「中性脂肪の数値はどれくらいが適切なんだろう?」
「中性脂肪値が高過ぎるから改善したいけど、どうしたら良いか分からない……」
中性脂肪値が高過ぎると良くないことは理解していても、正常値がどれくらいなのかよく分からないという人もいらっしゃるでしょう。
中性脂肪の正常値は50~149mg/dLとされています。
この記事では中性脂肪の数値の基準について詳しく解説し、数値が高い場合や低い場合の体への悪影響についてご説明します。
中性脂肪の数値が上昇する原因や中性脂肪の数値を改善するためのポイントについても解説するので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
1.中性脂肪の数値の基準
「中性脂肪の数値の基準ってどれくらいなの?」
中性脂肪値が気になっている方などは基準がどれくらいか知りたいものですよね。
中性脂肪の正常値は50〜149mg/dLとされています[1]。
そして空腹時の血中の中性脂肪(トリグリセリド)の値が150mg/dL以上になると「高トリグリセリド血症」とされます[2]。
なお空腹時とは、絶食10時間以上たった状態のことです[3]。
やむを得ず空腹時以外の採血を行う場合は、食事開始時から食後3.5時間未満を避けて採血を行います[4]。
このときの採血を随時採血といい、随時採血の高トリグリセリド血症の基準値は175mg/dL以上です[5]。
このように脂質の値が基準値から外れている状態を「脂質異常症」と呼びます。
健康診断を受けた際は、ご自身の中性脂肪値が正常値かどうか確認してみてくださいね。
脂質異常症について詳しくは以下の記事でご紹介しています。
脂質異常症とは?発症の原因や健康への影響、改善のポイントも解説!
[1] 一般社団法人 日本健康倶楽部「中性脂肪」
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「中性脂肪 / トリグリセリド」
[3][4] 厚生労働省「「令和6年度以降における特定健康診査及び特定保健指導の実施並びに健診実施機関等により作成された記録の取扱いについて」の一部改正について」
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症」
2.中性脂肪の数値が高い場合と低い場合の悪影響
「中性脂肪値が高いと体にどんな悪影響があるんだろう?」
「逆に、低い場合でも影響はあるのかな?」
中性脂肪の数値が高い場合、やはり気になるのは体への悪影響ですよね。
また反対に、中性脂肪値が低いことでも悪影響があるのではと気にされている方もいらっしゃるかもしれません。
中性脂肪の数値は高過ぎても低過ぎても体に悪影響を及ぼします。
この章では中性脂肪の数値が高い場合、低い場合それぞれの悪影響について詳しくご紹介します。
2-1.中性脂肪の数値が高い場合の悪影響
中性脂肪の数値が高いと、体にさまざまな悪影響があります。
血中の中性脂肪値が基準値を超えた高トリグリセリド血症は脂質異常症の一種で動脈硬化の要因となるものです。
脂質異常症には高トリグリセリド血症の他に、LDLコレステロール値が高い「高LDLコレステロール血症」、HDLコレステロール値が低い「低HDLコレステロール血症」などがあります。
LDLコレステロールは血管の壁に層をつくるため、増え過ぎると血管壁にたまって動脈硬化を進行させます。
このため「悪玉コレステロール」とも呼ばれています。
一方、HDLコレステロールは組織に蓄積したコレステロールを除去したり、血液を固まりにくくしたりする作用がある他、抗酸化作用や血栓予防作用などがあるものです。
動脈硬化を抑制するため、「善玉コレステロール」とも呼ばれています。
2-2.中性脂肪の数値が低い場合の悪影響
中性脂肪値が低過ぎる場合、体内のエネルギーが不足するために慢性的な疲労を感じたり、肌荒れや抜け毛などが生じたりします。
なお中性脂肪値が低過ぎる場合は脂質異常症でありません。
しかし異常値だと判断されるため注意が必要です。
原因には極端な食事制限や過度な運動、体質の他、何らかの病気が関係している場合もあるため、受診が勧められます。
3.中性脂肪の数値が上昇する原因
「中性脂肪の数値が上がってしまう原因ってなんだろう?」
中性脂肪を気にしている方にとっては、数値が上昇する原因が知りたいものですよね。
この章では中性脂肪の数値が上昇するいくつかの原因について、それぞれ詳しくご紹介します。
原因1 エネルギーの摂り過ぎ
まず中性脂肪の数値が上昇する原因の一つとしてエネルギーの摂り過ぎが挙げられます。
なおエネルギー源になる栄養素には、たんぱく質・脂質・炭水化物があり、これらをまとめてエネルギー産生栄養素といいます。
たんぱく質や炭水化物のエネルギー(カロリー)は1g当たり4kcal、脂質は 1g当たり9kcalです[6]。
間食を含む食事でこれらの栄養素を過剰に摂取し、消費されるカロリーを上回る状態が続くと、余った分が中性脂肪として蓄えられます。
[6] 日本人の食事摂取基準(2020年版)「エネルギー産生栄養素バランス」
原因2 糖質の摂り過ぎ
糖質の摂り過ぎも中性脂肪の数値が上昇する原因の一つです。
食事から摂取した糖質は体内で分解され、そのうちのブドウ糖は血液中に取り込まれます。
これにより血糖値が上昇し、それに反応して膵臓(すいぞう)からインスリンというホルモンが分泌されます。
インスリンは、血糖をエネルギーとして細胞に取り込ませ、エネルギーとして使い切れなかった血糖を脂肪として蓄えさせる作用を有しているのです。
このため、糖質の摂り過ぎは中性脂肪の増加につながります。
砂糖の入ったソフトドリンクなどを飲む習慣がある方は中性脂肪値が高くなりやすいとされており、注意が必要です。
原因3 アルコールの飲み過ぎ
アルコールの飲み過ぎも中性脂肪の数値が上昇する原因です。
アルコールを過剰摂取すると、中性脂肪を分解する酵素のはたらきが低下します。
また肝臓でつくられる中性脂肪の量が増加して、血中に漏れ出します。
このため、アルコールを飲み過ぎると中性脂肪値が高くなってしまうのです。
なお、肝臓に残った中性脂肪は肝臓に脂肪として蓄積され「脂肪肝」の原因にもなります。
さらにアルコール自体が1g当たり約7kcalと高カロリーであるため、飲み過ぎには注意が必要です[7]。
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと脂質異常症」
原因4 運動不足
運動不足も中性脂肪の数値が上昇する原因の一つです。
運動不足の状態では消費されるエネルギーが少なく、食事で摂ったエネルギーが十分に消費されません。
そして消費されなかった中性脂肪が体内で過剰となってしまいます。
また運動不足により筋肉が減ると脂肪を燃焼するための基礎代謝が低下し、中性脂肪が増加します。
基礎代謝は筋肉量の増減に伴い増えたり減ったりするものです。
基礎代謝が下がると消費カロリーも減るため、中性脂肪値の増加につながるのです。
原因5 喫煙
たばこは脂質や糖質の代謝に悪影響を及ぼすといわれ、中性脂肪値にも関係があると考えられています。
喫煙者のなかには痩せている人が多く、痩せていると中性脂肪が上昇しにくいこともあるため、脂質異常症に及ぼす影響は分かりにくいといえます。
しかし研究の結果、内臓脂肪が多く蓄積している人の中性脂肪値は、現在たばこを吸っている人、過去にたばこを吸っていてやめた人、たばこを吸っていない人の順に高いことが分かっているのです。
内臓脂肪の蓄積が見られない人では喫煙しているかどうかに関係なく中性脂肪値が高い人は少数ですが、内臓脂肪の蓄積が多くなると喫煙の影響が顕著になっています。
また善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロール値の低下は、体格にかかわらず見られることが分かっています。
さらにたばこは悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを増加させるともいわれており、脂質異常症全般を悪化させると考えられます。
また、喫煙は動脈硬化を進めるともいわれているため注意が必要です。
4.中性脂肪の数値を改善するためのポイント
「中性脂肪の数値を下げたいな……。どうしたら良いんだろう?」
「何か改善の方法はないかな?」
中性脂肪の数値が気になる方は、改善のポイントが知りたいものですよね。
この章では中性脂肪の数値を改善するためのポイントを六つ紹介します。
一気に全てを取り入れようとしなくても良いので、できることから試してみましょう。
ポイント1 適切なカロリー制限を行う
中性脂肪の数値を改善するためには、まず適正な体重を目指すことが重要です。
このため1日のエネルギー摂取量(摂取カロリー)を適切に制限することが勧められます。
1日の適切なエネルギー摂取量を知るためには、まずはご自身の標準体重を求めましょう。
標準体重とはBMIが22のときの体重のことで、肥満と関連がある脂質異常症や高血圧、糖尿病などの病気に最もかかりにくいとされています。
なお標準体重は「身長(m)×身長(m)×22」で割り出すことができます[8]。
そこから生活習慣病の食事指導に用いられる体重1kg当たりの推定エネルギー必要量(推定必要カロリー)とかけ合わせ、求められたものを目安にすると良いでしょう。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
18~29(歳) | ||||||
30~49(歳) | ||||||
50~64(歳) | ||||||
65~74(歳) | ||||||
75以上(歳) |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
なお、身体活動レベルは以下の表を参考にしてください。
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(Ⅰ) | 生活の大部分を座って過ごし、あまり体を動かさない場合 |
普通(Ⅱ) | 座って過ごすことが多いが、歩いたり立ったりする作業や接客などを行う機会や、通勤や買い物で歩く機会、家事や軽いスポーツを行う機会がある場合 |
高い(Ⅲ) | 歩いたり立ったりすることが多い仕事に就いている場合、あるいは余暇に活発に運動する習慣がある場合 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
例えば目標とする標準体重が60kgで、身体活動レベルが普通(Ⅱ)に当たる30歳の男性の場合、摂取カロリーの目安は39.3(kcal)×60(kg)=2,358kcalと計算されます。
中性脂肪の数値を改善するために、適切なカロリー制限を行ってくださいね。
1日の適切な摂取カロリーについては以下の記事で詳しく解説しています。
1日の適切な摂取カロリーは?体格や運動量に合わせた計算方法を解説
[8] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康 」
ポイント2 炭水化物(糖質)の摂り過ぎを避ける
炭水化物(糖質)を適切に控えることも中性脂肪の数値を改善するためには重要なポイントです。
これは糖質が中性脂肪の材料となるためです。
食事から摂取した糖質は体内で分解され、そのうちのブドウ糖は血液中に取り込まれます。
ブドウ糖が取り込まれたことにより血糖値が上昇し、それに反応して膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。
インスリンは、血糖をエネルギーとして細胞に取り込ませ、エネルギーとして使い切れなかった血糖を脂肪として蓄えさせる作用を有しているものです。
このため、糖質の摂り過ぎは中性脂肪の増加につながるのです。
中性脂肪値を改善するためには、総エネルギー摂取量(総摂取カロリー)に対し、炭水化物(糖質)から摂取するエネルギー量(カロリー)の割合が50〜60%になるよう制限することが勧められます[9]。
炭水化物と糖質の関係については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
糖質と炭水化物の関係は?摂取目標量や摂取源となる食べ物も紹介
[9] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症(基本)」
ポイント3 アルコールの飲み過ぎを避ける
節酒も中性脂肪値の改善には有効です。
アルコールの過剰摂取は中性脂肪の増加を招きます。
アルコールを摂取すると肝臓でつくられ過ぎたトリグリセリドが血液中に漏れ出してしまいます。
またアルコールは1g当たり7.1kcalの高エネルギー物質である点にも注意が必要です[10]。
厚生労働省の国民健康づくり運動「健康日本21(アルコール)」では、節度ある適度な飲酒の目安として純アルコール量で1日平均約20gとされています[11]。
公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」をもとに執筆者作成
また、女性や体質的にアルコールの代謝能力が低い人、高齢者はより少量に抑えることが適切だといわれています。
アルコールが体に与える影響や健康的なお酒の飲み方について以下の記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてみてくださいね。
アルコールとは?体への影響や健康的なお酒の飲み方、注意点を解説
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールのエネルギー(カロリー)」
[11] 厚生労働省「健康日本21(アルコール)」
ポイント4 DHAとEPAを積極的に摂取する
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)を積極的に摂取することも中性脂肪の数値を改善するための重要なポイントです。
DHAやEPAは「n‐3系脂肪酸」の一種です。
n‐3系脂肪酸は多価不飽和脂肪酸の一種で、ヒトの体内で合成できないため食べ物からの摂取が必要なのです。
n-3系脂肪酸のEPAやDHAには肝臓で中性脂肪をつくりにくくし、中性脂肪値を下げるはたらきがあるといわれています。
n-3系脂肪酸は青魚に多く含まれています。
中性脂肪値の改善を図りたい方は、さばやさんま、ぶりなど青魚を食事に取り入れてみると良いでしょう。
食品に含まれる脂質について以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてくださいね。
脂質の多い食べ物と摂取方法とは?健康的に体重管理するための工夫!
ポイント5 食物繊維を積極的に摂取する
食物繊維の摂取も中性脂肪値の改善には有効だと考えられています。
食物繊維は炭水化物の一種で、ヒトの消化酵素では消化できない食品成分です。
脂質や糖を吸着し体外に排出するはたらきを有するため、脂質異常症の予防・改善に効果が期待されています。
食物繊維は不足しがちな栄養素であるため、積極的な摂取が勧められます。
以下に食物繊維を多く含む身近な食材を表にまとめました。
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
きくらげ(あらきくらげ) | ||
寒天(粉) | ||
寒天(角) | ||
きくらげ | ||
ひじき | ||
しいたけ | ||
とうがらし | ||
のり(かわのり) | ||
刻み昆布 | ||
いわのり | ||
焼きのり(あまのり) | ||
カットわかめ | ||
あおのり | ||
かんぴょう | ||
こんぶ(まこんぶ) | ||
切り干しだいこん | ||
らっきょう | ||
いんげんまめ | ||
おから | ||
オートミール | ||
えだまめ | ||
納豆 |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
食物繊維は海藻、藻類や根菜、豆類などに豊富に含まれていることが分かりますね。
中性脂肪の数値を改善したい方は以上の食品を意識的に日々の食事に取り入れてみると良いでしょう。
食物繊維のはたらきなど、詳しくは以下の記事で解説していますよ。
食物繊維とは?はたらきや摂取目標量、摂取源となる食べ物を解説
[12] 東京都保険医療局「栄養成分表示ハンドブック」
ポイント6 有酸素運動を行う
有酸素運動も中性脂肪の改善には有効です。
有酸素運動は筋肉にかかる負荷が比較的小さい運動で、筋肉を動かすエネルギーとして酸素と共に脂肪と血糖が消費されます。
このため、脂質異常症や肥満の改善に効果的だといえるのです。
脂質異常症を改善するためには、1日合計30分以上、通常速度のウォーキングに相当する強度の有酸素運動を最低週3日行うことが推奨されています[13]。
なお、続けて30分以上行うことが難しい場合、短時間の運動を合計して30分以上としても構いません[13]。
有酸素運動にはウォーキングの他にジョギング、サイクリング、水泳、エアロビクスダンスなどがあるので、中性脂肪値でお悩みの方は好きな運動にチャレンジしてみてくださいね。
有酸素運動については以下の記事で詳しくご紹介しています。
有酸素運動とは?効果や無酸素運動との違い、おすすめの運動を紹介
[13] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症を改善するための運動」
ポイント7 禁煙する
中性脂肪値を改善するために、禁煙することも大切です。
たばこは中性脂肪値や他の血中脂質の値に悪影響を及ぼすと考えられています。
他にも狭心症や心筋梗塞などさまざまな健康上のリスクを増大させます。
いきなり禁煙は難しくても、徐々に本数を減らすなど工夫してみましょう。
また禁煙外来を受診するという方法もありますよ。
禁煙外来ではニコチンガムなどによる治療の他、カウンセリングや生活指導といった精神面のサポートを受けることができます。
禁煙の効果など詳しくは以下の記事でご紹介しています。
禁煙の効果とは?健康への影響や禁煙するための方法を詳しく解説
脂質異常症や喫煙によって引き起こされるさまざまな病気を防ぐためにも、禁煙を心掛けてくださいね。
5.中性脂肪の数値についてのまとめ
中性脂肪の正常値は50〜149mg/dLとされています[14]。
この基準値を超えて血中の中性脂肪の値が150mg/dl以上になると、脂質異常症の一種である高トリグリセリド血症とされます[15]。
この状態は動脈硬化を促進させるため改善が勧められます。
中性脂肪の数値が上昇する原因には、エネルギーや糖質、アルコールの摂り過ぎがあります。
また運動不足や喫煙も原因の一つです。
中性脂肪値を改善するためには、食事や生活習慣を見直すことが大切です。
摂取エネルギーや炭水化物を適切に制限し、アルコールの飲み過ぎは避けましょう。
またDHAやEPA、食物繊維を含む食品を積極的に摂取してくださいね。
有酸素運動を行い、禁煙することも重要です。
中性脂肪の数値を改善するために、まずはできることから始めてみましょう。
[14] 一般社団法人 日本健康倶楽部「中性脂肪」
[15] 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症」