「瞑想に興味があるけど、そもそも瞑想ってなに?」
「瞑想にはどんな効果が期待できる?」
瞑想やマインドフルネスという言葉は知っているものの、スピリチュアルなイメージが先行してよく分からないという人も多いのではないでしょうか。瞑想やマインドフルネスは、忙しい毎日に追われる人にもおすすめの技法です。
この記事では、瞑想やマインドフルネスの効果に加え、実際のやり方やコツを解説します。
1.瞑想・マインドフルネスとは
そもそも、瞑想やマインドフルネスとはどのようなものなのでしょうか。ここでは、瞑想やマインドフルネスの基本について説明します。
1-1.健康を増進させる実践技法の一つ
瞑想とは、心と体の統合を目指すもので、心を落ち着かせることで健康増進にアプローチするための実践技法のことです。
瞑想のなかには、ある特定の感覚に精神を集中させるものがあります。具体的には呼吸・周りから聞こえる音・視覚のイメージなどに意識を向けることとされています。マントラと呼ばれる言葉やフレーズに対して精神を集中させることもあり、その対象はさまざまです。
一方のマインドフルネスは、「今この瞬間」に注意を向け続ける実践技法とされています。マインドフルネスを精神医療に応用した先駆者であるカバットジン博士による定義では、マインドフルネスは「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、意図的に注意を向けることによってあらわれる気づき」とされています。
ただ、マインドフルネスはあらゆるシーンで使われており、その定義が明確とは言い切れません。あくまで広い意味をもつ言葉であることを認識しておくと良いでしょう。
1-2.マインドフルネスは医療の現場でも活用されている
マインドフルネスは医療の領域で使われているものもあります。代表的なのが、マインドフルネスに認知療法を組み入れたマインドフルネス認知療法という技法です。
マインドフルネス認知療法は、もともとうつ病の再発予防プログラムとしてスタートしたものです。ただ、実際に完成したプログラムは認知の転換を中心とするものではなく、今この瞬間を見つめるマインドフルネスの技法をふんだんに取り込んだものでした。
今ではイギリスで費用対効果の見込める予防プログラムとして認められ、NICE(国立医療技術評価機構)が勧めている方法となっています。その後、マインドフルネス認知療法は、うつ病以外の精神医療に応用されるだけでなく、精神医療以外の分野にも広がりを見せており、応用力にあふれた技法といえます。
2.瞑想・マインドフルネスがもたらす5つの効果
瞑想やマインドフルネスは、さまざまな健康効果を引き出し、日々の生活の質を向上させる可能性があるとされている技法です。
ここでは、海外の研究結果をもとに、瞑想やマインドフルネスを行うことで期待できる効果を五つご紹介します。日本人にも同じように当てはまるかどうかは、まだ日本での研究があまり行われておらず、不明な点が多い部分でもあるので、参考程度にとらえておくと良いでしょう。
2-1.ストレス・不安・抑うつの軽減
2018年に行われた研究で、不安症やうつ病の症状がある方にマインドフルネス瞑想のアプローチをしたところ、症状に対して治療を行っていない人よりも優れた結果が得られました[1]。また、認知行動療法や抗うつ薬など、既に確立したエビデンスに基づく治療と、同様に有用であることが明らかになりました。
そのほかの研究結果として、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を軽減したり、がん患者のメンタルヘルスを改善したりする可能性も示唆されています。
[1] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-2.血圧の低下が期待できる
2020年に行われた研究で、高血圧症、糖尿病など健康上の問題がある方においては、マインドフルネス・ストレス軽減法を実施することで、血圧の有意な低下と関連することが報告されました[2]。ここでいうマインドフルネス・ストレス軽減法とは、マインドフルな瞑想を教えるプログラムのことです。
ただし、瞑想やマインドフルネスが血圧に及ぼす影響を調べた質の高い研究はほとんどないのが実情です。現在に至るまで具体的な効果は確定していません。とはいえ、瞑想やマインドフルネスが、健康上の問題がある方の血圧の有意な低下に関連していることが報告されているのも事実です。
[2] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-3.急性・慢性疼痛の軽減
2020年に行われた研究で、急性または慢性疼痛でオピオイド(医療用麻薬)を使用している人に対して、瞑想の実践が疼痛の軽減に関連していることが明らかになったとされています[3]。
また、マインドフルネス・ストレス軽減法が腰痛に対して6カ月程度の短期間の改善と関連するとの報告もあります。しかし、これまでの研究では線維筋痛症や頭痛の改善には効果がみられていません。
痛みに関する研究については、研究数が少ないことや質が低い研究も含まれていることから、予備的な結論として捉えると良いでしょう。
[3] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-4.不眠症の軽減・睡眠の質向上
2019年に行われた研究で、マインドフルネスによって不眠症の軽減や睡眠の質向上に有用である可能性がみられたとの報告もあります。ほかの認知行動療法や運動といったエビデンスが確立された治療法と同様の効果がみられています[4]。
[4] 厚生労働省 eJIM「瞑想」
2-5.食事行動の管理に役立つ
マインドフルネス・プログラムが暴飲暴食や感情に任せた食事、食事制限といった食行動を管理するのに役立つといわれています。ここでいうマインドフルネス・プログラムとは、瞑想やマインドフルネスに非公式なマインドフルネスのエクササイズを組み合わせた治療プログラムのことを指します。
ただし、食行動を管理することには効果が期待できますが、減量すること自体にはそれほど有用でないとされています。
3.瞑想・マインドフルネスのやり方
ここでは、日常生活のなかでもできる瞑想のやり方を五つご紹介します。マインドフルネス認知療法は、ここで解説する瞑想方法を組み合わせて行われているので、ぜひ参考にしてみてください。
3-1.呼吸瞑想
呼吸瞑想は腹式呼吸を意識し、特に呼気(吐く息)に精神を集中させることです。長くゆっくりと吐き出す息を感じることで揺れやすい心の動きを穏やかにして、心の安定を目指します。
実際の方法は、以下のとおりです。
- 背筋を伸ばして肩の力を抜く。
- おなかに注意を集中させる。
- 息を吸ったときのおなかが膨む感覚、吐いたときに引っ込む感覚を丁寧に感じるように心掛ける。
- 意識がそれてしまったら、その原因となったものを確認し、また呼吸に戻る
- 15分程度続ける
椅子に座って行うときは、背もたれを使わずに座ります。目は開けたままでも閉じたままでも行えますが、目を開けたまま行うときは2m程度先をぼんやり見るようなイメージ。体の感覚をそのまま受け取るように行ってみてください。
3-2.静座瞑想
静座瞑想は、マインドフルネスを行う上で中心ともいえる方法。呼吸に精神を集中させることで、今この瞬間を受け入れ続けることの訓練として位置づけられる瞑想です。
頭・首・背筋を一直線にするように意識し、床に対して垂直に座ります。椅子に座って行うときは、背もたれが曲がっておらず、足が床にしっかり付く程度のものがベストです。
正しい姿勢で座れたら、前述の呼吸瞑想を行います。最大で45分間座っていられるようになるのが目標です。まずは1日1回10分から始め、徐々に時間を伸ばしていきましょう。
3-3.ボディースキャン
ボディースキャンとは、自分の体の素晴らしさを受け入れるプロセスです。自分の体のさまざまなパーツを、ありのままで受け入れることを目指します。
- 仰向けで横になる。
- 呼吸をするとき、おなかが上下に動くことを感じる。
- つま先から頭までが一つになり、全体が皮膚ですっぽり包まれているようなイメージを浮かべる。
- 左足のつま先に集中し、つま先を通して息が出入りするようなイメージで呼吸する。
- 両足のつま先の感覚に意識を集中させる。両足の感覚の差はもちろん、差がない場合もそのまま受け入れる。
- 呼吸を繰り返しながら、足の裏・かかと・足の甲・足首という感じで、意識を向ける場所を順番に移していく。
- 左足のつま先から左足付け根→右足つま先から右足付け根→骨盤・腰・腹部・背中→首・のど・顔・後頭部・頭頂部といった感じで、徐々に頭に向かってパーツを変えていく。
- 体全体で呼吸をするイメージを浮かべる。頭頂部から空気が入ってつま先から出ていき、その後つま先から入った空気が頭頂部に抜けていくイメージを持つ。
- 体全体が一つになった感覚のまま、しばらく静かにじっとする。その後、意識的に手足を動かしたり、手で顔を左右に軽く揺り動かしたりしてマッサージする。感覚が戻ったら、通常の生活に戻る。
体のパーツを丁寧に感じながら、欠点や理想を入れずにそのままの状態を受け入れていくのがコツです。毎日1回はやってみてください。
3-4.ヨーガ
ヨーガでは、体のさまざまな筋肉を伸ばしたり緩めたりすることで、身体感覚を研ぎ澄ませてより集中できるようにすることを目指します。
ヨーガを行うときは、ポーズの難易度の高さではなく、ポーズを取るときや緩めたときの体の感覚を感じ取る方が大事です。また、体に慢性的な痛みがある人や、筋肉・骨に持病がある人は医師や理学療法士といった専門家に相談してから始めてください。
3-5.生活瞑想
生活瞑想とは、日常生活で行う動作のなかで意識を集中させることを指します。
・咀嚼瞑想
ものを食べている間、食べることに精神を集中させる技法です。咀嚼瞑想では、今食べていることに注意を向け、味わいを丹念に感じ取ることを目指します。
瞑想の基本を知るためのプロセスともされており、瞑想訓練の初日にレーズンをゆっくり食べることをすることもあります。
・歩行瞑想
文字どおり、歩くことに意識を集中させる技法です。歩行瞑想では、自分の体がどのように動き、どのような感覚が起こるのかをつぶさに捉えていきます。
地面に足がついたときの感触、足に徐々に体重がかかっていく感覚、もう片方の足が上がって地面に近づいていく感覚を順番に感じ取ります。歩行瞑想を行うときは、周りの目を気にせず歩ける環境と時間を十分確保することが大切です。
4.瞑想・マインドフルネスの効果を引き出すコツ
ここでは、瞑想やマインドフルネスの効果を高めるためのコツを四つ紹介します。
4-1.1週間は続ける
瞑想やマインドフルネスを始めたら、気乗りしない日があってもとにかく1週間は続けてみてください。5分でも10分でも構わないので、途切れることなく毎日続けることが重要です。そのために、1日のうち15分程度の瞑想を行うために確保しておくのがおすすめです。
また、できるだけ同じ時間・同じ場所でやるのが習慣化するコツ。うまくルーティーン化できれば、瞑想が生活の一部となって継続しやすくなります。
4-2.初心を忘れない
日々瞑想を繰り返しているうちに、始めたころの新鮮な気持ちを忘れてモチベーションが下がることもよくあります。継続できるようになったときこそ初心を忘れず、瞑想についてまだ知らないことがたくさんあることを念頭において臨むことが大切です。
4-3.雑念が浮かんでも自分を責めない
瞑想中に雑念が浮かんで呼吸から意識がずれてしまったときは、慌てずに落ち着いて注意を呼吸に戻してみましょう。
集中できないことで自分を責める必要はありません。本来、人は心が移ろうものです。何も悪いことではないため、そのときの自分をそのまま受け入れてみてください。
4-4.長時間の瞑想をするときは注意する
瞑想は自分の体一つでできる技法なので、何の副作用もリスクもないように思えます。しかし、長時間にわたる瞑想を行うときは注意が必要です。
なぜなら、瞑想はときに体や心に支障をきたす恐れがあるからです。例えば、PTSDやパニック障害がある人が瞑想を行うと、フラッシュバックやその他の症状が出現することもあります。
日本でも古くから行われている禅でも、頭痛や吐き気といった体の不調を起こす人もいるとされています。こうした理由から、長時間の瞑想にチャレンジするときは、医師や経験豊かな指導者のもとで瞑想を行うことがおすすめといえます。
5.瞑想・マインドフルネスを実施する前のポイント
瞑想を行った人のなかには、不安や抑うつなどのネガティブな経験をした人もいると報告されています。
海外での調査では、参加者のうち約8%にあたる人がネガティブな経験をしたとされています[5]。
これは心理療法の領域で報告されている割合とほぼ同じで、瞑想には一切リスクがないと言い切れないことを示しています。
こうした点も踏まえ、瞑想を開始する際は以下のポイントを押さえておきましょう。
5-1.従来のケア・治療の代わりとしない
瞑想にはさまざまな効果が期待できますが、瞑想をすればすべての健康課題が解消されるわけではありません。
そのため、瞑想を従来のケアや治療の代わりとして固執したり、医療機関への受診を遅らせたりしないようにすることが重要です。とくに治療中の疾患などがある場合は、かかりつけの医師の指示を仰ぐことをおすすめします。
5-2.指導者の訓練や経験について尋ねる
現在取り入れることを検討している瞑想がある場合は、師事しようとしている指導者の訓練や経験についてよく確認することも大切です。
瞑想にはネガティブな経験をする可能性もあります。実際に瞑想を始める前に、指導者の資質なども冷静に見極めるように心掛けてください。
5-3.補完療法について医療機関に相談する
今かかっている疾患に対し、何かしらの補完療法を検討している場合は医療機関に相談することが大切です。そもそも補完療法とは、通常の医療行為に通常医療とはみなさない別の療法を組み合わせることを指します。
自分の健康に対して、瞑想を一つの手段として取り入れようとしているなら、まずはかかりつけの医療機関スタッフによく相談してから決めましょう。十分な情報を得た上で実施に関する意思決定ができ、より安心して取り入れられます。
6.瞑想の効果や実践の注意のまとめ
瞑想にはさまざまな健康効果が期待できます。ただ、やり方や自分の健康状態によっては、思わぬネガティブ体験をすることもあります。経験豊富な指導者やかかりつけの医療機関に相談しながら、自分のライフスタイルに合った瞑想を取り入れてみてください。
この記事の監修者
精神保健指定医/日本精神神経学会専門医・指導医
【経歴】
2005年滋賀医科大学卒業後、小児科や産業医として勤務した後に精神科へと転身。身体的、精神的症状を訴える患者を受け持つ。思春期特有の心の病気に取り組む「思春期外来」も担当しているほか、精神科系の記事執筆や監修なども行っている。
【監修書籍情報】
「誰も教えてくれない性病対策ハンドブック」(三和出版)