「内臓脂肪を減らすにはどうしたら良いんだろう……」
このようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
内臓脂肪とは胃や腸などの臓器の周りについた脂肪のことです。
内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームの診断項目の一つです。
さらに内臓脂肪の蓄積は生活習慣病発症のリスクを高めます。
そのため内臓脂肪をため過ぎないことが健康づくりのためには重要です。
この記事では、内臓脂肪を減らすためにご自身でできる食事や運動のポイントをご紹介するので参考にしてくださいね。
1.蓄積した内臓脂肪を減らすべき理由
内臓脂肪は胃や腸などの内臓の周りにつく体脂肪のことです。
内臓脂肪の蓄積は皮下脂肪の蓄積よりも健康上のリスクを高めるといわれています。
脂肪組織からは生理活性物質である「アディポカイン」が分泌されます。
アディポカインの分泌量は皮下脂肪よりも内臓脂肪で多く、さまざまな身体機能に影響を与えます。
内臓脂肪が少なければ分泌されるアディポカインの多くは体に良い影響をもたらします。
しかし内臓脂肪が蓄積した「内臓脂肪型肥満」になるとアディポカインの分泌異常が起こり、高血圧や糖尿病、脂質異常症が起こりやすくなるのです。
それぞれの状態について、簡単にみてみましょう。
高血圧とは慢性的に血圧が高い状態のことです。
血圧は心臓から送り出された血液が血管の内壁を押す力のことで、通常は上腕動脈にかかる圧力のことを指します。
糖尿病は血糖値(血中のブドウ糖濃度)が慢性的に高い状態のことで、1型と2型に分けられます。
1型糖尿病は、何らかの原因により膵臓のβ細胞が壊され「インスリン」が出にくくなったり出なくなったりする病気です。
肥満や生活習慣により起こり得るのは2型糖尿病で、発症するとインスリンの効きが悪くなったり、分泌量が低下したりするため血糖値が高くなります。
脂質異常症は血中の脂質の値が基準値から外れた状態のことです。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪(トリグリセリド)などの異常があります。
内臓脂肪型肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症はいずれも動脈硬化の危険因子です。
これらの症状が重なりその数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まると考えられています。
この考え方はメタボリックシンドロームの診断基準として採用されています。
内臓脂肪型肥満に加え、その上で血圧と血糖値、血液中の脂質のうち二つ以上が基準から外れた際にメタボリックシンドロームと診断されます。
男性ではウエスト周囲径85cm以上、女性では90cm以上で内臓脂肪蓄積とされ、メタボリックシンドロームの診断基準に該当します[1]。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームの診断基準」
【関連情報】 「メタボリックシンドロームとは?診断基準や健康への悪影響を解説」についての記事はこちら
2.内臓脂肪を減らすための食事と運動のポイント
内臓脂肪を減らすためには食事の改善や適度な運動を行うことが重要です。
この章では内臓脂肪を減らすために有効な、食生活や運動のポイントを紹介します。
ポイント1 摂取カロリーを適切に制限する
内臓脂肪型肥満を解消するためには摂取カロリー(エネルギー摂取量)の制限が重要です。
通常、肥満の判定にはBMIという指標が用いられます。
体脂肪が多く、BMIが25以上だった場合は肥満に該当します[2]。
なおBMIが22のときの体重は「標準体重」と呼ばれ、肥満に関連する病気に最もかかりにくいとされています。
内臓脂肪を減らすに当たっては、この体重を目指して摂取カロリーを制限すると良いでしょう。
標準体重は[身長(m)の2乗]×22で求められます[2]。
標準体重を目指すに当たって1日に摂取すべきカロリーの目安は、年齢や性別、身体活動の強さによって変わります。
身体活動の強さは以下のとおり3段階の「身体活動レベル」で表されます。
身体活動レベル | 日常生活の内容 |
---|---|
低い(I) | 生活の大部分を座って過ごしており、あまり動くことがない場合 |
普通(II) | 座って過ごすことが多いが、一部立ったり職場内で歩いたりする業務に従事している場合、通勤や買い物などで歩いたり家事やスポーツなどを行ったりする場合 |
高い(III) | 立ったり歩いたりすることの多い仕事に就いている場合、あるいは余暇に活発に運動する習慣のある場合 |
それぞれの身体活動レベルごとの1日に必要な体重1kg当たりの推定エネルギー必要量は以下のとおりです[3]。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) | 低い(Ⅰ) | 普通(Ⅱ) | 高い(Ⅲ) |
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65〜74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
30歳女性で身長160cm、身体活動レベルが普通の場合を例に、1日の推定エネルギー必要量をみてみましょう。
標準体重は、1.6×1.6×22で計算すると56.32kgです[2]。
この数値に体重当たりの推定エネルギー必要量を掛け合わせると56.32×38.4=2,162.69で、おおよそ2,160kcalが1日に必要なエネルギー量となります[3]。
求められたカロリーを毎日の食生活での摂取する目安とすることで、標準体重を目指すことできますよ。
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
[3] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント2 糖質を摂り過ぎない
内臓脂肪を減らすためにはカロリー源である糖質を摂り過ぎないことも重要です。
糖質はエネルギー産生栄養素の一種で、過剰に摂取するとインスリンのはたらきで脂肪に合成され、蓄えられてしまいます。
糖質を摂り過ぎると脂肪が増えて肥満につながりかねないため、適切な制限が必要なのですね。
厚生労働省は炭水化物から摂取するカロリーを1日の摂取カロリーの50〜65%にするという目標量を設定しています[4]。
炭水化物由来のエネルギーはほとんど糖質に由来するものであり、糖質のカロリーは1g当たり4kcalです[4]。
例えば1日に摂取すべきカロリーが2,000kcalの場合、炭水化物から摂取すべきカロリーは1,000〜1,300kcalとなります[4]。
また重量に換算すると250~325g程度であることが分かります[4]。
目標量を目安にして、糖質が過剰にならないよう気を付けましょう。
糖質についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
炭水化物の1日当たりの適切な摂取量は?摂り方のポイントも解説
[4] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント3 脂質を摂り過ぎない
内臓脂肪を減らすためには脂質を摂り過ぎないようにすることも重要です。
脂質を摂り過ぎると体脂肪となって蓄積し、肥満の原因となります。
特に脂質は1g当たり9kcalと糖質やたんぱく質よりも高カロリーなため、過剰摂取に注意しましょう。
厚生労働省は脂質から摂取するカロリーを1日の摂取カロリーの20〜30%にするという目標量を設定しています[5]。
また、脂質の一種である「飽和脂肪酸」は体内でも合成できます。
飽和脂肪酸には悪玉コレステロールを増やす作用があり、肥満の危険因子としても知られるため、厚生労働省は飽和脂肪酸から摂取するカロリーを総摂取カロリーの7%以下にする目標量を設定しています[5]。
飽和脂肪酸は肉類の脂身や乳脂肪などに多く含まれています。
脂質全体の摂取量に加えて、飽和脂肪酸の摂取量にも注意する必要がありますね。
脂質についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
脂質は1日にどれくらい摂取して良い?摂取目標量や過不足による影響
[5] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント4 たんぱく質を十分に摂る
内臓脂肪を減らすためには、たんぱく質を十分に摂りましょう。
エネルギー産生栄養素の一つであるたんぱく質は、筋肉や臓器、肌、髪の毛などの材料にもなります。
このため筋肉量の維持や増加にはたんぱく質の摂取が欠かせません。
なお、生命を維持するのに消費される必要最低限のカロリーである「基礎代謝」は、体格や筋肉量の影響を受けるとされています。
つまり筋肉量を増やすことで、消費カロリーを増やすことができるのです。
厚生労働省はたんぱく質から摂取するカロリーが1日の摂取カロリーに対して占める割合を、18〜49歳で13〜20%、50〜64歳で14〜20%、65歳以上で15〜20%にするという目標量を設定しています[6]。
また、18〜64歳の男性で65g、65歳以上の男性で60g、18歳以上の女性で50gの推奨量を定めています[6]。
たんぱく質が含まれる肉や魚、卵、豆類などをしっかり摂って、内臓脂肪の減少につなげたいですね。
たんぱく質についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
タンパク質とは?体内でのはたらきや食事摂取基準、豊富な食品を紹介
[6] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント5 食物繊維を十分に摂る
内臓脂肪を減らすには、食物繊維の摂取も有効であると考えられています。
食物繊維には体内の脂質や糖質などを吸着し、体外へ排出するはたらきがあることが分かっています。
食物繊維を十分に摂取することで肥満の原因となる脂質や糖質の吸収を抑えることができるのですね。
しかし多くの日本人の食生活では食物繊維が不足しています。
成人の理想的な食物繊維摂取量は1日当たり24g以上とされていますが、実際の日本人の摂取量はこの量に遠く及びません[7]。
このため厚生労働省は実現可能性を考慮し、以下のような目標量を設定しています。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢 | ||
18~29歳 | ||
30~49歳 | ||
50~64歳 | ||
65~74歳 | ||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
食物繊維は肉や魚などの動物性食品にはほとんど含まれず、野菜や海藻類、きのこ類、穀類などの植物性食品に多く含まれています。
内臓脂肪を減らすために、食物繊維が豊富な食品を積極的に摂ることを心掛けましょう。
食物繊維についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
食物繊維とは?はたらきや摂取目標量、摂取源となる食べ物を解説
[7] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント6 アルコール摂取量を適度に制限する
内臓脂肪を減らすためには、アルコールの摂取を適度に制限することも重要です。
アルコールは高カロリーであるため、肥満の解消には節酒も大事なポイントです。
厚生労働省の「健康日本21(アルコール)」では、純アルコール量で1日平均約20gが節度ある適度な飲酒とされています[8]。
また、女性や体質的にアルコールの代謝能力が低い人、高齢者ではより少量に抑えることが適切だといわれています。
純アルコール20gに相当する主なお酒の量は以下の図のとおりです。
公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」をもとに執筆者作成
飲酒習慣のある方が内臓脂肪を減らしたい場合、お酒の量は適度にとどめるようにしましょう。
アルコールについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
アルコールとは?体への影響や健康的なお酒の飲み方、注意点を解説
[8] 厚生労働省「健康日本21(アルコール)」
[9] 厚生労働省 e-ヘルスネット「飲酒量の単位」
ポイント7 よく噛んで食べる
内臓脂肪を減らすためには、よく噛んで食べることも有効です。
噛むことで脳の満腹中枢が刺激され、適量で満腹感を得ることができるため、食べ過ぎを防ぐことができます。
またよく噛んでゆっくり食べると胃腸での消化活動が活発になるため、「食事誘発性熱産生(DIT)」が増加します。
肥満学会による「肥満症診療ガイドライン」では、ゆっくりよく噛むことを肥満対策における行動療法の一つ「咀嚼(そしゃく)法」として定義づけられています。
また厚生労働省は、一口当たり30回噛む「噛ミング30(カミングサンマル)」運動を提唱しています[10]。
普段あまり噛んでないという方やどのくらい噛んだら良いのか分からない方は、この回数を目安にしてくださいね。
慣れないうちは大変かもしれませんが、内臓脂肪を減らすためによく噛むことを心掛けましょう。
[10] 厚生労働省 e-ヘルスネット「速食いと肥満の関係 -食べ物をよく「噛むこと」「噛めること」」
ポイント8 規則正しく食事を摂る
内臓脂肪を減らすためには、規則正しく食事を摂ることも重要だと考えられます。
食事と食事の間に時間が空いてしまうと、次に食事を摂った際に血糖値が上昇しやすくなります。
インスリンは食事で摂取し、消化吸収したブドウ糖をエネルギーとして消費させる一方、余ったブドウ糖を脂肪として蓄えさせます。
このため血糖値が急上昇するとブドウ糖を消費しきれず、脂肪が蓄積されてしまうのです。
また、夜遅い時間帯の食事は避けるように注意しましょう。
夜遅い時間に摂取したエネルギーは消費されにくいため、体脂肪として蓄えられやすくなります。
また、夜遅くに食事を摂ると太りやすいことは、遺伝子レベルの研究でも証明されつつあります。
内臓脂肪を減らすためには食事を抜いたり夜遅く摂ったりせず、規則正しく食事を摂るようにしましょう。
ポイント9 有酸素運動を適度に行う
内臓脂肪を減少させるためには有酸素運動が有効です。
運動で内臓脂肪を減らすためには、1週間当たり10「メッツ・時」以上の有酸素運動が必要です[11]。
メッツ・時は運動のメッツと実施時間を掛け合わせたものです。
例えば3メッツの運動を30分(0.5時間)行った場合は1.5メッツ・時となります[13]。
代表的な運動のメッツは以下のとおりです。
メッツ | 運動種目 |
---|---|
2.5メッツ | |
3.5メッツ | |
4.5メッツ | |
5.0メッツ | |
6.5メッツ | |
7.0メッツ | |
8.0メッツ | |
12.3メッツ |
スポーツ庁「「身体活動のメッツ(METs)表」をもとに執筆者作成
ウォーキングを例にとると、3.5メッツなので10メッツ・時に相当するには約3時間が必要となります[13]。
まずは、ストレッチやウォーキングなど手軽にできそうな運動から始めてみるのも良いでしょう。
有酸素運動についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
有酸素運動とは?効果や無酸素運動との違い、おすすめの運動を紹介
[11] 厚生労働省 e-ヘルスネット「内臓脂肪減少のための運動」
[12] 厚生労働省 e-ヘルスネット「メッツ / METs」
[13] 横浜市保土ヶ谷区「「メッツ」「メッツ・時」とは」
ポイント10 筋トレを適度に行う
内臓脂肪を減らすためには、筋トレを適度に行うことも効果的です。
基礎代謝量は筋肉量が増加すると上がり、減少すると下がってしまいます。
加えて筋肉が減ると体温の維持が難しくなり、体の熱を逃さないよう脂肪が増加するため肥満につながります。
このため筋トレで基礎代謝を上げることは、内臓脂肪を減らすにも有効だといえるでしょう。
お尻や太もも、胸や背中などの大きな筋肉を鍛えると効率的に基礎代謝を上げられますよ。
ジム通いはハードルが高いという方は、自宅でできる腹筋運動やスクワット、ダンベル運動などから気軽に始めてみてください。
筋トレについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
筋トレの効果とは?トレーニングの頻度・回数・タイミングも解説
3.内臓脂肪を減らすポイントについてのまとめ
内臓脂肪は胃や腸などの内臓の周りにつく体脂肪のことで、皮下脂肪に比べて健康上のリスクが大きいとされています。
内臓脂肪型肥満になると体の機能を調節するアディポカインの分泌異常が起こり、高血圧や糖尿病、脂質異常症のリスクが上昇します。
内臓脂肪の蓄積や高血圧、糖尿病、脂質異常症はいずれも動脈硬化の危険因子で、これらの症状が重なりその数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まると考えられています。
また内臓脂肪型肥満に加えて血圧と血糖値、血液中の脂質のうち二つ以上が基準から外れるとメタボリックシンドロームと診断されます。
内臓脂肪を減らすためのポイントは食事の改善や適度な運動を行うことです。
食事面では摂取カロリーを適切に抑えることや、糖質や脂質を摂り過ぎないことが重要です。
またたんぱく質や食物繊維を十分に摂り、よく噛んでゆっくり食べ、規則正しく食事を摂ることを心掛けましょう。
飲酒の習慣がある方は摂取量を適度に抑えましょう。
運動面では有酸素運動の習慣を付けて脂肪を燃やし、筋トレによって基礎代謝を上げることが効果的です。
食生活を見直したり適度な運動を取り入れたりすることで内臓脂肪を減らし、健康的な毎日を送ってくださいね。