「血糖値って食後にどう変化するのかな?」
「血糖値の変動は食べるもので変わるのかな?」
と気になっている方も多いのではないでしょうか。
血糖値とは、血中のブドウ糖濃度のことです。
食べ物に含まれていた糖質がブドウ糖に分解され、血中に入ると血糖値は上昇します。
健康な方であっても、食後には血糖値の上昇が見られますがやがて戻ります。
しかし、血糖値が高い状態が続くと、糖尿病や心筋梗塞などのさまざまな病気の発症リスクが高まります。
健康のために、血糖値は上昇させ過ぎない、高い状態を持続させないことが重要なのです。
血糖値を正常に保つためには日ごろから生活習慣に気を付けることが重要です。
この記事では血糖値が食後に上昇する仕組みや、食後の血糖値の上昇を抑えるポイントをご紹介しましょう。
1.血糖値とは
「血糖値ってそもそも何の値?」
「血糖値が高いのは悪いことなの?」
血糖値という言葉はよく見聞きするものですが、どのようなものなのかよく分からない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その上下は健康にどのように影響するのか気になりますよね。
まずは血糖値とはどのようなものなのか、基礎知識をお伝えします。
血糖値とは、血液中の「ブドウ糖」の濃度のことです。
ブドウ糖はヒトの体のエネルギー源となる糖質の一種です。
血糖値は通常、食前の値が約70〜100mg/dLの範囲であるといわれています[1]。
血糖値が高過ぎたり低過ぎたりする状態は健康を害するため要注意です。
血糖値が高い状態が慢性的に続く病気のことを糖尿病といいます。
糖尿病は自覚のないままに症状が進行し、血管に障害を引き起こして網膜症、腎症、神経障害の「三大合併症」に代表される合併症を引き起こすことで知られています。
また高血糖状態が続くと血管を傷つけ、「動脈硬化」を進行させます。
血糖値が高い状態を放置していると、命を脅かす病気を招いてしまう恐れがあるのですね。
一方、低血糖は発汗や動悸(どうき)、震えといった症状に始まり、ひどい場合には意識の低下などを引き起こします。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「血糖値」
[2] 一般社団法人 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2019」
[3] 厚生労働省「第9回 特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会 資料」
[4] 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「低血糖」
【関連情報】 「血糖値とは?正常値や高血糖の基準、高血糖・低血糖の影響を解説」についての記事はこちら
2.食後に血糖値が上がる仕組み
健康な方であっても、食後には血糖値の上昇が見られます。
ここでは、食後に血糖値が上昇し、再び低下するまでに体内で起こる現象についてご説明しましょう。
体のエネルギー源となる糖質は、「糖」がいくつ結合しているかによって「単糖類」「少糖類」「多糖類」に分けられます。
ブドウ糖は単糖類の一種です。
食後、食べ物に含まれていた糖質は体内で単糖に分解され、そのうちのブドウ糖は血液中に取り込まれます。
このため、食後は血糖値が上昇するのです。
なお、血糖値が上昇するとそれに反応して膵臓(すいぞう)から「インスリン」というホルモンが分泌されます。
インスリンは血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませ、エネルギーとして利用させるはたらきをします。
またエネルギーとして使い切れなかったブドウ糖を脂肪などに変換して体内に蓄えるはたらきを促す作用も有しています。
これらのはたらきにより、インスリンは血糖値を低下させるのです。
健康な方の場合、食後上昇した血糖値は、インスリンのはたらきにより2時間以内に正常値に戻ります[5]。
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」
3.食後高血糖とは
空腹時の血糖値は正常でも、血糖値に問題がないとはいえない場合もあります。
空腹時の血糖値は正常であっても、食後上昇した血糖値が下がりにくい状態のことを「食後高血糖」といいます。
食後高血糖の状態では、通常の高血糖と同様、健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。
ここでは、食後高血糖についてご説明します。
3-1.食後高血糖の定義
食後は誰でも血糖値は一時的に上昇します。
通常であれば2時間以内に正常な空腹時血糖の値まで低下します[6]。
しかし、食後2時間を過ぎても血糖値が140mg/dL以上である場合、「食後高血糖」と診断されます[6]。
食後高血糖はインスリンの分泌量が低下したり、効きが悪くなったりすることで起こります。
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」
3-2.食後高血糖が健康に及ぼす悪影響
食後高血糖は、慢性的な高血糖と同様に健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。
空腹時には正常でも、食後の血糖値が異常に高い状態は「隠れ糖尿病」を疑われます。
糖尿病を発症するリスクが高い状態であると考えられるのです。
また血管が傷つけられるため、動脈硬化が進行し脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こす恐れがあります。
空腹時血糖が正常であるからといって安心するのではなく、食後の血糖値にも注意する必要があるの ですね。
4.食後高血糖を予防するためのポイント
「食後高血糖を予防するにはどうしたら良いんだろう?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
食後高血糖はインスリンの分泌量が低下したり、効きが悪くなったりすることで起こります。
このため食後高血糖を防ぐためには、血糖値の急上昇を避けることでインスリンの過剰分泌を予防す るとともに、インスリンの効きが悪くならないようにすることが重要です。
そのためには食生活を改善し運動習慣を身につけることが欠かせません。
ここでは、食後高血糖を予防するためのポイントを五つご紹介しましょう。
ポイント1 糖質の摂り過ぎを避ける
血糖値を上げるのは食事に含まれる糖質です。
まずは糖質を摂り過ぎないことを心掛けましょう。
糖質はご飯やパン、麺類といった主食となる食べ物の他、砂糖や甘いもの、果物類、いも類などに多く含まれています。
これらの食品の食べ過ぎには要注意です。
とはいえ、極端な制限も禁物です。
糖質はヒトの体、特に脳や神経のエネルギー源となるため、不足すると集中力の低下や疲労感、意識障害などの原因となる恐れがあります。
「糖質の摂取量はどれくらいが適当なんだろう?」
というのが気になるところですよね。
厚生労働省は、炭水化物(糖質)から摂取するエネルギー量(カロリー)を1日の総エネルギー摂取量(総摂取カロリー)の50〜65%にするという目標量を設定しています[7]。
成人の1日の推定エネルギー必要量(推定必要カロリー)は以下のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
糖質は1g当たり4kcalのエネルギーを生み出します[7]。
糖質から摂るべきエネルギー量を4kcalで割ると摂取すべき糖質の量が計算できます。
例えば30代で身体活動レベルが「普通(Ⅱ)」に該当する男性の推定エネルギー必要量は2,700kcalです。
この50〜65%に当たるエネルギー量(カロリー)は1,350〜1,755kcalです。
4で割ると、1日当たりに摂取すべき糖質の量は338〜439gであることが分かります(小数第一位で四捨五入)。
このようにご自身が1日に摂るべき糖質の量を意識し、糖質を摂り過ぎないよう注意しましょう。
[7] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント2 規則正しく食事を摂る
食事は朝昼夜、規則正しく食べるようにしましょう。
食事を抜くと、次の食事で必要以上に食べてしまい血糖値が急上昇しやすくなります。
夜遅い食事も控える方が良いでしょう。
夜遅い時間に食事を摂り、血糖値が高い状態のまま眠りに就くと、寝ている間や翌朝の血糖値に悪影響を及ぼすといわれています。
また夜遅くに食事を摂ると翌朝の朝食時におなかが減らず、朝食を抜いて食事のリズムを崩すことにもつながりかねません。
夜遅い食事は肥満にもつながるため、眠りに就く2~3時間前には食事を済ませましょう[8]。
食事のリズムを整えることで食後の血糖値を上昇させないことが大切です。
不規則な食生活は血糖値が上がりやすくなるため、規則正しい食事を心掛けましょう。
[8] American Diabetes Association「Diabetes Care 2022/1/10-Interplay of Dinner Timing and MTNR1B Type 2 Diabetes Risk Variant on Glucose Tolerance and Insulin Secretion: A Randomized Crossover Trial-」
ポイント3 食物繊維を十分に摂る
食物繊維を十分に摂ることも食後高血糖の予防には有効です。
食物繊維は炭水化物の一種でヒトの消化酵素では消化できない食品成分の総称です。
大腸まで消化されずに到達し腸内環境を整えることで知られています。
また食物繊維には糖質の吸収を緩やかにし、血糖値の急な上昇を抑えるはたらきがあります。
食物繊維の理想的な摂取目標量は、成人では 1日当たり24g以上といわれています[9]。
しかし、日本人の食物繊維の摂取量は理想に遠く及ばず、厚生労働省は実現可能性を考慮して以下のような摂取目標量を設定しています。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18~64歳 | 21g以上 | 18g以上 |
65歳以上 | 20g以上 | 17g以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
まずはこの量を目標に食物繊維摂取量を増やすことを心掛けましょう。
食物繊維は、魚介類や肉類などの動物性食品にはほとんど含まれず、豆類、野菜類、果実類、きのこ類、海藻類に多く含まれます。
特にかぼちゃやごぼう、たけのこ、ブロッコリー、モロヘイヤ、切り干し大根、さつまいも、納豆、おから、しいたけ、ひじきなどは食物繊維を効率良く摂取できます。
また主食を玄米や全粒粉パン、そばなどにすることでも食物繊維摂取量を増やせます。
これらを積極的に食事に取り入れましょう。
[9] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント4 野菜から食べ始める
食事の際は食物繊維の多い野菜や海藻などを使った料理から食べ始める「ベジファースト」を心掛けましょう。
食物繊維には血糖値の上昇を緩やかにするはたらきがあるため、先に食べることで急激な血糖値の上昇を予防できます。
反対に糖質の多い主食から食べ始めると、血糖値が上がりやすくなってしまうので注意が必要です。
また糖質の多いかぼちゃやいもといった野菜も、主食と同様最後に食べるようにしましょう。
なお、たんぱく質や脂質も血糖値を上げにくいといわれています。
副菜から食べ始め、主菜、主食と食べていくことを心掛けると良いかもしれませんね。
ポイント5 よく噛んでゆっくり食べる
食事の際はよく噛んでゆっくり食べることを心掛けましょう。
咀嚼(そしゃく)は脳を刺激し、血糖値を下げるインスリンの分泌を促すといわれています。
よく噛んでものを食べることで血糖値が上昇する前にインスリンが分泌されるため、食後高血糖を防ぐことができると考えられるでしょう。
またよく噛んで食べると満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを予防できます。
肥満ではインスリンが効きにくくなるため、その原因となる食べ過ぎには要注意です。
ゆっくりと落ち着いて食事することを心掛けましょう。
ポイント6 適度な運動を行う
食後高血糖を予防するためには適度な運動も有効だと考えられます。
特に血糖値の改善には有酸素運動が有効だといわれています。
有酸素運動を行って筋肉の血流が増加すると、インスリンの効果が高まり血糖値が低下するといわれているのです。
特に食事から1時間後の運動は食後高血糖の改善に有効だといわれています[10]。
ご飯を食べたら運動するということを習慣化するよう心掛けましょう。
なお、有酸素運動は脂肪をエネルギーとするため、体脂肪の減少、つまり肥満の改善にも有効です。
肥満の状態ではインスリンの効きが悪くなるので、体脂肪が過剰に蓄積されてしまっている場合には減量のためにも有酸素運動が勧められるといえるでしょう。
また有酸素運動に筋力トレーニングを組み合わせることも効果的だとされています。
ただし急に運動を始めるとかえってけがをする恐れもあります。
事前に運動しても問題ない体調であることを確認し、無理のない運動から始めるようにしましょう。
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」
5.不安な場合は医療機関を受診しよう
日ごろの生活習慣や遺伝的要因などから高血糖のリスクが高いと思われる場合は、病院を受診し血糖値を確認しておきましょう。
また健康診断などで血糖値の高さを指摘された方は適切な対処を行う必要があります。
高血糖はかなり進行しなければ症状が現れません。
症状としては喉が渇いたり、水を飲む量が増えたり、それに伴ってトイレの回数が増えたりします。
また体重の減少や疲れやすさといった症状も現れます。
しかし食後高血糖の場合、空腹時の血糖値は正常であるため慢性的な高血糖よりも見逃されやすい傾向にあります。
不安な場合は早めに医療機関を受診しておきましょう。
6.食後の血糖値についてのまとめ
血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことです。
食後は誰でも血糖値が上昇しますが、健康な方であれば、食後2時間で血糖値は正常な値に低下します[11]。
しかし空腹時の血糖値は正常にもかかわらず、食事によって上昇した血糖値が下がりにくくなること があり、これを食後高血糖といいます。
食後高血糖を含め血糖値が高い状態を放置していると、糖尿病に進行する恐れがあります。
また高血糖は動脈硬化を進め、脳梗塞や心筋梗塞といった病気の発症リスクを高めます。
食後高血糖を予防するためには、食後の血糖値の変動を緩やかにすることが大切です。
食後の血糖値は食べるものの影響を受けやすいため食習慣を見直しましょう。
まずは糖質の摂り過ぎを避けることが重要です。
また血糖値の急上昇を防ぐため規則正しく食事を摂るよう心掛けましょう。
血糖値の上昇を緩やかにしてくれる食物繊維を十分に摂ることもポイントです。
食物繊維のこの性質を活かすために、食事の際は野菜などから食べ始めるようにしましょう。
またよく噛みゆっくりと食べることで血糖値を下げるインスリンの分泌を促したり、食べ過ぎを防いだりすることができます。
適度な運動も食後高血糖の予防に効果的です。
ウォーキングなどの有酸素運動や筋トレを食事から1時間後に実施することで食後高血糖の改善に役立つと言われています[12]。
まずは生活習慣を見直すなどできることから始めていきたいですね。
自分は食後高血糖ではないか、と不安に思っている方は医療機関を受診するようにしましょう。
[11] 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」
[12] 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」