「肥満は病気なのかな?」
「肥満は健康にどんな悪影響をもたらすんだろう?」
このように疑問に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
肥満とは単に体重が多いだけでなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態のことです。
肥満の基準に当てはまったからといって医学的に減量な必要な状態であるとは限りませんが、肥満の状態を放置していると健康上のリスクが大きくなり、さまざまな病気の発症を招く恐れがあります。
この記事では肥満の定義や原因、肥満に関連して発症する病気を解説します。
肥満を改善するためのポイントもご紹介するので参考にしてくださいね。
1.そもそも肥満とはどういった状態か
肥満という言葉はよく見聞きするものですが、その定義はよく知らないという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
肥満とは、単に体重が多いだけでなく、体脂肪が過剰に蓄積された状態のことです。
エネルギー摂取量(摂取カロリー)がエネルギー消費量(消費カロリー)を上回ることで起こるため、主な原因は食べ過ぎと運動不足であるといえます。
肥満の判定には国際的に「BMI(Body Mass Index)」が使われています。
肥満の基準は国によって異なりますが、国内では以下の基準が用いられています。
BMI | 判定 | |
---|---|---|
18.5未満 | ||
18.5以上25.0未満 | ||
25.0以上30.0未満 | ||
30.0以上35.0未満 | ||
35.0以上40.0未満 | 高度肥満 | |
40.0以上 |
一般社団法人 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」をもとに執筆者作成
ただしBMIでは脂肪がどれだけ蓄積されているかを判断することはできません。
このため国内ではBMIが25以上かつ脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積された状態が肥満と定義付けられています[2]。
「どれくらい脂肪があったら肥満になるの?」
と疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
体重に占める脂肪の重量の比率を表す「体脂肪率」は後述する生活習慣病との関連が薄いため、医学的な判定基準としては用いられていません。
ただし一般的に体脂肪率が成人男性では25%、成人女性では30%を超えていると体脂肪が多い状態にあるとされています[3]。
広く普及している体脂肪計の測定方法では正確な測定は困難といわれていますが、参考までに測ってみるのも良いかもしれませんね。
肥満はさまざまな病気の原因となりますが、肥満に該当するからといって医学的に減量が必要であるとは限らないといわれています。
ただし肥満に健康を脅かす合併症を伴う場合や、そのリスクが高い場合、「肥満症」と診断され治療の対象とされます。
なお、脂肪がどこについているかによっても健康への影響は異なります。
肥満は「内臓脂肪型肥満」と「皮下脂肪型肥満」に分けられます。
内臓脂肪型肥満とは、腸管などの内臓の周りに脂肪がついた状態のことです。
おなか周りが大きくなった体型が特徴で、男性に多く見られるといわれています。
皮下脂肪型肥満は皮下脂肪が多くついたタイプの肥満で、二の腕やお尻、太もも、下腹などが大きくなります。
女性に多く見られるといわれています。
特に健康への影響が大きいといわれているのが内臓脂肪型肥満で、これを踏まえて提唱されたのがメタボリックシンドロームの概念です。
メタボリックシンドロームは動脈硬化の進行を促し、日本人の主な死因である心臓病や脳卒中の危険性を高めるといわれています。
なお、内臓脂肪の蓄積は高血糖や脂質異常症(脂質代謝異常)、高血圧などを引き起こしやすくするといわれています。
肥満自体は病気でなくとも、さまざまな病気の原因になってしまうのですね。
肥満に関連して発症のリスクが高まる病気については、次の章で詳しく解説します。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「BMI」
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「体脂肪計」
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームの診断基準」
【関連情報】 「簡単ダイエット!日々の生活で実践できる7つの工夫」についての記事はこちら
2.肥満で発症リスクが高まる病気
「肥満だといろんな病気になりやすいって本当かな?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
肥満の状態では、さまざまな病気の発症リスクが高まるといわれています。
この章では、肥満と関連して発症のリスクが高まる病気をご紹介しましょう。
2-1.高血糖・糖尿病
肥満は高血糖や糖尿病の原因になるといわれています。
高血糖とは血糖値が高い状態のことです。
血糖値が上昇すると、それに反応して膵臓(すいぞう)からインスリンというホルモンが分泌されます。
インスリンは血中のブドウ糖を細胞にエネルギーとして使わせ、使い切れなかった糖を脂肪やグリコーゲンという物質として蓄えるはたらきを促進することで血糖値を下げます。
しかしインスリンの分泌量が不足していたり、効きが悪かったりすると血糖値が正常に下がらず、高血糖になってしまうのです。
糖尿病は高血糖が慢性的に続く病気です。
肥満の状態ではインスリンの効きが悪くなることが分かっています。
十分な量のインスリンがつくられているにもかかわらず、効きが悪い状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。
インスリンが作用するには細胞の表面にある「レセプター(受容体)」と結合することが必要です。
しかし肥満の状態ではこのレセプターの量が減少してしまい、インスリンが十分にはたらかなくなってしまいます。
このため肥満の状態ではインスリン抵抗性に陥り、高血糖や糖尿病になりやすくなってしまうのです。
また肥満のために大きくなった脂肪細胞から分泌される「アディポサイトカイン」と呼ばれる物質はインスリンの作用を弱めるといわれています。
なお高血糖や初期の糖尿病には自覚症状がありませんが、血糖値が高い状態は血管を傷つけたり詰まらせたりするために動脈硬化やさまざまな合併症を引き起こします。
代表的な合併症として挙げられるのが網膜症、腎症、神経障害です。
網膜症とは、目の網膜の血管が傷むことで視力の低下を引き起こし、最悪の場合には失明に至る病気です。
腎症は長期的な高血糖により腎臓が傷み、機能の低下を引き起こす病気です。
進行し末期腎不全に至ると、「透析療法」が必要になります。
また神経障害は高血糖により運動神経・知覚神経・自律神経に障害が起こった状態です。
運動神経の障害により体を自由に動かすことができなくなる、知覚神経の障害により痛みを感じたり反対に感じにくくなったりするといった症状が現れます。
また自律神経の障害は立ちくらみを引き起こす他、発汗や消化機能、排尿、性的機能の異常を引き起こします。
高血糖は放置していると恐ろしい病気を招いてしまうのですね。
高血糖について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
2-2.脂質異常症も肥満が原因
肥満は脂質異常症の発症リスクを高めるといわれています。
脂質異常症は血中の脂質の値が基準値から外れた状態です。
主に「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)」「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」「トリグリセリド(中性脂肪)」の異常があります。
脂質異常症はいずれも動脈硬化を促進することが分かっているため、注意が必要です。
コレステロールは脂質の一種で、細胞膜やホルモン、胆汁酸をつくる材料でもあります。
血中を流れているコレステロールはたんぱく質などと結合した「リポたんぱく質」で、LDLコレステロールとHDLコレステロールに分けられます。
LDLコレステロールは肝臓でつくられたコレステロールを全身に運ぶはたらきをしており、増え過ぎると血管の壁に蓄積し、動脈硬化を進行させてしまうため悪玉コレステロールと呼ばれています。
一方、善玉コレステロールとも呼ばれるHDLコレステロールは血管壁にたまったコレステロールを回収し、肝臓に運ぶはたらきをしており、動脈硬化を抑制しています。
LDLコレステロールが増え過ぎた状態を「高LDLコレステロール血症」、HDLコレステロールが少なくなった状態を「低HDLコレステロール血症」といい、いずれも脂質異常症の一種とされています。
中性脂肪は体脂肪の大部分を占める脂質で、血中にも流れています。
中性脂肪が増え過ぎた状態を「高トリグリセリド血症」といい、こちらも脂質異常症の一種です。
肥満による脂質異常症では、特に低HDLコレステロール血症と高トリグリセリド血症が多く見られるといわれています。
原因には中性脂肪やコレステロールを多く含む食品の摂り過ぎの他、肥満によるインスリン抵抗性があるといわれています。
インスリン抵抗性のある状態では、肝臓が中性脂肪(トリグリセリド)の合成を促進し、中性脂肪を多く含む「VLDL(超低比重リポたんぱく)」を血中に過剰に放出します。
このため、高トリグリセリド血症になってしまうのです。
またインスリン抵抗性が高い状態では、VLDLをHDLコレステロールに変える物質が十分に活性化されないため、HDLコレステロール値が低下し、低HDLコレステロール血症が引き起こされます。
脂質異常症について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
脂質異常症とは?発症の原因や健康への影響、改善のポイントも解説!
2-3.高血圧と肥満の関係
肥満の状態は高血圧も招くといわれています。
高血圧とは血圧が慢性的に高い状態のことです。
血圧とは心臓から送り出された血液が動脈の内側の壁を押す力のことで、一般的には上腕動脈にかかる圧力のことを指します。
高血圧は動脈硬化の原因となります。
高血圧が長期にわたって続くと常に張り詰めた状態に置かれている血管の壁が次第に厚く硬くなってしまうのです。
高血圧による動脈硬化は全身の血管に起こり、さまざまな病気の原因となります。
肥満の方は体重が正常な方に比べて約2〜3倍高血圧になりやすいといわれています[5]。
高血圧の主な原因の一つには、塩分(塩化ナトリウム)の摂り過ぎがあります。
肥満の方は食べ過ぎることが多いためナトリウムの摂取量も多くなっていると考えられるのです。
また肥満の状態ではインスリンが過剰に分泌されます。
インスリンにはナトリウムの再吸収を促進するはたらきがあるため、さらに血中のナトリウムが増加してしまい、血圧が上昇する恐れがあります。
加えてインスリンは交感神経を刺激して「カテコールアミン」と呼ばれる物質の放出を招きます。
カテコールアミンには末梢(まっしょう)血管を収縮させる作用があり、これも血圧上昇の原因となります。
さらに肥大した脂肪細胞が分泌する「アンジオテンシノーゲン」という物質にも血管を収縮させる作用があり、血圧を上昇させます。
肥満は高血圧を招くさまざまな要素がそろっている状態だといえますね。
高血圧について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
高血圧とは?基準値や健康上のリスク、改善のポイントを徹底解説
[5] 一般社団法人 日本肥満症予防協会「3. 肥満と高血圧」
2-4.冠動脈疾患・脳梗塞
肥満、なかでも内臓脂肪型肥満を放置していると、冠動脈疾患や脳梗塞を引き起こす恐れがあります。
冠動脈疾患とは、心臓に血液を供給する「冠動脈」が動脈硬化の進行によって狭まったり詰まったりすることで起こる病気です。
主に狭心症や心筋梗塞などがあります。
狭心症は冠動脈が狭まることで胸の痛みを生じる病気です。
また心筋梗塞は冠動脈がふさがってしまうことで、心筋(心臓の筋肉)の一部が壊死(えし)してしまう病気です。
血液は酸素を供給するはたらきをしており、血管の異常によって十分な血液が供給できないと細胞が酸欠で壊死してしまいます。
突然死の代表的な原因ともいわれる恐ろしい病気です。
同様に脳の血管がふさがって血流が止まってしまう病気を脳梗塞といいます。
脳が壊死してしまうため多くの場合で後遺症が見られる他、死に至ることも珍しくありません。
内臓脂肪型肥満は動脈硬化を促進し、さらに動脈硬化の要因となる高血圧や脂質異常症、高血糖を促進するといわれています。
これらが積み重なって冠動脈疾患や脳梗塞などの重大な病気を引き起こしてしまうのです。
内臓脂肪型肥満に高血糖、脂質代謝異常、高血圧が組み合わさった状態であるメタボリックシンドロームの改善が勧められるのは、こうした重大な病気を予防するためだといえます。
動脈硬化の進行によって起こる病気などについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
動脈硬化とは?原因や病気のリスク、進行を防ぐポイントを徹底解説
2-5.腎臓病と肥満の関係
肥満は腎臓病を引き起こす恐れもあります。
腎臓病とは腎臓の機能が低下する病気です。
腎臓は血液をろ過し、余分な塩分や老廃物などを尿として体外に排出する、体に必要なものを再吸収するといったはたらきをしています。
このため腎臓の機能が低下すると老廃物などが体に蓄積したり、体液量の調節がうまくいかなくなったりしてしまうのです。
腎臓の機能が低下した状態では再吸収されるべきたんぱく質が尿に混じったまま排せつされてしまいます。
これをたんぱく尿といい、尿に含まれるたんぱく質の量は腎臓病の診断にも使われています。
肥満によって起こる腎臓病は肥満に合併する高血糖や高血圧によって生じるものと、肥満そのものが原因となる「肥満関連腎臓病」に分けられます。
糖尿病によって腎症が引き起こされるメカニズムは「2-1.高血糖・糖尿病」でご説明したとおりです。
また高血圧も腎臓の負担を高め、はたらきを低下させるといわれています。
加えて肥満が直接的な原因となる肥満関連腎臓病もあります。
肥満に伴うエネルギー過剰と代謝が高まった状態や、内臓脂肪の増加により脂肪細胞でつくられるアンジオテンシノーゲンの分泌量が増加した状態が肥満関連腎臓病を引き起こしてしまうのです。
肥満の状態ではさまざまな要因が重なって腎臓病のリスクが高まってしまうのですね。
2-6.脂肪肝も肥満が原因
肥満の状態では脂肪肝のリスクも高まるといわれています。
かつてはアルコールの飲み過ぎによる脂肪肝が多く見られましたが、近年は肥満が原因の非アルコール性脂肪肝(NASH)が増えています。
脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が蓄積した状態のことです。
エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回っていると、余分なエネルギーは中性脂肪やグリコーゲンとして体に蓄えられます。
中性脂肪は内臓脂肪や皮下脂肪として蓄積される他、肝臓にも蓄えられます。
脂肪肝は肝臓の細胞に脂肪が蓄えられ過ぎた状態です。
肝臓に蓄積する脂肪はいわゆる内臓脂肪とは別ですが、脂肪肝は内臓脂肪型肥満やメタボリックシンドロームの状態にある方によく見られます。
また脂肪肝は脂質異常症や糖尿病も合併しやすく、動脈硬化を進行させるといわれています。
肥満による脂肪肝は肥満でインスリン抵抗性に陥っていると、肝臓に脂肪が蓄えられやすくなるために起こると考えられています。
しかし肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるほど自覚症状が現れにくいのが特徴です。
放置していると肝炎や、肝臓の末期的な状態である肝硬変、肝がんに進行する恐れもあるので注意が必要です。
脂肪肝や関連する病気について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
脂肪肝は大きな病気を引き起こす?症状や原因、改善法を徹底解説
2-7.睡眠時無呼吸症候群
肥満は睡眠時無呼吸症候群の原因の一つだとされています。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりして体が低酸素状態に陥ってしまう病気です。
睡眠中のいびきや中途覚醒、起床時の頭痛やだるさ、日中の眠気などが症状として現れます。
睡眠時無呼吸症候群は空気の通り道が狭くなるために起こる「閉塞(へいそく)型」と呼吸をつかさどる脳のはたらきが低下することで起こる「中枢型」、これらを併発する「混合型」に分けられ、肥満によって起こるのは閉塞型です。
睡眠中は喉の緊張が緩むため、呼吸に問題がない場合でも口や鼻から肺の入口にかけての空気の通り道が起きている間よりも狭まります。
しかし肥満の方では喉の脂肪によってさらに空気の通り道が狭くなり、呼吸が止まってしまう場合があるのです。
睡眠時無呼吸症候群では、低酸素や日中の眠気などのストレスによって高血圧や心筋梗塞などを引き起こしやすくなるといわれています。
突然死を招く恐れもあるので注意が必要です。
いびきなどの症状を軽く見てはならないことが分かりますね。
2-8.変形性腰椎症・変形性膝関節症
肥満で重くなった体を支え切れず、整形外科的な疾患が生じる場合もあります。
代表的なものとして「変形性腰椎症」と「変形性膝関節症」が挙げられます。
変形性腰椎症は腰椎が変形したり圧迫骨折を起こしたりする病気です。
腰椎は脊椎のなかでも体重を支える役割をしており、一番大きな衝撃のかかる箇所です。
腰椎が体重を支え切れなくなると変形性腰椎症を起こしてしまうのですね。
また変形性膝関節症は膝関節の軟骨がすり減る病気です。
膝の軟骨がすり減ると膝関節を動かしにくくなるだけでなく、骨同士が直接ぶつかるようになってしまうため小さな骨折を引き起こしたり、骨が硬くなったりといった骨の異常が生じます。
加えてこの異常を修復しようとするはたらきが過剰になり、「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるとげ状の組織ができてしまうこともあります。
変形した関節やすり減った軟骨を完全に元通りにすることはできないので、早めの発見と治療が重要だといえます。
2-9.月経異常と肥満の関係
肥満によって月経異常が生じる場合もあります。
脂肪細胞から分泌される「レプチン」という物質は生殖機能に関わっており、その量は体脂肪の量と比例します。
しかし肥満の状態では血中レプチン濃度は高いにもかかわらず、レプチンの効きが悪くなってしまいます。
このために生殖機能に異常が起こり、月経不順や不正性器出血といった異常が見られるのです。
また重度の場合には無月経や不妊症に至ります。
2-10.妊娠合併症
肥満の状態では、「妊娠高血圧症候群」や「妊娠糖尿病」などの妊娠合併症のリスクも上昇します。
妊娠高血圧症候群とは妊娠に際して高血圧を発症している状態の総称です。
妊娠高血圧症候群にはいくつかの分類があり、妊娠前から妊娠20週までの間に高血圧が見られた場合は「高血圧合併妊娠」と呼ばれます[6]。
また妊娠20週以降に高血圧のみを発症した場合は「妊娠高血圧症」、高血圧と共にたんぱく尿が見られる場合は「妊娠高血圧腎症」に分類されます[6]。
特に妊娠34週未満の発症は重症化しやすく注意が必要です[6]。
重症化すると母体では血圧上昇やたんぱく尿に加えけいれん発作や脳出血、肝臓や腎臓の機能障害などが起こる場合があります。
また胎児の発育の不全や、場合によっては死を引き起こします。
妊娠糖尿病とは、妊娠中に発見された高血糖です。
母体が高血糖であると胎児も高血糖になり、さまざまな合併症が起こるリスクが生じます。
母体では妊娠高血圧症候群や羊水量の異常、難産などのリスクが高まります。
また胎児の心臓が肥大したり、低血糖が起こったりする危険性が増す他、流産・胎児死亡の恐れもあります。
肥満はインスリン抵抗性を高めてしまいますが、実は妊娠も同様です。
このため相乗効果でインスリン抵抗性が高まり、リスクが増大してしまうのです。
[6] 公益社団法人 日本産科婦人科学会「妊娠高血圧症候群」
3.肥満を改善し生活習慣病を予防するポイント
「肥満を改善するにはどうしたら良いんだろう」
「生活習慣病を予防するためにはどんなことに気を付けたら良いのかな?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
肥満によって生じる生活習慣病を予防・治療するためには減量が基本となります。
減量をせずに服薬治療を受けても、十分な効果が得られなかったり、副作用が現れたりしてしまいます。
また生活習慣を改善することで、肥満によって生じるさまざまな疾患の予防・改善にもつながると考えられます。
ここでは、肥満を改善し、生活習慣病を予防するためのポイントをご紹介しましょう。
ポイント1 エネルギー摂取量を適切に制限する
エネルギー摂取量(摂取カロリー)を適切に制限することは減量の基本であるといえます。
肥満はエネルギー摂取量がエネルギー消費量(消費カロリー)を上回ることで起こります。
反対にエネルギー摂取量を減らすことで減量につながるのです。
とはいえ、極端なエネルギー(カロリー)制限はリバウンドや栄養不足による不調などのリスクを伴います。
1日のエネルギー摂取量は、標準体重であった場合の推定エネルギー必要量を目標としましょう。
なお推定エネルギー必要量の計算には身体活動レベルの把握が必要です。
身体活動レベルはどれだけ体を動かしているかによって3段階に分けられます。
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(Ⅰ) | 生活の大部分を座って過ごしており、あまり動くことがない場合 |
普通(Ⅱ) | 座って過ごすことが多いが、一部立ったり職場内で歩いたりする業務に従事している場合、通勤や買い物などで歩いたり家事やスポーツなどを行ったりする場合 |
高い(Ⅲ) | 立ったり歩いたりすることの多い仕事に就いている場合、あるいは余暇に活発に運動する習慣のある場合 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
身体活動レベルが分かったら、標準体重と下の表の体重1kg当たりの推定エネルギー必要量を掛け合わせましょう。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
例えば身長170cmの男性の標準体重は1.7×1.7×22で63.58kgです。
身体活動レベルが「低い(Ⅰ)」に該当する30代の男性であれば体重1kg当たりの推定エネルギー必要量が33.7kcalなので63.58×33.7で1日の推定エネルギー必要量は2,143kcalとなります(少数第1位で四捨五入)。
このようにして求めた推定エネルギー必要量を参考に、どのようなものを食べるのか考える習慣を付けましょう。
[7] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
ポイント2 エネルギー産生栄養素バランスを意識する
単にエネルギー摂取量を制限するだけでなく、エネルギー産生栄養素バランスを意識することも重要だといえるでしょう。
ヒトの体のエネルギー源となる栄養素、つまり「エネルギー産生栄養素」には炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質の三つがあります。
炭水化物(糖質)のなかでもブドウ糖は脳の重要なエネルギー源ですが、過剰に摂取した炭水化物(糖質)は中性脂肪として蓄えられ、肥満や生活習慣病の原因になってしまいます。
脂質はエネルギー源となる他に細胞膜を構成したり、ホルモンなどの材料となったりするはたらきをしています。
しかし他のエネルギー産生栄養素に比べてエネルギー量(カロリー)が多く、摂り過ぎると肥満や生活習慣病の原因となる点に注意が必要です。
特に脂質に含まれる脂肪酸(脂肪の構成要素)のなかでも割合が多い「飽和脂肪酸」の摂り過ぎは高LDLコレステロール血症や心筋梗塞、肥満などの要因であるといわれています。
またたんぱく質はエネルギー源となる他に筋肉や臓器、皮膚、髪の毛などの体の組織の材料となったり、ホルモンや酵素、抗体など体の機能を調節する物質の成分となったりする重要なはたらきをしています。
このようにそれぞれにはたらきや、摂り過ぎた場合の健康上のリスクが異なるため、エネルギー産生栄養素はバランス良く摂取することが重要なのです。
厚生労働省は1日のエネルギー摂取量に対し、各栄養素から摂取するエネルギーを以下の割合にするよう目標を設定しています。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
年齢 | 炭水化物 | 脂質 | たんぱく質 | 炭水化物 | 脂質 | たんぱく質 |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
なお1g当たりのエネルギー産生栄養素から産生されるエネルギーは炭水化物(糖質)とたんぱく質で4kcal、脂質で9kcalです[8]。
例えば1日の推定エネルギー必要量が2,143kcalである場合、炭水化物(糖質)から摂取すべきエネルギー量は1,072〜1,393kcalであることが分かります(小数点1位で四捨五入)。
重量に換算すると炭水化物(糖質)の適切な摂取量は4で割って268〜348gであることが分かりますね(小数点第1位で四捨五入)。
[8] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント3 食物繊維を十分に摂取する
食物繊維を十分に摂取することも肥満や生活習慣病の予防・改善には有効だといわれています。
食物繊維は炭水化物の一種で、 食べ物に含まれるヒトの消化酵素では消化できない成分と定義されています。
食物繊維は消化・吸収されずに大腸まで達し、便の材料となったり腸内の有用な菌(善玉菌)を増やしたりしておなかの調子を整える作用があることで知られています。
これだけでなく、食物繊維には脂質や糖、ナトリウムなどを吸着して体外に排出する作用があることが分かっています。
このため、これらを摂り過ぎることで起こる肥満や脂質異常症、糖尿病、高血圧などの予防・改善効果があるとされているのです。
このように有用な食物繊維ですが、日本人の食物繊維摂取量は目標量に遠く及んでいません。
理想的な食物繊維摂取量は1日当たり24gであるとされていますが[9]、厚生労働省が実現可能性を考慮して設定した目標量は以下のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18〜29歳 | 21g以上 | 18g以上 |
30〜49歳 | 21g以上 | 18g以上 |
50〜64歳 | 21g以上 | 18g以上 |
65〜74歳 | 20g以上 | 17g以上 |
75歳以上 | 20g以上 | 17g以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
食物繊維は肉や魚などの動物性食品にはほとんど含まれておらず、植物性食品に含まれています。
豆類、野菜類、きのこ類、果実類、海藻類、玄米やそばなどの穀類(主食類)などから摂取が可能です。
植物性食品を意識的に摂取するよう心掛けましょう。
食物繊維の摂取源となる食べ物は以下の記事でご紹介しています。
食物繊維を手軽に摂れる食べ物は?効果や食事摂取基準も徹底解説
[9] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント4 塩分の摂り過ぎに注意する
塩分(ナトリウム)の摂り過ぎに注意しましょう。
ナトリウムの摂り過ぎは高血圧の大きな原因として知られています。
またそれだけでなく、ナトリウムを多く含む食事は肥満のリスクも高めるといわれているのです。
塩気が食欲を増進し、食べ過ぎにつながるのではないかと考えられています。
加えてナトリウムの摂り過ぎは腎臓病や胃がんのリスクも高めます。
このようにナトリウムの摂り過ぎは高血圧だけでなく、さまざまな生活習慣病の発症に関連すると考えられるのですね。
WHOのガイドラインは成人に対し、1日のナトリウム摂取量を食塩相当量で5g未満にすることを強く推奨しています[10]。
しかし日本人のナトリウム摂取量(食塩相当量)はこのガイドラインよりもかなり多いのが実情です。
このため厚生労働省は実現可能性を考慮して以下のような目標量を設定しています。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18歳以上 | 7.5g未満 | 6.5g未満 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
食事は全体的に薄味を心掛け、塩分を控えるよう心掛けましょう。
特に麺類のつゆ・スープやみそ汁、加工食品、外食などは知らず知らずのうちにナトリウムを摂り過ぎてしまう原因になるので注意が必要です。
減塩食の工夫については以下の記事でご紹介しています。
減塩食を続けるポイントとは?健康への効果や食塩の摂取目標量も紹介
[10] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント5 カリウムを十分に摂取する
高血圧予防のためには、カリウムを十分摂取することも勧められます。
特に日本人はナトリウムの摂取量が多いためナトリウム摂取量を減らすことに加え、カリウムの摂取量を増やすことが重要であるといわれています。
WHOのガイドラインは1日に3,510mg以上のカリウム摂取を推奨しています[11]。
しかし日本人のカリウム摂取量はこれよりもかなり少ないという実情があります。
このため厚生労働省は成人に対し以下のような目標量を設定しています。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18歳以上 | 3,000mg以上 | 2,600mg以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
カリウムは野菜や果物などの植物性食品に多く含まれています。
これらの食品を積極的に食べるよう心掛けましょう。
生のままで食べるより加熱した方がかさが減るためたくさん食べられるようになりますよ。
ただし腎臓の機能が低下している方はカリウムの摂取に制限があるため主治医に必ず相談してくださいね。
カリウムの摂取源となる食品は以下の記事でご紹介しています。
[11] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント6 適度に有酸素運動を行う
肥満はエネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回り続けることによって起こります。
このためダイエットではエネルギー摂取量を減らすだけでなく、体を動かしてエネルギー消費量を増やすことも重要になると考えられます。
なかでも肥満の解消に有効だと考えられるのが有酸素運動です。
有酸素運動は脂肪を燃料とするため直接的な体脂肪の減少効果があるとされています。
なお、内臓脂肪を減少させるためには、週当たり10メッツ・時以上の有酸素運動を行う必要があるといわれています[12]。
速歩で週当たり10メッツ・時を実現するには、2時間半かかるということになりますね。
また有酸素運動は脂質異常症の改善にも有効です。
加えて高血糖や高血圧の改善にも効果があるといわれています。
有酸素運動に該当する運動にはウォーキングやジョギング、サイクリング、エアロビクスダンス、水泳、アクアビクスなどがあります。
さまざまな運動があるので、ご自身に合ったものにできる範囲で挑戦していきましょう。
脂質異常症の改善のための有酸素運動、高血糖改善のための有酸素運動、高血圧改善のための有酸素運動については以下の記事でそれぞれご紹介しています。
脂質異常症とは?発症の原因や健康への影響、改善のポイントも解説!
血糖値の正常値とは?高・低血糖の影響や血糖値を正常に保つポイント
高血圧とは?基準値や健康上のリスク、改善のポイントを徹底解説
[12] 厚生労働省 e-ヘルスネット「内臓脂肪減少のための運動」
[13] 厚生労働省「身体活動・運動の単位」
ポイント7 筋トレも併せて行う
有酸素運動に併せて筋トレも行いましょう。
筋肉量が増えると、それに伴って基礎代謝が増えることが分かっています。
筋トレを行って筋肉量を増やせば、普段のエネルギー消費量を増やすことができると考えられるのですね。
なお、筋トレによる筋肉量の増加は糖の処理能力を上げるため、血糖値のコントロールにも有効だとされています。
筋トレは10〜15回を1セットとして、1〜3セット、無理のない範囲で行うようにしましょう[14]。
また筋肉が育つためには十分な回復期間が必要だといわれています。
2〜3日に1回、週当たり2〜3回の頻度が推奨されているのでオーバーワークには注意してくださいね[14]。
無理なく続けることが重要です。
なお筋トレと有酸素運動を同日に行う場合、先に筋トレを行った方が有酸素運動による体脂肪燃焼効果が大きくなるといわれているので、意識しておくと良いでしょう。
ダイエットにおすすめの筋トレは以下の記事でご紹介しています。
ダイエットにおすすめの筋トレは?健康かつ効率的に痩せる方法を伝授
[14] 厚生労働省 e-ヘルスネット「レジスタンス運動」
ポイント8 十分な睡眠をとる
健康のためには十分な睡眠をとることも重要です。
慢性的な睡眠不足は体内のホルモン分泌や自律神経の機能に大きな影響を及ぼすことが分かっています。
例えば、健康な人であっても、4時間睡眠を2日続けると、1日10時間眠った日と比較して食欲を抑えるレプチンの分泌が減少し、食欲を増進するホルモン「グレリン」の分泌が増加したという研究結果があります[15]。
寝不足が続いていると食欲のコントロールが失われつい食べ過ぎてしまうかもしれないのですね。
また慢性的不眠症の患者では、血圧を上昇させる交感神経の緊張や、血糖値を上昇させる「糖質コルチコイド」の過剰分泌が起こるといわれています。
実際、慢性的な寝不足の状態にある人は糖尿病や心筋梗塞、狭心症などの生活習慣病にかかりやすいことが分かっています。
このように睡眠は健康にさまざまな影響を及ぼすためしっかり睡眠時間を確保することが重要なのです。
[15] 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病の深い関係」
4.専門家に早めに相談しよう
体重の増加や内臓脂肪の蓄積が気になり始めたら、まずは医療機関で専門家に相談しましょう。
「普段から太っているし、少しくらい体重が変化しても平気。」
と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、長く放置し続けると病気に繋がる恐れがあります。
健康診断や人間ドックで指摘されたり、久々に会った友人に言及されることがあれば、少し気にして専門家に相談してみましょう。
着れていたはずの服がきつくなってしまった場合も、対策が必要です。
普段から関わっている内科医などの医師に質問してみるのもおすすめですよ。
5.肥満と病気の関係についてのまとめ
肥満は体重が多いだけでなく体脂肪が蓄積された状態のことです。
国内ではBMIが25以上かつ脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積された状態と定義されています[16]。
肥満自体は病気ではありませんが、肥満による合併症を起こしている場合やそのリスクが高い場合は「肥満症」と診断され治療の対象になります。
特に内臓脂肪が蓄積している場合は健康への影響が大きいため注意が必要だといわれています。
肥満はさまざまな病気の要因になるといわれています。
肥満で発症リスクが高まる代表的な病気には高血糖・糖尿病や脂質異常症、高血圧があります。
また内臓脂肪型肥満や高血糖、脂質異常症、高血圧は動脈硬化を進行させるため、冠動脈疾患や脳梗塞のリスクが高まります。
肥満と関連して起こる腎臓病や脂肪肝にも注意が必要です。
脂肪のつき過ぎが原因で睡眠時無呼吸症候群や変形性腰椎症、変形性膝関節症などを起こす恐れもあります。
女性では月経異常や、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などの妊娠時の合併症が起こるリスクも増大します[17 ]。
このように肥満はさまざまな病気になるリスクを高めてしまいます。
現在肥満の状態にあるという方は重篤な病気を引き起こしてしまう前に、この記事を参考に生活習慣の改善に取り組んでくださいね。
[16] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
[17] 一般社団法人 日本肥満症予防協会 「11. 肥満と月経異常・妊娠合併症」