「脂質を摂り過ぎると体にどんな影響が出るのかな」
「1日に摂取して良い脂質の量や脂質の摂り過ぎを防ぐ方法を知りたい」
脂質はヒトの体のエネルギーとなる栄養素の一つで、他の栄養素よりも効率の良いエネルギー源であるといえます。
しかしその半面、脂質の摂り過ぎは肥満や脂質異常症をはじめとするさまざまな生活習慣病を引き起こす恐れがあります。
また脂質と一口にいってもさまざまな種類に分けられ、そのはたらきも種類によって異なるため、摂取の際には脂質全体の量だけでなく、種類も意識することが重要だといえます。
この記事では脂質とはどのようなものなのか、摂り過ぎた場合体にどのような悪影響を及ぼすのか、脂質の摂取目標量はどれくらいなのかといったことについて解説します。
また脂質の摂り過ぎを防ぐコツもご紹介するので、生活習慣の改善に役立ててくださいね。
1.脂質とは
まずは、脂質とはどんな栄養素なのかご説明しましょう。
脂質というとあまり健康に良くないものというイメージを抱いている方もなかにはいらっしゃるかもしれませんね。
しかし脂質は人間が活動するために欠かせない栄養素の一つで、エネルギー産生栄養素にも含まれています。
炭水化物やたんぱく質が1g当たり約4kcalであるのに対し、脂質は1g当たり約9kcalと2倍以上のエネルギーを生み出すため、効率の良いエネルギー源とされています[1]。
「カロリーが高いならやっぱり摂取を避けるべきなんだ……」
このようにお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、脂質は細胞膜や性ホルモンなどのホルモンの材料にもなります。
さらに脂質には、脂溶性ビタミンなどの油に溶ける性質のある栄養素の吸収を助けたり、脂肪の消化吸収を助ける消化液「胆汁」の主要成分「胆汁酸」の材料となったりするはたらきもあります。
このように脂質はヒトの体には欠かせない栄養素なのですね。
また、一口に脂質といってもさまざまな種類があり、種類によってその性質や健康に与える影響が異なります。
いくつか代表的な脂質についてご紹介しましょう。
脂質のなかでも代表的なものの一つが「中性脂肪」です。
中性脂肪は肉や魚、食用油などの食べ物に含まれる脂質や、ヒトの体脂肪の大部分を占めている物質です。
また血中に溶け込んでいる中性脂肪の値はメタボリックシンドロームの診断基準としても知られていますよね。
中性脂肪などの脂肪を構成する要素を「脂肪酸」といいます。
脂肪酸は構造の違いから「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。
そして不飽和脂肪酸はさらに「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分けられ、多価不飽和脂肪酸は「n-6系」と「n-3系」に分けられます。
飽和脂肪酸は肉の脂身や鶏皮、乳製品などの動物性食品やパーム油に、不飽和脂肪酸は植物や魚などの食品に多く含まれている傾向にあります。
飽和脂肪酸は体内でつくることが可能であるため、食事からの摂取は必須ではありません。
一価不飽和脂肪酸には、「オレイン酸」「パルミトレイン酸」などのいくつかの種類があります。
オレイン酸はオリーブオイルやアーモンド、牛肉に多く含まれる脂肪酸です。
また多価不飽和脂肪酸はn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸のいずれも、食品からの摂取が必要な「必須脂肪酸」に当たり、不足すると皮膚炎などが生じます。
n-6系脂肪酸には「リノール酸」「γ-リノレン酸」「アラキドン酸」などがあり、γ-リノレン酸とアラキドン酸はリノール酸を消化吸収する過程で生じます。
日本人の食生活において摂取されるn-6系は98%がリノール酸です[1]。
n-3系脂肪酸は「α-リノレン酸」「DHA(ドコサヘキサエン酸)」「EPA(エイコサペンタエン酸)」に大別されます。
「トランス脂肪酸」は不飽和脂肪酸の一種です。
トランス脂肪酸は液状の油を固形の油に工業的に変える際に副産物として生じるものと、牛などの反すう動物の胃で微生物によってつくられ、乳製品や肉などに含まれるものに大別されます。
工業的に生じたトランス脂肪酸はマーガリンやショートニングに多く含まれています。
さらに生活習慣病の因子として知られる「コレステロール」も脂質の一種です。
体に悪いというイメージが強いかもしれませんが、体内での量やバランスが適切に保たれている場合には細胞膜やホルモン、胆汁酸の材料となる体に必須の物質です。
食べ物では鶏卵や魚卵、レバー類、あん肝、バターなどに含まれています。
このように、脂質は体に重要な栄養素であり、さまざまな種類があるのですね。
2.脂質の摂り過ぎによる健康への悪影響
「脂質が体に重要なことは分かったけど、摂り過ぎるとどんな悪影響があるの?」
「脂質の種類によって健康への悪影響も違うのかな……」
このように気になるところですよね。
脂質は体に必要な栄養素の一つですが、摂り過ぎると健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
また脂質の種類によって健康への影響が変わる場合もあります。
ここでは、脂肪の摂り過ぎによる健康への悪影響について解説しましょう。
2-1.肥満
脂質の摂り過ぎが肥満の原因となることは皆さんご存じでしょう。
エネルギー源やその他の用途として使い切れなかった脂質は中性脂肪として体内に蓄えられ、肥満を招きます。
「他のエネルギー源になる栄養素は肥満の原因にならないの?」
と気になった方もいらっしゃるかもしれませんね。
肥満とは体脂肪が蓄積された状態のことで、摂取カロリーが消費カロリーを上回ることによって生じます。
そのため他のエネルギー産生栄養素を摂り過ぎた場合であっても、カロリー過多の状態が続けば体脂肪が増え、肥満になるものと考えられます。
特に糖質は脂質と同様、摂り過ぎると中性脂肪として蓄積され肥満を招くことが分かっています。
ただし脂質は他のエネルギー産生栄養素よりもカロリーが高いため、体内に蓄えられやすいと考えられます。
特に肥満の主要な原因であるとされているのが飽和脂肪酸です。
詳しくは後述しますが、そのため飽和脂肪酸には摂取量を制限するための「目標量」が設定されています。
摂り過ぎないよう心掛ける必要があるのですね。
肥満は糖尿病や脂質異常症、高血圧などのさまざまな生活習慣病の原因となるため、健康のためにもしっかりと予防・改善しておくことが重要だといえるでしょう。
なお、肥満は女性に多く見られ皮下組織に脂肪が蓄積する「皮下脂肪型肥満」と男性に多く見られ腸の周りに脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」に分けられます。
内臓脂肪型肥満の方は脂質異常症や糖尿病、高血圧などを発症する確率が高くなるためより注意が必要だといわれています。
2-2.脂質異常症
脂質の摂り過ぎは脂質常症の原因になるといわれています。
脂質異常症とは血中の脂質の濃度が基準値から外れた状態のことです。
脂質異常症には中性脂肪(トリグリセリド/トリグリセライド)が増え過ぎた「高トリグリセリド血症」、いわゆる「悪玉コレステロール」が増え過ぎた「高LDLコレステロール血症」、「善玉コレステロール」が減り過ぎた「低HDLコレステロール血症」などがあります。
脂質異常症と一口にいってもいくつかの種類がありますが、中性脂肪値の上昇は脂質や糖質の摂り過ぎ、カロリー過多などが要因となるといわれています。
またLDLコレステロール値上昇の原因として第一に挙げられるのが飽和脂肪酸の摂り過ぎです。
食事に含まれているコレステロールもLDLコレステロール値を上昇させますが、飽和脂肪酸の摂取量の方が血中コレステロールとの関係が強いといわれています。
HDLコレステロール値の低下は中性脂肪値の上昇と連動することが多いといわれており、肥満や喫煙、運動不足などによって引き起こされます。
いずれの脂質異常症であっても、食生活や摂取する脂質の量および種類が発症に関わるものと考えられますね。
ただし、脂質の種類によっては血中脂質の数値を改善してくれる場合もあるので、記事の後半で解説します。
摂取する脂質の種類や量には十分注意しておきましょう。
脂質異常症について詳しく知りたいという方は以下の記事をご覧ください。
脂質異常症とは?発症の原因や健康への影響、改善のポイントも解説!
2-3.高血糖
脂質の摂り過ぎは高血糖の原因にもなると考えられます。
高血糖とは、血糖値(血中のブドウ糖濃度)が高い状態のことです。
食べ物に含まれる糖質は体内で消化吸収を通じてブドウ糖などの「単糖類」に分解されます。
ブドウ糖は血中に取り込まれ、膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモン「インスリン」のはたらきで細胞にエネルギー源として使われます。
インスリンは血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませエネルギー源として利用させる一方で、余ったブドウ糖を中性脂肪として体内に蓄えるはたらきを促進することで、血糖値の調節を行うホルモンです。
しかし、膵臓の機能が低下してインスリンの分泌量が減ってしまったり、インスリンの効きが悪くなったりすると血糖値を正常に下げることができず、血糖値が高くなってしまうのです。
このように高血糖が慢性的に続いている状態を糖尿病といい、自覚症状のないままに神経や目、腎臓などの機能にさまざまな障害を引き起こすため要注意です。
「脂質の摂り過ぎがなぜ高血糖の原因になるの?」
と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれませんね。
脂質の取り過ぎが肥満につながることは既にお伝えしましたよね。
実は肥満は「万病のもと」などといわれ、肥満の方は糖尿病になりやすいとされているのです。
食後、ブドウ糖が血中に取り込まれるとそれに反応してインスリンが分泌されますが、肥満の状態ではインスリンの効きが悪くなってしまうといわれています。
インスリンの効きが悪化すると膵臓は通常よりも多くインスリンを分泌しますが、多量のインスリンを分泌し続けた膵臓はやがて疲弊し、インスリンを正常に分泌できなくなってしまいます。
こうして高血糖の状態に陥るのです。
特に日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が低下しやすいことが分かっており、糖尿病予防のためにはインスリンの分泌を節約することが重要だといわれています。
また、内臓脂肪型肥満の方は皮下脂肪型肥満の方に比べてより糖尿病になりやすいといわれています。
おなかがぽっこりしてきているという方は脂質の摂り過ぎを避け、体重を減らすよう心掛けましょう。
2-4.高血圧
脂質の摂り過ぎは高血圧にもつながる可能性があります。
脂質の過剰摂取は肥満を招きやすいといえますが、肥満の方は体重が正常な方に比べ2〜3倍高血圧になりやすいといわれています[3]。
脂質を摂り過ぎて肥満になると、高血圧も招いてしまうと考えられるのですね。
肥満が高血圧を招く理由はさまざまに考えられています。
まず指摘されているのが、肥満の方はご飯を多く食べる傾向にあるため、食塩の摂取量もそれに伴って多いということです。
食塩の主成分の一つである「ナトリウム」の摂り過ぎは高血圧の大きな原因であるといわれています。
また肥満の方はインスリンの効きが悪くなるために分泌量が増加する傾向にあり、これにより交感神経が刺激されます。
刺激を受けた交感神経は血中に「カテコールアミン」という物質を放出し、そのはたらきによって血圧の上昇を引き起こします。
また肥大した脂肪細胞から分泌される「アンギオテンシノーゲン」という物質にも、血管を収縮させ血圧の上昇を招く作用があります。
このように、肥満になることによって高血圧が引き起こされやすくなってしまうのですね。
脂質の摂り過ぎを避け、肥満の予防・改善を行うことが望ましいといえるでしょう。
2-5.動脈硬化
脂質の摂り過ぎは動脈硬化を招く可能性もあります。
これまでお伝えしたとおり、脂質の摂り過ぎは肥満、脂質異常症、高血糖、高血圧の要因になり得ます。
これらはいずれも動脈硬化を促進してしまいます。
なお、内臓脂肪型肥満を判断するウエスト周囲径に加え、血圧、血糖、血中の脂質のうち二つ以上が基準値から外れている状態のことを「メタボリックシンドローム」といいます。
内臓脂肪の蓄積や高血圧、高血糖、脂質異常症などは単独でも動脈硬化を進行させますが、危険因子が重なればそれぞれは深刻でなくとも動脈硬化が促進され、重篤な病気になる危険性を高めることが分かっています。
動脈硬化は血管や心臓に負担をかけ、命に関わるさまざまな病気を引き起こします。
動脈硬化によって引き起こされる病気の代表例としては、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などが挙げられます。
狭心症とは心臓を取り巻く「冠動脈」が狭くなり、血液の流れが悪くなった状態のことです。
血液は全身の器官に酸素を送るはたらきをしているため、冠動脈が狭まると心筋が酸欠状態に陥り、胸の痛みなどの症状が現れます。
また冠動脈が塞がってしまうと、心筋梗塞が起こります。
酸欠に陥った心筋は壊死を起こし、場合によっては死を招きます。
同様のことが脳の動脈で起こると、脳梗塞に至り、脳の壊死を引き起こします。
こうした命に関わる病気にかかってしまわないために、メタボリックシンドロームを予防・改善し、動脈硬化を促進させないことが重要だといえるのですね。
脂質を摂り過ぎないよう気を付けるなど、できることから生活習慣を改善し、大きな病気にならないよう注意しておきましょう。
3.脂質の1日の摂取目標量と平均摂取量
「脂質を摂り過ぎるといろんな病気を招いてしまうのは分かったけど、1日の摂取量はどれくらいに抑えれば良いんだろう?」
このように気になっている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
また今の食生活で脂質を摂り過ぎていないかも気になるところですよね。
ここでは厚生労働省が定める脂質の1日の摂取目標量と、日本人の1日当たりの平均脂質摂取量をご紹介しましょう。
3-1.脂質の1日の摂取目標量
厚生労働省は18歳以上の成人に対し、脂質から摂るカロリーを1日の総摂取カロリーの20〜30%に抑えるという目標量を設定しています[4]。
また、飽和脂肪酸から摂取するカロリーは総摂取カロリーの7%以下にすることが推奨されています[4]。
重さでの摂取目標量は設定されていないため少しややこしく感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、目安となる重量の計算方法をご紹介しましょう。
1日の推定必要カロリー(推定エネルギー必要量)は、年齢や性別、どれだけ体を動かすかによって異なります。
まずは以下の表で、ご自身の身体活動レベルを確認しましょう。
【身体活動レベル】
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(Ⅰ) | 生活の大部分を座って過ごし、体を動かす機会があまりない場合 |
普通(Ⅱ) | 座って過ごすことが多いが、歩いたり立った状態で作業・接客したりすることがある仕事に就いている場合、または通勤や買い物で歩いたり、家事をしたり、軽いスポーツを行ったりする習慣がある場合 |
高い(Ⅲ) | 移動したり立った状態で作業したりすることの多い仕事に就いている場合、または余暇にスポーツをするなどの活発な運動習慣を持っている場合 |
身体活動レベルが分かったら、下の表でご自分に合った推定必要カロリーを確認します。
【1日当たりの推定エネルギー必要量(kcal)】
男性 | 女性 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | 2,300 | 2,650 | 3,050 | 1,700 | 2,000 | 2,300 |
30〜49歳 | 2,300 | 2,700 | 3,050 | 1,750 | 2,050 | 2,350 |
50〜64歳 | 2,200 | 2,600 | 2,950 | 1,650 | 1,950 | 2,250 |
65〜74歳 | 2,050 | 2,400 | 2,750 | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
75歳以上 | 1,800 | 2,100 | - | 1,400 | 1,650 | - |
例えば20代で身体活動レベルが普通の女性の場合、1日当たりの推定必要カロリーは2,000kcalです。
脂質から摂るべきカロリーはこの20〜30%に当たるので、400〜600kcalとなります。
脂質は1g当たり約9gであるため、9で割ると1日に摂取する脂質は約44〜67gに抑えるべきであることが分かりますね。
また飽和脂肪酸から摂取するカロリーは140kcal以下、重さでは約16g以下に抑えるべきということになります。
ご自身の体格や状況に合った1日当たりの推定必要カロリーが知りたいという方は以下の記事をご確認ください。
1日に必要なカロリーって?計算方法と健康を保つポイントを解説!
また、必須脂肪酸であるn-6系脂肪酸およびn-3系脂肪酸には重量での摂取目安量が設定されています。
成人のn-6系脂肪酸およびn-3系脂肪酸の摂取目安量は以下のとおりです。
【1日当たりのn-6系脂肪酸の摂取目安量(g)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18〜29歳 | 11 | 8 |
30〜49歳 | 10 | 8 |
50〜64歳 | 10 | 8 |
65〜74歳 | 9 | 8 |
75歳以上 | 8 | 7 |
【1日当たりのn-3系脂肪酸の摂取目安量(g)】
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18〜29歳 | 2.0 | 1.6 |
30〜49歳 | 2.0 | 1.6 |
50〜64歳 | 2.2 | 1.9 |
65〜74歳 | 2.2 | 2.0 |
75歳以上 | 2.1 | 1.8 |
脂質全体の量だけでなく、種類にも注意して食事の内容を決めるよう心掛けましょう。
3-2.脂質の1日の平均摂取量
「摂取目標量を聞いても、普段の食事でどれくらい脂質を摂取しているのか分からない……。」
このようにお困りの方もいらっしゃるかもしれませんね。
参考までに、日本人の平均的な脂質摂取量をご紹介しましょう。
厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」の結果では、脂質の平均摂取量は20歳以上の男性で66.4g、同じく女性で56.7gです[5]。
また総摂取カロリーに対する脂質から摂るカロリーの割合は男性で27.4%、女性で29.2%となっています[5]。
脂質から摂るべきカロリーは総摂取カロリーの20〜30%だとされているので、平均的な食事であれば目標量を達成できているように思われますよね。
しかし、総摂取カロリーに占める脂質の割合が30%を超えている方は、20歳以上の男性で約35.0%、同じく女性で約44.4%にも上ることが分かっています[5]。
油断していると摂取目標量より多い脂質を摂ってしまうものと思われますね。
揚げ物や脂質の多いお菓子、加工食品などをよく食べる方は特に注意しましょう。
4.脂質の摂り過ぎによる悪影響を防ぐためのコツ
「脂質の摂り過ぎによる悪影響を防ぐにはどうしたら良いんだろう?」
このように疑問に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
脂質は摂り過ぎないこと、摂取の際は種類に気を付けることなどが重要です。
ここでは、脂質の摂り過ぎによる健康への悪影響を防ぐためのコツをご紹介します。
コツ1 飽和脂肪酸を摂り過ぎない
脂質のなかでも、飽和脂肪酸の摂り過ぎは肥満や高LDLコレステロール血症の要因として知られています。
また飽和脂肪酸は体内で合成が可能なので、食事から摂取する必要のない栄養素であるといわれています。
厚生労働省は飽和脂肪酸から摂るカロリーを1日の総摂取カロリーの7%に抑えるという目標量を設定しているので、目安として摂取量を抑えるようにしましょう。
飽和脂肪酸は肉類の脂身や鶏肉の皮、ラード、バターや生クリームなどの乳製品、パーム油、ココナッツミルクなどに多く含まれています。
これらの食品は食べ過ぎないよう注意し、肉は赤身や皮を取り除いた鶏肉などの脂質の少ないものを選ぶと良いでしょう。
また飽和脂肪酸は冷えると固まる油に多く含まれている傾向にあるので、何を食べようか迷ったときには参考にしても良いかもしれませんね。
代表的な食品に含まれる脂質の種類や量については以下の記事でご紹介しています。
コツ2 トランス脂肪酸を摂り過ぎない
トランス脂肪酸を摂り過ぎないことも重要です。
トランス脂肪酸は飽和脂肪酸よりもHDLコレステロールに対するLDLコレステロールの割合を上昇させてしまうことが分かっています[6]。
またトランス脂肪酸を最も多く摂取している人は、最も少なく摂取している人に比べ狭心症や心筋梗塞を発症するリスクが1.3倍だったという研究結果もあります[6]。
なお、トランス脂肪酸は牛などの反すう動物の胃で微生物によってつくられるものと、液状油を固形油に変える際に工業的に生じるものに分けられますが、狭心症や心筋梗塞への悪影響が認められているのは後者のみです。
トランス脂肪酸はマーガリンやショートニング、ファットスプレッド、それらを原材料に使ったケーキやドーナツなどの洋菓子、パン、揚げ物などに含まれています。
日本人はトランス脂肪酸の摂取量が一般的に少ないため国内での摂取量の基準は設けられていませんが、WHOなど国外のいくつかの機関は、1日にトランス脂肪酸から摂取するカロリーを総摂取カロリーの1%未満に抑えることを推奨しています[6]。
パンやお菓子類、揚げ物をよく食べるという方は特に、摂り過ぎには十分注意しましょう。
コツ3 コレステロールを摂り過ぎない
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸より影響は小さいものの、食事から摂取するコレステロールもLDLコレステロール増加の原因となります。
コレステロールを摂り過ぎないこともLDLコレステロール値を上昇させないポイントだといえるでしょう。
なお、コレステロールの主な摂取源となるのは卵です。
「卵は食べない方が良いってこと?」
このように不安に思った方もいらっしゃるかもしれませんね。
確かに、Mサイズの卵1個には235mgのコレステロールが含まれています[8]。
また脂質異常症の患者を対象として重症化予防のために設定された管理目標値は1日当たり200mg未満となっており、卵を一つ食べるだけでこの目標値をオーバーしてしまいます[9]。
しかし、食事から摂取されるコレステロールは体内でつくられるコレステロールのおよそ1/3〜1/7程度で、健康な状態であればコレステロールの摂取量が増えるとそれに伴って肝臓でのコレステロール生成量が減少する仕組みになっています[9]。
健康な方であれば、摂り過ぎに留意し一般的な量の卵を摂取してもコレステロール値の上昇に直結するわけではないといえるでしょう。
コレステロールは動物性食品に含まれ、卵の他に食用動物や魚の内臓類、魚卵類、バターなどに多く含まれています。
一度にたくさんのコレステロールを摂取してしまわないよう注意しておきましょう。
また既に脂質異常症であると診断されている方は、専門家の指導に従って食事内容を調整してくださいね。
[8] 日本卵業協会「タマゴQ&A」
コツ4 多価不飽和脂肪酸を含む食品を選ぶ
脂質のなかでも、多価不飽和脂肪酸を多く含む食品を選ぶことも脂質による健康への悪影響を防ぐためのポイントです。
飽和脂肪酸やコレステロールは体内でつくることができますが、脂質のなかでも体内で合成できない多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸です。
また飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、心筋梗塞の発症率が減少するという研究結果があります[10]。
多価不飽和脂肪酸は植物や魚の油脂に多く含まれます。
特にn-3系不飽和脂肪酸は魚類に多く、なかでもEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は青魚に多く含まれています。
またn-6系脂肪酸は植物性の油脂に多く、植物油やナッツ類などに含まれています。
肉ばかり食べているという方は魚を食べる回数や量を増やすよう心掛けてくださいね。
コツ5 調理法を工夫する
調理法を工夫することで脂質の摂取量を抑えられるものと考えられます。
食材を揚げたり炒めたりすると調理の過程で油を使うため、脂質の摂取量が増えてしまいます。
蒸したり煮たり、電子レンジで加熱したりといった油を使わない調理法であれば、脂質の摂取量を抑えられるといえるでしょう。
また脂身の多い肉類や下ゆでや湯通しを行ったり、油を使わず食材を網焼きにしたりするのも食材に含まれる脂質が落とせるのでおすすめですよ。
コツ6 食物繊維を積極的に摂る
脂質の摂り過ぎによる悪影響を防ぐためには、食物繊維を積極的に摂ることも重要です。
おなかの調子を整えるはたらきで知られる食物繊維ですが、実は健康への効果はそれだけではありません。
食物繊維には脂質や糖質、ナトリウムを吸着して体外に排出するはたらきもあるのです。
このため、肥満や脂質異常症、糖尿病、高血圧などの予防・改善に効果があるとされています。
多少脂質を多く摂り過ぎてしまったときでも一緒に食物繊維を摂っておけばその影響を受けにくいといえるかもしれませんね。
しかし一般的な日本人の食物繊維摂取量は理想に遠く及ばない状態にあります。
食物繊維は魚介類や肉類などの動物性の食品にはほとんど含まれておらず、野菜やいも類、きのこ類、豆類、穀類などに多く含まれています。
少しでも多くの食物繊維を摂れるよう、植物性食品の摂取を心掛けましょう。
食物繊維の摂取源となる食べ物や1日に摂取すべき量について詳しく知りたいという方は以下の記事をご覧ください。
5.脂質の摂り過ぎによる悪影響を防ぐためのまとめ
脂質はエネルギー産生栄養素の一つであり、細胞膜やホルモンの材料となる重要な栄養素です。
脂溶性ビタミンの吸収を助けたり、胆汁酸の材料となったりするはたらきもしています。
また一口に脂質といっても体内でのはたらきや健康への影響は種類によって異なります。
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、コレステロールなどは体内で合成でき、肥満や脂質異常症などの原因となりやすい一方、n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸は食事からの摂取が必要な必須脂肪酸です。
脂質の種類や量を気にしないまま摂り過ぎると、肥満や脂質異常症を引き起こす他、肥満による高血糖や高血圧、これらが組み合わさって進行する動脈硬化など、さまざまな生活習慣病の原因をつくってしまいます。
動脈硬化の進行を放っておくと心筋梗塞や脳梗塞など重大な病気を招く恐れがあるため、健康のために脂質を摂り過ぎないよう心掛けましょう。
また摂取量に留意するだけでなく、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、コレステロールを避け、多価不飽和脂肪酸を含む食べ物を選んだり、調理法を工夫したり、食物繊維を積極的に摂取したりすることで脂質の摂り過ぎによる健康への悪影響を避けられるものと考えられます。
普段の食事で脂質を摂り過ぎていると感じている方はできるところから食生活の改善に取り組んでいってくださいね。