「健康診断で血糖値が高く、糖尿病の予備軍と指摘された…」
「血糖値を下げるために運動を勧められたけど何をすれば良いの?」
血糖値が正常値よりも高く、医師から指摘をされた場合は早期の対策が必要です。血糖値が高い状態が続くと、糖尿病などの生活習慣病が発症するリスクがあります。そのためにも、食生活と運動不足の改善が重要です。
糖尿病や高血圧などの患者にも食事療法と運動療法の組み合わせが推奨されているため、生活習慣病が気になる場合は積極的に取り入れましょう。
この記事では、運動不足の解消に着目し、血糖値が下がる理由やおすすめの運動メニューについてご紹介します。
1.運動には血糖値を下げる効果が期待できる!
そもそも血糖値とは、血液中に含まれているブドウ糖の濃度のことです。食べ物や飲み物から摂取された糖質などはブドウ糖となり、血液中に吸収されます。そのため食前と食後では、血糖値が変動します。食事などで血糖値が上昇すると、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンがブドウ糖をエネルギー源に変換させ、血糖値を下げます。
しかし、血糖値が高いまま下がらない状態が続くと、血管に負担がかかり動脈硬化を引き起こす恐れがあります。動脈硬化になると、糖尿病などの病気につながる可能性が高くなるので、血糖値が高い方は早期の対策が必要です。そのためにも運動は欠かせません。ここでは運動が血糖値を下げるのに適している理由を解説します。
1-1.運動は糖尿病の治療法の一つ
運動療法は、2型糖尿病患者を対象に血糖値のコントロールなどを目的にした治療の一つです。糖尿病には、1型糖尿病と2型糖尿病の種類があり、特に2型糖尿病で運動療法は効果を発揮しやすいことが特徴です。
元々、運動療法は運動医学由来であり、整形外科的な視点からの治療法でした。しかし、近年は生活習慣病の改善など、内科的な視点でも治療法が活用されるようになっています。主な運動療法は歩行などの有酸素性運動が中心です。
また、運動療法を8週間以上続けることでHbA1cが有意に低下することも報告されています[1]。 そのため、有酸素運動は血糖値を下げるためにも、普段の生活に取り入れてみていかがでしょうか。
HbA1cとは、どれくらいの割合で糖化ヘモグロビンが存在しているのかを表す指標です。つまりHbA1cが下がったということは、血糖値が改善されたことを意味します。
1-2.食後高血糖にも効果が期待できる
食後高血糖とは、食事をしてから2時間以内の血糖値が140mg/dl以上ある状態のことです。普段の血糖値は正常であっても、食後だけ異常に血糖値が上がる方もいます。
食後だけ高血糖になる状態は隠れ糖尿病とも呼ばれており、気づかないうちに糖尿病の症状が進行していることがあるので注意が必要です。
2型糖尿病の方が30分に一度軽い運動を行うと、座ったままでいるよりも食後高血糖が改善するという報告もあります[2]。食後の血糖値が高過ぎると感じている方はぜひ実践してみてくださいね。
2.血糖値を下げる運動を実施するポイント
血糖値を下げるのに効果的な運動時間や方法などがありますので、次に紹介するポイントをしっかり押さえて行いましょう。
2-1.有酸素運動は週150分以上が推奨されている
糖尿病診療ガイドラインでは、中強度から強度の有酸素運動を週に150分以上行うことが推奨されています[3]。なお、運動は週に3日以上は行い、活動がない日が連続して2日を超えないようにしましょう。こまめに運動をして、合計時間が週150分以上になるよう調整するのが大切です。
若年層の場合、高負荷と低負荷のトレーニングを積極的に取り組むのも同様な効果を得られる可能性があると考えられています。
ただし負荷が高い運動は体に負担をかけることがあるため、体力がある方や心肺機能が強い方以外は無理して行わないようにしてください。運動は継続することが重要であるため、続けやすい強度で行うようにしましょう。
2-2.レジスタンス運動を組み合わせる
余裕がある方は、有酸素運動と合わせてレジスタンス運動を一緒に行うのもおすすめです。レジスタンス運動とは、スクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操などによって筋肉に抵抗(=レジスタンス)をかける運動のことをいいます。
レジスタンス運動を行うと筋肉量や筋力が増加し、さらにインスリン抵抗性が改善することが明らかです。インスリン抵抗性が改善されると、血糖コントロールの改善が見込めます。
週に2~3日、8~10種類のレジスタンス運動を10~15回を無理のない範囲で継続的に行うことが大切です。
また、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせることでHbA1cの低下が見られるため、運動による血糖値の改善をより強めたい方は、両方をかけ合わせて行ってみましょう。
2-3.運動療法を開始する前は医師に相談する
運動療法を取り入れる場合は、メディカルチェックを受けてから、医師に可否を判断してもらいましょう。合併症などのリスクがある場合は、運動療法は止められることもあります。一方で「軽度から中強度ならOK」「高頻度での運動は避ける」など条件が出る可能性もあるため、まずは医師に相談するのが得策です。
また、主治医から運動療法に許可が出た場合も、自身の健康状態だけでなく、年齢や体重、基礎体力に配慮して運動量を決めてくださいね。
3.血糖値を下げる運動メニュー5選
血糖値を下げるために運動を始めるなら、普段の生活で歩行運動の量を増やしてみましょう。
まずは簡単な短時間の歩行などから始めて、徐々に体を慣らしていくことが大切です。エスカレーターやエレベーターを使わずに階段で上り下りしたり、車や電車を使わず徒歩で行ったりなどするだけで、簡単に運動量を増やせます。少しずつ慣れてきたら段階的に好みの運動を始めることで、安全かつ楽しめますよ。
ここでは、段階的に運動を取り入れたい方に向けて、血糖値を下げるのに効果的な運動をご紹介します。今回ご紹介する運動に加えて、レジスタンス運動を組み合わせると、より健康的な体に近づけます。
なお、運動を始める上で必ず5分程度の準備運動や整理運動を行うことを忘れずにしましょう。
3-1.ウォーキング
ウォーキングは特別な道具を準備する必要がなく、やろうと思ったその日から簡単に始められます。
1回あたり15~30分のウォーキングを1日に2回行いましょう。合計で約10,000歩を目指してください。体力に少し余裕が出てきたら、インターバル速歩を行うのもおすすめです。インターバル速歩では、速く歩くのとゆっくり歩くのを3分間おきに繰り返します。
速く歩くときは「ややきつい」と感じる程度のスピードで歩いてください。できるだけ大股で歩き、かかとからしっかり着地するのがポイントです。肘は90度に曲げて大きく前後に振りましょう。
3-2.ジョギング
ウォーキングでは物足りない、もう少しだけ強度の高い運動をしたいという方はジョギングにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。ジョギングは早歩きと同じくらいのスピードで走る運動です。
ランニングほど速くは走らなくて良いため、取り組みやすく続けやすいと感じる方が多いでしょう。無理のないペースで走るため、程良い負荷をかけられます。
走る前には屈伸運動や伸脚運動などのストレッチを行いましょう。また、正しいフォームを意識して走ることも大切です。姿勢をまっすぐにし、やや前傾姿勢を取りながら走ります。
3-3.水泳
水泳は、水の抵抗や水圧があるため、地上とは異なった運動負荷が体にかかり、消費カロリーが高いです。また、水中では浮力が働くため、地上で運動するときよりも関節への負担が少ないため、体を傷める可能性が低いでしょう。
泳ぐのがあまり得意でない方でも取り組みやすいのは、クロール・平泳ぎ・背泳ぎの三つです。それぞれのポイントを解説します。
クロール……腕を肩から大きく回し、膝を曲げないようにバタ足をします。
平泳ぎ……脚をお尻につけるようにぐっと引き付けたあと、水を蹴るように伸ばしてください。
背泳ぎ……全身の力を抜いて顎を少し引いた状態で泳ぎましょう。
3-4.アクアエクササイズ
アクアエクササイズとは、水中運動のことです。有酸素運動とレジスタンス運動の両方ができるため、バランス良く運動ができます。
浮力や水圧などの水の特性を活用した運動のため、肥満に悩む方や関節への負担が心配な方に適しています。水中でのウォーキング、レジスタンスエクササイズ、ダンスなどがあげられます。これらを取り入れた30分程度のアクアエクササイズを週に2回程度、継続的に行うことがおすすめです。
具体的な方法は、まずはウォーミングアップを5分します。安全に運動ができるよう、関節を大きく動かす体操やストレッチを行い、身体を水に慣らしていきます。
次にウォーキングを5分行います。前歩きや横歩き、後ろ歩きなどを行って全身の筋肉を動かしてください。ウォーキングが終われば、レジスタンスエクササイズを10分行います。水中でスクワットやカーフレイズをして筋肉に負荷をかけましょう。
これが終わったらダンスを5分行い、全身の筋肉を動かします。最後にクールダウンを5分やったらアクアエクササイズは完了です。水中で肩や太ももなどの筋肉をしっかり伸ばし、疲労物質が溜まらないようにします。
3-5.バランス運動
高齢者の場合はバランス能力の向上につながるバランス運動も効果的です。バランス能力とは、静止状態を保ち続ける能力のことを指します。片足で立ったり、ステップ運動を取り入れたりして、体幹を鍛えましょう。
また、バランスボールなどのトレーニンググッズの使用もバランス能力の向上に役立ちます。バランス運動に活用されるトレーニンググッズは、体を不安定な状態にし、その上で姿勢を保つ、というものです。バランスボールなどの上に座ったり立ったりして、スクワットなどで課題を与えてバランス能力を養いましょう。
なお、簡単な動作で体を鍛えられる運動ではありますが、転倒しないように気をつけてください。
4.血糖値を下げるには生活習慣の改善も重要!
血糖値を下げるためには、運動を行うだけでなく生活習慣の改善を行うことも大切です。運動をどんなに頑張っても生活習慣が乱れていると思うように血糖値は下がりません。
4-1.食べ過ぎに注意する
食事は食べ過ぎないように注意し、適正な食事量を保つようにしましょう。年齢や性別、体格や運動頻度によって適正な食事量は変わります。
自分で適正量を見極めるのは難しいため、主治医に決めてもらうのがおすすめです。食べ過ぎを防ぐことで血糖値が上がった状態が続くのを避けることができます。
1日に必要なカロリー量は以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考になさってください。
4-2.バランスの良い食事を心掛ける
炭水化物やたんぱく質、脂質やビタミン、ミネラルなどが不足しないようなバランスの良い食事を心掛けることも大切です。同じものばかり食べるのではなく、好き嫌いせずにバランス良く食べましょう。
減塩を意識したり脂身の少ない食品を摂ったりするように心掛けることも重要です。減塩は高血圧の予防に、脂身の少ない食事は脂質異常症の予防につながります。
さらに野菜やきのこ、海藻など食物繊維を多く含む食品を摂ることで、高血糖によって起こる合併症の予防が可能です。
4-3.アルコールは適量に抑える
過剰にアルコールを摂取すると、高血糖を招きます。適量の飲酒を心掛けて血糖値の上昇を抑えましょう。1日あたり20~25g程度のアルコール摂取量に抑えることで高血糖を予防するといわれています[4]。
4-4.禁煙する
喫煙すると、たばこに含まれるニコチンにより交感神経が刺激され、血糖値が上昇します。また、インスリンの働きを妨げ、血糖値が下がりにくい状態にしてしまう作用があります。脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高めるため、できるだけ早いタイミングで禁煙を始めましょう。
しかし、自分の意思で禁煙を進めるのはとても難しいものです。そのようなときは、禁煙外来に行ったり禁煙補助薬を使ったりしてみてください。頼れるものはしっかりと頼り、無理なく禁煙を進めていきましょう。
5.血糖値を下げる運動についてのまとめ
運動は血糖値を下げるのに効果的です。糖尿病の治療でも運動療法が取り入れられています。ウォーキングやジョギング、水泳やアクアエクササイズなどをできるだけ継続して行うことが大切です。
同時に、食生活の見直しも行いましょう。食べ過ぎに注意し、バランスの良い食事を心掛けることで血糖値を下げることができます。
この記事の監修者
おだかクリニック
副院長
【経歴】
総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、医療コンサルト・アドバイザー業務や、ライティング業務などにもあたっている。
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