「ナトリウムが不足するとどうなるのかな?」
「ナトリウムの1日の適量ってどのくらいなんだろう……」
ナトリウムに関してこのような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ナトリウムはヒトにとって必要な不可欠なミネラルで、不足すると体調に悪い影響を及ぼします。
この記事では、ナトリウム不足により現れる症状やナトリウムの摂取目標量、平均摂取量について解説します。
ナトリウムの必要量を理解し、健康に過ごすための参考にしてくださいね。
1.ナトリウムとは
「ナトリウムってそもそも何なのかな……」
ナトリウムについて名前を聞いたことはあっても詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
ナトリウムはヒトの体にとってなくてはならない必須ミネラルの一種です。
ナトリウムは「多量ミネラル」の一つで、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において摂取目標量の基準が定められています。
体内のナトリウムの大部分は、血液の液体成分である血漿(けっしょう)やリンパ管を流れるリンパ液などの「細胞外液」に存在しています。
ナトリウムが細胞外液の浸透圧を調整することで、細胞外液の量が維持されているのです。
ナトリウムは体の中で重要な役割を果たしているのですね。
2.ナトリウム不足による体への影響
体液中のナトリウムの割合が少な過ぎると「低ナトリウム血症」を起こすことがあります。
ここでは低ナトリウム血症を発症することによりどのような症状が現れるのかについて解説します。
2-1.脳機能障害
低ナトリウム血症によって、まず影響を受けるのが脳です。
低ナトリウム血症になっても多くの場合初めはほとんど無症状です。
しかし血液中のナトリウム濃度が一定値以下になると軽度の疲労を感じるようになり、そのうちに反応が鈍くなったり錯乱状態になったりというような脳に関する症状が出現することがあります。
さらに頭痛や嘔吐(おうと)、食欲不振などが現れる場合もあります。
特に高齢者は重症化しやすいため注意が必要です。
2-2.筋肉の引きつりやけいれん発作
低ナトリウム血症が重症化すると筋肉の引きつりやけいれん発作が起こることがあります。
さらに症状が重篤になると昏睡(こんすい)状態に陥り、最悪の場合命に関わる可能性もあります。
特に心臓や肝臓・腎臓に疾患があり筋肉の引きつりやけいれん発作が見られる場合には、重篤化を防ぐために一刻も早い処置が必要です。
3.ナトリウム不足を引き起こす要因
「ナトリウム不足になると大変な症状が起こることがあるんだ。ナトリウム不足はどんな場合に起こるのかな……」
という点が気になりますよね。
健康な方であればナトリウムが欠乏することはほとんどありません。
ただし、何らかの理由でナトリウム濃度が低下してしまう場合があります。
ここではナトリウム不足を引き起こす主な要因について説明します。
3-1.体液量の減少
低ナトリウム血症の原因の一つとして体液量の減少が考えられます。
下痢や嘔吐、大量の発汗があった場合や特定の抗利尿剤を服用した場合にはナトリウムが大量に体外へ排出されます。
その後ナトリウムが補給されなければ、低ナトリウム血症を引き起こしてしまうことがあります。
3-2.体液量の増加
体液量が増えた場合にも低ナトリウム血症が起こる場合があります。
体液が増えることでナトリウムが希釈され、体液中のナトリウムの割合が低くなってしまうことが原因です。
腎疾患や肝硬変、心不全などの場合にはナトリウムと水分が体内に保持されますが、一般的にはナトリウムよりも水分を保持する作用が強く、ナトリウムの濃度が低くなります。
また、運動中の水分補給などで大量に水を飲むことにより、体液に対するナトリウム量が極端に少なくなり、低ナトリウム血症を招いてしまうことがあります。
3-3.ホルモン異常
ホルモン異常も低ナトリウム血症の原因となることがあります。
特に、水分量を調節する「バソプレシン」という抗利尿ホルモンの分泌に異常が起こるとナトリウム濃度は低下します。
通常、体内のナトリウム濃度が高くなり過ぎると脳の下垂体からバソプレシンが放出されます。
バソプレシンのはたらきにより腎臓からの水分排出が制御されることで、体内の水分量が保たれナトリウムの濃度が下げられます。
しかし、「血液量が正常もしくは多い」「血圧が正常もしくは高い」「電解質濃度が低い」というような場合にバソプレシンが分泌されると、体内の水分が過剰となり血液中のナトリウム濃度が下がり過ぎてしまいます。
4.ナトリウムの過剰摂取による体への影響
日本人のナトリウム摂取に関しては、不足よりもむしろ過剰の方が生活習慣病の原因として問題視されています。
ナトリウムを摂り過ぎると、体のむくみや口の渇きなどの症状が生じる他、高血圧、胃や食道のがんを発症する可能性が高くなるという報告があります。
特に日本では高血圧が多く、20歳以上の2人に1人は高血圧ともいわれますが、その主な原因がナトリウムの過剰摂取といわれています[1]。
高血圧は進行すると動脈硬化を起こし生活習慣病の原因となることがあります。
食事からのナトリウム摂取のほとんどは食塩や食塩を含む調味料によるものです。
日本食では、しょうゆ、みそ、塩などの調味料の使用が多く、ナトリウムの摂取量が過剰になりがちです。
高血圧の予防のためにはナトリウム摂取量の制限が重要であるため、「日本人の食事摂取基準(2020年度版)」において摂取目標量が定められています。
ナトリウムの摂取基準や摂取目標量については後ほど解説します。
5.ナトリウムと食塩の関係
食塩とはナトリウムと塩素が結合してできた「塩化ナトリウム」のことです。
すなわち、ナトリウムは食塩を構成する成分の一つなのですね。
ナトリウムのほとんどは食塩の形で摂取されています。
食品中には食塩の他にも、うま味調味料の主成分である「グルタミン酸ナトリウム」など、さまざまな形のナトリウムが存在します。
しかし、食事から摂取するナトリウムのほとんどが食塩であるためナトリウムを食塩相当量で表すことが多いのです。
食品中の食塩相当量はナトリウム量から換算することで求められます。
6.ナトリウムの食事摂取基準と平均摂取量
「ナトリウムはどのくらい摂れば良いのかな?」
このように疑問に思うことがあるかもしれませんね。
ここではナトリウムの摂取基準と平均摂取量について解説しますので参考にしてください。
【関連情報】 「塩分の摂り過ぎには要注意!適切な摂取量と手軽にできる減塩のコツ」についての記事はこちら
6-1.ナトリウムの食事摂取基準
ナトリウムの食事摂取基準には1日当たりの目標量が設けられており、成人男性の場合、食塩相当量で7.5g未満、同じく女性で6.5g未満です[3]。
一般的に日本人はナトリウム摂取量が多いため、不足や欠乏よりはむしろ過剰摂取に配慮した目標量が設定されています。
成人に必要な1日当たりのナトリウム量は600mg(食塩相当量で1.5g)とされていますが、食塩摂取量が1.5g以下になることはほぼありません[3]。
厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査報告」によると、食塩摂取量の平均値は10.1g(男性10.9g、女性9.3g)です[4]。
世界保健機関(WHO)の基準では1日当たり食塩相当量で5.0g未満が推奨されていますが、日本人でこの基準を満たしている割合はかなり低いことが分かっています[4]。
日本人のナトリウム摂取目標量を食塩相当量で5.0g未満とするのは現実的に難しいため、実際の摂取量を考慮した目標量が設定されています。
6-2.ナトリウムの平均摂取量
厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査」によると、ナトリウムの1日当たりの平均摂取量は食塩相当量で10.1gです[5]。
男女別に見ると、男性が10.9g、女性が9.3gとなっています[5]。
成人の目標量である男性7.5g未満、女性6.5g未満と比較して高いことが分かりますね[6]。
ナトリウムは塩やしょうゆ、みそなどの調味料やハム、ウインナー、練り製品などの加工食品、漬物などに多く含まれます。
その他、うま味調味料などの食品添加物にもナトリウムが使われているものが多々あります。
特に調味料の使用量や加工食品を食べる機会が多い場合、ナトリウムの摂取量が過剰になっていないか注意することも重要ですね。
7.ナトリウムの不足についてのまとめ
ナトリウムは必須ミネラルの一つで、主に細胞外液中で浸透圧を調整することにより細胞外液量を維持するはたらきをしています。
通常健康であればナトリウムが欠乏することはありませんが、体液中のナトリウムの割合が少なくなり過ぎると「低ナトリウム血症」を起こす場合があります。
低ナトリウム血症になると軽度の疲労感や嘔吐、食欲不振といった症状が現れる可能性があります。
また筋肉の引きつりやけいれん発作を起こすこともあり、さらに重篤になると昏睡状態に陥り、最悪の場合命に関わる恐れもあります。
ナトリウムが不足する原因は体液量の減少や増加、ホルモン異常などです。
ナトリウムはほとんどが食塩の形で摂取されています。
一般的に日本人はナトリウムの摂取量が多いといわれているため、通常ナトリウムが不足する可能性は少ないと考えられます。
むしろナトリウムの摂り過ぎは高血圧の原因になり得るため、摂り過ぎの方に注意する必要があるといえます。
ナトリウムは調味料や加工食品、漬物、食品添加物などに多く含まれるため、適切な摂取量を心掛けるようにしましょうね。