「おなかの脂肪をどうにかして減らしたい」
このように感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
おなか周りに付くのは主に「内臓脂肪」と呼ばれる脂肪です。
内臓脂肪の過剰な蓄積は動脈硬化の一因になり、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが高まります。
しかし、内臓脂肪は食生活と運動習慣を見直すことで減らせます。
この記事ではおなかに付く内臓脂肪の特徴や肥満度を確かめる方法、内臓脂肪を落とすための食事と運動のポイントを紹介します。
1.おなかの脂肪とは
おなかの周り付くのは主に「内臓脂肪」と呼ばれる脂肪です。
内臓脂肪は体脂肪の一種で、主に胃や腸などの内臓の周りに蓄積します。
内臓脂肪が過剰に蓄積した状態を「内臓脂肪型肥満」といい、このタイプの肥満は女性よりも男性に多い傾向にあります。
内臓脂肪の付き過ぎは動脈硬化の一因とされており、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気を発症するリスクが高まるとされています。
また、内臓脂肪が蓄積すると高血圧や高血糖、「脂質異常症」など、動脈硬化を進める他の因子も併発しやすくなります。
内臓脂肪の蓄積に加え、高血圧や高血糖、脂質異常症の三つのうち、二つ以上を併発している状態をメタボリックシンドロームと呼びます。
腹囲が男性は85cm以上、女性で90cm以上あれば、メタボリックシンドロームの診断基準の一つである内臓脂肪の蓄積の条件に当てはまることになります[1]。
メタボリックシンドロームに該当する状態では、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクはさらに高まるので注意が必要です。
日本人の死因の第2位は心筋梗塞をはじめとする心臓病、第4位は脳梗塞などを含む脳卒中であることからも、過剰に蓄積した内臓脂肪は意識的に減らしていった方が良いでしょう[2]。
2.肥満度を確かめる方法
「肥満の度合いを確かめる方法ってあるのかな?」
おなかの脂肪が気になっている方のなかには、このような疑問を持たれた方もいらっしゃるでしょう。
一般的に肥満度を確かめるには「BMI」の値を参考にします。
BMIは国際的に用いられている体格指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]という式で求められます[3]。
日本肥満学会は、BMIが25以上の状態を肥満と定義しています[4]。
現状を正しく把握するためにも、まずはBMIでご自身の肥満度をチェックしてみると良いでしょう。
内臓脂肪の蓄積とBMIに直接的なつながりは認められていませんが、メタボリックシンドローム予備軍を見つける目的で「特定健康診査」の基準には腹囲に加えBMIも採用されています。
このことからもBMIは肥満度をチェックする一つの指標になるといえます。
3.おなかの脂肪を減らすための食事のポイント
「おなかの脂肪を減らすために食生活を改めたいけど、具体的に何をすれば良いんだろう?」
食生活の見直しが必要だと分かってはいても、具体的に何をすれば良いかまでは分からない方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここでは内臓脂肪を減らすための食事のポイントを五つ紹介します。
ポイント1 摂取カロリーを適切に抑える
内臓脂肪の蓄積を防ぐには食事から摂取するカロリーを適切に抑えることが重要です。
体重は摂取カロリーと消費カロリーのバランスによって変動し、摂取カロリーが消費カロリーを下回れば減量につながります。
ここでは身長に対する理想的な体重とされている標準体重をもとに、1日当たりに摂取するべきエネルギー(カロリー)を計算します。
標準体重はBMIが22になるときの体重で、22×[身長(m)の2乗]という式で求めることができます[5]。
1日に摂取するべきカロリーの目安は[標準体重(kg)]×[体重1kg当たりの推定エネルギー必要量(kcal)]という式で求められます。
標準体重が把握できたら、次は体重1kg当たりの推定エネルギー必要量を確かめてみましょう。
まず下記の表でご自身の身体活動レベルをチェックします。
【身体活動レベル】
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(Ⅰ) | ほとんどの時間を座って過ごし、あまり体を動かさない |
普通(Ⅱ) | 座って過ごす時間が長いものの、通勤や買い物での歩行、家事、軽いスポーツなどを行っている |
高い(Ⅲ) | 移動したり、立ったりしたままする仕事に就いているか、余暇にスポーツなどの活発な運動習慣がある |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
下記の表と身体活動レベルを照らし合わせ、その値に標準体重をかけると1日当たりの摂取カロリーの目安を知ることができます。
【男性の体重1kg当たりの推定エネルギー必要量(kcal/日)】
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
---|---|---|---|
18〜29歳 | 35.5 | 41.5 | 47.4 |
30〜49歳 | 33.7 | 39.3 | 44.9 |
50〜64歳 | 32.7 | 38.2 | 43.6 |
65〜74歳 | 31.3 | 36.7 | 42.1 |
75歳以上 | 30.1 | 35.5 | - |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
【女性の体重1kg当たりの推定エネルギー必要量(kcal/日)】
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
---|---|---|---|
18〜29歳 | 33.2 | 38.7 | 44.2 |
30〜49歳 | 32.9 | 38.4 | 43.9 |
50〜64歳 | 31.1 | 36.2 | 41.4 |
65〜74歳 | 30.0 | 35.2 | 40.4 |
75歳以上 | 29.0 | 34.2 | - |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
このように1日に必要な摂取カロリーの目安を把握しておけば、食事から摂るカロリーを適切に抑えやすくなりますね。
ポイント2 糖質と脂質の摂取量を適切に抑える
糖質と脂質の摂取量を適切に抑えることも、内臓脂肪を減らすことにつながります。
ヒトの体がエネルギー源とするもの、つまりカロリーがあるものは糖質(炭水化物)、脂質、たんぱく質の「エネルギー産生栄養素」だけです。
糖質(炭水化物)とたんぱく質は1g当たり約4kcal、脂質は1g当たり約9kcalのエネルギーを生み出します[6]。
また、糖質(炭水化物)と脂質は過剰摂取した場合、脂肪として体内に蓄積されてしまいます。
糖質(炭水化物)はご飯やパン、麺類などの主食や、砂糖を原材料とするお菓子や甘い飲み物などに多く含まれます。
脂質は食用油やそれらを原材料とするスナック菓子の他、バターやマーガリン、牛肉、豚肉などに多く含まれることが分かっています。
そのため内臓脂肪を減らすには間食を控えたり、脂っこいものや肉中心の食生活を見直したりする必要があるのですね。
脂質の場合、揚げたり炒めたりする調理法を、煮たり蒸したりする調理法に変えるだけでも摂取量を減らすことができます。
また、たんぱく質は筋肉や臓器、皮膚、髪の毛などの材料になるだけでなく、ホルモンや酵素、抗体など、体の機能を調整する成分にもなる重要な栄養素です。
筋肉が減ってしまうと基礎代謝量が落ち痩せにくくなるとされているため、内臓脂肪を減らすためにはたんぱく質を制限するのは避け、糖質(炭水化物)と脂質の摂取量を適切に制限すると良いでしょう。
ポイント3 食物繊維の摂取を心掛ける
「食物繊維」の摂取を心掛けることも、内臓脂肪を減らす上では重要です。
食物繊維には糖や脂質、ナトリウムなどを体外に排出するはたらきがあるため、内臓脂肪の減少が期待できます。
しかし、20歳以上の日本人の食物繊維平均摂取量は1日当たり約19gで理想の量に及ばないため、目標量が設定されています [7]。
厚生労働省は食物繊維の1日当たりの摂取目標量を、18〜64歳の男性で21g以上、女性は18g以上としています[8]。
年齢が上がると摂取目標量は減り、65歳以上では男性は20g以上、女性は17g以上となります[8]。
摂取量が不足している現状を踏まえると、十分な量を摂取したいところですね。
食物繊維は1g当たり0〜2kcalと低カロリーなこともポイントです[8]。
食物繊維は野菜類や豆類、果実類、きのこ類、海藻類などに多く含まれています。
さつまいも、かぼちゃ、ごぼう、たけのこ、ブロッコリー、納豆、いんげん豆、あずき、しいたけ、ひじきなどは食物繊維を多く含む食品の代表例です。
主食になる食品としてはそばやライ麦パンが挙げられます。
これらの食品には1食に摂取する量のなかに食物繊維が2〜3gも含まれています[9]。
食物繊維を効率良く摂りたいなら、こういった食品をおすすめします。
ポイント4 規則正しい食生活を送る
不規則な食生活は内臓脂肪の増加を招くので、規則正しい生活を送るよう心掛けましょう。
例えば食後すぐに甘いものを食べたり、食事と食事の間が空いて1回の食事量が多くなったりすると、血糖値が上昇しやすくなります。
血糖値が急上昇すると、それに伴ってインスリンが過剰に分泌されます。
インスリンにはエネルギーとして使い切れなかった血糖を脂肪に変え、体内に蓄積する働きを促進する作用もあります。
このため不規則な食生活によって血糖値の急上昇が起こると、脂肪が蓄積されやすくなってしまうと考えられるのです。
さらに、夜遅くに食事を摂ったり、睡眠不足であったりすることも肥満を招く要因になります。
内臓脂肪の減少を目指すなら、食事の時間をきちんと決め、夜遅くに食事を摂るのはなるべく控えるようにしましょう。
ポイント5 飲酒する場合は適度に
お酒の飲み過ぎは内臓脂肪の蓄積につながります。
アルコールは1g当たり約7kcalな上、アルコール飲料には糖質(炭水化物)が含まれていることも多く、高カロリーな傾向にあります[10]。
また、アルコールには食欲を増進する作用があるので、飲み過ぎはそのまま食べ過ぎにつながる恐れがあります。
厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」を「純アルコール量」で1日平均20gほどとしています[11]。
純アルコール量20gの飲酒量の目安は以下のとおりです。
公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」をもとに執筆者作成
また、週に2日ほどは休肝日を設けた方が良いとされています[13]。
お酒は節度を守って、適量を摂取したいものですね。
[11] 厚生労働省「健康日本21(アルコール)」
4.おなかの脂肪を減らすための運動のポイント
「おなかの脂肪を減らすには、どんな運動をすべきなんだろう?」
おなかの脂肪を減らすには、運動習慣を見直すことも重要です。
ここではおなかの脂肪を減らすために必要な運動のポイントを「有酸素運動」と「筋トレ」の二つのカテゴリーに分けて紹介します。
ポイント1 有酸素運動で脂肪を燃やす
内臓脂肪を減らすには「有酸素運動」が有効です。
では、具体的にどの程度の運動量が脂肪燃焼につながるのでしょうか。
運動だけで内臓脂肪を減少させるには、週当たり10メッツ・時以上の有酸素運動が必要とされています[14]。
主な有酸素運動のメッツは以下のとおりです。
【主な有酸素運動のメッツ】
有酸素運動 | メッツ |
---|---|
散歩 | 3.5 |
ジョギング | 7.0 |
自転車に乗る(時速16.1km未満) | 4.0 |
水中歩行 | 2.5 |
水泳・自由形(ゆっくり) | 5.8 |
エアロビクスダンス(低い強度) | 5.0 |
国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」をもとに執筆者作成
週に10メッツ・時の運動量をこなすには、水中歩行(2.5メッツ)を4時間行うか、低い強度のエアロビクスダンス(5.0メッツ)を2時間行えば良いことになります。
また、1日に30分の有酸素運動を1回行っても、10分の有酸素運動を3回行っても、運動に対して得られる減量の効果に差はないとされています[14]。
週の合計が10メッツ以上になりさえすれば、1回ごとの実施時間はそれほど重要ではありません。
自分にとって無理のない強度、無理のない時間で週10メッツ以上の運動量を目指すのが良いでしょう。
その他の運動のメッツは、国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」というサイトで確認できるので、参考にしてみてください。
[15] 厚生労働省「身体活動・運動の単位」
ポイント2 筋トレで脂肪の付きにくい体を目指す
筋トレをして筋肉量が増えると「基礎代謝」が上がり、脂肪の付きにくい体を目指せることが分かっています。
これは筋肉の方が脂肪よりも基礎代謝が活発であるためです。
1日のエネルギー消費量は大きく基礎代謝、食事誘発性熱産生、身体活動の三つに分けられます。
全体の約10%が食事誘発性熱産生、約30%が身体活動によるエネルギー消費とされているなか、基礎代謝は約60%を占めます[16]。
基礎代謝を上げることが、脂肪が付きにくい体をつくる上でいかに大切かが分かりますね。
そのため脂肪の燃焼効果をより高めたいなら、有酸素運動だけではなく、筋トレを並行すると良いといえます。
また、筋トレをした後、有酸素運動をした方がより効率的に体脂肪を燃焼させられるといわれています。
有酸素運動と筋トレを並行する際には、実施する順番にも気を配るとなお良いでしょう。
5.おなかの脂肪と減量についてのまとめ
おなか周りに付くのは主に内臓脂肪と呼ばれる脂肪です。
内臓脂肪の付き過ぎは動脈硬化が進む一因であり、心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気にかかるリスクが高まります。
しかし、内臓脂肪は食生活と運動習慣を見直すことで減らせます。
具体的には食事から摂るカロリーや、糖質と脂質の摂取量を適切に制限しつつ、適度に食物繊維を摂取すると良いとされています。
また、規則正しい生活を送りながら、飲酒量を節度ある範囲内に収めることもポイントです。
脂肪を燃焼させたいなら有酸素運動を行うと良いでしょう。
脂肪が付きにくい体を目指すために筋トレをして筋肉量を増やすことも一つの手段です。
この記事を参考に、自分に合った方法でおなかの脂肪を減らしてみてください。