「中性脂肪値を下げるにはどうしたら良いのかな……」
中性脂肪値が高い状態は健康に良くないと分かっていても、改善のために何をしたら良いのか分からないという方もいらっしゃるかもしれませんね。
中性脂肪は脂質の一種で、体脂肪の大部分を占めています。
ヒトにとって重要なエネルギー源となる一方で、増え過ぎると肥満を招き健康に悪影響を及ぼします。
この記事では中性脂肪がどのようなものなのか、中性脂肪値を下げるために具体的に何をしたら良いのか詳しく解説します。
1.中性脂肪とは
中性脂肪は体内に存在する脂質の一種で、ヒトや動物の重要なエネルギー源です。
中性脂肪は肉や魚、食用油などに多く含まれています。
これらの食品を摂取することで、中性脂肪が体内に取り込まれます。
体内に取り込まれた中性脂肪は、エネルギー源として利用されますが、摂り過ぎると体脂肪として蓄えられ肥満につながります。
中性脂肪は「トリグリセリド(トリグリセライド)」とも呼ばれ、血液中に増え過ぎると脂質異常症の一種である「高トリグリセリド血症」と診断されます。
高トリグリセリド血症と診断される基準は、中性脂肪が空腹時採血で150mg/dL以上、または随時採血で175mg/dL以上です[1]。
高トリグリセリド血症を含む脂質異常症は気付かないうちに動脈硬化を進行させます。
心臓に血液を送る冠動脈が狭まると狭心症になり、さらに進行すると完全にふさがって心筋梗塞に至ります。
心筋梗塞では血流が止まるため心臓の筋肉が壊死(えし)し死亡する場合もあります。
また脳の動脈がふさがるのが脳梗塞です。
脳梗塞では脳細胞が壊死して運動まひや感覚障害などの後遺症が生じ、死亡する場合もあります。
中性脂肪値が高いまま放置することは健康に大きなリスクをもたらすといえるでしょう。
中性脂肪、脂質異常症についてはそれぞれ以下の記事で詳しく解説しています。
中性脂肪値が高くなる原因とは?健康上のリスクや改善のポイント
脂質異常症とは?発症の原因や健康への影響、改善のポイントも解説!
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症 」
[2] 厚生労働省「令和6年度以降における特定健康診査及び特定保健指導の実施並びに健診実施機関等より作成された記録の取扱いについて」
[3] 厚生労働省「第4期特定健診・特定保健指導の見直しについて」
【関連情報】 「中性脂肪値が高くなる原因とは?健康上のリスクや改善のポイント」についての記事はこちら
2.中性脂肪値を下げるための食事と運動のポイント
「中性脂肪の値を下げる方法はあるのかな?」
このように中性脂肪値を下げるための具体的な方法について知らないという方も多いのではないでしょうか。
中性脂肪値を下げるためには生活習慣の改善が必要です。
この章では中性脂肪を下げるための食事と運動のポイントについてご紹介します。
ポイント1 摂取カロリーを適切に制限する
中性脂肪を下げるためには摂取カロリー(エネルギー摂取量)を適切に抑えましょう。
ヒトが食事から摂取したカロリーは生命維持や日々の活動で消費されますが、摂り過ぎて余ると中性脂肪に合成され、蓄積されてしまいます。
このため蓄積した中性脂肪を減らすには、摂取カロリーを抑えて適正な体重を目指すことが重要です。
どれくらいの体重を目指すかを決めるに当たっては、BMIを参考にすると良いでしょう。
BMIが22のときの体重は「標準体重」と呼ばれ、統計上肥満と関連が深い脂質異常症や糖尿病、高血圧といったなどの病気に最もかかりにくいことが分かっています[6]。
標準体重は[身長(m)の2乗]×22で求められます[6]。
目標とする体重が決まったら、ご自身が1日に摂取すべきカロリーを計算してみましょう。
適切な摂取カロリーは個人の性別や年齢、日常生活や運動でどの程度体を動かしているかを示す「身体活動レベル」によって異なります。
身体活動レベルは以下のような3段階に分かれています。
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(Ⅰ) | 一日のほとんどを座って過ごしている |
普通(Ⅱ) | 座り仕事が中心だが、移動や立って作業する場合がある、 または軽い運動や散歩をする |
高い(Ⅲ) | 立ち仕事や移動が多い仕事をしている、 または休日に活発的な運動習慣がある |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
ご自身の年齢と性別、身体活動レベルから該当する体重1kg当たりの推定必要カロリー(推定エネルギー必要量)をチェックし、目標体重と掛け合わせてみましょう。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動 レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
例えば、座位中心の仕事をしている40代男性が65kgを目標体重とした場合、1日に必要なエネルギー量は2,555kcal(小数第1位で四捨五入)となります。
ご自身の1日の推定カロリーを把握し、食事の際はカロリーオーバーにならないよう気を付けましょう。
1日に摂取するカロリーについては以下の記事で詳しく解説しています。
1日の適切な摂取カロリーは?体格や運動量に合わせた計算方法を解説
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「BMI」
[5] 一般社団法人 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」
[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
ポイント2 糖質を適切に制限する
糖質を適切に制限することも中性脂肪を下げることにつながります。
糖質は炭水化物のうち、ヒトが消化できてエネルギーとして利用できるもののことです。
ヒトにとって重要なエネルギー源ですが、摂り過ぎると消費できなかった分が中性脂肪に合成されて蓄積します。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18歳以上の男女に対し、炭水化物から摂取するカロリーを1日の総摂取カロリーの50〜65%にする目標を設定しています[7]。
また中性脂肪を減らす場合は炭水化物からの摂取カロリーの比率を50~60%にすることが推奨されています[8]。
糖質はご飯やパン、麺類などの主食類やいも類、砂糖や甘味料を用いた甘いもの、清涼飲料水、果物などに多く含まれています。
1日の必要カロリーを把握した上で、糖質のカロリーも意識して抑えることが大切ですね。
炭水化物(糖質)、エネルギー産生栄養素についてはそれぞれ以下の記事で詳しく解説しています。
炭水化物を多く含んでいる食べ物は?摂取基準や健康的な食べ方も紹介
エネルギー産生栄養素とは?それぞれのはたらきや理想のバランス
[7] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
[8] 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームの診断基準」
ポイント3 脂質を適切に制限する
中性脂肪値を下げるため脂質を適切に抑えましょう。
脂質はエネルギー源となる重要な栄養素ですが、摂り過ぎると中性脂肪として蓄えられてしまうため注意が必要です。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18歳以上の男女に対し、脂質から摂取するカロリーを1日の必要カロリーの20~30%にする目標を設定しています[9]。
揚げ物や脂身の多い肉など、脂質が多い食事は控えるようにしましょう。
脂質については以下の記事で詳しく解説しています。
脂質とは?はたらきや種類、1日に摂取すべき量の計算方法を解説
[9] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント4 DHAやEPAを積極的に摂取する
中性脂肪を下げるにはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を積極的に摂取しましょう。
DHAとEPAには中性脂肪値を下げるはたらきがあるといわれています。
DHAやEPAはいわしやさば、さんま、ぶりなどの青魚に多く含まれています。
同じ脂質でもDHAやEPAは積極的に摂りたい成分ですね。
ポイント5 アルコールを適度に控える
中性脂肪を下げるためにアルコールを適度に控えましょう。
アルコールを飲むと、肝臓で分解される際に中性脂肪がつくられます。
飲み過ぎてしまうと中性脂肪が大量につくられるため中性脂肪値が上昇してしまうのです。
また、アルコールは1g当たり7kcalのエネルギーを産生するため、摂り過ぎてカロリーオーバーにならないよう注意しましょう[10]。
なお厚生労働省は適度な飲酒量について、純アルコール量で1日平均20g程度に抑えることが重要だとしています[11]。
主なお酒の純アルコール20g相当の量は以下のとおりです。
公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」をもとに執筆者作成
ただし女性や高齢者、お酒の弱い人はより少量の飲酒にとどめるようにしましょう。
適切な飲酒については以下の記事で詳しく解説しています。
アルコールとは?体への影響や健康的なお酒の飲み方、注意点を解説
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコール」
[11] 厚生労働省「アルコール」
[12] 厚生労働省 e-ヘルスネット「飲酒量の単位」
ポイント6 食物繊維を十分に摂取する
中性脂肪を下げるために食物繊維を十分に摂取しましょう。
食物繊維は炭水化物の一種で、人の消化酵素では消化できない栄養素です。
食物繊維は便通を促しておなかの調子を整えるはたらきがよく知られますが、脂質や糖質を吸着して体外に排出するはたらきもあります。
このため、これらの物質が原因となる脂質異常症や肥満の予防・改善に効果があるといわれています。
厚生労働省は食物繊維の1日当たりの目標量について、18~64歳の男性で21g以上、女性で18g以上と設定しています[13]。
しかし日本人の食物繊維の摂取量は男女とも全ての年代でこの目標量に届いていません。
食物繊維は主に植物性食品に含まれており、野菜や豆類、きのこ類、海藻類、果物類などから摂取できます。
日々の食生活に積極的に取り入れるようにしましょう。
食物繊維を含む食べ物については以下の記事で詳しく解説しています。
食物繊維を含む食べ物は?摂取目標量と摂取量を増やすコツも解説
[13] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント7 適度に有酸素運動を行う
中性脂肪を下げるには有酸素運動を適度に行いましょう。
有酸素運動は脂肪を燃焼することから、中性脂肪の減少が期待できます。
なお、脂質異常症を改善する場合は、合計30分以上の有酸素運動をできれば毎日、少なくとも週に3日は実施することが推奨されています[14]。
30分続けるのが難しい方は短時間の運動を数回に分け、合計30分以上としても構いません[14]。
ご自身の健康状態に合わせて無理をせず、長く続けられる形で有酸素運動を取り入れてくださいね。
有酸素運動については以下の記事で詳しく解説しています。
有酸素運動とは?効果や無酸素運動との違い、おすすめの運動を紹介
[14] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症を改善するための運動」
ポイント8 禁煙する
中性脂肪を減らすためには、禁煙することが大切です。
喫煙には中性脂肪を増やす作用があります。
加えて喫煙は動脈硬化を引き起こすLDLコレステロール値を上昇させ、反対に動脈硬化を抑制するHDLコレステロール値を下げてしまいます。
またたばこの煙にはニコチンや一酸化炭素などの有害な化学物質が多数含まれています。
これらは血管に炎症を生じさせたり血液をドロドロにしたりすることで動脈硬化を進行させます。
喫煙は中性脂肪値を上げるだけでなく、動脈硬化の直接的な原因になることから速やかな禁煙が求められるのですね。
禁煙の方法や効果については以下の記事で詳しく解説しています。
3.中性脂肪値が高いといわれたら内科を受診しよう
「中性脂肪値が高いといわれたけど、何科を受診すれば良いんだろう……」
このように中性脂肪値の異常を指摘されたものの、何科を受診したら良いのか分からずお困りの方もいらっしゃるでしょう。
中性脂肪値が高いといわれた場合は内科を受診しましょう。
中性脂肪値が高い高トリグリセリド血症を含め、脂質異常症にはほとんど自覚症状がありません。
このため定期的に受診し、血液検査によって中性脂肪値を確認して治療につなげる必要があります。
脂質異常症の治療は食生活や運動といった生活習慣の改善が中心です。
その上で脂質のコントロールが難しい場合、補助的に薬物を用いた治療が行われます。
早期に受診して医師の指示のもとで治療方針を決め、生活習慣を見直すことが重要なのですね。
4.中性脂肪値を下げるポイントについてのまとめ
中性脂肪はヒトの重要なエネルギー源の一つで、体内に存在する脂質の大部分を占めています。
中性脂肪は摂り過ぎると体脂肪として蓄積し肥満の原因となる他、脂質異常症の一種である「高トリグリセラリド血症」を招きます。
脂質異常症は自覚症状はありませんが、放置すると動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などの致命的な病気のリスクを高めます。
中性脂肪値を下げるためには生活習慣を改善することが重要です。
日々の食生活では摂取カロリーや糖質、脂質の摂り過ぎに注意しましょう。
また中性脂肪値を下げるDHAやEPA、食物繊維を積極的に摂取し、アルコールは適度に控えることが大切です。
食事以外では、適度な有酸素運動や禁煙も効果的です。
なお中性脂肪が高いと指摘された場合は放置せずに内科を受診してください。
この記事を、中性脂肪値を下げてより健康的な生活を送るために役立ててくださいね。