「炭水化物は1日にどれくらい摂取すれば良いの?」
とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
炭水化物は食物に含まれる栄養素のうち消化・吸収を経てエネルギーとなる「糖質」と、消化されない「食物繊維」から構成されています。
糖質も食物繊維も健康の維持や増進、生活習慣病の予防のために欠かせない栄養素であるため、自分に必要な量を摂ることが重要です。
この記事では、炭水化物の適切な摂取量や健康的に摂取する方法などをご紹介します。
炭水化物の1日当たりの摂取量を知り、日々の食生活の見直しに活かしてくださいね。
1.炭水化物とは
そもそも炭水化物とは体のエネルギーのもとになる「エネルギー産生栄養素」の一つです。
炭水化物はヒトの消化酵素で消化されエネルギー源となる「糖質」と消化されない「食物繊維」に大別され、エネルギー源となるのはそのうちの糖質です。
一方、食物繊維はエネルギー源とはならないものの消化されずに大腸まで届き私たちの体にとって有用なはたらきを担っています。
食物繊維の作用としてよく知られているものが整腸作用です。
また体内で糖質の吸収を遅らせたり脂質を吸着して体外へ排出したりすることで、肥満や生活習慣病の予防・改善への効果が期待できる成分でもあります。
つまり、炭水化物は私たちが活動するために不可欠なエネルギーをつくり出す糖質、体の調子を整え健康の維持・増進に役立つ食物繊維を合わせたものであるということになりますね。
2.炭水化物の1日当たりの摂取の目安
「炭水化物は1日に何グラム摂取すれば良いんだろう?」
このように考えたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。
私たちのエネルギー源となる重要な栄養素である炭水化物ですが、「1日にこれだけ摂取すれば良い」という質量の目安はありません。
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において炭水化物から摂取するカロリーを1日に摂取するカロリーの50~65%にするという目標量を設定しています[2]。
つまり、炭水化物をどれだけ摂取すべきかを知るには、まず「1日当たりに必要なエネルギー量の目安」を知る必要があるということになります。
1日に摂取すべきカロリー(推定エネルギー必要量)は性別や年齢の他、「身体活動レベル」によって異なります。
性別や年齢、身体活動レベルごとの1日当たりの推定エネルギー必要量は以下のとおりです。
【推定エネルギー必要量(kcal /日)】男性
身体活動レベル | Ⅰ(低い) | Ⅱ(普通) | Ⅲ(高い) |
---|---|---|---|
18〜29歳 | 2,300 | 2,650 | 3,050 |
30〜49歳 | 2,300 | 2,700 | 3,050 |
50〜64歳 | 2,200 | 2,600 | 2,950 |
65〜74歳 | 2,050 | 2,400 | 2,750 |
75歳以上 | 1,800 | 2,100 | – |
【推定エネルギー必要量(kcal /日)】女性
身体活動レベル | Ⅰ(低い) | Ⅱ(普通) | Ⅲ(高い) |
---|---|---|---|
18〜29歳 | 1,700 | 2,000 | 2,300 |
30〜49歳 | 1,750 | 2,050 | 2,350 |
50〜64歳 | 1,650 | 1,950 | 2,250 |
65〜74歳 | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
75歳以上 | 1,400 | 1,650 | – |
推定エネルギー量は体格によって異なるため、日本人として平均的な体格の方を想定して算出されています。
ご自身に必要なエネルギー量について詳しく知りたいという方は以下の記事を参考にしてください。
1日に必要なカロリーって?計算方法と健康を保つポイントを解説!
推定必要エネルギー(kcal /日)の表から、30〜49歳男性で身体活動レベル「Ⅱ(普通)」の場合を想定し、炭水化物の必要量を計算してみましょう。
この場合の推定必要エネルギーは2,700kcalなので、50~65%に相当するエネルギー量は1,350~1,755kcalです。
炭水化物は1g当たり約4kcalのエネルギーをつくり出すため、1,350~1,755kcal 相当の炭水化物量はそれぞれを4で割った数値、つまり338g~439gになります。
このようにして推定エネルギー必要量から、1日当たりの炭水化物の必要量を算出することができます。
また炭水化物のうちの食物繊維には別の基準が設けられています。
食物繊維の1日当たりの摂取目標量は以下のとおりです。
【食物繊維の摂取目標量】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18〜29歳 | 21g以上 | 18g以上 |
30〜49歳 | 21g以上 | 18g以上 |
50〜64歳 | 21g以上 | 18g以上 |
65〜74歳 | 20g以上 | 17g以上 |
75歳以上 | 20g以上 | 17g以上 |
なお、成人の理想的な食物繊維の摂取量は本来、1日当たり24g以上であるとされています[2] 。
しかし日本人の食物繊維摂取量は理想にはほど遠く、上記の摂取目標量は実際の食物繊維摂取量の中央値と24gの中間値から算出されています[2] 。
食物繊維は不足しがちな栄養成分なので、健康維持のためには意識して今よりも多く摂るよう心掛けることが重要なのですね。
3.炭水化物の過剰摂取や摂取不足による影響
炭水化物には食事摂取基準が設けられています。
食事摂取基準は健康の維持・増進を目的とした基準であるため、この数値を目安に過不足なく摂取することが望ましいといえるでしょう。
ここでは炭水化物の過不足があった場合、健康にどのような影響があるのかについて、糖質と食物繊維に分けて解説します。
3-1.糖質の過剰摂取や摂取不足による影響
まずは炭水化物のうち、エネルギー源となる糖質が過剰であったり不足したりした場合の影響を見ていきましょう。
3-1-1.糖質の過剰摂取による影響
糖質を摂り過ぎると肥満や「生活習慣病」の原因となります。
これは、摂り過ぎによってエネルギーとして利用しきれなかった糖質が脂肪として蓄積されるためです。
特に内臓周りに脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」は、生活習慣病と密接な関係があります。
内臓脂肪型肥満と高血圧や高血糖、血液中の中性脂肪値などの異常(脂質異常)が組み合わさると、心臓病や脳卒中などのリスクが高まる「メタボリックシンドローム」の状態を引き起こします。
体に脂肪をため込まないためには、糖質を摂り過ぎないことが重要なのですね。
3-1-2.糖質の摂取不足による影響
炭水化物のうち、糖質が不足すると疲労を感じやすくなったり集中力が低下したりします。
食事で摂取した糖質は体内でブドウ糖に分解されます。
ブドウ糖は血液によって脳や神経組織、筋肉など全身の組織へ供給され、エネルギー源として利用されるのです。
さらに一部のブドウ糖はグリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられます。
そのため、糖質の摂取量が不足すると各組織で使われるエネルギー源が不足し疲労感や集中力低下につながるのです。
また糖質を極端に制限すると、筋肉中のたんぱく質を分解しエネルギー源として使ってしまうため、筋肉量が低下する恐れがあります。
糖質を摂り過ぎないことも重要ですが、適切な摂取が望ましいということになりますね。
3-2.食物繊維の過剰摂取や摂取不足による影響
健康に深く関わる食物繊維は積極的に摂取したい栄養成分ですよね。
現代の日本人にとっては不足しがちであるといわれていますが、不足することで具体的にはどのような影響があるのでしょうか。
また摂り過ぎることで健康に害を及ぼすのかについても見ていきましょう。
3-2-1.食物繊維の過剰摂取による影響
一般的な食事の範囲で考えると、食物繊維を摂り過ぎる心配はありません。
しかし、サプリメントなどいわゆる健康食品などから摂り過ぎてしまう可能性には注意した方が良いでしょう。
食物繊維のうち不溶性食物繊維は便のかさを増やし便通を促す作用がありますが、摂り過ぎるとかえって便秘を悪化させてしまうこともあります。
また、水溶性食物繊維を摂り過ぎると下痢を起こしやすくなったりビタミンやミネラルなどの栄養素の吸収が妨げられたりする可能性もあります。
食物繊維を過剰摂取した場合の影響について、詳しくは以下の記事で解説していますので参考にしてみてください。
食物繊維のとりすぎは体に悪い?過剰摂取の影響と適切な摂取量を解説
3-2-2.食物繊維の摂取不足による影響
食物繊維には便の材料となったり、腸内の「善玉菌」を増やして腸内環境を良好に保ったりする作用があります。
そのため、食物繊維が不足すると腸内環境の悪化につながり便秘を生じやすくなります。
また食物繊維の摂取不足は「血糖値」の急上昇を招き、肥満のリスクを高めます。
食後は誰でも血糖値が上昇します。
しかし急激に上昇するとブドウ糖の消費が追いつかなかったり、余ったブドウ糖を脂肪として蓄えるはたらきのある「インスリン」が過剰分泌されたりするため、肥満や生活習慣病を引き起こすのです。
血糖値が急上昇するとそれに伴いインスリンも多く分泌され、より脂肪が蓄積しやすくなります。
食物繊維は便秘や肥満、生活習慣病を予防するためには欠かせない栄養素なのですね。
4.炭水化物を含む食品
「炭水化物が含まれている食べ物ってどんなものだろう?」
炭水化物には糖質と食物繊維があるため、どちらか一方が多いものやどちらも豊富に含まれているものなどさまざまです。
ここでは糖質を多く含む食品、食物繊維を多く含む食品をそれぞれご紹介します。
4-1.糖質を含む食品
糖質は主にご飯やパン、麺類などの穀類やいも類、果実類、砂糖および甘味類などに多く含まれています。
【糖質を多く含む食品と可食部100g当たりの含有量】
食品名 | 加工状態など | 糖質含有量 |
---|---|---|
上白糖 | - | 99.3g |
三温糖 | - | 99.0g |
黒砂糖 | - | 88.9g |
干しぶどう | - | 60.3g |
食パン | - | 44.2g |
ごはん(精白米、うるち米) | - | 34.6g |
さつまいも | 皮なし、生 | 28.3g |
そば | ゆで | 24.5g |
うどん | ゆで | 19.5g |
バナナ | 生 | 18.5g |
じゃがいも | 皮なし、生 | 15.5g |
りんご | 皮なし、生 | 12.2g |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
糖質の過剰摂取は肥満や生活習慣病を引き起こす原因となりかねませんが、基本的には私たちにとって不可欠な栄養素です。
摂り過ぎたり不足したりしないためには、糖質を多く含む食べ物を知りうまく摂取することが重要だといえますね。
4-2.食物繊維を含む食品
炭水化物のうち、食物繊維を多く含む食品には穀類やいも類、野菜、豆類、きのこ類、海藻類などがあります。
【食物繊維を多く含む食品と可食部100g当たりの含有量】
食品名 | 加工状態など | 食物繊維含有量(総量) |
---|---|---|
カットわかめ | 乾燥 | 35.4g |
切り干し大根 | 乾燥 | 21.3g |
おから | 生 | 11.5g |
プルーン | 乾燥 | 7.1g |
納豆 | - | 6.7g |
ごぼう | 生 | 5.7g |
ブロッコリー | 生 | 5.1g |
えだまめ | 生 | 5.0g |
しいたけ | 生 | 4.6g |
えのきたけ | 生 | 3.9g |
まいたけ | 生 | 3.5g |
ぶなしめじ | 生 | 3.5g |
玄米 | - | 3.0g |
生いもこんにゃく | - | 3.0g |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
食物繊維は健康維持に欠かせない成分であるため、豊富に含む食品を積極的に食事に取り入れて不足しないように意識してみてくださいね。
食物繊維が多く含まれる食品については以下の記事で多く取り上げているので併せてご覧ください。
5.炭水化物の健康的な摂り方
炭水化物は摂り過ぎても不足しても健康に悪影響を及ぼします。
特に糖質の過剰摂取、食物繊維の不足に注意する必要があるでしょう。
ここでは、健康づくりに役立つ炭水化物の摂取方法をご紹介します。
5-1.野菜から先に食べる
食事の際に食物繊維を多く含む野菜などを先に食べることで期待できるのが、血糖値の急上昇を抑える効果です。
糖質を多く含むご飯などから食べ始めると血糖値は上昇しやすく、それに伴いインスリンも多く分泌されます。
インスリンには血糖値を下げると同時に余分なブドウ糖を脂肪として蓄えるはたらきがあるため、過剰に分泌されると体脂肪の増加につながります。
野菜から先に食べることで血糖値の上昇が緩やかになりインスリンの分泌も抑えられるため、脂肪をため込みにくい体づくりにつながるのです。
また、食物繊維を多く含む野菜やきのこ、海藻類などは低カロリーである上にしっかりと噛む必要があるため、食事の初めに摂取することで満足感が得られやすく食べ過ぎ防止にも役立ちます。
5-2.低GI食品を食べる
糖質を健康的に摂取するには「低GI食品」を活用するのもおすすめです。
低GI食品は摂取後の血糖値の上昇が緩やかな食べ物です。
一方、高GI食品は血糖値を急激に上昇させてしまう食べ物であるといえます。
主な食品のGIは以下のとおりです。
【主な食品のGI値】
食品名 | GI値 |
---|---|
砂糖 | 91 |
さつまいも(焼き) | 82 |
白米 | 76 |
白パン | 75 |
白米と発芽玄米を2:1の比率で交ぜたもの | 67 |
玄米 | 62 |
ベーグル | 61 |
かぼちゃ(蒸し) | 52 |
ライ麦パン | 51 |
バナナ | 51 |
チョコレート | 49 |
スパゲッティ(ゆで) | 45 |
りんご | 44 |
牛乳 | 34 |
THE UNIVERSITY OF SYDNEY「Search for the Glycemic Index」をもとに執筆者作成
糖質を含む食品として知られているご飯やパンなどを見てみると白米よりも玄米、白パンよりもライ麦パンでGI値が低いことが分かります。
白米や普通の白いパンよりも食物繊維が多く含まれているのが玄米やライ麦パンです。
糖質を多く含む食品は血糖値を急上昇させやすいといわれていますが、食物繊維の量によっては血糖値の上昇が緩やかなものもあるということになりますね。
血糖値の上昇速度が緩やかな低GI食品の利用はダイエットにも有効です。
ダイエットを成功させるためには消費カロリーよりも摂取カロリーを少なくすることが基本です。
摂取カロリーを抑えるためにはエネルギー源となる糖質をある程度制限することも必要ですが、極端な糖質制限は筋肉量の減少やストレスにつながってしまいます。
そこでダイエット中でも糖質を適切に摂取するためにおすすめなのが低GI食品なのです。
低GI食品を活用することでインスリンの過剰分泌および脂肪の蓄積を防げるため、ダイエットの邪魔をすることなく適切に糖質が摂取できると考えられるでしょう。
食物繊維を多く含む野菜などを先に食べる方法同様、血糖値の急上昇を防ぐことで健康的な体づくりやダイエットに役立つのが低GI食品なのですね。
5-3.おやつの食べ方を工夫する
毎日の「おやつ(間食)」が習慣になっているという方もいらっしゃるでしょう。
おやつは必ずしも甘いお菓子やせんべい、スナック菓子など、いわゆるお菓子のことを指しているわけではありません。
しかしお菓子をおやつとして摂取した場合、予想以上に糖質の摂取が多くなってしまう可能性があります。
おやつは気分転換や生活する上での楽しみとしての役割もありますが、食べ方によっては糖質や脂質の過剰摂取によりカロリーオーバーを招いてしまうのです。
一般的には1日当たりのおやつのカロリーは約200kcalが目安とされています[3]。
そのため、低カロリーのものを選んだり小皿に取り分けたり小分けのお菓子を利用したりといった工夫が大切です。
糖質を摂り過ぎず健康的におやつを食べる方法については、以下の記事参考にしてみてくださいね。
ダイエット中でもお菓子を食べたい!太りにくいお菓子と食べ方のコツ
6.炭水化物の1日当たりの摂取量についてのまとめ
炭水化物は体のエネルギー源となる栄養素の一つです。
エネルギー源となる糖質と、ヒトの消化酵素では消化できないためほとんどエネルギーとならない食物繊維に分けられます。
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において炭水化物から摂取するカロリーを1日に摂取するカロリーの50〜65%にするという目標量を設定しています[4]。
例えば身体活動レベルが「普通」に当たる30〜49歳の男性の場合、1日に必要なカロリーは2,700kcalです[5]。
この50〜65%に相当する1,350〜1,755kcalを炭水化物(糖質)から摂るべきであるということになります。
また炭水化物(糖質)は1g当たり約4kcalであるため、重量に換算すれば338〜439gです[4]。
なお、食物繊維には別途目標量が設定されています。
食物繊維の目標量は男性の場合、18〜64歳で21g以上、65歳以上で20g以上です[4]。
また女性の目標量は18〜64歳で18g以上、65歳以上で17g以上です[4]。
糖質の摂り過ぎは肥満や生活習慣病の原因となります。
一方、不足した場合にも集中力の低下や疲労感といった症状を引き起こします。
また食物繊維の不足は便秘を招いたり、肥満のリスクを高めたりするとされています。
いずれも適切に摂取することが重要です。
糖質は主にご飯やパン、麺類などの穀類やいも類、果実類、甘味類などに含まれています。 また食物繊維は主に穀類やいも類、野菜、豆類、きのこ類、海藻類などに含まれています。
炭水化物を摂る際は健康への影響を考え、野菜を先に食べる、低GI食品を活用する、間食を食べ過ぎないといった工夫をすると良いでしょう。
この記事を参考に炭水化物の摂取量を意識してみてくださいね。
[4] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
[5] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」