「健康診断で腎臓が悪いことを指摘された。」
「血圧をコントロールしないといけないようだけど、具体的に何をすれば良いのだろうか……」
このように腎臓と血圧のことで悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
腎臓には血圧を調節したり、余分な老廃物や塩分・水分を排出したりするはたらきがあります。
正常な状態であれば、血圧は一定に保たれるものの、腎機能が悪化すると、血圧を調節する力が低下し、高血圧を招いてしまう恐れがあります。
また、高血圧は腎機能を悪くしてしまうこともあるため、血圧も腎臓の機能も、どちらもコントロールしないと悪循環に陥ってしまいます。
この記事では、腎臓のはたらきや血圧との関係について解説します。
併せて、血圧をコントロールする方法もご紹介しますので、血圧が高くてお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。
1.血圧と腎臓のはたらきについて
腎臓は血圧の調節に大きな役割を担っています[1]。
最初に腎臓のはたらきとともに、血圧との関係性をご説明します。
1-1.腎臓から血圧調整ホルモンが分泌される
腎臓のはたらきの一つとしてレニンの分泌があげられます。
レニンは血圧調整ホルモンでアンジオテンシンⅡという物質を作るのが特徴です。
アンジオテンシンⅡは血圧上昇作用があるため、レニンの分泌量が多くなると血圧が上がる原因となります。
正常な状態なら、レニンの分泌量も適度に抑えられているため、血圧も適度な状態に保たれています。
しかし、腎臓のはたらきが悪化すると血圧を調整する機能が低下し、レニンの分泌量が増えてしまいます。
血圧が高くなる原因はほかにもありますが、腎臓が悪いと高血圧につながってしまうことがあります。
1-2.腎臓が体液を調整している
腎臓は老廃物や過剰な塩分・水分を排出して体液を一定に保つ役割を果たしています。
その過程で、体内の水分を一度腎臓に取り入れた上でろ過しています。
ろ過した後、血液中から取り除かれた物質のうち生体に必要なものは、再び血液の中に戻す仕組みです。
体に必要なものとしては、ブドウ糖やアミノ酸といった栄養素、ミネラル分があげられます。
老廃物や過剰な塩分などは体にとって不要であるため、尿として排出されるのです。
このろ過機能を行うにあたり、腎臓は1分間に1リットル程度の血液を受け入れます。
しかし、尿として排出されるのは1日で1リットル程度と、極めて少ない量です。
腎臓のろ過機能がうまく機能しなくなった場合、余分な老廃物や塩分が排出されません。
必要なものと一緒に再吸収される塩分の量が増えてしまい、血圧が上がる原因になってしまいます。
2.高血圧患者は腎臓病のリスクが高い
高血圧の方は腎臓病を発症するリスクが高いといわれています。
では、その理由とリスクが高い具体的な条件について見ていきましょう。
2-1.慢性腎臓病の発症リスクを高める
高血圧は、全身の血管に負担をかけ、動脈硬化を誘発します。
腎臓の血管でも動脈硬化が起こり、血管が細くなり血流が悪くなることで、腎機能は低下します。
正常なはたらきができなくなることで、体内の血流量の調整などがうまくいかず、さらに血圧を上昇させてしまうこともあります。
その状態が長く続くことで、慢性腎臓病となっていきます。
そこからさらに脳心血管病のリスクも高めてしまう可能性があるため、注意が必要です。
慢性腎臓病は、脳心血管病の危険因子とされています [2]。
慢性腎臓病は、高血圧が原因で発症するケースだけではありません。
ほかの病気の合併症として慢性腎臓病となってしまい、それが要因となって高血圧を発症することもあります。
腎臓病が原因となる血圧の病気としては、腎実質性高血圧や腎疾患性高血圧といわれる病態があります。
慢性腎臓病となる原因は高血圧も含めさまざまですが、腎実質性高血圧においては、血圧の経過を把握するとともに、尿所見が重要になります。
2-2.収縮期血圧が10mmHg上昇すると末期腎不全リスクが30%上昇する
末期腎不全とは、慢性腎臓病の症状が進行するにつれ、腎機能が悪化し、ろ過機能が正常にはたらかないことで不要な物質が体内にたまり、命にかかわる状態になってしまうことです。
末期腎不全になると、透析療法や腎移植などが必要になります。
腎臓に障害が生じたとしても、多くの場合は短期間で末期腎不全になるわけではありません。
数年単位の長期間にわたって少しずつ症状が進行していきます。
症状が軽いうちは、運動したときに息切れしやすくなったり、足がむくみやすくなったりする症状がみられます。
血圧が高い場合には特に注意が必要です。
血圧上昇が収縮期血圧10mmHgあたりで、末期腎不全リスクが30%も上昇すると報告されています [3]。
2-3.仮面高血圧はさらにリスクが高い
仮面高血圧とは、普段は血圧が高い状態でも病院で診察を受けるときや健康診断時には正常値になることです。
仮面高血圧の場合、健康診断を受けても異常なしと判断されてしまいます。
仮面高血圧かどうかは、自宅で血圧を計ってみないことには分かりません。
そのため、自分が高血圧症だということに気づいていない方もいるでしょう。
仮面高血圧の方は、臓器障害リスクが非高血圧や白衣高血圧の方と比べて高いことが分かっています。
腎臓だけでなく、脳や心臓などの臓器や脳心血管病リスクなども高いため、注意が必要です。
血圧に不安がある場合や糖尿病、腎臓病などで治療中の場合、血圧の測定は、病院や検診だけではなく、必ず自宅でも定期的に行うことが大切です。
3.腎臓病を予防する血圧コントロールの方法
腎臓病を予防するためには血圧を適切にコントロールすることが大切です。
どのようにして血圧をコントロールすれば良いのか、詳しく解説します。
3-1.塩分制限
塩分の過剰摂取が腎障害を加速させてしまうため、塩分摂取量を抑えることで、腎臓病の予防につながります。
日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、1日あたり6g未満に食塩を制限することが推奨されています [4]。
また、厚生労働省の「日本人食事摂取基準(2020年版)」においては、1日当たりの食塩相当量の摂取目標を15歳以上の男性で7.5g未満、15歳以上の女性で6.5g未満としています[5]。
塩分の摂取量を減らすには、日々の食事内容を見直す必要があります。
例えば、味付けをする際は、塩分を多く含むしょうゆやソースなどの調味料をかけ過ぎないようにすることが大事です。
その代わり、以下の食材や調味料を使えば、塩分控えめでもおいしく味わえます。
・ショウガやわさび、山椒、唐辛子などの薬味や香辛料
・ゆずやレモン、酢などの酸味
また、調味料のほかにもハムやベーコンなどの加工食品、漬物、佃煮、かまぼこやちくわなどの練り製品には塩分が多く含まれているため、摂り過ぎには注意しましょう。
3-2.適正体重の維持
肥満は高血圧のほかに、慢性腎臓病や末期腎不全の発症に関与することが示されています[6]。
そのため、現在肥満の状態の方は、できるだけ減量して適正体重を維持するようにしましょう。
適正体重は次の方法で計算できます。
身長(m)×身長(m)×22
適切な体重への減量は必要なことですが、極端な食事制限や急にきつい運動を始めても体に負担がかかるばかりか、長くは続かず結局有効な成果を得られないことがほとんどです。
適切でバランスの良い食事量を守り、ご自身の無理のない範囲での運動を長く続けることで、体は変化していきます。
3-3.禁煙
喫煙は腎臓に対して悪影響を及ぼします。
そのため、腎臓病の悪化を予防するには、禁煙は重要です。
1本の紙巻きたばこを喫煙した場合に15分以上血圧上昇が持続するといわれています [7]。
また、喫煙は腎臓の血液量を減少させ、血管の障害を引き起こします。
この影響で腎機能を悪化させてしまうでしょう。
自分一人で禁煙をするのは難しい場合には、禁煙補助薬を使用したり、禁煙指導を受けたりする方法もあります。
3-4.運動
運動に降圧効果があることは、多くの研究結果により示されています。
また、運動の継続によって持久力を維持・増大させることは、各種慢性疾患の罹患率減少にもつながるでしょう。
高血圧を改善するための運動は、1回につき少なくとも10分以上持続し、合計して1日40分以上行うことが推奨されています[8]。
また、ラットとヒトにおいて「適度な運動」が高血圧を改善するメカニズムが報告されました[9]。
軽いジョギング程度の運動中、足の着地時に頭部(脳)に伝わる適度な物理的衝撃により、血圧を上げるタンパク質(アンジオテンシン受容体)の発現量が低下して血圧低下が生じることが、高血圧ラットを用いた実験で報告されました。
さらに、この頭部への物理的衝撃を高血圧の方に適用すると、ヒトでも高血圧が改善することが世界で初めて報告されました[9]。
高血圧と運動について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
4.血圧と腎臓の関わりについてのまとめ
腎臓と血圧は関わりが深く、血圧が高いと腎臓病のリスクが高まります。
また、腎臓のはたらきが悪くなった場合に、血圧の上昇を招くこともあります。
慢性腎臓病や末期腎不全になってしまうと生活の制限も出てくるため、高血圧の方は注意しましょう。
血圧をコントロールするためには、塩分制限や適正体重の維持、運動などが必要です。
併せて、たばこを吸う方は禁煙するのが望ましいです。
普段の生活習慣をすぐに変えるのは難しいものですが、この記事を参考に少しずつ実践していきましょう。
この記事の監修者
内科認定医・がん治療認定医
【経歴】
国立大学医学部医学科卒業後、公立病院にて初期研修の2年を終了後、3年目からはがん治療を専門としながら幅広く内科疾患の診療に従事。治療が必要となる前の生活習慣の改善、また病気についての正しい知識が大事であることを実感し、病気についての執筆活動にもあたっている。