「健康診断で血糖値と血圧が正常値よりも高いと指摘を受けた」
「糖尿病と血圧に関係があるのか気になる」
血圧や血糖値は、少し高い程度では何の症状もありません。
しかしこれらの数値が高いまま生活を続けると、生活習慣病などを発症するリスクが高まります。
血圧や血糖値の異常を指摘されても、きちんと検査を受け、生活の改善を行えば、健康な方と変わらず元気に生活することが可能です。
反対に、放置すればするほど病状は悪くなり、さまざまな合併症を引き起こしかねません。
血圧が高い方は糖尿病である頻度が高く、同様に糖尿病患者では血圧が高い患者が多く見られます。
血糖値と血圧の関係を紐解くことで、早期から対処できます。
この記事では血糖値と血圧の関係や、糖尿病患者における高血圧の特徴や合併症のリスクについてご紹介します。
1.血糖値と血圧の関係性
血糖値は、血液に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度を示す数値です。
ブドウ糖は人間が活動したり、脳で物事を考えたりする際のエネルギー源となります。
ほとんどの場合、食事によって摂取します。
そのため、健康体の方でも血糖値は一定ではありません。
活動をすることによって血糖値は下がり、食事をすることで上がります。
一方、血圧は心臓から送り出された血液が動脈の壁を押し広げる圧力のことです。
心臓から送り出される血液の量や、血管が伸び縮みすることによって血圧は変動します。
そのため、血糖値と同様に、測定する時間帯や食事の前後で変化します。
それでは、血糖値と血圧にはどのような関係があるのでしょうか。
ここでは関係性についてご紹介します。
1-1.血糖値と血圧の食後の変化
前述のとおり、食事を摂ることで血糖値が上がります。
食事に含まれる炭水化物が消化され、体内でブドウ糖として吸収されていきます。
食事をすると血液は消化器官に集まるため、本来であれば血圧は下がるものです。
しかし、人間は体の状態を一定に保とうとする性質があるため、自律神経の作用によって血圧は一定に保たれます。
つまり、正常値の方は、食事によって血糖値は上昇するものの、血圧はある程度一定に保たれます。
1-2.インスリンが血圧の変動に影響する
食事によって血糖値が上がると、すい臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。
インスリンは体の細胞にブドウ糖が取り込まれやすくする作用を持つため、インスリンが分泌されると血糖値は下がります。
このインスリンには血管作用という特性があり、血圧を上昇させたり下降させたりする要因のひとつとなることが報告されています[1]。
2.糖尿病患者は血圧異常のリスクが高い
糖尿病はインスリンが十分に作用せずに血液中の血糖値の数値が長期間にわたって高い状態が続く病気のことです。
糖尿病患者は血圧異常が起こりやすいです。
特に高血圧に関しては、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて約2倍も合併しているといわれています[2]。
反対に、糖尿病患者は自律神経の不調に伴う起立性低血圧も起こしやすいといわれています。
なぜ糖尿病が高血圧や起立性低血圧などの血圧異常が引き起こされるかを詳しくご説明します。
2-1.インスリン抵抗性が高血圧の要因となる
インスリン抵抗性とは、インスリンの作用を受ける細胞の感受性のことです。
インスリンの効き目を意味します。
インスリン抵抗性が高まると、インスリンが血中に分泌しているものの、感受性が低下しており、血糖値が適切に下がらなくなります。
そのため、血糖値を下げるためにより多くのインスリンが分泌されるようになります。
インスリンが多い状態が続くと、交感神経の緊張が高まったり、血液中のナトリウム濃度が増えて循環血液量の増加が起こったりするため、血圧が上がりやすくなります。
2-2.食塩感受性が強く血圧が上昇しやすい
血圧の上昇と食塩の摂取量は密接に関係しています。
多くの塩分を摂取すると、血液中の塩分濃度を下げるために体内に多くの水分が溜め込まれるようになります。
その結果、心臓から送り出される血液の量が増え、血圧を上昇させる原因となります。
また、糖尿病になると食塩感受性が高くなる場合が多く、糖尿病患者にも減塩指導が重要とされています。
食塩感受性とは、塩分摂取による血圧の上がりやすさを示す指標のことです
2-3.自律神経の障害を合併すると起立性低血圧になりやすい
起立性低血圧は、前述のとおり寝ている状態から急に立ち上がったり、座ったりすると血圧が下がって立ちくらみやめまいを起こしてしまうことです。
糖尿病の合併症に自律神経障害があります。
自律神経には血圧を調整する役割があるため、障害されてしまうと体勢の変化に伴う血圧の調整がうまくいかず、起立性低血圧を起こしてしまうことがあります。
起立性低血圧による立ちくらみやめまいによって転倒すると骨折や頭部外傷を起こすこともあり、外出中であれば事故につながることもあるため、注意が必要です。
以下の記事でより詳しく起立性低血圧についてご紹介していますので、参考にしてみてください。
血圧が低いとどんな症状が出る?低血圧の原因と自分でできる対処法
3.糖尿病患者における高血圧の特徴
糖尿病患者における高血圧には夜間睡眠時の高血圧や仮面高血圧がみられるといった特徴があります。
それぞれ詳しくご紹介していきます。
3-1.夜間睡眠時の高血圧がみられる
基本的に夜間睡眠中は副交感神経が優位になるため、昼間覚醒中の血圧よりも10~20%ほど低下するとされています[3]。
この正常な状態をdipper型と呼び、血圧変動が0~10%しか低下しない「夜間高血圧」のことをnon-dipper型といいます。
また、逆に夜間に血圧が上昇する場合はriser型と呼ばれています。
糖尿病患者で高血圧が見られる場合は、non-dipper型とriser型のどちらかを発症していることがあります。
夜間高血圧は脳や心臓などの合併症に発展するケースも珍しくありません。
3-2.仮面高血圧が多くみられる
通常、血圧測定は実施する場所によって数値が変化するものです。
家庭での測定より緊張しやすい診察室での血圧の方が高くなりやすいとされています。
一方、診察室では血圧が正常値なのに対して、家庭での計測では高い数値があらわれることを仮面高血圧と呼びます。
仮面高血圧の原因は、朝に血圧を下げる薬を飲み、効果が高い時間帯に診察を受けたことで血圧が低い、ということも考えられます。
また、家庭や職場にストレス因子があり、血圧が上昇している可能性も高いです。
仮面高血圧の方が日頃から家庭で計測していないと、高血圧だと認識せずに生活を送ることになります。
その結果、長期間にわたり治療が行き届かなくなり、脳卒中などの重篤な病気を発症してしまうリスクが高まります。
糖尿病患者による起立性低血圧は仮面高血圧が多いとされています。
例えば、糖尿病によって引き起こされる起立性低血圧の発症によって血圧が下がっている状態も考えられます。
糖尿病患者は、習慣的に家庭で血圧を測るようにしましょう。
4.糖尿病と高血圧を合併するリスク
糖尿病と高血圧が合併すると脳心血管病や慢性腎臓病になってしまうリスクが高まります。
どちらも重症化すると命に関わる状態になってしまう病気です。それぞれ詳しくご紹介します。
4-1.脳心血管病
脳に血液を送り出すための血管に病気があることを脳血管病といいます。
また、心臓に生じる病気を心疾患と呼びます。
糖尿病患者の場合、130-139/80-89mmHg以上の高値血圧であると脳心血管病のリスクが高くなるとされています。
脳心血管病は、脳卒中や心筋梗塞、狭心症といった病気の総称です。
これらの病気はがんと並んで日本人の死亡原因の上位を占めています。
4-2.慢性腎臓病
腎臓は、1日に150~200リットルほどの血液をろ過しており、私たちにとって欠かせない臓器の一つです。
老廃物を膀胱に運び、尿として排出しています。
慢性腎臓病に発症すると、慢性的に腎臓の機能が60%以下に低下したり、尿たんぱくが出たりします。
5.高血圧を伴う糖尿病は根本的な改善を目指そう
ここまで高血圧を伴う糖尿病患者の持つリスクについて解説してきました。
将来の重大な病気を予防するには、根本的な改善を目指さなくてはなりません。
診察室血圧で糖尿病患者の血圧の降圧目標値は130/80mmHg未満とされています。
高血圧を伴う糖尿病の根本的な改善には、生活習慣の見直しが必要です。
生活習慣には食事や運動はもちろん、飲酒や喫煙、ストレスなど日常のすべてが含まれています。
最優先で改善するべきことは「塩分の過剰摂取」です。
塩分は体内に水分を溜め込み、血液過剰な状態にして血圧を上昇させる原因となります。
日本人の食生活は塩分を多く含む食品を摂取する傾向にあります。
まずは、現在摂取している食事の塩分量を知り、適切な塩分量と比較してみるところから始めると良いかもしれません。
生活習慣の改善に取り組みながら、定期的な血圧・血糖値の測定を行って管理していきましょう。
以下の記事でより詳しく高血圧を改善するために気を付けるべきポイントをご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
6.血圧と糖尿病の関係についてのまとめ
本記事では、血糖値と血圧の関係、糖尿病患者における高血圧の特徴や合併症のリスクについてご紹介しました。
糖尿病と高血圧は互いに関係しあっており、命に関わる重大な病気につながるリスクがあります。
症状が無いからと油断せず、生活習慣を改善していき根本的な解決を目指すことが大切です。
生活習慣の改善は時間がかかるかもしれません。
焦らずに少しずつ取り組み、長い目で改善を目指していくと良いですよ。
この記事の監修者
内科認定医・がん治療認定医
【経歴】
国立大学医学部医学科卒業後、公立病院にて初期研修の2年を終了後、3年目からはがん治療を専門としながら幅広く内科疾患の診療に従事。治療が必要となる前の生活習慣の改善、また病気についての正しい知識が大事であることを実感し、病気についての執筆活動にもあたっている。