「コレステロールって何だろう?」
「コレステロールが増えると健康に悪いのかな……」
コレステロールという言葉は頻繁に見聞きすることはあっても、詳しいことをご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
コレステロールはヒトの体に存在する脂質の一種で、一部はたんぱく質と結合して血液中に溶け込んでいます。
また食品にも含まれており、それらを摂取することでも体内に取り入れられます。
コレステロールは体に悪いというイメージをお持ちの方も多くいらっしゃるかもしれませんが、コレステロールは健康を維持する上で重要なはたらきを持つ物質です。
ただしコレステロールの値が基準から外れると、体に悪影響を与えます。
この記事ではコレステロールのはたらきや、基準値から外れた場合の体への影響について解説します。
コレステロールの値が気になる方は、この記事を参考にしてくださいね。
1.コレステロールとは
コレステロールとはヒトの体に存在する脂質の一種です。
コレステロールは体に悪いというイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、細胞膜やホルモン、胆汁酸を作る材料となる、ヒトの体に欠かすことのできない物質です。
体内に存在するコレステロールは、糖や脂肪から肝臓などで合成されるものが約7~8割を占めています[1]。
その他の2~3割は食品などによって体外から取り入れられます[1]。
体内で作られるコレステロール量は食事から取り入れるコレステロール量に応じて体の中で調整されています。
例えば食事からコレステロールを多く摂取した場合、肝臓でのコレステロールの合成は減少します。
一方、食事からの摂取量が少なくなると体内でのコレステロールの合成が増加するといったように、バランスが調整されているのです。
生活習慣病の要因として知られているコレステロールは、たんぱく質などと結合して血液中に溶け込んでいる「リポタンパク質」と呼ばれるものです。
なお血液中に溶け込んでいるコレステロールには主に「LDLコレステロール」と「HDLコレステロール」があります。
LDLコレステロールはいわゆる「悪玉コレステロール」、HDLコレステロールはいわゆる「善玉コレステロール」と呼ばれるものです。
血中コレステロール値が基準内に収まっていれば問題はありませんが、外れると悪影響が生じます。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「コレステロール」
2.血中コレステロール値に異常を来した場合のリスク
「コレステロール値に異常があると、どんな影響があるのかな……」
このように心配されている方もいらっしゃいますね。
ここでは、血中コレステロールが基準値から外れた際の悪影響について解説します。
コレステロールなどの血中の脂質が基準値から外れた状態を「脂質異常症」といいます。
脂質異常症には、いわゆる悪玉コレステロールであるLDLコレステロールの異常や、いわゆる善玉コレステロールであるHDLコレステロールの異常などがあります。
脂質異常症はいずれも動脈硬化を進行させます。
動脈硬化とは、心臓から全身の組織に送られる血液が通る血管である「動脈」の壁が厚く硬くなった状態のことです。
動脈硬化が進むと血管が狭まったりふさがったり裂けたりしやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気の発症リスクが高まります。
心筋梗塞は心臓の筋肉に血液を送る「冠動脈」がふさがることで酸素供給が絶たれ、心臓の細胞が壊死(えし)してしまう病気です。
壊死した細胞は二度と元に戻らず、処置が遅れた場合は死に至る危険もあります。
脳梗塞は脳の血管がふさがり、脳の神経細胞が壊死する病気です。
半身まひや感覚障害、言語障害などの後遺症が残ることが多く、最悪の場合、命を落とすこともあります。
このように血中コレステロールが基準値から外れた脂質異常症は動脈硬化を招き、命に関わる疾患の発症リスクを高めてしまうのです。
脂質異常症については以下の記事で解説しています。
脂質異常症とは?発症の原因や健康への影響、改善のポイントも解説!
3.血中コレステロールの種類
血液中に含まれるコレステロールには、主にLDLコレステロールとHDLコレステロールがあります。
ここではコレステロールの種類やそれぞれのはたらきをご紹介します。
3-1.LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
LDLコレステロールは肝臓のコレステロールを体全体に運ぶはたらきをしています。
増え過ぎると血管壁にたまり動脈硬化を進行させるため「悪玉コレステロール」と呼ばれます。
血中のLDLコレステロール量が基準値以上になった場合を「高LDLコレステロール血症」といいます。
3-2.HDLコレステロール(善玉コレステロール)
HDLコレステロールは増え過ぎたコレステロールや体内の血管壁にたまったコレステロールを取り除き、肝臓へ戻します。
動脈硬化の進行を抑えるはたらきがあるため「善玉コレステロール」と呼ばれます。
血中のHDLコレステロール量が基準値を下回った状態を「低HDLコレステロール血症」といいます。
3-3.Non-HDLコレステロール
Non-HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLコレステロールを引いたもののことです。
血液中には、LDLコレステロール以外にも悪玉のリポタンパク質などが含まれています。
このため、LDLコレステロールを含めた全ての悪玉コレステロールを示す指標として使われています。
なおNon-HDLコレステロール値が基準値以上に至った状態を「高Non-HDLコレステロール」といいます。
4.血中コレステロールの基準値
「自分のコレステロールの値は、正常なのかな……」
血中に含まれるコレステロールなどの量が基準値から外れると、脂質異常症と診断されます。
ご自身のコレステロール値が基準内に収まっているか確認しましょう。
コレステロールの種類 | 基準値 | 診断 |
---|---|---|
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
LDLコレステロール | 120~139/dL | 境界域 高LDLコレステロール血症 |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
Non-HDLコレステロール | 170mg/dL以上 | 高Non-HDL コレステロール血症 |
Non-HDLコレステロール | 150~169mg/dL | 境界域高Non-HDL コレステロール血症 |
厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症」をもとに執筆者作成
これらの基準値から外れたとしても、すぐに治療が必要とは限りせん。
しかし異常を放置すると健康に悪影響を及ぼすため、コレステロール値を改善することが重要です。
次の章では、血中コレステロール値を正常に保つために日々の生活で注意するべきポイントについて解説します。
5.血中コレステロール値を正常に保つためのポイント
「コレステロールの値はどうやったら改善できるんだろう?」
このように、コレステロールの値を改善したいとお考えの方もいらっしゃいますよね。
コレステロール値は食事や運動などの生活習慣を見直すことで改善できます。
ここでは血中コレステロール値を改善し、正常に保つためのポイントについて解説します。
ポイント1 摂取カロリーを適切に制限する
コレステロール値を正常に保つには、摂取カロリー(エネルギー摂取量)を適切に制限しましょう。
摂取カロリーを制限することで、適正な体重を保つことが重要です。
体重は摂取カロリーと消費カロリー(エネルギー消費量)のバランスによって増減します。
適切な摂取カロリーは、体重1kg当たりの推定必要カロリー(推定エネルギー必要量)と適正体重を掛け合わせて求めることができます。
まずはご自身の適正体重を確認しましょう。
適正体重は、身長(m)×身長(m)×22で求めることができます[2]。
例えば身長160cmの場合、適正体重は1.6(m)×1.6(m)×22で56.3kg(小数第2位で四捨五入)になることが分かりますね。
適正体重は、肥満と関連が深い脂質異常症などの病気に最もかかりにくい体重だといわれています。
次に日常生活での活動量に沿って、ご自身の「身体活動レベル」を確認しましょう。
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(Ⅰ) | 生活の大部分を座って過ごし、あまり活動しない場合 |
普通(Ⅱ) | 座って過ごすことが多いが、歩いたり立ったりした状態での作業や仕事をする場合、通勤や買い物などで歩いたり、家事や軽いスポーツを行ったりする場合 |
高い(Ⅲ) | 歩いたり立ったりした状態での作業が多い仕事に従事している場合、余暇に活発に運動する習慣がある場合 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
1日に摂取するべきカロリーは性別や年齢、活動量によって異なります。
以下の表から該当する推定必要カロリーを確認し、ご自身の適正体重と掛け合わせます。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動 レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
適正体重が56.3kg、身体活動レベルが「普通(Ⅱ)」の30代女性であれば、推定必要カロリーは1日当たり56.3(kg)×38.4(kcal)で2,162kcal(小数第1位で四捨五入)ということになります。
なお、エネルギー源となる栄養素には炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質の3種類があり、これらは「エネルギー産生栄養素」と呼ばれます。
炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質は、それぞれ1g当たり4kcal、9kcal、4kcalのエネルギーを産生します[3]。
摂取カロリーを抑えるだけでなく、これらの栄養素をバランス良く摂ることも重要ですよ。
1日に必要な摂取カロリー、エネルギー産生栄養素についてはそれぞれ以下の記事で解説しています。
1日の適切な摂取カロリーは?体格や運動量に合わせた計算方法を解説
エネルギー産生栄養素とは?それぞれのはたらきや理想のバランス
[2] 日本医師会「適正体重」
[3] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント2 飽和脂肪酸を摂り過ぎない
コレステロール値を正常に保つには、飽和脂肪酸の摂取を控えることが重要です。
飽和脂肪酸は脂質の構成要素である「脂肪酸」の一種で、LDLコレステロール値上昇の主な要因です。
またエネルギー源ともなるため、摂り過ぎることで肥満を招きます。
飽和脂肪酸は体内で合成できるため、必ずしも食品から摂取する必要はありません。
このため厚生労働省は成人に対し、飽和脂肪酸から摂取するカロリーを総摂取カロリー(総エネルギー摂取量)の7%以下にするよう目標量を設定しています[4]。
飽和脂肪酸は肉の脂身やバター、チーズ、ココナッツミルクなどに多く含まれています。
これらの食品を摂り過ぎないように気をつけましょう。
[4] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント3 工業的トランス脂肪酸を摂り過ぎない
コレステロール値を正常に保つためには、工業的トランス脂肪酸を摂り過ぎないようにしましょう。
トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種で、液体状の不飽和脂肪酸を固形の飽和脂肪酸に工業的に加工する際に副産物として産生されます。
またトランス脂肪酸には、牛などの反芻(はんすう)動物の胃の中で微生物によって生成されるものもあります。
健康に悪影響を与えるのは前者の工業的トランス脂肪酸のみだといわれています。
日本人のトランス脂肪酸の摂取量は欧米に比べて少ないため、目標量は設定されていません。
しかしトランス脂肪酸は飽和脂肪酸に比べてHDLコレステロールに対するLDLコレステロールの割合を大きく上昇させるため注意が必要です。
トランス脂肪酸はマーガリンやファットスプレッド、ショートニング、これらを原材料として用いているパンやケーキ、ドーナッツなどの洋菓子、揚げ物などに含まれています。
これらの食品を過剰に摂取しないよう気を付け、バランスの良い食事を摂りましょう。
ポイント4 食事性コレステロールを摂り過ぎない
コレステロール値を正常に保つには、食品からのコレステロール摂取を抑えることが重要です。
食品中に含まれるコレステロールもLDLコレステロール値を上昇させる原因となります。
ただし体内で合成されるコレステロールの量は摂取量に応じて調整される上、個人差もあります。
このため、食品から摂取するコレステロールは飽和脂肪酸よりもコレステロール値への影響は小さいといわれています。
なお高LDLコレステロール血症の患者では、摂取量を1日200mg未満にすることでLDLコレステロール値の低下が期待できます [5]。
食品中のコレステロールは鶏卵や魚卵などの卵類、レバーやモツなどの内臓類に多く含まれています。
コレステロール値を正常に保つために、これらの食品の摂り過ぎには気を付けましょう。
[5] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント5 不飽和脂肪酸を摂取する
コレステロール値を正常に保つには、不飽和脂肪酸を摂取することが有効です。
不飽和脂肪酸は脂肪を構成する脂肪酸の一種で、植物や魚の油に多く含まれています。
不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられます。
多価不飽和脂肪酸にはn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸が存在し、これらは食事からの摂取が欠かせない「必須脂肪酸」に該当するため、厚生労働省は摂取目安量を定めています。
n-3系脂肪酸には、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)などがあり、これらは青魚に多く含まれています。
DHAやEPAには中性脂肪を分解する作用があり、動脈硬化を予防する効果が期待できるといわれています。
DHAとEPAについては以下の記事で解説しています。
ポイント6 食物繊維を十分に摂取する
コレステロール値を正常に保つには、十分な食物繊維の摂取が有効です。
食物繊維は炭水化物の一種で、ヒトの消化酵素では消化できない食品成分です。
食物繊維には脂質や糖を吸着し体外に排出するはたらきがあるため、これらが原因となる脂質異常症や肥満の予防、改善に効果が期待できます。
厚生労働省によると食物繊維の理想的な摂取量は1日当たり24g以上です[6]。
しかし実際の摂取量はこの値に遠く及ばないため、実現性を考慮した目標量が設定されています。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18~29歳 | 21g以上 | 18g以上 |
30~49歳 | 21g以上 | 18g以上 |
50~64歳 | 21g以上 | 18g以上 |
65~74歳 | 20g以上 | 17g以上 |
75歳以上 | 20g以上 | 17g以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
食物繊維は野菜や豆類、海藻類、きのこ類、果物類などの植物性食品に豊富に含まれています。
食物繊維を十分に摂るには、主食を玄米や麦飯、全粒粉パン、そばなどに置き換えるのもおすすめです。
これらの食材を十分に摂り、コレステロール値を正常に保ちましょう。
食物繊維については以下の記事で解説しています。
食物繊維を含む食べ物は?摂取目標量と摂取量を増やすコツも解説
[6] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント7 定期的に有酸素運動を行う
コレステロール値を正常に保つには有酸素運動が効果的です。
有酸素運動は体内の脂肪を燃料とするためLDLコレステロールや体脂肪の減少に効果があるといわれています。
またHDLコレステロール値の上昇にも効果があるといわれています。
なお脂質異常症を改善するための運動としては、中強度以上(通常速度のウォーキングと同等かそれ以上の激しさ)の有酸素運動を毎日合計30分以上行うことがすすめられています[7]。
ご自身が続けやすい有酸素運動を生活に取り入れ、コレステロール値を正常に保ってくださいね。
有酸素運動については以下の記事で解説しています。
有酸素運動とは?効果や無酸素運動との違い、おすすめの運動を紹介
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症を改善するための運動」
6.コレステロールについてのまとめ
コレステロールとはヒトの体に存在する脂質の一種で、体内で合成されるものと、食品中に含まれ体外から摂取するものがあります。
コレステロールは細胞膜やホルモン、胆汁酸を作る材料となるなどヒトの体に必要な物質です。
生活習慣病の要因として知られるコレステロールは、たんぱく質と結合したリポタンパク質として血液中に溶け込んでいるものです。
血液中のコレステロールには主に動脈硬化を促進させるLDLコレステロールや、動脈硬化を抑制するHDLコレステロールなどがあります。
これらのコレステロール値が基準から外れると、脂質異常症と診断されます。
脂質異常症は動脈硬化を進行させる重大な要因であり、心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる疾患の発症リスクを上昇させます。
コレステロール値は食事や運動などの生活習慣を見直すことで改善できます。
摂取カロリーを制限する、飽和脂肪酸や工業的トランス脂肪酸、コレステロールを摂り過ぎないといったことが重要です。
また不飽和脂肪酸や食物繊維を積極的に摂取し、定期的に有酸素運動を行うことも効果的です。
コレステロールが気になる方は、今日から取り組んでみてくださいね。