい、歩行時にふらつくといった症状が現れます。
また悪性であることはまれで、多くの場合は良性であるため、しばらく経過観察をすることも少なくありません。
治療の場合は手術または放射線治療を行います。
[5] 日本聴神経腫瘍研究会「患者さんのためのQ&A」
2-14.ストレス
耳鳴りはストレスによっても発生すると考えられています。
ストレスを感じると、自律神経に乱れが生じるといわれています。
通常の状態であれば交感神経と副交感神経がバランスを取りながらはたらくことで体の機能が程良く調節されています。
しかし大きなストレスを感じると交感神経が優位になり、体が緊張状態に陥ります。
交感神経が優位な状態では、脳で音を選別することが難しくなるといわれています。
通常は大きな音をそのまま感じないよう和らげるなど音を選別する機能がはたらいていますが、それがうまくはたらかなくなってしまう場合があるのです。
またストレスを感じたときには防御反応として聴覚が過敏になるとも考えられています。
このためこれまで気にならなかった音までも聞こえるようになり、耳鳴りとして感じられてしまうのです。
こうしたケースでは検査をしても耳に異常は見つかりません。
一度耳鳴りに悩み出すとその音への不安にとらわれてしまい、一層耳鳴りが気になる悪循環に陥るケースも見られます。
このような場合には耳鳴りによる不安を改善することで耳鳴りが気にならなくなることもあります。
2-15.薬の副作用
特定の薬を服用していると副作用による耳鳴りが現れる場合もあります。
耳の機能に悪影響を及ぼす薬はさまざまにありますが、具体的には解熱鎮痛薬のアスピリンや、抗菌薬のゲンタマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、フラジオマイシンなどがあります。
またシスプラチンなどがんの治療に用いられる一部の化学療法薬も原因となる可能性があります。
これらの薬剤による副作用が生じるかどうかは服用した量や期間の他、腎機能の低下の有無や血縁者に同様の症状が見られるか、こうした薬剤を複数同時に服用しているかといった要素が関係していると考えられています。
これらの薬で耳に障害が起こった場合、耳鳴りの他、難聴や平衡感覚の狂い、一時的な回転性目まいなどの症状が現れる場合があります。
ただしアスピリンで難聴が起こることはありません。
こうした薬を服用して耳に違和感が生じた場合はすぐにかかりつけ医に相談しましょう。
3.耳鳴りで受診すべきタイミング
「耳鳴りが気になるけど、病院に行った方が良いのかな?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
耳鳴りは多くの方が経験する症状です。
一時的な耳鳴りには大きな心配の必要はないといわれています。
しかし耳鳴りのなかには、難聴や病気の症状として生じているものがあります。
初期の難聴は自覚しにくいこともあります。
重症化すると聴力の回復が難しいので、耳鳴りが気になる場合は早めに病院にかかりましょう。
特に、片耳だけに耳鳴りが生じている場合や、耳鳴りが脈拍と同期している場合は注意が必要です。
また耳鳴りの他に聞こえにくさ、平衡感覚の狂い、歩きにくさ、回転性目まい、物の見えにくさなどが生じている場合も緊急性が高いと考えられます。
これらの症状が見られる場合は即座に受診しましょう。
加えて耳鳴りが長く続く場合や日常生活に支障を来すほど症状がつらい場合も受診が勧められます。
気になる場合はかかりつけ医に相談してみてくださいね。
4.耳鳴りの治療
「耳鳴りにはどんな治療法があるんだろう?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
耳鳴りで受診した場合、まずは原因が探られることになるでしょう。
医師は耳鳴りが片耳だけか、あるいは両耳に起こっているのか、持続的なのか、脈拍と同期しているかといったことを確認してきます。
また大きな騒音にさらされていないか、特定の薬を服用していないかといったことも尋ねてくるでしょう。
加えて他の症状や病歴についても確かめられます。
聴診器によって他覚的耳鳴が聞こえないかといった点も確認されるでしょう。
こうして医師は原因を絞り込み、必要な検査を行います。
耳鳴りが見られる場合に行われる主な検査は聴覚検査で、難聴が起こっていないか確かめられます。
この他に、難聴がある場合にはMRI検査、脈拍に伴う耳鳴りがある場合には血管造影検査などが行われます。
このような検査から原因が特定できた場合、まずは原因の治療を行うことになるでしょう。
原因を取り除くことができれば、耳鳴りもそれに伴って改善すると考えられます。
耳鳴りでは原因が特定できないことや治療がうまくいかないこともありますが、難聴が見られる場合、補聴器などで聴力を補うことで耳鳴りが改善することが多いといわれています。
またこの他に耳鳴りよりも小さな音を聞き続けることで、耳鳴りを目立たなくし、気にならないようにしていく「音響療法」が実施される場合もあります。
ストレスからくる耳鳴りは十分に睡眠をとり、適度に運動し、規則正しく食事を摂るといった健康的な生活を送ることで改善する可能性もあります。
原因や症状によってさまざまなアプローチをすることになるので、まずは耳鼻科などで相談してみましょう。
5.耳鳴りについてのまとめ
耳鳴りとは医学的には耳鳴と呼ばれる、耳の中で雑音が発生する症状のことです。
脳の聴覚皮質の異常によって実際には鳴っていない音が聞こえる自覚的耳鳴と、実際に音が生じていることで起こるため他者にも聞くことができる他覚的耳鳴に分けられます。
耳鳴りの多くは難聴と同時に見られることが分かっています。
これは音が聞こえにくい状態では脳が音を伝える電気信号を必要以上に増幅させてしまい、耳鳴りを引き起こすためだと考えられています。
耳鳴りを引き起こす代表的な難聴には音響外傷(音響性難聴)や騒音性難聴、突発性難聴、老人性難聴などがあります。
なお難聴の原因にかかわらず、音が聞こえにくい状態では耳鳴りが起こりやすいといわれています。
他に耳垢栓塞や耳管狭窄症、耳硬化症、内耳炎、中耳炎、メニエール病といった耳の病気でも耳鳴りは起こり得ます。
またこれらの病気でも、難聴の症状が見られるケースがあります。
耳以外の病気では、顎関節症や高血圧、動脈硬化、聴神経腫瘍なども耳鳴りの原因になり得ます。
ストレスや薬の副作用で起こる場合もあるので注意が必要です。
一時的な耳鳴りには大きな心配は必要ないといわれていますが、難聴や病気の症状として耳鳴りが現れている可能性も考えられます。
耳鳴りが気になる場合や他の症状が見られる場合は速やかに医療機関を受診しましょう。