「家族の言動が最近変わったんだけど、これってもしかして認知症なのかな……?」
「この頃物忘れが増えてきてしまった……認知症を予防する方法があるなら知りたいなあ」
身近な人や自分が認知症なのではないかと思うと、不安に襲われてしまいますよね。
この記事ではまず認知症とはどんな病気かという前提知識と、認知症に見られる代表的な症状をご説明します。
認知症を治療する上で最も重要なのはなるべく早く専門医を受診することですから、認知症の兆候を見逃さないように意識してみてくださいね。
また、認知症にかかってしまうリスクは日々の生活習慣を改善することで軽減できる可能性もあります。
この記事でご紹介する八つの認知症予防法を日頃の生活にぜひ取り入れてみましょう。
1.そもそも認知症とは?
実は認知症の方は65歳以上の人口の15%にもおよぶといわれています [1]。
しかし、どのような病気なのか詳しくは知らないままにご自分や身近な方が「認知症かもしれない……」と不安を覚えているケースも多いのではないでしょうか。
認知症に気づかないまま放置したり、必要以上に不安に思ったりしてしまわないよう、まずは認知症に関する基本的な知識を身に付けることが重要だと考えられます。
ここでは認知症の原因と症状について詳しく解説していきますね。
[1] 内閣府 平成28年版高齢社会白書(概要版)「3 高齢者の健康・福祉」
1-1.認知症の定義
実は、認知症は正確にいうと病名ではありません。
精神機能の衰えによって日常生活や社会生活を営めない状態を指します。
「後天的な原因によって生じる知能に関する障害」であり、先天的な知能の障害とは異なります。
「年を取って物忘れがひどくなっている気がするんだけど、これって認知症なのかな……?」
と気になっている方もいらっしゃるでしょう。
確かに加齢によって認知機能の低下は起こり、年齢を重ねるほどに発症の可能性は高まります。
ただし、日常生活に支障をきたしていない場合には認知症ではないと考えられています。
認知症の物忘れと加齢による物忘れとの違いは、「経験そのものを忘れてしまっているかどうか」によって区別することができます。
例えば、朝ご飯に何を食べたか忘れてしまうのは物忘れの可能性が高いと考えられますが、朝ご飯を食べたこと自体を忘れてしまっている場合は認知症の疑いがあるといえるでしょう。
1-2.認知症の原因
認知症にかかってしまう原因は多くあるといわれていますが、主な病気や病態には以下のようなものがあります。
【認知症の原因となる代表的な病気・病態】
- アルツハイマー病
- 血管性疾患
- 前頭側頭葉変性症
- レビー小体病(レビー小体型認知症)
また、この他にも脳腫瘍やアルコールや薬物の乱用、頭部外傷、HIV感染、臓器不全などによって認知症の症状が現れる場合もあります。
認知症の状態を引き起こしている原因によって、症状や治療法も異なります。
これから代表的な四つの原因についてご説明していきましょう。
[2] 厚生労働省「若年性認知症ハンドブック」
1-2-1.アルツハイマー病
認知症の原因として最も多いと考えられているのはアルツハイマー病です。
アルツハイマー病では、記憶を司る「海馬」という部分の辺りから脳が萎縮していきます。
そのため「少し前のことが思い出せない」といった記憶障害が初期症状として現れます。
1-2-2.血管性疾患
血管の病気も認知症を引き起こします。
特に脳の血管に関する疾患が認知症の原因となります。
脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血といった脳の病気によって脳の重要な動脈がふさがってしまい、認知機能に問題が発生してしまうのです。
血管性疾患が原因で認知症にかかってしまう人の割合は、アルツハイマー病に次いで多いといわれています。
1-2-3.前頭側頭葉変性症
前頭側頭葉変性症は、脳の前頭葉や側頭葉の神経組織が変性したり壊れたりすることによって認知機能や運動機能に障害を起こす病気のことです。
前頭側頭葉変性症による認知症は「前頭側頭型認知症」と呼ばれており、記憶障害よりも性格や行動面の変化が目立つといわれています。
1-2-4.レビー小体病(レビー小体型認知症)
レビー小体病では、「レビー小体」という物質が脳の神経細胞に増え、認知症などのさまざまな症状を示します。
脳にレビー小体がたまってしまうとさまざまな症状が現れますが、その多くが認知症として現れます。
そのため、ほとんどの場合このタイプの認知症は「レビー小体型認知症」とそのまま呼ばれています。
1-3.認知症の症状
認知症の症状は、記憶などにまつわる認知機能障害と、行動異常・精神症状の二つに大別されます。
それぞれの主な症状は以下のとおりです。
【認知機能障害】
- 記憶障害
- 失語・失行・失認
- 理解力・判断力の低下
- 実行機能障害
【行動異常・精神症状】
- 妄想
- 幻覚
- 抑うつ
- 興奮(暴力)
記憶障害
記憶障害は、情報を整理して記憶しておく脳の海馬という部分に障害が出て新しいことが記憶できなくなる状態です。
記憶障害は一律に起こるものではなく、記憶の種類によって生じ方が異なります。
まず、記憶はその保たれている時間によって、以下の3種類に分類されます。
【保たれている時間による記憶の分類】
- 即時記憶……数秒以内
- 短期記憶……数分から数時間以内
- 長期記憶……より長い時間
また、内容によって以下のような分類が可能です。
【内容による記憶の分類】
- エピソード記憶……過去の自分の経験や出来事に関連する
- 意味記憶……経験とは無関係な知識
最も多いとされているアルツハイマー病が原因となって引き起こされる認知症では、初期から短期記憶やエピソード記憶に障害が起こってしまう傾向にあります。
そのため、数年前に行った旅行のことは覚えていても、さっき朝ご飯を食べたことを忘れてしまうといった症状がよく見られます。
失語・失行・失認
認知症の代表的な症状として、言葉や行動に障害が生じる「失語」「失行」「失認」といったものも挙げられます。
失語とは、会話の際に言葉が出てこなかったり、言葉の意味が分からなかったりすることです。
普段の会話で「あれ」や「それ」といった代名詞を使うことが増えることから始まり、症状が進行すると人とのコミュニケーションを避けて引きこもりがちになってしまいます。
失行とは、物の使い方が分からないというように、意味のある動作ができなくなる障害をいいます。
例えば、入浴の際お風呂場にいても服を脱いだり湯船に入ったりといった行動に移れなくなります。
失認とは、対象を認識することができない状態です。
例えば、通い慣れているスーパーへの道順が分からなくなることも失認の症状です。
いずれも、動作を行うための身体機能には問題がないことが特徴です。
理解力・判断力の低下
理解力・判断力の低下も認知症の症状の一つです。
思考のスピードが遅くなったり、複数の物事を同時に処理するのが困難になったりします。
また、新しい変化にもついていきにくくなったり、頭では理解していながら、行動が伴わなかったりする場合もあります。
実行機能障害
物事の段取りをつけ、そのとおりに実行する能力に障害が現れる場合もあります。
これを「実行機能障害」といいます。
具体的には、今まで作ることができた料理が作れなくなり、同じメニューを繰り返し作るなどの症状が見られます。
妄想
妄想も認知症の症状の一つです。
探し物が見つからないときに周囲の人にものを盗まれたと思い込む「もの盗られ妄想」が代表的です。
また、他人に対する嫉妬の念に駆られてしまうタイプの妄想もあり、身近な方を困らせてしまうケースもあります。
幻覚
幻覚も認知症の症状として現れる場合があります。
実際にはいないにもかかわらず、子どもや人、ネズミや猫などの小動物が見えると主張します。
何もいないところを指差して「泥棒がいる」と騒ぐケースもあります。
抑うつ
無気力状態になり、自発性が低下することもあります。
その結果、それまで精力的に活動していた趣味にも関心を示さなくなります。
また、デイサービスのような外出の用事を嫌がることもあります。
興奮(暴力)
急に興奮して暴言を吐いたり、暴力を振るったりする場合もあります。
必ずしも全ての人に現れる症状ではありませんが、暴言や暴力があると介護者の負担が大きくなるため、見過ごせない症状といえます。
2.認知症を予防するための8つの方法
「今のところ認知症ではなさそうだけど、これからもかからないようにするために予防法が知りたい!」
という方に向けて、今すぐ始められる認知症を予防するための8つの方法をお教えします。
今日からでも始められる簡単なことばかりですので、ぜひ実践してみてくださいね。
方法1 適度な運動をする
適度な運動が認知機能の向上には効果的であることが分かっています。
ある程度認知機能が低下している状態からでも、運動によって認知症のリスクを軽減させることができるのです。
特におすすめなのは、認知トレーニングと運動を組み合わせた「コグニサイズ」です。
ここではコグニサイズの一つ、「コグニステップ」をご紹介しましょう。
コグニステップは「3の倍数で手をたたく」という動作と「左右にステップを踏む」という動作を同時に行うことで、脳の活性化を図ります。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症予防へ向けた運動 コグニサイズ」をもとに執筆者作成
コグニサイズには他にも種類があります。興味のある方は国立長寿医療研究センターが発表している資料「認知症予防へ向けた運動 コグニサイズ」も参考にしてみてください。
方法2 食生活に気を配る
食生活に気を付けることも認知症を予防するために大切です。
認知症を予防するために様々な成分が有効だと言われていますが、サプリなどから一つひとつの栄養素を個別に摂っても大きな効果は期待できないといえます。
さまざまな栄養素を同時に摂取できる食品から摂取するのが良いでしょう。
バランスに優れており、認知症予防に良いとされている「地中海食」の特徴を参考にしてみてくださいね。
【地中海食の特徴】
- 魚介類
- 緑黄色野菜
- オリーブオイル
- 穀類
- 果物
- 赤ワイン
方法3 歯の健康を維持する
「歯の健康と認知症予防に何の関係があるの?」
と疑問にお思いかもしれませんね。
実は歯周病を放置していると認知症になりやすいといわれています。 歯周病は口の中に炎症を引き起こす病気ですが、放っておくと全身に炎症が広まってしまう場合があります。
アルツハイマー病は慢性の炎症性疾患であることが分かっています。
歯周病の影響で脳の炎症が進行してしまう可能性があるのですね。
また歯周病を引き起こす細菌が歯ぐき(歯茎)から血管内に侵入すると、脳に流れ着いて脳出血を引き起こしてしまいます。
その結果として脳血管性の認知症を引き起こしてしまう可能性もあります。
歯の健康を保つことが、脳の機能を守ることにつながると考えられるのですね。
方法4 コミュニケーションを増やす
人とコミュニケーションを取ることは脳の機能を維持するために大切です。
電話やインターネットを通じてでも、コミュニケーションの機会を増やすことが望ましいでしょう。
初対面の人と話すことは気を使ったり頭を使ったりするため特に脳への刺激になります。
方法5 知的活動を楽しむ
頭を使う活動を趣味にすることで認知機能を維持することができます。
今まで好きだったことに取り組むのももちろん良いですが、新しいことに挑戦するのはさらに脳の活性化につながりますよ。
例えば、以下のような活動がおすすめです。
【おすすめの知的活動】
- 楽器を演奏する
- 絵を描く
- 農作業
- 日記を書く
- 新聞を読む
- クロスワードパズル
楽器を演奏する、絵を描く、農作業といった手と頭を同時に使う活動は特におすすめといえるでしょう。
方法6 睡眠をたっぷりとる
認知症予防において特に注目されているのが睡眠です。
睡眠不足になると、脳に有害な物質がたまりやすくなってしまいます。
また、夜に十分な睡眠をとるのはもちろん、日中にも短い時間の昼寝をするとさらに良いでしょう。
リラックスした状態で眠りに就けるよう、寝室にアロマを焚いたり、好きな音楽をかけたりと、香りや音楽も工夫してみてくださいね。
【関連情報】 「睡眠時間はどのくらいとるべきか」についてもっと知りたい方はこちら
方法7 禁煙する
喫煙には、認知症リスクを高める可能性もあるとされています。
たばこを吸うとニコチンのはたらきで血管が収縮して脳に血流障害が生じ、脳細胞が早く死滅してしまうため認知症が進行します。
21,000人のアメリカ人を対象とした調査では、中年期に1日2箱以上のたばこを吸っていた方は非喫煙者よりもアルツハイマー病発症のリスクが2.36倍も高かったという結果が出ているのです[3]。
また喫煙者だけでなく、他者が吸うたばこを吸い込んでしまっている方も認知症のリスクが高いことが示唆されています[4]。
自分の健康だけでなく、家族など大切な方の健康を守るためにも禁煙に取り組みましょう。
[3] 公益社団法人 東京都医師会「タバコQ&A」
[4] David J Llewellyn, Iain A Lang, Kenneth Langa, Felix Naughton「 Exposure to secondhand smoke and cognitive impairment in non-smokers」(『BMJ』2009, 338)
【関連情報】 「禁煙による効果」についてもっと知りたい方はこちら
方法8 お酒はほどほどに
お酒の飲み過ぎは認知症にかかるリスクを上げてしまう可能性があります。
アルコール依存症の方や日頃から大量にお酒を飲んでいる方は認知症にかかるケースが多いといわれているのです。
しかし、少量やほどほどの量の飲酒であれば認知症の原因にはならず、むしろ予防効果があるのではないかとも示唆されています。
お酒は飲む量に注意し、ほどほどに楽しむようにすることを心掛けましょう。
3.ケース別!もしかして認知症?と思った場合の対処法
自分や周りの方に認知症の疑いがある場合、大きな不安に苛まれてしまいますよね。
しかし、初期の段階で認知症に気付き、適切な治療を受けることができれば、場合によっては薬で進行を遅らせたり、症状を改善したりすることもできます。
そのためには、早期診断・早期治療が何よりも重要です。
一人で抱え込まず、まずは専門家やかかりつけ医に相談してみましょう。
ケース1 自分が認知症かもしれない場合
「最近これまで普通にできた仕事ができなくなっている気がするけど、疲れているせいかな?」
「最近物忘れがひどいけど、働き盛りの年齢だし認知症ってことはないよな……」
こういった小さな違和感を逃さないようにしましょう。
働き盛りの年齢であっても、「若年性認知症」になってしまう可能性はあります。
もし認知症と診断されても、軽度であれば、周囲の理解によって仕事を継続できるかもしれません。
早期発見・早期治療のためにすぐに専門家に相談するようにしましょう。
ケース2 家族が認知症かもしれない場合
「高齢の親の言動が最近おかしい……会話が成り立たなくて大変……」
「病院に連れて行こうにも、『自分は認知症じゃない』と言い張って聞かない……」
このようにお困りの方がいらっしゃるかもしれません。
せっかく本人のためを思って治療を勧めても、拒否されてしまっては気が重くなる一方ですよね。
残念ながら、家族の気持ちを受診に向かわせる確実な方法は存在していません。
しかし、信頼している家族や親戚などに促されれば病院へ行く気になってくれるかもしれません。
また、地域の包括支援センターに相談すれば、訪問治療を行っている医療機関などの情報が得られる場合もあります。
認知症の疑いのある方の不安に寄り添い、気長に受診を促すことが大切です。
ケース3 職場の人が認知症かもしれない場合
「優秀だったはずの同僚が、最近簡単なミスが目立つようになって本人も困っているようだ……」
「上司(部下)の言動が以前と明らかに異なっていて心配……」
職場の方が認知症なのではないか、と疑われるケースもあるかもしれません。
現役で働いている世代の方でも認知症にかかってしまう可能性はあるため、「まだ若いから認知症にかかっているはずはない」と決めつけるのは危険です。
もし困っているのが親しい同僚であれば、何か困っていること、悩み事やストレスはないか聞いてみてください。
もしくは、その方が信頼している上司や近しい同僚から聞いてもらうのも良いでしょう。
本人も自分の異変に悩んでいる可能性もあるため、本人の感情に配慮しつつ、周囲が心配しているということも伝えてあげましょう。
4.認知症についてのまとめ
認知症とは、後天的な原因から脳の機能が低下し日常生活に支障をきたしている状態のことを指します。
認知症を引き起こす原因にはさまざまなものがあり、その症状も多岐にわたりますが、日々の生活習慣に気を配ることで予防することができる可能性もあります。
日頃から頭を使いながら運動したり、知的活動を趣味にしたりすることで認知機能の低下を防げるかもしれません。
また、もし認知症になってしまった場合には、早期の治療が何よりも重要です。
自分の状態や周囲の方の言動に少しでも不安がある場合は、なるべく早く病院を受診できると良いでしょう。